【本編完結】異世界の結界術師はたいせつな人を守りたい

鳴海カイリ

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第4章 たいせつな人を守りたい

116 や……これ、だめ、こんなの…… ※

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 ゆっくりと、三階まで上って来た足音は間違いなくヴァンのものだ。
 上り切ってから一度ベッドの方を見たように足を止める。その一拍を置いてから、ばさ、と荷物やコートを……おそらくイスの上だろう場所に置いて、足音はバスルームに向かった。

 ドアは半開きになっているのか、カタ、ガタ、と音がする。
 続いて、ざばっ、と水の音が響いて、迷宮探索でかいた汗や埃を流しているのだとわかった。良かった。俺が起きていたと気づかなかったみたいだ。
 この隙に気持ちを落ち着けて……ちょっと、濡れちゃったのは……どうしよう。今のタイミングならさっと着替えればバレ無いかな。あ、でも脱いだものを置く場所が……。

 なんて、あわあわ考えている内に水の音が止まった。
 しまった……チャンスを逃したかも……。

 ばふっ、とバスタオルで豪快に身体を拭いて、バスローブかパジャマでも羽織っているような布ずれの音がする。そのままテーブルの上の水差しからコップに水を注ぎ、飲み干したのか「ふ……」息を吐く気配。
 いつもならそのまま、寝入るまでに読む本を探しに本棚や机の方に行く……のだけれど。

 ヴァンの気配がベッドに近づいてきた。

 背中を向けて肩の上まで毛布をかぶる俺の様子を見ているのか、動く気配がない。どうしよう……すごい、ドキドキする。
 そのままヴァンは……ギシリ、と微かな音を鳴らしてベッドに入って来た。

 俺の背中に、ぴったり寄り添うように横たわる。
 薄手の毛布の下にするりと長い腕が滑り込んで、脇から胸の方へと回ってきた。水を浴びたせいか少し冷たい。……でも、優しいヴァンの指が胸の下……腹の辺りで止まり添えられている。
 首筋に、熱い息が……かかる。

 どうしよう……。

 起きていたよ、なんて今更、言うタイミングじゃないし。ドキドキして全然眠れるような状態でもない。
 このまま、疲れたヴァンが眠ってくれればいいのだけれど。
 ……だけれど、胸から腹にくっついたヴァンの大きな手のひらが、さわさわと優しい動きで撫で始めた。
 俺の「気持ちいい」を駆り立てるような、すこし、やらしい……感じで。

 うぁ……こ、これって……。
 治まりかけていた俺の熱が……また、集まり始めてしまう。
 声が、出そうになる。……ぞくぞくする。

「……ふ……」

 頑張って唇を引き締める、俺の首筋にヴァンの息がかかった。
 興奮しはじめている時の息遣い。そう……気付くと同時に、腰から尻の辺りにこすれるような動きが伝わってきた。

 な、な、な、なに……?

 俺の尻に……何か硬いの……が、当たっている。や、何かなんて、熱くて硬くて、この形と位置のものは、ヴァンの何か分かるけど。
 け、け、けっこうかなり、ガチガチに猛って、いる?
 猛って勃ちまくって、やらしい……それこそ、ゆっくりと挿れる時のような腰使いで、俺の尻にこすりつけている……。

 えぇぇ……ぇええええ!?

 そ、そんなヴァンが興奮するようなこと、何もしてない、よね。
 俺……眠っていただけで。
 何もしてないのにこんなに興奮しているの? なんで? どうして? や……その前にちょっと待って、俺まで気持ちよくなっちゃうから!

「……ん……」

 鼻にかかったヴァンの声が甘く漏れた。
 ぞぞぞぞっ、と背筋に痺れが走る。

 ヴァンの、この甘くて低い声、たまらなく好き。俺のまでどうしようもなく熱が集まって、もう、芯ができ始めている。
 どうしよう。
 下腹を優しく撫でる手のひらの動きとか、尻に押し付けられた猛りとか、胸がぎゅうぎゅうになるぐらい気持ちよくて、切なくて。もう……声を出して喘ぎたいぐらいに、たまらない気持ちになっている。
 同時に、すごい、びっくりしてしまっている俺もいて。

 俺……眠っている時、いつもこんな感じで、欲情……してたの?
 俺を起こさないように。
 でも、なんかもう……我慢しきれない、なんて感じで熱をこすりつけてきたり。

 ヴァんの息使いが荒くなっていく。
 うなじに熱い息だけじゃなくて……唇も触れて、噛みたいのを堪えるように歯が触れる。もう片方の腕が脇から前に滑り込んで、背中から、両腕で抱きしめられた。
 あ……このまま挿れられ……ちゃうんじゃないかだろうか。

 挿れられて、夢か現実かも分からないままイかされて。

 や……これ、だめ、こんなの……。

 どこまでも欲に溺れそうで怖い。けど相手がヴァンだと思うと、そんなことすら……されてみたい、とか。
 眠っているところを訳も分からず、みたいなの、俺……どうなっちゃうんだろうって。想像するだけで……ぞくぞくする。

「くくくく……」

 不意に押し殺した笑いが漏れたかと思うと、ヴァンの肩が小刻みに揺れた。
 驚いて振り向く。
 まるでイタズラが成功したような顔で、ヴァンは緑の瞳を細めていた。

「いつまで眠ったフリをしているのかな?」
「えっ! き、気づいていた?」
「そりゃあ……ね」

 ……そんなぁ。じゃあ、必死に声を我慢していたのも?

「リクに危険なものが近づかないよう、警戒レベルを最大限にして出かけたんだ。この家のドアを開けた時点で、リクがまだ起きていたことには気づいたよ」
「そんな……前から……」
「寂しかったの?」

 す……と下腹の、さらに下に手を下ろす。
 緩やかな芯をもった俺に触れられて、びくん、と身体が震えた。

「寂しくて慰めていた?」
「や……そ、そうじゃなく、て……」
「んん? 正直に言ってごらん」

 耳をくすぐる、低く優しい声だけで、俺は抵抗できなくなる……って、もう、どれだけ俺はヴァンに弱いんだろう。

「ヴァンのとこの……お披露目会の夜のこと、思い出して……」
「ああ、あの部屋での?」
「そうしたらドキドキして……眠れな――」

 身体を起こしたヴァンが俺の唇を塞ぐ。
 ゆっくりとさし入れてくる熱い舌を受け入れて、優しく絡め合う。撫で、こすり、再会を喜ぶような……激しくは無くても、ねっとりとしたキスに俺は喉を鳴らして身悶える。
 溢れる唾液を飲み込み、呼吸が乱れてはじめてヴァンは唇を離した。
 見上げる俺は、なんだか可笑しくなって笑いながら言う。

「おかえり、ヴァン……」
「ただいま」
「無事でよかった」

 一人で探索に向かったわけじゃないんだ。ヴァンなら余裕で帰ってくるだろうとは思っても、やっぱり万が一、ということがある。

「魔物……対処するの大変だった?」
「ちょっとね。おかげで今もほら……興奮が治まらない」

 そう言って、俺の手を優しく取ってヴァンの股間に持っていった。
 もちろんそこには硬く猛ったままのがあって。とにかく一度吐き出したいのだと、熱く脈打っている。

「リクと気持ちよくなりたいな……いいかい?」

 ヴァンの甘いおねだりに、俺が嫌だと言えるわけがない。





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