探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

文字の大きさ
13 / 89
本日のおやつは、さつま芋パイです。

ローストビーフはお断り

しおりを挟む
 渋滞は一向に解消される様子がない。テールランプの赤が雨に乱反射してまぶしく、三枝は目の疲労を感じ始めていた。

「これだけギラギラ光ってると眩しくて目が疲れますね。ちょっと寝てていいですか?」
「運転している方はどうしろというんだ?」
「頑張ってください」
「君と心中する気はないぞ」
「寝ちゃダメだー、寝たら死ぬぞー」
「目を閉じながらいうな」
「いててててて」

 グリグリと眉間を拳で押された。

「ひどいですよ、先生」
「どっちがひどいって?」
「まあまあ……。ほら、コーヒーでも飲んで目を覚ましてくださいよ」

 三枝はドリンクホルダーにあるタンブラーを渡そうと持ち上げ、あまりの軽さに驚く。

「あれ……?」

 三枝がタンブラーを左右に振ると、ちゃぷんと高めの音がした。
 少なくとも、中身がたっぷりある音ではない。

「コーヒーからっぽ……。いつのまに。あ、そういえば先生さっき、飲みましたよね」
「その時すでに軽かったぞ。正確に言えば、僕の口に入ったのは最後の一滴くらいだ。犯人の顔が見たいなら鏡を見ろ」
「あー」
「それはショートサイズのタンブラーだからせいぜい缶コーヒー一杯分の容量だったんだが?」

 そういえば、おいしいと思って、ついつい飲んでしまったような気がする。
 ほんの少しだけのつもりが、気付いたらずいぶん飲んでいたらしい。

「反省してます」
「まあ、飲ませてやるつもりだったからそれは構わないんだが……ここまで飲まれるとは思わなかったな」

 三枝がコーヒーのおいしさを覚えたのは紗川の影響だ。
 紗川も、それを面白がっている節はあるから、三枝が飲んでしまっても怒ったりはしない。基本的には。
 問題は、紗川が飲みたいと思っているときにそれがないという事だ。

「えっと……すみません?」

 ちらりと視線を向けた紗川は、ようやく言ったかとばかりに苦笑いしていた。

「少しは上司をいたわってくれ。もっとも、ひとが運転している間に、その目を盗んで半分以上飲むのが君の良識であると言うなら別だが」
「あーもう。わかりましたよ。もー寝ません。起きてますっ」
「よし。なら、目頭でも揉んでろ」
「はーい」

 言われた通り、目頭をマッサージすることにした。

「先生は目が疲れたりしないんですか?」
「疲れる。一人で運転していたら、どこかで休憩を取っているところだな」
「ですよねー。あ、ファミレスがあるー。先生、お腹すきました。帰り、行きませんか?」

 前方の交差点に付近に見慣れたレストランの看板を発見して、空腹を感じてしまった。いつも注文するドリアの味を思い出してしまい、より空腹感が増す。

「何を言っているんだ君は」

 眉をしかめながら、紗川がレストランの方を見たのに気付いて、期待値が上がった。

「とか言いながら、先生もお腹すいてるんじゃないですか?」
「そうじゃない。方角的にはあちらではないかと思っただけだ」
「またまた~。口に入れたの。先生だってお腹空いてるんじゃないですか? 俺、帰りにドリア食べたいです」
「帰宅後に僕の食事を分けてやろう。ローストビーフとピクルスとオニオンスープ。あとマリネもある」

 どうやら、ファミリーレストランで外食をするつもりはないらしい。
 先のメニューはおいしいことに間違いはないのだが、頻度が高いため、飽きてしまうのだ。
 それに、ヘルシーな食事が常においしいと感じられるほど、三枝は年を重ねていない。ローストビーフよりもハンバーガーだし、ピクルスやオニオンスープより、ポテトとコーラの方がいい。
 ファストフード店に行きたいと言わずにファミリーレストランをしめしたのは、三枝なりの譲歩でもあったのだが、上司には伝わらなかったようだ。

「うう……先生……うちに帰ってからそれでもいいですけど、でもお腹空いてるんですよ」
「やれやれ……家に着くまでもちそうにないなら、帰りにコンビニに寄ってやる」

 こめかみから指を差し入れるように長い前髪をかき上げ、紗川がため息をつく。

「やった! おごりですね?!」
「人のコーヒーを飲んだ上に、おごれと?」
「わー、先生、かっこいい、おっとこまえー!」

 視線が向けてきた紗川が、あきれたようにつぶやく。

「残念だったな、三枝君。それは全て事実だ」

 そして次の瞬間には楽しげに笑った。

「で? それがどうかしたのか?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

書籍化の打診が来ています -出版までの遠い道のり-

ダイスケ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、私は「書籍化の打診」というメールを運営から受け取りました。 しかしそれは、書籍化へと続く遠い道のりの一歩目に過ぎなかったのです・・・。 ※注:だいたいフィクションです、お察しください。 このエッセイは、拙作「異世界コンサル株式会社(7月12日に電子書籍も同時発売)」の書籍化の際に私が聞いた、経験した、知ったことの諸々を整理するために書き始めたものです。 最初は活動報告に書いていたのですが「エッセイに投稿したほうが良い」とのご意見をいただいて投稿することにしました。 上記のような経緯ですので文章は短いかもしれませんが、頻度高く更新していきますのでよろしくおねがいします。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...