幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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ヒラ事務員たちの悲しい日常4

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 桐生さんは首をかしげている。

「だからさ、その猫と、結城事務局長の幽霊がどういうわけかドッキングして姿を現してるってことだろ。やべえだろ、これ」
「ドッキング……? 結城事務局長の頭には猫の耳などはないようでしたが」
「いや、何もそんな特殊なお店みたいなことを言っているわけじゃないからな?」
「特殊な店……動物が人間のように二足歩行する……舞浜にあるあの施設はそのように言うのですね。勉強になります」
「いやいやいや。あれは違うから! 夢の国から殺されるから本当にやめて」

 ああ焦る。

「それよりも、こちらの折り紙をどうにかすることを考えねばなりません。本来、わたしはこの為にいつもより10分早く庶務課に来たので」

 クールすぎるふるまいを見ていると、からかわれたような気もするが、桐生さんが言っていることは正しい。
 時計を見ると、桐生さんがいつも庶務課に到着している時間よりも5分すぎている。

「ごめん。手伝う。何を調べてたんだ?」
「入院患者リストから、犬飼と言う名前を探します。ここにあるのは昨日のリストなのですが、見当たりませんでした」
「そうか。という事は退院している可能性があるよな」
「そうですね」
「んじゃ、どうするよ。病棟ならともかく、退院してるとなると……」

 桐生さんが持っているわら半紙の束を受け取る。確かに、そこに犬飼の名前はない。
 あいうえお順に並ぶ、入院患者リストは、昨日の朝9時の段階のものだ。
 患者の名前のほか、ID番号、生年月日、連絡先、治療におけるキーパーソンなどが書かれている。ここに犬飼さんの名前が書かれていれば、一発で電話番号と住所がわかったのだが、残念だ。

「当院の理念は、結城事務局長のお言葉通り――『人々の痛みと苦しみを軽減させるため、責務を全うする』ことです。犬飼さんはその理念に沿う行動をしてくださいました」
「ってことは、俺たちにとっちゃ、恩人みてえなもんか。届けないとだよな」
「当然です」

 桐生さんは頷いた。
 搬送さんじゃないから、手紙のお届けは断るというかと思ったが、それ以上に、理念の方が大事ってことだ。
 無表情で堅物で、子供を泣かせてしまうような桐生さんだが、いいやつなんだよ。ほんと。

「オーケー、相棒。んじゃ、頑張ろうか」
「片棒を担ぐわけではないので、その表現は的確ではないかと」
「あーはいはい。じゃ、何からするよ」
「まずは、あの山の中から、それ以前のリストを発掘し、その中から『犬飼』と言う患者を探そうかと思っています」

 桐生さんが指さしたのは、80センチ四方のコンテナボックスだ。
 シュレッダーに向かう予定の書類が山積みになっている。本来はここまで山積みにならない。担当している事務のパートさんが、お子さんの水ぼうそう罹患のために1週間休んでいるからだ。
 それを見たとたん、私のやる気は一気に焼失した。やる気をそぐ、書類の山。それらは入院リストだけではない。保管期限が切れた重要書類や、職員のプライバシーにかかわる情報が書かれたものもある。
 さらに、労力を費やしたとしても報われるとは限らない。1週間前、コンテナボックスはからだった。犬飼さんがそれ以前に退院していたなら、入院リストを探してもそこには名前がないという事になる。
 いや、まてよ。
 そんな面倒なことをする必要はない。
 犬飼さんの連絡先を知るためには電子カルテを開けばいいのだから、それができるところに行けばいいだけのことではないか。あまりにも基本的すぎて失念してしまっていた。

「よし、桐生さん。あとで医事課に行って電子カルテ見せてもらおうぜ」
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