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しおりを挟む「アリス様、エディンのギルマスが…………何をされているんですか?」
「…ねずみとり?」
追いかけてるの、ねずみじゃないけど。
何か用事があったのであろう。我の部屋に入ってきた料理長は、我の部屋の惨状を見て一時思考を止めつつも質問してきた。
わかるー。驚くのも無理はない。
確かにこの部屋は今朝の時点では、ルシアによる清掃の賜物か、塵一つない整頓された綺麗な部屋だった。が、しかし。現在、その面影はないほどに汚れがつき、家具が壊れている。
…そんなわけで、正直な話、我も聞きたい。此奴ら何をしてくれているのだろうか。
『ごしゅじん!』
『みてみて~!』
『とれた~!』
『『待てー!!』』
うーむ。それは見ればわかる。ツヴィア、ドライン、フィンが順番に咥えた獲物を見せてくるが、興味無いし絶対美味しく無いからペッしなさい。ペッ!
あと、今すぐ残りの2匹は止まれ。
万一のことを考えて我が下層島の学園内を見回ってまじないを施して帰ってきてみれば、既に我の部屋は荒れていた。素早く走り回る複数の何かを追いかけ回して飼い猫達が走り回り、それにより我の部屋がこんなにも台無しになってしまったのだろう。
ルシアが見たら倒れそうだな…。リィは紐なしバンジーどころか単純に重石に括り付けて崖から突き落としそう。ついでに括り付けるのは我の役目だろう。…我、リィの主人なんだけどな。
「とれたはいいが、それを我に見せんでいい。迷宮の森にでも投げてこい」
命まではとらん。何せこの侵入者達は、我が部屋に入り込み、駆けずり回りやがっただけだからな。…我は優しいからそのくらいでは、一応、まだ、怒らない。
猫達に関しては、後からみっちり叱る。リィが。
問題は、此奴らが何故入ってこれたのか。
「えーっと、…叩いても増えないけど、爆破でよかったかな。確か」
『『『『『いぃいやぁああああッ!』』』』』
…何か聞こえた。
「料理長?何か言った?」
「いかが致しましたか?私は何も…」
「そっか。じゃあなんでもない!……お前たち、それらを今すぐペッしなさい。ここで我が直々に、粉々にしてくれるわ」
『やめてっ!』
『助けて!』
『すみませんでした!』
『だから嫌だったのにぃいい!』
『ドヴィアデズ様助けてぇええええ!』
……ドヴィアデズ?…何だかこの叫び声には聞き覚えがあるような、無いような、あるけどぶっちゃけどうでもいいような…。
「…あ。いつぞやのサソリ姉妹。久しぶりだな。我、サソリは好まんのでとりあえず爆破していい?」
『とりあえず!?』
『爆破ぁあ?!』
『『『良いわけあるかぁあああああ!!』』』
即却下された。…叩けば響くって、素晴らしい。反応良すぎて我、ちょっとゾクゾクした。
「で?サソリ姉妹よ。我の家にどうして、どうやって忍び込んだ?」
「そ、その前に…どうして私達こんな姿になったのか教えてくださぃいい」
「話するにも我が大変なのと、視覚情報が優しくないから」
あと、単純に人型にした方が優しくできる。少なくとも部屋にいたくらいでは爆破しない。
「簡潔ぅう!」
そしてどうすれば戻るのかとか色々わからないとか泣き叫ぶのは美少女。我がサソリ相手に真面目に話をするのがキツかったので、魔法でちょちょいとした結果の、まごう事なき美少女。コリー達と同じ年頃だろうか。
1人では無くその隣に並ぶ様に4人いる。ほぼ同じ顔の濃紫髪の美少女達が。毛先の色だけ違うな。見分けやすくて良い。
「五姉妹というか、五つ子か。…イイネ!」
『ご主人の守備範囲内に入れて良かったワね。アンタ達』
「リィ!」
マルシュヴェリアルに手伝いを頼まれて出ていたリィが帰ってきた。早速猫達の躾を頼んだ。
『本当は主人がやるベキだと思うケド』
上司はリィだから任せた。と言えば、軽く息を吐いてから、小さくなった猫たちを咥えて部屋を出ていく。うむ。……ところで、我が小動物を人型に変化させた方法については気にならないのか?
「アリス様に不可能はございませんから」
「りょ、料理長…!」
料理長にそう言われると何だか嬉しいのでもういいか。
「それで?何しにきた。5人娘」
「ひぃっ…!」
目が合っただけで軽く悲鳴を上げられた!心外!!美少女に怯えられた!それはそれで悲しいっ!!
「…取って食わんからさっさと話せ。何故地中の民が我が城にいるのだ」
ここ、空なんだが。ついでに、この島全体に結界張ってるから、我が身内と思う者以外を通さん筈なんだが。
「わ、私たちも分からないんですっ…!急に砂から引き摺り出されて、気付いたらこの部屋に居たんですっうう!」
これは異な事。それが本当ならば同情せずにはいられないな!
「で?本当は?我、そろそろおやつの時間なのだ。人と虫は食べる気にならんが、…まあ、虫なら調理次第で食えなくもない」
「アリス様がお望みでしたら、口に合うよう最善を尽くします。…スイーツには無理かもしれませんが、……唐揚げなら出来そうです」
料理長がおやつのパイを出しながらそう言った。
流石料理長!
「「「「「嘘じゃ無いです!信じてくださぃいいいいい!!!!!」」」」」
5人娘の主張は、夕食直前に戻ってきたラギアのとある知らせにより認められた。我が事情は分かったと労る頃には全員半泣き通り越してガチ泣きしていた。そんなに泣かんでも。
「じゃあフォークをしまってくださいよぉ!」
……料理長が作る唐揚げって、大抵何の唐揚げでも美味しいんだよな。じゅるり。
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