11 / 19
裏切りの集う世界
70年で終わりを告げる災いの予言
しおりを挟む
「じゃあ、トムは君と同じ年なんだね」
「そうなんですよ。ただ教育のレベルが違ったので、同じ場で学ぶことはなかったのですが」
「そうだったんだ。じゃあ、王政が滅びた時、君達2人はまだ生まれていなかったんだね」
――教育のレベルが違うって、同じ公立の中学だろうが――。
凌弥は不貞腐れ、「ソフィア・クリスティナ」と名乗っている美桜と、帰ってきたビルを交互に見た。
美桜は自分の顎を覆うように唇に触った。
「私達が生まれた頃には、共和制になっていたんですからね」
「そうだね。富が一部に集中する素晴らしい制度を持つ世界になったんだから」
「どのくらいの期間か、ということは予言に入っているんですか?」
美桜はコミュニケーション能力が高いのか、10日もここにいるはずの凌弥ですら聞けなかったことを、聞き出している。15年前に王政が滅びていただなんて知らなかった。美桜は今すぐ探偵になるべきだ。と、いうか今の質問の答えは気になる。
ドキドキしながら、ビルに注目した。美桜もビルに注目している。視線がビームだったら今頃ビルの顔は無惨なことになるだろうな、ってくらい。
***
ビルは目を泳がせた。
災いの予言だった。「もしも、イコエィンの道に背き、ディアフォールを慕うようになれば__」そんな予言だった。予言の実現は王家、ひいては貴族達のせいだった。
「ソフィア」は育ちが良さそうだが、貴族ではないだろう。商人の娘?「トム」はどうみても庶民だ、紛うことなき庶民だ。
どのみち、貴族の末裔であるとなかろうと、14歳と13歳の子に言うことが躊躇われる。だが、予言されている災いの年数くらいなら……。
ビルは見せつけるように指折り数えた。
「あと、55年だよ」
「じゃあ、ビル81歳になるじゃん」
「そうだね。きっと予言された災いが終わるころには、僕はもう生きていない」
だから、災いの後に生まれた「トム」と「ソフィア」をビルは哀れに思った。彼らが生まれる前の大人たちの愚行に巻き込まれてしまった。
「そうだ、ソフィア。君は今夜どこに泊まるの?」
黒髪のソフィアは戸惑ったように、目線を逸した。ほんのり顔が赤い。それはそうか。年頃の女性にこんなことを聞いたのだから。だが、大事な話だ。野宿とは言わせない。
「泊まる場所がないのなら、ここに泊まる?」
そう提案した瞬間、凌弥はギョッとしたように吐きそうな顔になった。美桜はワンテンポ遅れて「よろしくお願いします」とお辞儀した。
*
考えに考え、話し合いに話し合った結果、「ソフィア」の寝場所はドアから1番離れた窓の近くになった。そして何故か、いつの間にかに僕に「トム」がくっついたまま寝ている。暑い。
ふと、窓を見た。当然のように雨戸が閉まっている。
手遅れかもしれないが、せめて2人が「災いから遠ざけられるよう、苦しむことがないよう」にビルは、生まれて始めて主であるイコエィンに祈った。
***
夜中に目覚めた凌弥はビルが隣に引っ付いていたことに気づき、ソソソと離れた。だが離れた先には美桜がいた。仕方がなく、さっきの場所に戻った。
嫌な夢を見た。ここ数日、毎晩だった気がする。朝になれば当然のように忘れていたが、夜中に飛び起きた時は毎晩同じ夢を見ていたことに気づく。
夢の中ではいつも、恐ろしい目に遭っている。そして蛇のような赤い目をした美少年が、昔のMVのように増えてどんどんアップになっていく夢だった。
言ってしまえばしょうもない夢だが、悪夢を見て飛び起きる度に眠れなくなる。当然、昼間にも多少の影響が出る。心の隅にはいつも冷たい何かが出来る。
もう嫌だ、と思いながら凌弥は窓を見た。暖かな月明かりが漏れていた。大切な何かを、誰かを忘れたような気がする。
