青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

文字の大きさ
11 / 46

ヒーロー現る

しおりを挟む
 公園を通り抜ける。

 ちょうど真ん中辺りに時計台が立つ広場があった。その周りには子供たちが遊ぶ遊具などがある。もちろん今は誰もいない。
 時計台の文字盤は七時を少し回った辺り。
 その広場を抜けると、あとは公園の出口まで真っ直ぐだ。途中、右側に公衆トイレ。薄明かりが見える。

 が……、

「あれ?」
 時計台から向こう、何故か暗い。
 街灯が消えているのだ。
「やだ、故障?」
 遠くに見える公衆トイレの薄明かり以外、何もない。
 私は携帯を取り出すと、少しでも明かりを取ろうと電源を入れる。
「ん?」
 学校からのお知らせ通知が届いていた。何の気なしに開く。

『不審者情報のお知らせ』

 件名にはそう書かれていた。
 場所は……、

「嘘でしょ」

 ココ、だ。

 知っていたら来なかった。まさかとは思うが、不審者相手に戦えるほど強くはない自覚がある。いや、本当は何者であろうと戦えるはずもないわけで。

 一瞬、考えた。
 今来た道を戻って大通りを抜けるのか。
 このまま突っ走るのか。
 後ろを向く。来た道のりを考えると、突っ切った方が早い。
 私は覚悟を決めた。
「今日は走る日なのかしらね」
 半ばうんざりしながらゆっくりと走り出す。
 しかし暗いのだ。全速力は無理。携帯で足元を照らしながら、ゆっくり目に走った。

 ガサッ

 近くで何かが動く気配を感じ、思わずびくつく。不審者だったらと思うと身のすくむ思いだ。
 なるべく気にしないように先を急ぐ。が、

「わっ」

 足元の何かに躓く。
 不意打ちだったので、派手に転んでいささか膝を打った。

「……った~」
 携帯を照らすと、くたびれた三輪車。ちょうど後ろの車輪に足を引っ掛けてしまったみたいだ。
「なによもう、こんなところにっ!」
 立ち上がると、携帯の明かりを当てながら三輪車を道の端に移動した。第二、第三の被害者を防ぐためである。
 その時だ。

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

 突然声を掛けられ飛び上がる。

「ひゃぁぁっ!」

 これには相手も驚いたようで、うぉ!などと声を上げていた。
「あ、失礼しました。こんなくらい場所で女性一人のようだったので、危ないと思いまして……、」

 暗くてよくわからないが、スーツのようなものを着ている。仕事帰りのサラリーマンだろうか。私は警戒しながら距離をとると、
「あ、三輪車でちょっとコケちゃいました。大丈夫ですので!」
 早口でまくし立て、小走りに出口に向かった。が、

 グイッ、と腕を掴まれる。

「さっき転びましたよね。足、消毒した方がいいですよ。トイレに水道ありますから」
 公衆トイレに連れて行こうというのか。

 私は全身の毛穴がブワッと開く感じと、頭の奥の方がきゅっと摘まれるような、なんともいえない不快感を覚えた。

「結構です! 放してください!」
 腕を振りほどこうとする。
「そんなに暴れないで、さぁ」
 なおもぐいぐいと腕を引っ張る。
 全身を変な汗が流れる。

 怖い!

 その時だ。

「有野さん!」

 暗闇から、声。うっすら見える、あれは……触覚!!
「大和君っ!?」
「お前、何してんだよっ!」
 携帯の薄明かりに照らされた青い二本の触覚。男に掴み掛かると、そのまま投げ飛ばした。今の、一本背負い?

 男はグエッという音を発し、そのまま動かなくなった。私はがくがくと震える足に何とか力を入れようとするのだが、力が入らない。そのまま地面に座り込んでしまった。

「有野さん、怪我はっ!?」
 ありがとう、助かった。でも、なんでここに?
 口に出したつもりが、言葉も出ない。
「怖かったよね、もう大丈夫だから」
 座り込む私を包み込むように、抱きしめる。
「俺がいるから。大丈夫だから」
 何度も大丈夫、と言いながら背中を撫でてくれた。私は溢れる涙を見られまいと必死で声を抑える。
「ちょっと待ってね」
 私が落ち着くのを待って、タケルはカバンから何かを取り出す。紐?
 その紐のようなもので倒れている男を縛り上げているようだ。
「これでよし、と」
「何したの?」
「サッカー部で使ってる鉢巻で縛っておいた。あとで警察に連絡しておくよ。さ、有野さん立てる?」
 差し伸べられた手を取る。なんだかまだフラフラする。
「とりあえずどこかでお茶でも飲もうか」
 そう言うと、私の手を取り歩き始める。

*****

公園を抜け、繁華街へ。

私はタケルに言われるがまま自宅に連絡し、文化祭の準備で少し遅くなると告げ、タケルはその間、公衆電話から警察へ通報していた。匿名での通報にしたいと、わざわざ公衆電話から掛けたのだ。
 そして二人でチェーンのコーヒーショップへ入り、タケルはコーヒーを私はカフェラテを飲みながら落ち着いたのである。

「あのあとさ、教室でちょっとだけ練習したんだ。でもイマイチやる気出なくてすぐ切り上げちゃったんだよね。校門辺りで川原さんに会ってさ、そしたら有野さんがさっき帰ったって聞いて、もしかしたら追いつけるかなーと思って」

 努めて明るく話をしてくれているのがわかる。

「なんか俺、ストーカーっぽいかも、とか思ったけどさ、一緒に帰れたらラッキーだな、って思っちゃって」
 私はただ頷いていた。

「もっと早く追いつければよかったんだけど……ごめん」
「え?」
「俺がもっと早く有野さん見つけてたら、」
「そんな、大和君は何も悪くないじゃない」
 むしろタケルのおかげで大事に至らなかったのだ。

 ふと、ウインドーを見ると、何台かのパトカーが横切っていく。きっと公園に向かっているのだ。ウインドーに映る、影。後ろ姿の青い触角がうなだれている。

「大和君て」
「え?」
 パッと顔を上げて、タケル。
「柔道も強いの? さっきの、背負い投げだよね?」
 私も努めて明るい声を出す。
「ああ、あれ? あはは、実は今日の体育で習った技を咄嗟に試しただけなんだ。成功してよかったよ」
 恥ずかしそうにおどける。
「すごいな、何でも出来ちゃうんだね」
「そんなことないよ。演技は最高に下手みたいだし」
「あ、それね」
 ふふ、と笑うと、不意にタケルが私の手を取った。
「ほんと、無事でよかった」
 私の手を包み込み、さわさわと撫でる。
「うん、本当にありがとね」
 私はやっと、お礼が言えた。
「ごめん、こんなところでなんだけどさ、」
「え?」
「ちょっとだけ、いいかな」
 そういって立ち上がると、私の横に座り直す。そっと私の頭に手を回し、そのまま抱き寄せた。
「有野さんが無事で、よかった」

 タケルの肩に顔を埋めるような格好で、でもそのときの私は逃げたいとはまったく思わず、本当に、ただ、安心しきって目を閉じていたのである。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...