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第五章 「結末」
第八話
しおりを挟む狭い路地を抜ければ、辿りついたのは大通りだった。
四車線、等間隔に木々がそびえ立つ大通りだ。そしてその大通りには不可解なマンションが一つ隣接している。ファミリーレストランや住宅が立ち並ぶなか、ひときわ目立ったマンションが。
異様に廃れており、今にも崩れそうなマンション。四階建て、橙の電灯がちかちかと点滅する。橙だけでない、緑と青、紫、赤、黄、全ての色が不安定に点滅し移り変わる。
外形上はひび割れた倒壊間際のマンション、しかし外から見える内装はやけにきれいだ。傷の一つもない、新築のような内装。
なんだこのマンションは、こんな不気味な場所に人が住んでいるというのか? こんな場所で生活していれば、気を確かになど保てそうもない。
しかしよく見ればこの大通り、全てがおかしい。
一見すると寿司を振舞うファミリーレストラン、しかしそこに停まる自動車はミニカーのようだ。
開く扉などない。窓から見える人が振舞っているのはゲーム機だ、それを受け取る顧客はそれをプレイする。回転するクレヨン、常識が通用しない。およそ『レストラン』とは言えない様相に吐き気さえ覚える。
他もおよそまともではない。
隣接するマンションはタイミングを合わせたかのように灯りが燈っては消えてを繰り返す。
道路に立った木々はと言えば、青々としたもの、花をつけたもの、紅色に染まったもの、枯れたものと、季節感が混在している。まるで季節が理解できない子供が書いた絵、不気味で奇妙などこまでも様相を呈していた。
地面に書かれたドライバーのためのひし形のマーク、その先には丸と四角と星が並んでいる。街灯は地面に埋め込まれ、地から道路を照らしている。これでは標識の意味合いがくみ取れない、ただの記号の羅列でしかない。
「狂っている……」
漏れ出た言葉。体がふらつく、目の前の事象の狂気に精神が歪む。顔を覆った手、その手は震えている。動悸が止まらなかった。
悪い夢、それを目の当たりにしているようだ。理解してはいけない、直感がそう告げていた。
背が優しく擦られる。いつからか俺の隣へ来ていたモノクローム、彼女は気をなだめるようにこう言うのだ。
「これが、アスピレーションのリーダーの力です。彼が歩けば彼の常識が周囲を支配する。彼の見たものは彼が求める様相に代わる。彼が望めばマンションは歩き、彼が常識だと思えば空から石が降ってくる」
「それでも、こんなもの……おかしいじゃないか」
むしろ気が狂うだろう。こんな場所にいれば何が常識か分からなくなる、非常識が常識になる。
多色の電灯がマンションを照らし、不規則に点滅するのが常識か? 食事の場で娯楽品が振舞われるのが普通か? ミニカーが道路を走るのが当然なのだろうか?
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