探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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花咲く切り飴、ころころ。

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(どうしようかな……)

 昔は好きだったが、高校生にもなって飴を買うのも気恥ずかしい。買うとしてもせいぜい喉が痛いときにのど飴を買う程度だ。
 色とりどりの小花の切り飴だけではなく、おもちゃのようなパンの形の飴もある。クロワッサンやロールパンの形をした飴は、見た目も楽しめるため、土産ものとして人気が高い。人が少ない平日の午後といっても、絶え間なく女性客が覗きにくる。

(うーん……)

 男子高校生が一人でいるのは正直なところ、辛い。
 先日、紗川に頼まれて買いに来たときは「お使い物だから」という理由があった。店先で人位ポツンと待っているとなると話は別だ。

「あらあら、きれいな飴が並んでるねー」

 手持無沙汰で飴を眺めていると、柔らかな女性の声がした。
 また声をかけられたのかと顔を上げると、ベビーカーを押している若い女性が飴をさして微笑んでいた。ベビーカーの中では赤ちゃんが不思議そうな顔でこちらを見ている。

「三枝君」
「っ!」

 思わずビクッと跳ね上がってしまった。こちらを見る紗川の表情には疑問が浮かんでいる。

「どうかしたのか?」
「先生ですか。あーびっくりした」

 ほっと胸をなでおろし、三枝は先ほどの女性を見てから、声で紗川に耳打ちした。

「話しかけられたのかと思いました。後ろから声が聞こえると驚きませんか?」
「確かに。ほら、君の分だ」

 三枝の掌の上に、金平糖が乗る。

「駄賃だ」
「えっと……ありがとうございます」

 押さなかった三枝が好きな飴だ。
 少し舐めた後、かみつぶしたときの感触が好きだった。気恥ずかしさもあるが、懐かしさが先だってしまった。
 しかし駄賃に飴とは、子ども扱いが過ぎるのではないだろうか。文句の一つでも言っておいた方がいいのではと口を開いた時だった。

「まだ飴は早いけど、もう少し大きくなったら買ってあげましょうね」

 先ほどの声が少し離れたところから聞こえてきた。
 母親はベビーカーを押しながら子供に話しかけている。もう飴屋の前は通り過ぎてしまった後だったが、楽しげな声が聞こえてきた。母親は、少し進んでは立ち止まり、色々なものを指さして赤ちゃんに話しかけている。

「なんかいいですねー、ああいうの。心温まるっていうか」

 先日も殺人事件に出くわしたばかりだったから、余計にそう思うのかもしれない。

(でもなんだろうな……憎しみも、元をただすと愛情だったりするんだよな)

 あの母親の姿からは、愛情だけが伝わってくる。
 ふと、恐ろしい凶悪犯も、あんなふうに誰かに愛されていた時期があったのかもしれないと思ってしまった。

(コントのネタじゃないけどさ。そんなことしていいのかー、田舎でお母さんが泣いてるぞーって、あれもまんざらはずれじゃないのかもなあ)

「なんだか切ない気持ちになります」
「何故だ?」
「殺人犯にも、ああやって子供の頃があったんだろうなって、ふと思いまして」

 そういう事かと紗川は頷いた。

「誰かから愛情を受けて十分満たされて、幸せを感じていたら、人を殺すようにはならないのかもしれない――そういう考え方は確かにある」

 ゆっくり歩きだす紗川について行きながら、三枝は頷いた。

「ですよね。報道とかでもよく聞きません? 凶悪犯は子供のころからその片鱗があった、とか。そうなっても仕方がないような状況だったとか。子供のころの満たされなかった記憶がきっかけって自分から言う犯人もいますよね」
「全く言わない犯人も多い。だがあえてそう言った背景をマスコミが報道する背景には、いくつかの理由があると思うが、一つには納得したいという人々の欲求があるように思うことがある」
「納得、ですか?」

 これはあくまでも個人の感覚だが……と、前置きしてから紗川は続けた。こんなことを紗川が話すのは珍しい。

.「何故そんなことをしたのか、という理由を欲しているように見える。猟奇的な殺人程、それが求められるのかもしれない」
「野次馬根性っていうやつでしょうか」
「違うとは言い切れないが、他の感情もあるだろうね。河西は面白いことを言っていたな。『こんな特殊な環境で育ったのだから罪を犯しても仕方がない――という意見を共有することで、その物語に終止符を打とうとしているのではないか』と。いかにも作家らしい表現だ」
「ん~……起承転結の、『結』がないと、物語として成立しないって、そういう事ですか?」
「たいていの刑事ドラマでは、最後は犯人の動機を聞いて終わる。そうして距離を置くことで、犯罪を非日常化し、自分の日常にはかかわりがないものとしたいという無意識下の逃避行動とも考えられる」

(それって、いつも先生が言っていることとは真逆の考え方なんじゃないかな)

 直感的に思った。紗川はそういう考え方は好きではないのだろう。

(あ、そっか。だから先生は、犯人の動機にはあまり興味を示さないのかな)

 事件が解決してしまうと、どうして犯人が罪を犯したのか――動機について紗川は関与しない。

「しかし、僕は思う――動機も、犯人が育った環境や過去も、実は無関係で、殺せる条件がすべてそろうか否かではないか、とね」
「条件ですか」
「人を深く憎んだからと言って、すぐに殺したいとは思わないだろう? あるいは殺したいと思っても、それを実践する人は稀だ」
「まあ、そうですけど……」
「条件が重なる、という点では交通事故といている部分があるかもしれない。基本的には十分注意して走行しているが、ふとした時に集中が緩み、そのタイミングで同じように警戒レベルが下がっているドライバーと出くわしてしまったら事故が起きる」
「殺人はやろうとしなければ起きませんよ」
「そうだ。だから条件が重なるという点でのみ、共通している。明確な殺意があっても、チャンスが得られず諦める事は多いそうだぞ」
「この前の事件も……路が渋滞していなかったら起きなかったかもしれませんよね」

 罪を犯すものにとっては、チャンスに恵まれるという事は不幸なのではないだろうか。

「ああ、昔を思い出したよ」

 不意に紗川が呟いた。
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