「そうなんですよ。ただ教育のレベルが違ったので、同じ場で学ぶことはなかったのですが」
「そうだったんだ。じゃあ、王政が滅びた時、君達2人はまだ生まれていなかったんだね」
――教育のレベルが違うって、同じ公立の中学だろうが――。
凌弥は不貞腐れ、「ソフィア・クリスティナ」と名乗っている美桜と、帰ってきたビルを交互に見た。
美桜は自分の顎を覆うように唇に触った。
「私達が生まれた頃には、共和制になっていたんですからね」
「そうだね。富が一部に集中する素晴らしい制度を持つ世界になったんだから」
「どのくらいの期間か、ということは予言に入っているんですか?」
美桜はコミュニケーション能力が高いのか、10日もここにいるはずの凌弥ですら聞けなかったことを、聞き出している。15年前に王政が滅びていただなんて知らなかった。美桜は今すぐ探偵になるべきだ。と、いうか今の質問の答えは気になる。
ドキドキしながら、ビルに注目した。美桜もビルに注目している。視線がビームだったら今頃ビルの顔は無惨なことになるだろうな、ってくらい。
***
ビルは目を泳がせた。
災いの予言だった。「もしも、イコエィンの道に背き、ディアフォールを慕うようになれば__」そんな予言だった。予言の実現は王家、ひいては貴族達のせいだった。
「ソフィア」は育ちが良さそうだが、貴族ではないだろう。商人の娘?「トム」はどうみても庶民だ、紛うことなき庶民だ。
どのみち、貴族の末裔であるとなかろうと、14歳と13歳の子に言うことが躊躇われる。だが、予言されている災いの年数くらいなら……。
ビルは見せつけるように指折り数えた。
「あと、55年だよ」
「じゃあ、ビル81歳になるじゃん」
「そうだね。きっと予言された災いが終わるころには、僕はもう生きていない」
だから、災いの後に生まれた「トム」と「ソフィア」をビルは哀れに思った。彼らが生まれる前の大人たちの愚行に巻き込まれてしまった。
「そうだ、ソフィア。君は今夜どこに泊まるの?」
黒髪のソフィアは戸惑ったように、目線を逸した。ほんのり顔が赤い。それはそうか。年頃の女性にこんなことを聞いたのだから。だが、大事な話だ。野宿とは言わせない。
「泊まる場所がないのなら、ここに泊まる?」
そう提案した瞬間、凌弥はギョッとしたように吐きそうな顔になった。美桜はワンテンポ遅れて「よろしくお願いします」とお辞儀した。
*
考えに考え、話し合いに話し合った結果、「ソフィア」の寝場所はドアから1番離れた窓の近くになった。そして何故か、いつの間にかに僕に「トム」がくっついたまま寝ている。暑い。
ふと、窓を見た。当然のように雨戸が閉まっている。
手遅れかもしれないが、せめて2人が「災いから遠ざけられるよう、苦しむことがないよう」にビルは、生まれて始めて主であるイコエィンに祈った。
***
夜中に目覚めた凌弥はビルが隣に引っ付いていたことに気づき、ソソソと離れた。だが離れた先には美桜がいた。仕方がなく、さっきの場所に戻った。
嫌な夢を見た。ここ数日、毎晩だった気がする。朝になれば当然のように忘れていたが、夜中に飛び起きた時は毎晩同じ夢を見ていたことに気づく。
夢の中ではいつも、恐ろしい目に遭っている。そして蛇のような赤い目をした美少年が、昔のMVのように増えてどんどんアップになっていく夢だった。
言ってしまえばしょうもない夢だが、悪夢を見て飛び起きる度に眠れなくなる。当然、昼間にも多少の影響が出る。心の隅にはいつも冷たい何かが出来る。
もう嫌だ、と思いながら凌弥は窓を見た。暖かな月明かりが漏れていた。大切な何かを、誰かを忘れたような気がする。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる