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第二章 「主人公」と「憧れ」
第二話
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「雨、降ってきたみたいですね」
ありきたりな話のタネだ、しかし退屈な時間はつぶせる。
きっと成木もちょっとした居心地の悪さを感じていたのだろう。それは俺も同じだった。そんな気まずさを拭う一手といったところか。
「そういえば今日は雨だったか。傘持ってきてないな」
「貸しましょうか?」
「いや、いいよ。俺はここから本当に近いから」
「ああ、それもそうでしたね」
自宅から徒歩三分、アルバイトの強みだろう。
会社に出向くわけではないのだ、往復何時間とかける必要などない。少なくとも一か月で二十時間、二万円分の給与分は浮くのだ。電車に揉まれることもない。
しかし給与的にも社会的立場的にも、会社員よりは弱い。
ある程度の民間会社員や公務員ならば、多少勤め先が遠かろうと家を借りることだってできる。将来性からしても、フリーターは不安な点が多い。
このままではいけない、理解はしている。だからこそ就職活動はしていた。良好な民間企業への面接、その結果は……言わずとも知れている。
「強まるみたいですよ」
「客足は減るかもしれないな」
「うーんどうでしょう、案外増えるかもしれませんよ。もう少し強まったら傘を出しときましょう」
「それもそうだな。けれど昨日は快晴だったのに、一気に移ろいだな」
雲一つのない空、昨夜はそれを体現したような天気だった。
戦闘の後、異様な空気が漂う中、やけにきれいな夜空が目についたことを覚えている。ここ数年の中でも特に星がきれいに見えた。
無粋なことを言ったのならば、女性の光線で幾つかの街灯が壊れ、路地がいつもより暗かったために星灯りがきれいに見えたのだろう。
「昨日、ですか。そういえば発見されましたね、行方不明の女性。外傷もほとんどなく、元気そうとの話で」
初耳だった。事件は一昨昨日だったか、ともなれば三日以内に解決。
事情こそ分からないものの、早い事件解決に当たるのだろう。
「へぇ、知らなかった。いつだ?」
「知らなくても当然ですよ。昨日の夜、昨晩です。見つけた人は……鼓と言ったはずです」
ピクリと眉が動く。鼓、その名前を俺は知っている。
昨夜、那附という男から聞いた名だ。俺と同じ、新たな能力者。プラタナスの花を持つ能力者。
しかしこれについて知っていると答えたのならば、より一層、成木が俺を怪しみそうな気がした。そのため俺は、平栖を装い虚言を吐いた。
「聞いたこともない名前だな。けれどあれだ、最近多いなそういう事件」
「そういう事件、というと?」
「不可解な事件のことだよ。一夜にして幽霊ビルが倒壊したとか、普通じゃない事件が最近ままある」
まさか幽霊の仕業とは言うまい。もし仮に幽霊なんてものがいたのならば、自分もさっさと死んで幽霊として伸び伸び暮らしていきたいものだ。
「そうですね。ここ五か月、あちこちで不可解な事件がある。さっき話したものもそうです」
「ああ、一晩で路地が荒廃していた話か」
失言だ。事件について知らない体(てい)で話を進めていたのに、内容に触れてしまった。
するとにやりと成木は笑う。しめしめとでも言いたげだ。しっぽの一つでも掴んだつもりなのだろう。
「あれ? 知らないんじゃありませんでした?」
「そ知らぬふりをしたのは悪かったよ。二度も近隣で事件があったなんて、誰だってその詳細についての噂を耳にする」
半分本音、半分嘘だ。
単純に、自分が関わった事件がどのような扱いになっているのかが気にかかったというところもある。犯人は現場に戻ってくるなどと言うが、おそらく似たような心境なのだろう。
ありきたりな話のタネだ、しかし退屈な時間はつぶせる。
きっと成木もちょっとした居心地の悪さを感じていたのだろう。それは俺も同じだった。そんな気まずさを拭う一手といったところか。
「そういえば今日は雨だったか。傘持ってきてないな」
「貸しましょうか?」
「いや、いいよ。俺はここから本当に近いから」
「ああ、それもそうでしたね」
自宅から徒歩三分、アルバイトの強みだろう。
会社に出向くわけではないのだ、往復何時間とかける必要などない。少なくとも一か月で二十時間、二万円分の給与分は浮くのだ。電車に揉まれることもない。
しかし給与的にも社会的立場的にも、会社員よりは弱い。
ある程度の民間会社員や公務員ならば、多少勤め先が遠かろうと家を借りることだってできる。将来性からしても、フリーターは不安な点が多い。
このままではいけない、理解はしている。だからこそ就職活動はしていた。良好な民間企業への面接、その結果は……言わずとも知れている。
「強まるみたいですよ」
「客足は減るかもしれないな」
「うーんどうでしょう、案外増えるかもしれませんよ。もう少し強まったら傘を出しときましょう」
「それもそうだな。けれど昨日は快晴だったのに、一気に移ろいだな」
雲一つのない空、昨夜はそれを体現したような天気だった。
戦闘の後、異様な空気が漂う中、やけにきれいな夜空が目についたことを覚えている。ここ数年の中でも特に星がきれいに見えた。
無粋なことを言ったのならば、女性の光線で幾つかの街灯が壊れ、路地がいつもより暗かったために星灯りがきれいに見えたのだろう。
「昨日、ですか。そういえば発見されましたね、行方不明の女性。外傷もほとんどなく、元気そうとの話で」
初耳だった。事件は一昨昨日だったか、ともなれば三日以内に解決。
事情こそ分からないものの、早い事件解決に当たるのだろう。
「へぇ、知らなかった。いつだ?」
「知らなくても当然ですよ。昨日の夜、昨晩です。見つけた人は……鼓と言ったはずです」
ピクリと眉が動く。鼓、その名前を俺は知っている。
昨夜、那附という男から聞いた名だ。俺と同じ、新たな能力者。プラタナスの花を持つ能力者。
しかしこれについて知っていると答えたのならば、より一層、成木が俺を怪しみそうな気がした。そのため俺は、平栖を装い虚言を吐いた。
「聞いたこともない名前だな。けれどあれだ、最近多いなそういう事件」
「そういう事件、というと?」
「不可解な事件のことだよ。一夜にして幽霊ビルが倒壊したとか、普通じゃない事件が最近ままある」
まさか幽霊の仕業とは言うまい。もし仮に幽霊なんてものがいたのならば、自分もさっさと死んで幽霊として伸び伸び暮らしていきたいものだ。
「そうですね。ここ五か月、あちこちで不可解な事件がある。さっき話したものもそうです」
「ああ、一晩で路地が荒廃していた話か」
失言だ。事件について知らない体(てい)で話を進めていたのに、内容に触れてしまった。
するとにやりと成木は笑う。しめしめとでも言いたげだ。しっぽの一つでも掴んだつもりなのだろう。
「あれ? 知らないんじゃありませんでした?」
「そ知らぬふりをしたのは悪かったよ。二度も近隣で事件があったなんて、誰だってその詳細についての噂を耳にする」
半分本音、半分嘘だ。
単純に、自分が関わった事件がどのような扱いになっているのかが気にかかったというところもある。犯人は現場に戻ってくるなどと言うが、おそらく似たような心境なのだろう。
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