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しおりを挟む茹で蛸も作り終わり、カイを通じて(カイの父親港の組合の長だった)港の一角を借りて、腹癒せの解体ショーをした。ついでにそのままタコめしやらタコ入り揚げ焼き玉を作って振る舞った。喜んで食べてくれたのは助かったな。アレを収納していてもスキンヘッドへの苛立ちをおもいだすからな。
幸いすぐにはけたし、船の礼をしにいくか。ぱっと見カフェはそれなりにあったため、すぐに見つかるかどうか分からなかったが、そんな事はなかった。
あの紳士は本当にカフェで紅茶を嗜んでいた。そして目立っていた。女性達が群がっていた。羨ましい。あの獲物をねらう鋭い目はともかく、状況的には羨ましい。
『アタシ達いまからあの中心地行くの?』
リィが嫌そうに我の頭を叩く。…我がカイにレクチャー始めたあたりから、タコ料理を作り終えるまではどこか別な所にいたのだが、いつの間にか戻ってきたらしい。衛生面で気にする人間がいるから配慮というやつかとおもったが、単にネギの匂いが嫌だったらしい。素直な奴め…。
「安心しろ。我も嫌だ。しかし約束は約束だからな。破るわけにはいかない」
「それは良かった。近付いて来ないので、忘れられてしまったかと思いました」
「忘れたから帰ってもいいか」
「ダメです」
紳士もこちらに気付いて…いや、最初から気付いていたなこの狸。…どちらかと言うと狐か。
近づいてきたと思ったら直々に、椅子まで連れて来られた。先程までの女性達は既に追い払われた様子だな。
「我1人より、先程の女性達に囲まれてた方がよくないか?」
「私は貴女とご一緒したいので」
恐らく何人もの女性を虜にしてきたであろう笑顔を見せるが、我からすれば薄笑いもいいところ。元配下の方がイケメンだしな。
大人しくついて行くと、席までしっかりエスコートされた。
渋々席に着けば、直様スイーツが運ばれてくる。焼き菓子、フルーツ、ゼリーにタルト…。うむ。いけすかないが、菓子のセンスは中々ではないか。
『しっかりなさい!いけすかないんでしょう⁉︎』
「う、うむ。そうだった…」
リィに容赦なく怒られていると、紳士が笑った。何だ。何がおかしいというんだ。内容によっては千切って餌にするぞ。何のとは言わないが。
「っ…いえ。ふ、…ふふ。すう、はあ。
そちらのお友達とは、随分仲が良さそうでしたので。側から見ると仔犬と少女がお話してるように見えて可愛らしくてですね」
つまり我らが可愛くてメロメロということか。納得!そういう事なら仕方ないな。
「…改めて礼を言おう。貴殿の船のおかげで無事にあのスキンヘッドを釣り上げられた」
あの無礼な酒蔵のスキンヘッドも青い顔してさっき我に謝りに来たし。
「…スキンヘッド?」
「気にするな。とにかく助かった。ありがとう。さて、その礼といってはなんだが、あの船を返そうと思う」
紳士は戸惑った。まあ当たり前だろうな。元々穴が空いていたし、我が釣りの餌にしたから、タコの足によって締め付けられ、ぐしゃぐしゃになるのを見ていたし。
「…あの、船の残骸なら返して戴かなくとも…」
「貴殿は私を何だと思っているのだ。どこの誰が礼だと言ってゴミを渡す?……面倒だな、見たほうが早い」
席を立つなら、とウェイターが菓子類だけ包んでくれた。見事な手捌き。紳士はいらないというので我がもらおう。おやつを収納してすぐに再度港へ向かう。
紳士の船が停泊していた場所には、先程タコの餌になり無惨に散った筈の船が鎮座していた。驚く紳士。うむうむ。そうだろう。驚くのも無理はない。紳士の船は新品納入されたその時の状態でそこにあるのだから。
まあ?もちろん?我でなくては出来ぬ芸当だとも。
「これで貸し借り0でいいか?」
「…これは、一体…?」
「目の前の出来事が信じられないのなら、貴殿がこの港で船を損傷する直前からの事は全て夢だと思うがいい。誰も困らんし」
我は道中のおやつも手に入れたので、さっさと酒蔵のスキンヘッドの所に酒を取りに行き、正直今すぐ帰りたい。今から帰れば夕飯には間に合いそうだからな。
「ではな」
紳士はその後暫くそこに留まっていたが、船に乗り込んで行った。恐らく中を確認するのだろうな。我が直したのだから、欠陥なんてあるわけが無かろうに。
酒蔵のスキンヘッド……店主を訪ねていけば、今度はきちんと対応した。我を見つけた途端に深々と礼をして、酒の積んである場所まで案内された。我が頼まれていた酒のリストと照らし合わせ、全て収納していく。1000パム(1リットル)瓶が計50箱、800パム瓶が100箱、500と300瓶が各200箱。…この程度か。リストは上から順に優先となっていて、運べるだけ運んで欲しいという事なので、リストの終わりまで入収納した。
「この程度運ぶのに何故数日かかるのだろうな?」
『アンタの収納の許容量が桁違いなだけデショウ』
ふはは。そんな馬鹿な話があるものか。いつぞや異世界から召喚されたという勇者も、そのオマケとやらもこの程度楽に収納していたというのに。
まあ良い。とりあえずスキンヘッドに預け状のサインを書かせよう。そう思い振り返ると、スキンヘッドが腰を抜かしていた。
「……先程までの我に対しての威勢の良さはどこ行った」
「すみませんでしたぁああああ!」
預け状に書かれた名前が震え気味だがもういいや。
さて、急ぐとしよう。
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