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第21話 「皆様のご助力、感謝します」
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ミシェルの魔法弾によって気を失った男を縛り上げていると、馬の嘶《いなな》きが聞こえてきた。顔を上げると、十数名の騎馬隊が近づいてくる。
その中に、騎士と思われる青年と共に馬にまたがるお嬢様の姿を目視できた。
「良かった! 無事に合流できてたんだね」
「そうね……」
ミシェルの言葉に頷きながら、私はパークスの姿を探していた。すぐに見つけることが出来て、無意識にほっと息が零れていた。すると、横のミシェルが「良かったね」と、私の顔を見て言った。
本当に良かった。二人とも無事で。
すぐ側で停まった馬から降りた青年が、お嬢様の許嫁なのだろう。彼女に手を差し伸べてエスコートする姿も様になっていた。きっと、彼が婚約者なのだろう。
降りてきたお嬢様は丁寧に淑女の挨拶を披露した。
「皆様のご助力、感謝します」
「無事に合流できて良かったね!」
「はい。ミシェル様、昨晩は励ましてくださり、ありがとうございました」
「そんな大したこと言ってないよ」
ぶんぶんっと勢い良く頭《かぶり》を振るミシェルは「幸せになってね」と加えて言うと、屈託のない笑みを見せた。心から、二人の幸せを願ってる。そんな感じの笑顔だわ。
貴族に対して臆せず話しかけたり、簡単に祝福の言葉が出てきたり──ミシェルも貴族なんだな、と思っていると、肩をとんとんっと叩かれた。
振り返ると、ドレスを脱いだパークスがそこにいた。彼はばつの悪い顔で髪をがしがしとかき乱す。
お嬢様に言葉をかけることも忘れ、私は安堵の息をついて彼に向き直った。
「パークス、どこも怪我してない? あの後、何もなかったの?」
何もなかったから、お嬢様は騎馬隊を連れてここまで戻ってきたのだと頭で分かっていながら、元気のないパークスの顔を見ると少しの不安がよぎった。
もしかしたら、見えないところに怪我でも負っているんじゃないかしら。
彼の全身を見るようにきょろきょろしていると、特大のため息が降ってきた。
「ねぇ、アリシア……やっぱり、残るべきは俺だったよ」
「何の話?」
「殴られたでしょ。顔、腫れてる」
「え? あ……」
パークスに指摘され、じわじわと頬が熱を持ち始めた。今まで、殴られたことをすっかり忘れていたのに。
「旦那様に、怒られるな」
「私が決めたことよ。お父様には文句なんて言わせないわ」
「はぁ……アリシアは、もう少しバンクロフト商会の名前の重さを理解すべきだよ」
「何よそれ」
「次からは、危ないと思ったら俺が動くからね」
ぼそぼそとそう言うパークスは、捕縛された男達が連行されるのを見ながら「喧嘩は苦手だけど」と零した。それに笑って「知ってる」と返すと、彼は私に手を差し伸べた。
「疲れたよ。帰ろう」
私よりも大きな筋張った手を握り、馬の背に跨った。
王都フランディヴィルを発った時はその背を見ていたのに、今度は、その胸に背中を預けている。
何だか、背中に感じるぬくもりがくすぐったくて、胸がざわめいた。
何か、話さないと。そう言葉に困っていると、ミシェルが私を呼んだ。
「アリシア、ねぇ、聞いて! キースったら酷いんだよ!」
首を巡らせると、私が乗ってきた馬だろうか、その背にミシェルが跨がっていた。その可愛らしい唇をちょっと尖らせて不満そうな顔をしている。
「ど、どうしたの?」
「私のこと、お子様だって言うの!」
「どう見たってお子様だろう?」
もう一頭の馬に跨がるキースはちらりとミシェルの胸あたりに視線を落とした。この男、本当にデリカシーがないわね。
「ミシェル、あなたの魅力が分からない男なんて放っときなさい。あなたの魅力は胸のサイズなんかじゃないわよ」
「え、胸?」
励ますつもりで言ったのに、ミシェルは首を傾げて瞬くと、ついっと下を向いた。
ややあって、ミシェルの肩が震えだした。
「……キース、そういうこと? 信じらんない! 変態!」
「おい、こら、待て。俺は胸のことなんて言ってないだろうが! ちっこいのにお前の魔法は凄いって、褒めただけだ!」
「小さいって言った!」
「だから、違っ──!?」
ミシェルの背後に魔法陣が展開し、キースの顔が青ざめ、馬が嘶《いなな》いだ。
「失言だったようね」
「……アリシア、後でキースに謝った方が良いと思うよ」
