青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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特訓

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「なぁ、大和ってマジで有野さん好きなの?」

 移動教室のときにそう話しかけてきたのは、タケルと同じサッカー部の相田しょうだった。

「え? そうだけど?」
 タケルは一瞬の間もなく即答する。

「どこがいいの? 有野さんて、言ったら普通じゃね?」
「あ、俺もそれ聞きたーい」
 後から割って入ってきたのも同じサッカー部の三上信吾。三人は最近よくつるんでいた。
「どこが、って…、好きになるのに理由とか必要? お前らにどう見えてるかは知らないけど、俺にとっては有野さんめちゃくちゃ可愛いし」
「うおっ、お前恥ずかしげもなくよくそういうこと言うよな!」
「マジでそれな! 聞いてるこっちが赤面しそうだし!」
「じゃあ聞くなよ」
「いや、恥ずかしいけど興味はある」
 翔と信吾が間を詰めてくる。
「まだ片思い?」
「そうだよ、悪いかっ」
 ぷぅ、とむくれる。
「っか~! やめろよイケメンがそんな顔するの! 俺たちをときめかせるな!」
 信吾が顔を覆って言う。
「まぁ、マジだっていうならさ、俺たちも協力してやっから、な?」
 翔が信吾を小突く。
「もちろん! 劇も一緒になったんだろ?」
「そうだけどさぁ」

 タケルは面白くない。なんで志穂が悪徳令嬢なのか。

「あー、あの台本ね。そりゃ、タケル的にはあの台本面白くないわな」
「でも椎名さんと牧野さんグルだろ? 仕方ないって」
 牧野つばさは女子の中で一番目立っている。クラスを牛耳ってると言っても過言ではない。男子とて、彼女に逆らおうもんならなにをされるかわからないくらいだ。
「そういえば、お前らも…」
「そうだよ、俺たちも入ってたよ、役に」

 翔はロミオの父、信吾はロミジュリを助けようとするロレンス修道士だ。
 本当のロミジュリとは大分ストーリーが変わっている。舞踏会に忍び込みジュリエットに一目惚れをする辺りはそのままだが、その舞踏会には志穂演じる悪徳令嬢のアリアナもいて、二人の恋路を邪魔してくる。翔が演じるロミオの父は、息子の恋をなぜか応援していて、ロレンス修道士に相談に行くのも父だ。そんな中、ジュリエットの父がアリアナに殺されてしまう。それをロミオのせいに仕立て上げようとするのだが、悪事がばれてアリアナは処刑。晴れてロミオはジュリエットと結ばれる、という内容。

「まぁ、あれは単なる出し物だから、現実と一緒にすることはないって。練習一緒に出来るのとかは嬉しいんだろ?」
 ポン、と肩を叩き、信吾。
「まぁ…、」
「おお、よしよし、いい子だぞ、タケル」
 ふざけて翔がタケルの頭を撫でた。
「おい、やめろよっ」
「あはは、可愛いなぁ、タケルは」
「可愛いとかいうなっ」

 男子のじゃれ合いは、可愛い……。

*****

 その日の放課後は職員会議で部活はなし。早速キャストは教室に集まり、台本の読み合わせをすることになった。

私は所在なさげに一番隅に、隠れるように座っていた。みずきも香苗もキャストには入っていないのだ。まさにこの場所は、完全アウェイ……。

「じゃ、始めましょうか~」
 ちゃっかりタケルの横に陣取り、やる気満々なのは牧野つばさ。しかし、読み合わせが始まるや否や、場の雰囲気がどんよりし始めるのである。

「タケル……お前……、」
 我慢ならなかったのか、開始から十分で翔が口を出す。
「は? なに?」
「いや……これは、」
 信吾もまた、渋い顔だ。

 驚くべき棒読み……。

 もう、それは上手いとか下手とかの問題ではなく、とにかくビックリするほどの棒読みだった。

 天は二物を与えないってやつね。

 私も心の中で呟く。
 いや、タケルはサッカーがめちゃくちゃ上手い。だから、イケメンでスポーツマンという時点でもう二物は与えられているのか。だとしたら芝居が下手なのは仕方ないだろう。

「い、いいじゃない。まだ始まったばかりなんだし~。これから練習すれば、ね? 私が練習付き合うし~」
 つばさは前向きだ。

 どうにかこうにか読み合わせを続け、一度は通した。前途多難であることは、この場にいる全員が感じていた。

「じゃ、今日は解散しましょ。大和君、これからの練習のこととか打ち合わせしたいからちょっと残ってね。じゃ、解散!」
 つばさの掛け声と同時に皆がわらわらと立ち上がり、教室を出る。私も荷物をまとめ、そそくさと教室を出た。

「あ、ねぇ、有野さん!」
 突然声をかけられ、立ち止まる。普段まったく接点のない人に呼び止められると緊張するものだ。

「あ、えっと、相田君、なに?」
 タケルと仲のいい相田翔君、と、その後ろは三上信吾君。
「あー、あのさ、有野さんって、劇とかやったことあるのかなー、と」
「え? あー、うん、中学のときちょっとだけ…っていっても、クラスのお楽しみ会でやったくらいの話で、あんなの劇って言わないかもしれないけど」
「いや、それはもう、経験者だな!」
 後ろにいた信吾が目を輝かせながら割り込んでくる。
「ええ? 違うってば」
「俺らさ、マジで初めてなんだよ、劇とか」
「そうそう、それでさ、出来れば個人練習とかしたいなーって話しててぇ」
 目配せをする二人。
「この後、ちょっと時間あるかな?」
「え? このあと?」
 時間的にはまぁ、そんなに遅いわけではないが……。
「一時間でいいからさ、付き合ってくんないかな?」
「そう! 一時間! 駅前のカラオケボックスで!」

