探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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本日のおやつは、さつま芋パイです。

ドリンクホルダーにマンデリン 3

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 俊夫と合流ができぬまま、時計は午後五時を指していた。
 混雑していた。
 いつになれば到着できるのかと、苛立つより気が遠くなるような車の数だ。先ほどから動いているよりも止まっている時間の方が長い。
 さらに、国道16号から県道2号にうつると、車線が一本になってしまったせいで、流れが悪かった。そこへトラックが入ってくると前方にどんな車がいるのか、全く分からない。三枝は俊夫のミニクーパーを探すのを諦めた。


   ウィィン、ゴンッ……ウィィン、ゴンッ……


 寝ていたワイパーがフロントガラスを滑り、急ブレーキを踏むように音を立てる。


   ウィィン、ゴンッ……ウィィン、ゴンッ……


 雨水を掃くワイパーの音が車内に響くジャズを邪魔している。三枝は、ワイパーの音とリズムがずれているのが気になって仕方がなかった。

「コーヒー、もらってもいいですか?」

 のどが渇いたというよりも、味が気になって問いかけてみた。
 紗川は右手をハンドルに添えたまま、左手でドリンクホルダーのタンブラーを持ち上げた。中には、事務所で淹れたマンデリンが入っている。
 紗川がタンブラーでコーヒーを用意するのは節約の為ではない。美味しいコーヒーを外でも飲むためだ。
 客人には提供したが、自分では飲んでいなかった。礼を言って一口飲むことにする。

(マンデリンG1、100グラムで1400円なり)

 おいしいだろうとは思っていたが、予想以上に美味しいと思った。苦みとコクのバランスがいい。
 しっかりした苦みをコーヒーの油分がまろやかに包み込むためだろう。舌の上に広がるオイルがこのコクを作っているのだろうか。
 おいしさのために零れた吐息を、紗川は違う理由に受け取ったらしい。

「気持ち落ち着いたか?」

 何故そんなことを問われたのか分からず、きょとんとしていると、紗川が苦笑いした。

「合流場所が分かって安心したらどうでもいいと」
「あ、そういうわけじゃないですよ」

 俊夫とはぐれたことを三枝がまだ気にしていると思っていたらしい。

「でも、慌ててもどうにもできないじゃないですか。道の状況、これですし。抜け道でもあればいいんでしょうけど……」
「あるだろうな」
「行かないんですか?」
「わき道に入ると住宅街だ。抜け道に使われては迷惑だろう」
「たしかに」
「岸さんもこの状況は分かっているはずだ。ゆっくり行けばいい」
「でも、奥さん殺されるって……先生。岸さんの依頼は受ける方向でいいんですよね」

 こんなにのんびりしていていいのだろうか。

「やれやれ。君は忘れてしまったらしいな。彼は依頼主ではないと言ったはずだ」

 確かに事務所でそう言っていた。

「それって、まだ依頼主じゃないって意味じゃないんですか?」

 紗川は短く「違う」と言ってから、しばらく考え込んでしまった。
 車の運転中は思考が散漫になるせいでまとめに時間が必要だったのかもしれない。

「君は不思議に思わなかったか? 出かけ際に岸さんを待たせていると分かっていながら僕が電話をしていたことに」
「仕事関係の電話なら仕方ないですよね」
「そう、仕事だ。そして、あのタイミングでなければならなかった」
「どういうことです?」
「相手が依頼主だからだ」
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