流れ飛ぶ魔法弾から逃げるようにキースは馬を駆り、その後を怒りの形相のミシェルが追いかけていった。
こうして、私の初めての実践演習は幕を下ろしたのだった。
その中に、騎士と思われる青年と共に馬にまたがるお嬢様の姿を目視できた。
「良かった! 無事に合流できてたんだね」
「そうね……」
ミシェルの言葉に頷きながら、私はパークスの姿を探していた。すぐに見つけることが出来て、無意識にほっと息が零れていた。すると、横のミシェルが「良かったね」と、私の顔を見て言った。
本当に良かった。二人とも無事で。
すぐ側で停まった馬から降りた青年が、お嬢様の許嫁なのだろう。彼女に手を差し伸べてエスコートする姿も様になっていた。きっと、彼が婚約者なのだろう。
降りてきたお嬢様は丁寧に淑女の挨拶を披露した。
「皆様のご助力、感謝します」
「無事に合流できて良かったね!」
「はい。ミシェル様、昨晩は励ましてくださり、ありがとうございました」
「そんな大したこと言ってないよ」
ぶんぶんっと勢い良く頭《かぶり》を振るミシェルは「幸せになってね」と加えて言うと、屈託のない笑みを見せた。心から、二人の幸せを願ってる。そんな感じの笑顔だわ。
貴族に対して臆せず話しかけたり、簡単に祝福の言葉が出てきたり──ミシェルも貴族なんだな、と思っていると、肩をとんとんっと叩かれた。
振り返ると、ドレスを脱いだパークスがそこにいた。彼はばつの悪い顔で髪をがしがしとかき乱す。
お嬢様に言葉をかけることも忘れ、私は安堵の息をついて彼に向き直った。
「パークス、どこも怪我してない? あの後、何もなかったの?」
何もなかったから、お嬢様は騎馬隊を連れてここまで戻ってきたのだと頭で分かっていながら、元気のないパークスの顔を見ると少しの不安がよぎった。
もしかしたら、見えないところに怪我でも負っているんじゃないかしら。
彼の全身を見るようにきょろきょろしていると、特大のため息が降ってきた。
「ねぇ、アリシア……やっぱり、残るべきは俺だったよ」
「何の話?」
「殴られたでしょ。顔、腫れてる」
「え? あ……」
パークスに指摘され、じわじわと頬が熱を持ち始めた。今まで、殴られたことをすっかり忘れていたのに。
「旦那様に、怒られるな」
「私が決めたことよ。お父様には文句なんて言わせないわ」
「はぁ……アリシアは、もう少しバンクロフト商会の名前の重さを理解すべきだよ」
「何よそれ」
「次からは、危ないと思ったら俺が動くからね」
ぼそぼそとそう言うパークスは、捕縛された男達が連行されるのを見ながら「喧嘩は苦手だけど」と零した。それに笑って「知ってる」と返すと、彼は私に手を差し伸べた。
「疲れたよ。帰ろう」
私よりも大きな筋張った手を握り、馬の背に跨った。
王都フランディヴィルを発った時はその背を見ていたのに、今度は、その胸に背中を預けている。
何だか、背中に感じるぬくもりがくすぐったくて、胸がざわめいた。
何か、話さないと。そう言葉に困っていると、ミシェルが私を呼んだ。
「アリシア、ねぇ、聞いて! キースったら酷いんだよ!」
首を巡らせると、私が乗ってきた馬だろうか、その背にミシェルが跨がっていた。その可愛らしい唇をちょっと尖らせて不満そうな顔をしている。
「ど、どうしたの?」
「私のこと、お子様だって言うの!」
「どう見たってお子様だろう?」
もう一頭の馬に跨がるキースはちらりとミシェルの胸あたりに視線を落とした。この男、本当にデリカシーがないわね。
「ミシェル、あなたの魅力が分からない男なんて放っときなさい。あなたの魅力は胸のサイズなんかじゃないわよ」
「え、胸?」
励ますつもりで言ったのに、ミシェルは首を傾げて瞬くと、ついっと下を向いた。
ややあって、ミシェルの肩が震えだした。
「……キース、そういうこと? 信じらんない! 変態!」
「おい、こら、待て。俺は胸のことなんて言ってないだろうが! ちっこいのにお前の魔法は凄いって、褒めただけだ!」
「小さいって言った!」
「だから、違っ──!?」
ミシェルの背後に魔法陣が展開し、キースの顔が青ざめ、馬が嘶《いなな》いだ。
「失言だったようね」
「……アリシア、後でキースに謝った方が良いと思うよ」
流れ飛ぶ魔法弾から逃げるようにキースは馬を駆り、その後を怒りの形相のミシェルが追いかけていった。
こうして、私の初めての実践演習は幕を下ろしたのだった。
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