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しおりを挟むラギアと補足としてルシアにより、我の忘れてしまったと思われる出来事はとりあえず把握できた。実感ないけどな。思ったよりも長くなってしまった。リィや料理長が入ってこない様に時間を止めておいて正解だったな。
それにしても……うむうむ。そうかー。
魔導国の者どもの約束不履行、ルシア達精霊の敵対、我の力による異世界の創造及びそれに乗じた勇者の卑怯な襲撃。……うむ。記憶がなくなっているのは聖剣のせいだろうな。あれ、魔を殺す聖剣といいつつ、実態は相手の力を奪い取るという性質を持つ魔剣だもん。光魔法を増幅するというのは嘘では無いが、その効果に実態を隠したとんだゲス剣である。
「とりあえずあれな、ラギアはルシア達を虐めるなよ?」
「虐める程の感情は持ち合わせていません。道端の害虫を塵にする程度しか」
……うむ。確かに道端の何とも思ってない雑草なら無闇矢鱈に引っこ抜いても何とも思わんもんな。ラギアは気に入った相手やら自分の手駒という、所謂身内しか虐めない。それも無自覚だからタチ悪いと配下の誰かは言っていた。今で言うと……アノクだろうか。というか、
「いや、塵にもせんでいい。ルシア達も何か事情があっての妨害だろう。精霊達は不問だ」
「………………かしこまりました」
ラギアは実に渋々、渋々と小さく早口で返事をした。
「それに元々、精霊達は我の眷属というわけでも、魔族でも無い。我らを妨害しようが何しようが勝手だろう」
ラギアは理由を聞けば納得するのか?聴いたところで納得しないのは目に見えているが…。
ルシアが何か言いたそうなので視線を向ければ、椅子に座る我の足元に、両膝をついて座り、そのまま頭を下げた。
「…ルシア達は、何がしたかったのだ?勇者を守りたかったのか?魔導国を守りたかったのか?」
『そういった精霊が居たのは間違いありません。けれど私は、…私は、アルフィス様の願いを守りたかったのです』
……アルフィスとは、懐かしい我が名だ。暫し命名の時のすったもんだの話を思い出そうと思ったが、やめとこう。ルシアの隣で我に跪いていたラギアが物凄く怒ってるから。
「お前たちのせいで魔王様は悲しんだというのに…!貴様が、守りたかったなどと、不相応な言葉を吐くな……ッ!」
怒り頂点に達すといわんばかりに顔は険しくなり、殺気は止めどないし、何なら、怒りのままにルシアを威圧の上片手でその首を鷲掴んで高く吊り上げ、今にも握り潰そうとしてる。
我が不問としたので最後の理性で圧迫するのを抑え込んでいるが、もう暴発寸前って感じだな!
ルシアは苦しそうにしながらも、言葉を続けた。
『アルフィ、スさま、は…!へいわを…人間、との、…共生…っ…を、のぞんで、いましたっ…!!』
そうだったかな。忘れてしまった。だが人間と共生…というわけではないが、大昔の付かず離れずな隣人程度の関係に戻れればと思った記憶はあるな。
我の意思というのはラギアにとって聞き捨てならぬ事だった様で、少し力が抜けた。
『だからっ、魔人たちを、つく…て、歩み寄れると、そう、示す方に賭けた…!わたしは、っ…わたしは!その望みを永遠に断つ可能性を危惧して、……いつか、アルフィス様が望みを手にする未来を、守りたかったのです…』
…それが精霊達、というかルシアの考えか。
まあ、人間と仲良くしたいなどとほざいた記憶はないものの、勇者どもが煩わしかったのもかといって人間を1人残らず殺す気も無かったのも事実。魔族たちの前でそういった言葉を吐く事も無かったしな。
「…グレゴール」
「…はい」
ルシアから手を離して、我に向かって跪く。ルシアも乱れた息を整えて、再度我に頭を下げた。
「お前たちは、我自身を案じ、守り、従った。ルシア達…ルシアもまた、我の望みを案じて、守るために行動した。どちらも我の為なのだから、もうよかろう。我は許す」
まあ、とはいえラギアが許すかどうかは別だしな。
「お前自身が恨みたい、憎いならそれでいい。殺し合いさえしないなら、好きなようにすればいい。我がルシア達を許すのは我の勝手だ。お前達が恨み続けるのもお前達の勝手。それを否定はせん。個の感情、個の意思だからな。許さなかったからと言って、我らの関係性が変わるわけでも無い」
「……はい。…殺さないようには気をつけます」
ならよし。ルシアも異論はないようなので、とりあえず手当…というか、我の魔力を与えておく。精霊達の身体は基本的魔力で出来てるからな。淡く発光してるのはそのせいだ。
「では本題に入るぞ。先ずは…マルシュヴェリアルの所在だな。魔導国にいるのは間違いないだろう」
「……あの野郎…!」
「落ち着け。ヴァレインに続き、マルシュヴェリアルも魔導国に肩入れか…。…こちらに戻って来ているのはこれで全員か?」
「…私の知る限り、あと2名ほど戻ろうとしていましたが、本当に此方にいるかは疑問です」
曰く、此方の世界へと帰還する為の術を発動した時は一緒だった筈だが、実際戻って来た時はひとりだったらしい。
「私は復讐を遂げるために此方に戻ったので、その他はどうでも良かったのです。そのため、すぐにあの勇者にトドメ刺しに行きました」
「感情が薄れない内にやる事やっておくのは大切だものな」
何でもそうだけどな。ほら、我もスキンヘッドへの苛立ちをスキンヘッド(蛸)にぶつけたり、ガトーショコラへの恨みをモヒカン達にぶつけてその場で精算して来ただろう?後から恨言を言わないように。そしてその場で忘れる。後味スッキリ!これぞ長生きの秘訣である!
…だからラギアがその復讐を終えてから恐らく2回ほど転生しても尚薄れなかった呪いと、我への忠誠心は素直に褒められる。すごい事だ。何となくその執着のせいで我に関する暗示に簡単に引っ掛かっていた気はするが。
「兎も角アノクの呪いを解くためにもマルシュヴェリアルを探さねばな。…恐らく王宮にでも乗り込んで名前を呼べば直ぐに出てくるだろうが、騒がしくなってそのほかの問題が後回しになりかねない。
即刻、我に決闘を申し込んできた馬鹿者と、婚約申し込んできた厄介者には潰れてもらわねば」
「かしこまりました。ではやはり、私が共に参りましょう。マルシュヴェリアルからお守りいたします」
「頼んだ。それと…」
こっちで大事な話をしている最中に、こっそりと逃げ出そうとしていたそれに魔法で首輪を着け、リードの取手をラギアに持たせた。
「お前にも十二分に働いてもらおうな、ルー?」
我の僕を名乗った精霊が、蚊の鳴くような声で返事をした。
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