青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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事情聴取

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 日本の警察は優秀である。

 匿名で通報したにもかかわらず、翌日には不審者を拘束したのがタケルであったことを突き止めていた。
 二時間目の授業中、タケルが職員室に呼び出されたのだ。

「これ、君のだよね」

 警察官に見せられたのは透明なビニールに入った鉢巻。昨日不審者を縛り上げるときに使ったものだ。
 そして仕方なく認めると、調書を取るため、と警察署に行くことになってしまう。
 そのことを担任から知らされると、教室は大騒ぎになった。

「ヤバ! どこまでかっこいいの!」
「あいつマジで、ヒーローじゃん!」
「惚れ直しちゃう~!」
「さすが俺のタケル」
「なんでお前のなんだよ!」
 等々。

「すごいね、大和君」
 香苗も感心しきりだ。
「志穂、結局昨日って……、」
 そうだ、みずきは昨日タケルに会っているのだ。
「え? 昨日?」

 警察に呼ばれたのはタケルだけ。昨日彼が『今日のことは警察には言わなくていいよ。言うと事細かに昨日のこと聞かれたりするから。思い出したくないでしょ?』と言っていた。だから多分、彼はその場に私がいたとは言わないのだろう。
「大和君に会わなかった?」
「うん、会わなかったよ」
 嘘をつくのはいい気分ではなかったが、下手に話して大事になるのも困る。
「そっか」
「みずきはどうだったの? 昨日」
 すぐに話題を変える。
「あ、うん、えっと……」
 わかりやすく顔が赤くなる。
「これは何か」
「あったようですね」

 私と香苗はもじもじするみずきの顔を覗き込みながら、ニヤついた。

*****

「実はさ、昨日昇降口で原君と志穂が喋ってるの見て、私、ムカついちゃってさ」
 昼休み。
 みずきの事情聴取はそんな発言から始まった。

「ええ!?」
 私、のけぞる。

「あ、ごめん、つまんない嫉妬だよ。だって、なんか二人凄く自然に喋ってるし、親密そうに見えたからさ」
「違う違う! 全然そんなんじゃ、」
「わかってるって。私が心狭いだけ」
「ううん、そんなことないよ。私、みずきの気持ちよくわかる」
 香苗がそう言って慰める。

 ごめんねみずき。私にはよくわかんない。

「それで、帰りもなんだかぎくしゃくしちゃったんだ。私が勝手にプリプリしちゃってて」
「原君は?」
「最初、なんで私が急に不機嫌になったかわからなかったみたい。で、私ったらつい言っちゃったんだよね。『もしかして志穂のこと好きなの?』って」
「ええ?」
「そしたら急に黙り込んじゃって……、」

 速攻否定しろよ、優キング!!

「その沈黙って、なんだったの?」
 香苗が前のめりになる。
「それが……さ、」
 みずきが明らかに顔をニヤつかせ、明後日の方を見た。
「そうか、チューされたか」
 香苗がみずきの肩をポン、と叩く。

 ……え?
 え? 今の流れのどこから推理したらそうなるの? え?

「……うん」
「本当なんかーい!」
 私はおどけて突っ込む。
「手をね、こう、握られて、」
 みずきが香苗の手を取り再現し始める。

「『有野は同中だったってだけ。なんとも思ってないから気軽に話せるんだ。好きな人相手だとうまく話せない。こうして手を繋いだり、もっと色々したくなっちゃうし』って」
「そしてそのまま~?」
 香苗が煽る。
「思わず、好きな人って誰? 色々って、なに? って聞いちゃいました! そしたら、そのまま勢いで……きゃ~!」
「きゃ~!」
 みずきと香苗、大盛り上がり。

 しかし優キングめ、大人になったもんだ。

「手を繋いだり、チューしたり、これが健全なJKだぞ、志穂!」
「志穂も早くそういうことになるといいね」
 二人が憐れむように私の頭を撫でつけた。

 ……ああ、はい、本当は私も、もうそうなってるんですがね。

「うん、そうだね。ちょっと私には刺激が強い話だよ、あはは」
 笑って誤魔化す。
 すると、

「有野さんっ!」

 なんだか怖~い顔をして友人連れでやってきたのは牧野つばさ。
「え? はい?」
 めっちゃ怒ってるように見えるんですが、私、なんかしたかな?
「有野さんに説明を求めます!」
 携帯の画面を私に突き付ける。
 そこに映っていたのは……、

「ええっ?」
「志穂と大和君っ?」
 昨日のコーヒーショップで撮られた写真。複数枚あるようで、それをわざわざ画像編集してコマ送りの動画のようにしていた。
 タケルが席を立つ→私の隣に座る→私を抱き寄せる、の動き。

 これって完全に盗撮じゃん……。

「一体誰が、」
「誰が、なんてどうでもいいのよ! 問題は中身でしょ!? 有野さん、昨日言ったわよね? 『大和君は恋愛対象じゃない』って。なのに、なんなの? これ、どういうことか説明してもらうから!」

 あああ、これはヤバい。
 説明も何も、そのままなんだもん。私は何もしていない……。

「志穂、大和君には会わなかったって言ってなかった?」
 みずきが私の矛盾を突く。
 もう、こうなったら本当のことを言うしかあるまい。やっぱり嘘はよくないのね。
「えっと、実は昨日、公園で不審者に遭遇しまして、」
「ええっ!?」
「ちょっと、志穂!」
「学校メール気付かなくて、公園入っちゃって、ハイ」
「それでっ?」
「たまたま通りかかった大和君が助けてくれて、私が大きく動揺しちゃっていたので、お茶を、ええ、」
 その場にいた全員から視線を外し、答える。
「不審者の件は自分だけで対処するから、誰にも言うなって言われて、それで、黙ってましたスミマセン」
 最後の謝罪はもちろんみずきと香苗に、である。

「そ、そんな……それが本当だとしても、なんでこうなったのよ!」
 再度バーンと携帯を突き付けられる。ああ、恥ずかしいからそんなに何度も見せないでほしい……。
「それは……えっと、大和君が……規格外だから……かな?」
 よくわからない答えである。
 が、何故かみずきと香苗は納得した。
「わかる! 確かに規格外だよね!」
「そうだよね! 転校初日でアレだったわけだしね」
 しかしつばさは納得していないようだった。
「今後一切、こんな風に二人で会うの、やめてくれるかしらっ? 私の大和君に近付かないでほしいのよっ!」
 いつの間にか自分のものにしているようだ。
「うん。私の意志で大和君と密会することはないと思う」
 冷静かつ本心で、そう告げる。
あまりにもきっぱりと言い切った私に面食らったのか、
「そっ、そうなのっ。なら今回は見逃してあげるわっ!」
 そう言い、ふんっと鼻を鳴らし、つばさは去っていった。

 残された私は、興味津々にこっちを見ているみずきと香苗の顔を見て、苦笑いするしかなかったのである。
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