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第4章 たいせつな人を守りたい
126 ごちそうさま ※
しおりを挟む遅い夕食の準備が整ったと、リクが声をかけると同時にジャスパーたちにも顔を向ける。
「皆もまだ食べていないんだ、一緒に食事、していくだろ?」
「いや」
そう真っ先に答えたのは、甥っ子のクリフォードだった。
「これ以上アーヴァイン叔父様の邪魔をしては、叱られてしまう」
「まぁ……そうだな。必要なことは話したし」
続くジャスパーが僕にウィンクをして見せる。
僕とリクを早く二人きりにしてあげよう、という心遣いだろうが余計な気の回し過ぎだ。見れは護衛の二人も退室とばかりに頷き合っている。
リクと仲良くなった部屋付きの召使いが「ほらね」という顔で微笑んでいた。
「リク様、お話しました通りでしょう?」
「うん……」
「なに、そんなにヴァンと二人きりになるのが怖いか?」
ジャスパーがからかうように言うと、リクは顔「そんなこと無いよ!」と顔を真っ赤にして言い返した。そして僕の方をちらりと見て、恥ずかしそうに視線を泳がす。
僕に好きだと言ってから、どれだけ経ってもこの気恥ずかしさは抜けないらしい。
笑うクリフォードとジャスパーが声をかける。
「リク、明日の昼にまた迎えに来るよ」
「俺も同じぐらいかな。ヴァン、あまり張り切るなよ」
「わきまえている。余計な心配はするな」
実家でのお披露目会以来、ジャスパーのニヤニヤが止まらない。
彼は以前、僕が何人もの婚約者候補とこじれた経緯を知っているだけに、リクとの関係をいつも気にしていた。成人するまでは手を出さないと決めていた僕に、いい歳なんだからと焚き付けていたのも奴だ。
何だかんだとおせっかいな性格なのだろう。
それはそれとして、もう一つ確認しておかなければならないことがある。
ジャスパーがリクに声をかけている様子を横で見ながら、僕はザックとマーク、クリフォードに、先程の部屋での一件をたずねた。
リク自身が絡まれていたわけではなさそうだか、状況だけは確認しておきたい。
「飲み物を持って来たチャールズって子に、他の貴族たちが嫌がらせをしに来たんだよ」
いつものことだというようにクリフォードが答える。
絡んで来た者たちの名を聞くと、マークがそれぞれ全員の名前を答えた。
だいたいが伯爵や子爵の子息だが、王家の遠縁の名前もあがる。彼らの兄や姉は僕もよく知っていて、僕が大結界再構築の術師として選定された十代のころ、よく嫌味を言ってきた。
年長の術者を差し置いて、当時最年少の僕が選ばれたことを快く思わない者は多い。
「分かった。リクにまで嫌がらせが波及しそうなら教えてくれ」
「かしこまりました」
ザックとマークが頭を垂れて部屋を後にする。
彼らは隣室に控えているから、何かあればすぐに駆けつけられる。ジャスパーとクリフォードも「また明日」と言いながら、部屋付きの召使いと共に部屋を出ていった。
残ったのは僕とリクの二人。
急に部屋が広く、静かになった気がする。
リクのわずかに緊張するような息遣いが、聞こえるほどに。
「ヴァン、お腹すいただろ? もう遅い時間だけど、晩御飯しよ」
「そうだね。おいで……リク」
緊張を隠しながら、テーブルへと促すリクを呼ぶ。
リクは目を見開いてから、パタパタと駆け寄って来た。そのまま広げた僕の両腕に、嬉しさと気恥ずかしさを顔に浮かべながらおさまる。
「なに?」と真っ直ぐに見上げる、その愛らしい瞳を見つめながら、彼の背に腕を回した。
すっと目を細めると、意図を酌んだリクは唇をわずかに開いて瞼を閉じる。
「んっ……」
柔らかな唇に、触れて離れて、もう一度触れてを繰り返しながら、徐々に深く重ね合わせていった。
リクはいつも僕より少し体温が低い。
その心地よい冷たさの舌を舐めるように舌ですくい、ゆっくりと絡める。上顎と歯列を、頬の内側とを丹念に舐め、こすり、また舌を絡めてと繰り返すうちにリクの体温は上がり、僕と同じになっていく。
喉から漏れる声に艶が増し始める。
「……ん、ぅ……んんっ……」
たまらない、とでも言うようにリクの指が僕の腕や背にすがってきた。
気持ちよさそうにぴくぴくと痙攣する瞼と、黒く長い睫毛。息をするのも唾液を飲み込むのもままならないのか徐々に乱れていく姿に、たとえようもなく劣情をかきたてられる僕がいる。
立っているのも辛くなってきたのか、背中に回した僕の腕へ、寄りかかってくる重みがある。
「はふ……ん、んっ……ヴァ……」
もっと、もっと僕を感じて欲しい。
感じて、気持ちよくなって、とろとろに蕩けたリクを見てみたい。僕にしか見せない、とても美しい姿を。真っ赤になった頬と、涙に潤む黒い瞳を。
食べしてまいたいほどに愛しい姿。
不意に深く舌を挿し込むと、ぴくんっ、とリクの身体が跳ねた。
たまらず身をよじり、肩をすぼめて震える。けれど嫌がる素振りは無い。
僕の背に回ったリクの指に力が入り、快感に翻弄され始めているのだと分かる。……期待している。
このままイかせてしまったら怒るだろうか。
怒ったリクもまた、可愛いから見てみたい。
「……ぁ、んんっ! んっ……ぅ……んんっ……!」
僕は更に強くリクの身体を抱いて、舌先で咥内を蹂躙していく。
喉の奥から漏れる声が喘ぎとなって膝がカクカクし始めている。可愛い。どうしようもなく可愛い。可愛い。
抜き差しするように蠢く舌に、震える身体。力の入った指。
どれほど味わっていただろう……不意に、びくんっ、とリクが痙攣した。
「――んんっ!」
力の入った身体がゆっくりと弛緩していく。
その反応に僕は微笑んでから、そっと唇を離した。強引なキスで赤く色づいたリクの唇から、熱い吐息が漏れる。
「……は、ヴァ、ン……」
「ごちそうさま」
ふふ、と笑いながら言うと、リクは涙を溜めた瞳で少し困ったように見上げ……でも、次の瞬間には幸せそうに微笑み返した。
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