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第3章 成人の儀
98 魔法石すら魅了する
しおりを挟む「ザック! マーク!」
軽く駆け寄るようにして行く。背筋を伸ばして出迎えた二人は、俺より少し明るいマリンブルーの、きっちりとした揃いの礼服に身を包んで並んでいた。
帯剣の柄もキラキラしていて、もしかすると新調した?
整えた髪だったり……見慣れた顔なのにすごくカッコよくなっている。
「久しぶりだ。元気だった? あぁ……なんかすごい似合っているじゃないか。今回のお披露目会に合わせて、着て来てくれたのか?」
俺の誕生日に、街の飯屋兼宿屋を借り切ってお祝いしてくれた日、以来だ。
二年前から護衛を務めてくれているジョーンズ兄弟も、久々だったせいか俺の顔を見てぽかんと口を開けた。
「リク様こそ……」
「んん?」
「いきなり色っぽくなりましたね」
「い……」
顔を引きつせせるマークに、俺は思わず言葉を飲み込んだ。
綺麗とか可愛いとかカッコイイ……は、ここまで何度となく言われていたが……色っぽい、は……。
「そ、そこはカッコイイとかにしてよ」
「いえもぅ……すみません。色気がやばくて。何やってんですか。むんむんですよ。このまま押し倒していいですか?」
「マーク!」
お前は護衛じゃないのか。押し倒してどうするんだ。
俺は隣で言葉を失っているザックに顔を向けた。
「兄貴だろ、ザックからも何か言ってやってよ!」
「いえ……その、リク様……今日は一段と……」
「ザック?」
「お美しいです」
「う……」
俺の護衛が壊れている。
後ろでジャスパーは必死に笑いを堪えているし、ヴァンは余裕の笑みで、残ったゲイブはこうなると分かっていた、みたいな顔で口の端を上げていた。
「リク。ずいぶん長く顔を見せないと思っていたら、ずいぶん可愛がってもらっていたみたいね。凛々しいだけじゃなくてホント、色香がすごいわよ」
「ゲイブ、久しぶり。えぇっとそれは……この服装だとか魔法石とか、そういう部分の演出のおかげだと思うよ」
「それも否定しないわ。ヴァンの気合いがすごいわね」
俺の姿を上から下まで眺める。おネェ言葉で軽く返すゲイブに、ヴァンは「もちろん」と余裕の態度で答えた。
「この日のために準備してきた」
「そうよね。最高の恋人に育てるために気合い入れていたもの。ふふふ……大人になったリクは、とても可愛かった、でしょう?」
何を思い出したのか、珍しくヴァンが目元を赤くしてゲイブから視線を逸らす。
いつもは軽口で返すのに、改めて年上の師匠にいろいろ突っ込まれては、さすがのヴァンも照れくさいのかな。
「まぁ、いい感じで絆が深まって良かったわ。さて……前情報よ、ヴァン」
行きましょう、とゲイブに先導されながら、ヴァン、俺、ジャスパーと続き、ザックとマーク、執事と使用人たちが後ろにつく。
集まった来賓者はヴァンの姿を見つけると、左右に道を開けて軽く頭を下げた。その前をゲイブと並んで歩くヴァンの姿は、まるでこの宮殿の主人のように眩しい。
俺も背筋を伸ばして、堂々としていかないと。
「今回のお披露目会は、この国の、ほぼ全貴族が集まっているんじゃないかという具合よ。興味半分の人たちも多いけれど、魔法院のストルアンは完全に探りね」
「奴が来ているのか?」
「助手を何人か引き連れて。大丈夫、手は出させない」
「当然だ」
聞き覚えのある名前だ。
二年半前、俺が誘拐されて助け出された後に一度言葉を交わしている。
「それと驚いて。なんと、ルーファス殿下が、ナジームを連れて来ているの」
「殿下が?」
ヴァンが怪訝な顔でゲイブに聞き返した。俺はそばを歩くジャスパーにたずねる。
「誰?」
「聞き覚えないか? ルーファス・ローランド・アールネスト殿下は、王位継承権第二位となる我が国の第二王子だ。ナジーム・アトキン・ミレンは近衛騎士団団長にして、ヴァンとも名を並べる三大魔法使いの一人。ホントに要人の大集合だな」
お、王子っ……。ヴァンのお父さんとお母さんやお兄さんたちだけじゃなく、本物の王子様までいるの?
俺とは全然接点の無い人たちだから、名前なんて気に留めていなかった。
ゲイブが続ける。
「そんなワケで、ヴァンに売り込もうと、令嬢や令息まで連れてきている貴族がちらほら」
「息女はともかく子息を売り込んでどうするんだ」
「ヴァンがリクを寵愛しているという噂から、男妾でも宛がおうていうんじゃない? どんな形でも繋がりができれば、家名を売り込むことができるもの」
「ばかばかしい。リクをそこらの愚人と同列に扱うなど」
呆れたようにヴァンが吐き捨てる。ゲイブは肩を震わせた。
「くくくっ、惚れてるわねぇ」
「事実を述べただけだ」
「そうね。リクを目にしただけで、場違いだったことを思い知るでしょうから」
ゆったりとした階段を上り切りった幅広のアプローチの先に、扉を解放した宮殿の入り口があった。
華やかな音楽が流れてくる。
花が咲き誇るように、着飾った人たちは思い思いに談笑しグラスを傾けている。その合間を泳ぐように行き交う使用人たち。帯剣した護衛のような人たちもいれば、メイド服の女性たちもいる。
その入り口を前にして、俺は思わず足を止めた。
いつの間にか俺の横に着いていたヴァンが、そっと耳元に口を寄せる。
「さぁ、リク、背筋を伸ばして。顎は軽く引いて」
「うん」
「大丈夫。リクはただ、微笑み返していればいい」
ヴァンの呪文が俺を包む。
「リクは魔法石すら魅了する力があるのだから、たかが人間など造作もない。今日ここに集った者たちは皆、リクに平伏すためにいるようなものだ。それを思い知らせてやろう」
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