 なんでこの二人はこんなに真剣なんだろう、と不思議ではあったが、確かに家では声を出して練習なんか出来ないし、自分もちょっと練習しておきたいと思っていた。なので、

「一時間なら」

 と答えてしまう。
「よっしゃ!」
 何故かガッツポーズの二人。
「じゃ、行こ!」
 私は首を傾げながらも、二人の誘いに乗ったのである。

*****

「うぉー、カラオケボックス来るの、久しぶりだなーっ!」
「ほんとだなっ、歌いたくなっちゃうな!」
「ちょっと、二人とも目的変わってる?」
 私は呆れ顔でウーロン茶を入れたカップをテーブルに置いた。
「有野さんて、なに歌ったりするの? 歌、上手い?」
「え? 上手くないよ、別に。っていうか、やらないの? 練習」
 カバンから台本を出す。
「あー、やるやる。でも折角だから一曲だけ歌おうぜ~!」
 翔が曲を選び始める。
「もー。いいよ、歌いなよ」
 私はソファの端っこに座ると、楽しそうに曲を選んでいる二人を横目に台本を広げた。

「有野さんて、話しやすいのな」
 信吾が言った。
「俺も思った! 今まで話したことなかったけど、普通に話せるのな!」
 翔も楽しそうにそう言う。
「普通ですが、なにか?」
 私、クラスでは特に目立つタイプではないが、男子と一言も話せないというほど大人しいわけでもない。
「あはは、有野さん、いいわ~」
「な!」
 楽しそうで何よりではある。

 その後二人は一曲ずつ歌い、満足そうだった。ちょうど二曲目が終わったタイミングで、カラオケボックスのドアが開いた。

「ごめん、遅くなった」

 入ってきたのはタケル。

 ……え? ええええええ?

「おう! やっときたか~!」
「今一曲ずつ歌い終わったとこ」
 ちょっと待って、なんで? なんでここにタケルがっ? 私は意味がわからず、立ち上がっていた。

「な、なななんで、」
「有野さん、とりあえず座って~」
「そうそう、この後タケルが歌うから」
「は? なんで俺がっ」
 タケルが慌てて突っ込むが、翔が曲を勝手に入れていた。程なくイントロが流れ始める。最近の流行曲。甘い系バラードだ。
「ほい、タケル」
 信吾がマイクを渡す。タケルは渋々といった感じでマイクを受け取ると、迷いなく歌い始めた。

「……ええええ、」

 私はストン、とソファに体を預ける。
 めちゃくちゃ上手いのだ。

「上手いでしょ、タケル」
 翔が自分のことのようにそう耳打ちしてきた。信吾もニヤニヤしている。
「上手いなんてもんじゃないよ」

 タケルの歌声はどこまでも甘く、優しい。これはモテるわ……モテないはずがない。
 時折、タケルは私のほうを見る。じっと私を見て、歌うのだ。とてもじゃないが、目を合わせられない。フイ、と視線を外し、俯く。

 曲が終わると、翔と信吾が立ち上がって「ブラボー!」などと囃し立てた。タケルは恥ずかしそうに「やめろよ、バーカ」などと言っている。こんな顔もするんだ……などと、私は暢気に思っていた。

「と、いうわけでぇ」
 パン、と信吾が膝を叩き、立ち上がった。
「俺と信吾、もう行くわ」
 翔も立ち上がる。
「え? なに? どうしてっ?」
 私もつられて立ち上がったが、信吾に肩を押され、ソファに戻される。
「まだ四十五分くらい時間あるじゃん? ちょっと二人で台本の読み、やってよ」
「そうそう、有野さん経験者だし、タケルの練習見てやって」
「え? なんで? 二人はっ?」
「ちょっと用があってさ」
「そうそう、思い出しちゃったの、用事。じゃ、タケル、頑張れよ~!」
 わいのわいの言いながら出て行ってしまう。

「ええええー?」

 残されたのは、私とタケル。
 あいつら、最初からそのつもりでっ。
 私は嵌められたのだと知り、ふつふつと怒りが沸いてくるのを感じていた。
「ごめんな」
 タケルが急に謝ってくる。
「へっ?」
「あいつら、悪気はないんだよ」
「あ、うん……」

 立場が違えば私だって友達のためにこのくらいのことはするだろう。わからないではないから、何も言えなくなる。

「折角だからさ、ちょっと練習付き合ってもらえないかな?」
 にこっと笑って、タケル。
「まぁ、いいよ。でも私、経験者ってほどのもんじゃないんだけど」
「俺よりは上手いでしょ?」
「ぷっ」
 さっきの大根っぷりを思い出し、思わず笑ってしまう。

「あーっ!」

 タケルが私を指した。
「あ、ごめんね、笑っちゃって。失礼だったよね」
 慌てて否定するも、タケルは首を横に振って言った。

「初めて笑ってくれた」

 そう言って私を指していた人差し指で、私の頬を撫でた。

 あああああああ、そういうとこっ!
 私はガッツリ、照れた。
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