竜のおどろきしほど、この天下は滅ぶ なれば竜に与する者とななりそ

神永 遙麦

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数えていたはずの羊は、いつの間にか子羊にすり替わっていた

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 何度も何度も目が覚めてしまう。冬だから当然、暗い。勉強始めようにも、電気つけたら金かかる。
「私」は寝返りをうち、頭の中で羊を数え始めた。昔から古今東西を超えて伝えられた寝るための方法。馬鹿らしいし、特に効果もないかった。だけど、気分は紛れるし、そのうち疲れてくるだろ。

 なのに何故か頭はどんどん冴えてくる。ずっと誰かの声が聞こえる、竜の声じゃない。
「私」は身を起こし、カーテンを僅かに捲った。曇りだ、星一つもない夜。世はクリスマスだ、星も雪もないクリスマス。恋人がいない俺は祝いようがない。ざまあみろと思った。どこの馬鹿が、キリストなんかの誕生日を祝うんだ。
 急に虚しくなった。数えていたはずの羊は、いつの間にか子羊にすり替わっていた。

 ***

 年が明けた。「私」は公園をぶらぶらしていた。何となく、子供が見たかった。小さな無邪気なパタパタ走り回ることしか能がない子供が見たかった。
 このまま年取って、死んでいくのかと思うとどうしようもなく恐ろしい。だからこそ、「私」より余命が長いであろうチビっ子共に癒やされたかった。

 予想通り、子供達はパタパタと砂嵐を製造しながら駆け回っていた。アメリカの大統領が代わったばかりで大勢の人が、日本人までもが不安に包まれている。こんな世界でも、子供達は何が楽しいのか大声で笑っていた。
「私」はベンチに座り、子供達の活力を羨ましく思いながら眺めていた。

 そのうち、1人の女の子が目に入った。
 母親らしき女性と3歳くらいの男の子と一緒に公園に来た、8歳くらいに見える女の子だ。「母親」は遅れて公園に来た男と会話を始めた。爛れたような雰囲気から察するに、子供に見せてはいけないような状況だ。女の子は砂遊びを始めた「弟」の面倒を見ていた。他の子供とトラブルになれば女の子が諌めていた。女の子は女の子で自転車を持っている。本当はそちらで遊びたいだろうに。
 女の子をよくよく観察してみると、Tシャツがピチピチだとういう事に気がついた。そして、ピチピチのセーターにお似合いな、小枝のように細い腕だ。足も細い。鎖骨が異様に浮き出ている。嫌な感じがする。
「母親」に目を向けると、女の子と似ていない。女の子は色黒で細い目に卵型の顔。「母親」は色白でガッシリした体型に、洋梨のような顔とアーモンドのような大きい目。尤も、これだけで「継母」だということにはならないが。
 やがて、「母親」は女の子を厳しく怒鳴り始めた。女の子の自転車のタイヤに、男の子が指を挟んだことが原因だった。せいぜい擦り傷ていどだろうに、女の子の存在すらも否定する言葉を吐き続けている。周囲に母親達は見慣れているのか気にする素振りもない。

 嫌になって、公園を去った。
 頭痛がひどい。あの声がどんどん大きくなってきているのに、声は聞こえない。まさに雷だ。近くなれば近くなるほど、音は聞き慣れたものと遠ざかっていく。どんどん恐怖、いや、畏怖のようなものを煽り立てられていく。竜はこの声に対抗をしている。そんな気配がある。そのせいで、頭が鉈でかち割られそうなくらい痛い。完全に割れず、脆い箇所を叩かれ続けているような痛みだ。竜は声に対抗して、「私」の頭を縦横無尽に動き回る。そのたびに締め付けられるような痛みが加わる。
 もうどちらでも良いから、どっちでもいいから「私」の頭で争うのを止めてほしかった。
 また声が聞こえた。ふと、「声」が優勢な時は頭痛は僅かに和らぐにとに気付いた。

 もう、どうでも良くなった。
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