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しおりを挟む「りぃいいい~」
『……ご主人、アタシの名前を呼ぶか脱力するかどっちかにしてくれないかシラ?』
アニマルセラピー、最高。
リィは我には甘いので、大人しく我の枕になったまま、脚と腹が冷えないよう器用に身体を丸めて、尻尾が我にかかるようにしてくれた。…こんなに母性に溢れてるのに、一応生物学上は雄なんだぞ。凄いだろ、うちのリィ。
ここは宿の…ではなく、マルシュヴェリアルの屋敷の客室のひとつ。何故そんな所にいるかというと、……マルシュヴェリアルに連れてこられたからだな。
あれは我がこんなふうに宿でリィと寛いでいた時のこと……
『デ?アタシが下僕達の訓練で崖から紐なしバンジーさせてる間ニ、一体何が有ったノかしラ?』
「第五王子の件が片付いて、第三王子の件に取り掛かっているところだが…。ヌル達は無事か?」
『アラ。思ったよりも順調に進んでルんじゃナイ。だいぶ逞しくなったワよ。最近は料理長の食材調達に付き合ってるワ』
今はこの間我が"城"の外に作った迷宮に遊びに出ているらしい。…我の力がどれくらい以前の魔王に近いのか試してみようとして、作れちゃった簡易地下迷宮だけれども、それでも多分ベテラン冒険者が苦戦するくらいの筈だが…。そこで遊ぶという発想…。
……可愛い盛りは過ぎ去ったようだ。何をしてくれてるんだ。
『その方がご主人の役に立つデショ。本人達も、ご主人を乗せて走り回りたいらしいシ』
……本人達の意思なら仕方ない…。涙を飲んで歓迎しよう…。多分我が乗るのはほぼリィだけど。とりあえず今は癒やされるのが先である。
『おつかれネェ…』
「うむ…」
『アタシを枕に寝る贅沢を止める気はないケド、…その前に、そこで料理長から説教食らってる行動のうるさい黄色いのと、……そっちでアタシ達を見て悶えてる気持ち悪いのについて、説明してもらおうかシラ?』
………あ。ルーとマルシュヴェリアルのことか。
「あっちの黄色いのは、先程調理場に忍び込んでつまみ食いしたルーという精霊だな」
馬鹿め。料理長が包丁を振るっている厨房は戦場だというのに。
「で、あっちの気持ち悪いのがマルシュヴェリアル。ロリ・ショタコンの変態」
恐らく見た目美少女の我が自分の倍以上もある大きさのフェンリルとじゃれてる姿がどストライクで悶えてる。
『何で変なのばっかり連れてくるノヨ……』
「連れてきたんじゃないもん。勝手に付いて来たんだもん」
『常習犯は大抵そう言うのヨ』
まじで?
久しぶりにリィとじっくりコミュニケーションをとって落ち着きながら、あの後の事を思い出した。
マルシュヴェリアルが我の味方と公言したため、我が魔導国を訪れた理由を告げれば、速やかに姉は解放(馬車に放り込まれて強制帰国)され、王子には我は婚約する気さらさらない。というかさせないという旨の書が奴の名で届けられた。
予想外にあっさり解放された上、姉に会わなくて済んだためか、思ったよりも気が楽になった。
そして我に再会するまで王子の忠実な部下であった筈のマルシュヴェリアルは、我にそのままついて来た。
曰く、
「アルちゃんが居るところに私は居るのよん。ぜぇったいに、ぜーったいに、離れてやらないんだからん……!」
…とのこと。我の配下、大抵こういう奴らなんだよな。もう慣れたけど。
それはそれで大問題だったらしく、連日我が泊まっている(ことになっている)宿には、騎士やら官僚やらがこいつを連れ戻しに来ているようだ。別にあっちに戻ってもいいのに。
そろそろ宿にも迷惑がかかっている頃なので、(というか、ほぼ我の城にいるのに、宿を使っていることを偽装するのが面倒なので)別な所に移ろうと思う。と、移動を提案してすぐ、
「じゃあマリアンちゃんの屋敷でいいわよねん!」
話を聞かないマルシュヴェリアルにより、我が物理的に移動。宿の店主には前金で滞在費を払っているが、今回は更にチップをラギアが渡している様子が運ばれながら見えた。ラギア、よくやった。あとで褒めてやろう。
勿論、マルシュヴェリアルは我を小脇に抱えて止める間も無く宿を飛び出したので、必然的にリィ、ラギア、灼華、ルーがすぐに追いかけてそのまま屋敷に駆け込んだ。使用人達が驚くどころか、慣れた様子で抱えられてた我に詫びてからもてなしを始めたので、常習だと悟った。
…で、現在に至る。
『…寛ぎ過ぎジャないかしラ?』
「気のせいだ」
そうじゃなくても寛ぐ権利はあるだろう。我物凄く頑張ったもん。
因みに、アノクは呪解時に色々なトラウマを抱えたらしく、マルシュヴェリアルと同じ部屋には絶対に姿を見せない。しかし我から離れることも許されていないので、どこかに忍んでいる。勿論我はどこにいるのかわかっているぞ。言われなくとも。それはラギアやマルシュヴェリアルも同様なのだが、黙って知らぬふりをする優しさは皆持ち合わせているから安心して欲しい。…ついでに、マルシュヴェリアルはアノクがショタでない以上、もう服を剥かれる心配は無い。
……え?そうじゃない?…………あー…肉体改造でショタにする事くらい、マルシュヴェリアルなら片手間で出来るもんなぁ。常習だから…。気に入られなければ逃げる必要もないのだが。…………ま、いっか!
マルシュヴェリアルの屋敷に移動して3日ほどで料理長も屋敷に到着(したことに)し、早速調理場を牛耳った。大丈夫。料理長が屋敷の料理長を料理対決でコテンパンに下して、我の料理分だけ作るのに厨房を度々借りるという契約を取り付けただけだ。平和平和。
「ん?…アルちゃん、アルちゃん。結婚してリビルドちゃんのお嫁さんになるか、決闘して負けて奴隷にされるか、有力貴族令息の嫁もしくは伯爵家以上の養子になって側近になるならどれがいい?」
たった今届いたらしい書状に目を通したマルシュヴェリアルがくだらない事を聞いて来たので、考えるより先に口が動いていた。
「全て却下。そもそも我に勝てると思うなど、思うだけでも不愉快だ。強いて言うなら決闘して側近諸共ぶっ倒して下僕にしてやるからさっさと準備して日時と場所を指定しろと伝えて返せ」
「りょーかいよん!」
マルシュヴェリアルが部屋を出ていった。アノクが天井から降りて来て、大変深い溜息をついた。おつかれ。
料理長のおやつはまだかなー。
「呑気にしてていいんすか…。さっき返事した手紙、王子本人からですよ。印がはいってましたし」
ん?
『ご主人、呼吸をするようにケンカ売ったワネ』
んん?
『毅然としたアリス様も素敵ですわ~!』
んんん?
「当日は念入りにトドメを刺しましょう!」
あー。これは、アレだな。
我、気に入らなすぎて売られたケンカにのし付けて売り返してしまったらしい。
そして後日、更に日時場所の記載付きで売り返されたので、しっかり(料理長が作ったケーキを齧りながら)買っておいた。
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