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しおりを挟む「散々だ…散々すぎる……」
『仕方ないワ。一度帰ってエルサにでも紹介状書いてもらいましょ』
「……腹立つ」
『随分どストレートに…』
いや分かるけどとリィは言うが、だったらあの酒蔵の店主に噛みついてもいいと思わないか?…ああ、そう言えばベジタリアンだったな。あの店主の肉はあまり美味そうではないか。では致し方ない。
「腹が立ったから、ちょっと絞めてくる」
『……何を?』
「決まってるだろう。蛸壺ごと釜茹でにしてやる…!」
『(酒蔵の店主を酒蔵ごと火炙りにするつもり!?)待って!落ち着いてちょうだ「タコと同じ頭のくせにぃいいい!!スキンヘッド!程のいいタコが海に居たことに感謝するがいい!」ああ、酒屋の店主、スキンヘッドだったものね…』
人間に手を出さないなら、まだマシね。とリィが止めるのをやめたので遠慮なく海に向かう。
邪魔したら足切り落とす。邪魔しなくても切り落とす。茹で蛸にして街の人の食料にしてやらあ。
料理長は言っていた。どうしても材料がない時は、似た素材を使えば良いのだと。今がその時。
「よくよく考えてみたら貴様には、我を落胆させたという前科があったな…。イカのフリをして我の期待を裏切り、剰えスキンヘッド…!」
『……タコの頭をスキンヘッドと呼んでいいのか分からないけれど、それに関してはタコのせいではないわよネ?…ああ、これはダメだわ。もう聞こえてない』
「我の包丁の錆にしてやる…!」
まあ、釜茹でにする前に釣らねばな?魚、だもんなぁ?
先程背を向けた海に向かって歩く。港にはいくつもの船が停泊している。客船は流石にないが、大きめの商船を見つけた。どうやら商船は間一髪の所でタコの脚から逃げる事に成功し、命辛辛港に着いたは良いが、穴が空いてしまった為、急いで荷を下ろし終わった所らしい。
「港の中では最も目立ちそうな船だな。大きさも十分……」
船の周りを見て品定めしている我に声をかける者がいた。
「やあやあお嬢様。私の船が気になるのかい?」
「…ん?うむ」
印象的には優男。緩く束ねた髪は上等な紐に負けぬ艶やかさ。商人というよりは、貴族だな。
ちょっと餌を探していて、この船がちょうど良さそうなのだとは言わないでおこう。
「可愛らしいお嬢様。お名前を聞いてもいいかな?」
「アリスだ」
我が船に集中して素っ気ないのがそんなにも驚きなのか、少し驚いたように我を見た。しかしすぐに優しげな笑みを浮かべて話しかけてくる。
「アリス嬢だね。名前も可愛らしい。どうかな、そんな沈みかけの船は置いて、私と紅茶でも」
「作法を知らん。それに我は冒険者。ついでに今我は沖合にいるタコの事で頭がいっぱいなのでな」
「そっか…。それは残念だな…」
分かりやすく落ち込んだ。気のせいか尻尾と耳が見える。うぐ。我、小動物に弱いのに。し、しかし、今我はあのタコを釣って茹でて切り分けると言う使命があるのだ!…そう、使命がある。……お茶。茶菓子。クッキー、サブレ、マフィン、マカロン………。……じゅるり。
「…だが、…この廃船目前の船を譲ってくれるのなら、一杯くらい付き合ってもいい」
「わあ。それは光栄だ。この廃船が君の役に立つなら喜んで。…お茶は後のほうがいいかな。せっかくならタコではなく、私に集中して欲しいからね」
先程までの落ち込みはどこへか。ケロッとして笑う。……先程までのはどうやら計算だったらしい。あの自然さは常習だな。2度と乗ってやらない。
ともあれ餌は手に入れた。まずは釣りから始めよう。
「…分かった。あー、紳士殿、それなりに危険なので港から離れてくれ」
「うん。わかった。ではあちらのカフェテラスでお待ちしてます、レディー」
手慣れたように我の手を取ると、唇で甲に触れた。ぞわわ。すぐに手を奪い返してさっさといけと言うものの、気分を害した様子はなく、ではまた後でと笑顔を残して去っていく。
我は服に手の甲を擦り付けた。全力で。この際擦り切れてもいい。そういうのは求めとらんわ。
『中々イケメンだったじゃない』
「女性騎士なら萌えたんだが…」
それに多分前世の我の方がカッコ良かったもん!……多分!
