探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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ホイップたっぷり、さくら待ちラテはいかがでしょうか。

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 SS事務所、所長の名前は紗川清明さがわきよあきという。
 紗川の職業は探偵である。
 ほかにも投資家としての側面があるようだが、三枝はそちらの仕事にいそしむ上司を見たことはあまりない。たまたま、そちらの関係者と顔を合わせたことがあったが、結局、紗川は探偵として仕事をしたし、三枝もその助手として働いた。
 探偵業だけでは収入が成立するはずはないのに、それ以外の業務に携わっている場面はあまり見かけない。

(というか、具体的なことやってるの、見たことないんだよなあ……)

 寝室を出た三枝は、内心首をかしげていた。
 三枝はこの事務所のアルバイトだ。探偵助手として、紗川のサポートを行っている。
 と言っても、助手としての仕事はすくない。事件がいつもあるわけではないから、三枝の主な仕事は掃除やお茶汲み等の雑務ばかりだ。

(極めつけがこれだよ。毎週土曜、上司を起こす)

 三枝は大きく伸びをした。
 ここで働いていることに後悔もないし不満もない。
 仕事ぶりに惚れ込んで、押しかけで助手となったのだから、紗川を尊敬していないわけでもない。
 だた、知れば知るほど、紗川という上司はいろいろなことを無駄遣いしているような気がしてならない。

(さっきの色気の無駄遣いだろ? あとなんだ、イケメンの無駄遣いだな。もっとエコロジカルに生きていいんじゃないですかね、うちの先生は)

「三枝君」

 突然シャワールームのドアから紗川の湯で濡れた顔が飛び出した。

「どうかしましたか?」

 やれやれと、思い切り伸びをしていた三枝は、そのままの恰好で答えてから慌てて両腕を下ろした。
 紗川はそんなことには頓着せず、額に張りついた前髪を雫が落ちないようにかきあげた。

「申し訳ないが食事を用意しておいてもらえないか?」
「あっ、おれのウチから、牡丹餅の試作品もらってきたんです。それどうですか?
「三枝製菓の新作か。楽しみだ」

 そう言って紗川は、小さく笑った。








 紗川は宣言通り起き上がってから20分後にはシルビアの運転席に座っていた。
 三枝はその用意の速さに内心舌を巻きながら、家からもらってきた牡丹餅を紗川に渡す。運転しながらも紗川は器用にそれを平らげた。一口サイズの小さなものだったから食べやすかったのだろう。

「このサイズは食べやすい」

 指先についた餡を舐めとりながら、紗川が言った。

「牡丹餅と言っても、芋を使っているんだな」
「そうみたいですね。これとか、牡丹餅っていうよりモンブランみたいですけど」
「小豆と芋、両方つかっているんだな」
「小豆を使うことに意味があるんですよ。小豆って魔除けの意味もあるんで、あの世との距離が近くなる彼岸に食べられてたそうなんです」
「流石、老舗和菓子屋の息子だ」
「おじいちゃんの受け売り、そのまんまだから、本当かどうかは分からないですけど。だから、芋は使っても小豆は小豆で残しておかないといけなくて。小豆と芋の二色使いになっちゃうんですよね。だから飾りで芋を乗せるとか、ケーキみたいに、カットしたときに二層になるようにするとか、餡にごろごろ芋を入れるとか、いろいろ考えてるみたいで」
「なるほど」
「普通のあんころ餅を『おしゃれな土産物』にしてもらえるように考えてるところみたいですね」
「それはいい考えだ。だが……今この時期からで間に合うのか?」
「大丈夫です。商品にするのは牡丹餅じゃなくてお萩なんで」
「ああ、秋の商品か」
「全く同じものでも時期が違うだけで呼び方が違いますからね」

 三枝はにっこりと笑った。

「へへへ。どうですか先生。このトリック、引っかかりました?」
「この後、ニシも来る。あいつに教えてやれ。ネタの提供になるかもしれないぞ」
「うーん、無理じゃないですかね。だって伝奇小説であんころ餅ってギャグにしかならないじゃないですか」
「新作を書くかもしれないぞ」
「俺は続きを出してくれる方が嬉しいですけどね」

 今日の目的地は、さいたま市の旧16号沿いのカフェ。先日、殺人事件が起きた家の近くだ。
 そこで、二人の人物と待ち合わせをしている。一人は紗川の友人、一人は三枝の友人だ。

「この前は渋滞がひどかったですけど、今日はそこまでではないみたいですね」

 見覚えのあるレストランの前を通り過ぎ、三枝は驚いた。1時間もかからずに到着しそうだ。
 紗川のシルビアは、川越から大宮駅を超えて県道2号、通称旧16号を走っている。大宮駅までは多少の渋滞はあったが、そのあとは比較的スムーズに進んでいた。

(このくらいすいてたら、あの事件も起きないですんだのかな)

 この道路状況なら、犯人もあきらめたに違いない。

「先日の渋滞の原因はここだ」

 紗川はウィンカーを出してカフェの駐車場に入った。
 土曜の午後という事もあり、駐車場は8割ほど埋まっており、自転車も多くとめてある。普通の自転車を置くスペースに加え、ロードバイクを置くための場所まで用意してあった。

「同じ土曜なのに、数時間の違いでこんなに変わる者なんですね、混雑状況って」
「時間帯の違いも大きいが、それだけではない」
「そうなんですか?」
「オープンから1週間はオープン記念でドリンクチケットを配ったり、頻繁にテイスティングタイムを設けていたから、駐車場に入りきれないほどの車が並んでしまうこともあった。あの事件をきっかけに、警備員を雇ったが、その後は落ち着いたため、長期の契約には至らなかった」
「随分詳しいですね」
「当然だ。ここは僕の店だからな」
「は?」
「聞こえなかったのか?」

 シルビアは店舗の裏側にとまった。
 状況がわからず、三枝がぽかんとしている間に、紗川は流れるようにエンジンを切り、運転席のドアを開いていた。三枝もあわててそれに倣う。

「え? ちょっと待ってくださいよ、どういう事なんですか」
「君の友人が来るんだろ? 表から入って、カウンター席で待っていてくれ。ドリンクは……これを出せばいい」

 紗川からドリンクチケットを二枚受け取ったが、三枝は状況が呑み込めないままだ。
 正面入り口を指さしながら、自分は従業員用の扉から入っていった。

「はああああああ?」

 訳が分からない。

(どういうことですか先生。この前事件が起きてココの近所に来た時、そんなこと一言も言ってなかったじゃないですか!!)

 三枝はともすればこぼれそうになる絶叫を無理やり押し込めた。
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