それはさて置き、タコ釣り。
「どれ…では始めようか」
船の側面を手でなぞる。船はもぬけの殻で勿論操縦士もいない。我が操らねばならない。よって船の影を使う。所詮影魔法というやつだな。船をなぞるのはただのフリだ。この魔王、モーションを入れねば魔法を使えないなどという低スペックではないからな。
影に動けと命ずれば、船は1人でに沖合の方へと滑り出す。この魔法、室内ではイマイチだがこういった太陽の下では効果を発揮しやすい。…まあ、光で影が掻き消されなければの話だが。
「ねえちゃーん!」
「おや?カイ。どうしたのだ?」
「どうしたじゃないよ!ねえちゃんの方がどうしたんだよ!もうすぐアレがくる!危ないよ!!」
「大丈夫だ。それよりカイ。湖でどうして我が魚を釣れたのか疑問に思っていただろう?
折角だ。我がレクチャーしてやろう」
「え?」
「沖合に船が今出ただろう?アレが餌だ」
「え、餌…」
「海の底の方からゆっくり何か登ってきているな。海面が黒くなり始めた。足をゆっくり伸ばしてきて、本体はまだ海の中だ」
脚が2本、勢いよく海面に飛び出した!
「脚が出てきた瞬間に合わせてこの釣竿で…」
「どこから出したの!?」
「まあまあ、それは気にするな。何の変哲もない釣竿を」
「ま、まさかそれで釣ろうって?無理だよそもそも沖まで届かな」
「まあ、見ていろ」
しっかり振りかぶってしなりをつけて釣糸を飛ばす。届かないと言うカイの言葉とは反対に、釣り糸が伸びる度にそれに合わせて釣竿と先端の針が大きく長く伸びて竿が大樹ほどの大きさと長さになる。伸びた糸の先につけておいた錘も手助けして、釣り糸がタコの2本の脚に巻きついた。逃げられる前に思い切り竿を引いて糸を締める。絞めた勢いそのままに、更に竿を引く。段々と脚が空中に引き上げられて、その他の脚も見え始めた。
「あわわわわ」
カイは口を大きく開けて驚き、慄いている。うむうむ。
「恥ずかしがらずに全身を使ってしなりをつける。そしてここからがポイントだ!」
竿を引いていた身体を素早く方向転換、向きを変えて竿を思い切り倒さんばかりの勢いで前に倒す!
「もしそれで力負けして倒れない時は、竿の先の方を…」
足元を蹴って5メートルほどに伸びた竿の真ん中少し上あたりに飛び蹴りをして更に倒す。
「こうして蹴り倒し、獲物を確認!完全に宙に浮いたのを確認して、竿が倒れ切る前にしまう!」
このまま完全に倒すと、竿が港の他の船やら家を踏み潰してしまうからな。
収納すれば残るは海から引きずり上げられて宙に浮いたデカいタコだけが残る。
「ねねねねねえちゃん!アレどうするの!?」
「どうするって、釜茹でにするに決まってるだろう」
まあ先に脳みそ止めてからだが。
船の残骸がちょうどあのタコのすぐそばにあるので、その影を使って3つの脳を射抜こうか。タコは危険を感じたらしく脚を頑張って動かすが、いかんせん空中に投げ出されたのは初めてなのだろうな。不規則に屈折する黒い影の釘のように鋭い切先を交わしきれずに串刺しになった。
落ちる前にタコ周りの大気を固めて海には戻れないようにする。
「先ずはぬめりをとらねばな。……汚れ取りでいいな」
結界魔法でタコを囲んで、ついでにその中に水を半分ほど。
「さてと。そして風魔法を少々」
結界の中が竜巻で荒れる。あの中に人間放り込んだら原型残らないかもな。やらないが。
十分洗濯したところで、水を新しくして、
「さあさあ釜茹でだ!」
火を放つ。放つ。また放つ。結界魔法がいい鍋になっているからな、あとは小一時間も待てば茹で蛸になるだろう。
満足して背の方にいるカイの反応を見ようと思ったのだが、振り返った所、何故かものすごいギャラリーが出来ていて、大歓声と拍手を浴びた。
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