青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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心のモヤモヤ ~タケルの呟き~

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「ねぇ、大和君、ここなんだけどぉ」
 ジリジリとつばさが間を詰めてくる。

 ファミレスでの勉強会。

 劇メンでやると聞いたからてっきり志穂も来るのだと思っていたのに、いない。それどころか、さっき見た光景が目に焼き付いて離れない。

 そこに、いるのに!

 しかも、知らない男二人に囲まれて!

 一体あれはなんだ? どういう状況なんだ? 川原さんが一緒だから、知り合いってことなんだよな? でも、なんで囲まれてたんだ?

「大和君てばぁ」
「え? ああ、なに?」
 そもそも、中間テストの点数を上げるための勉強会なのに、つばさのせいでちっとも集中出来ていないのだ。さらに輪をかけてさっきの光景……。ああ、ダメだ。もう、これ以上我慢出来ないっ!

「ちょっと、ごめん」
 席を立ち、窓際の席へ。
 しかし、そこに志穂の姿は既にない。

「有野可愛かったな~」
「いいね、あれは」

 会計近くで声。あの二人だ。
 タケルはいても立ってもいられなくなり、席に戻ると財布を取り出した。
「え? 大和君どうしたの?」
「ごめん、用事思い出したから先に帰る」

 小銭を置き、店を飛び出す。
 店の外で、目を閉じる。
 志穂の気配を探す。どこだ? どこにいるんだ?

 ピコーン

 いた!

 タケルはまっすぐにコンビニの方へと向かって走った。

 ……いた!

 コンビニから出てきた志穂は、買ったばかりであろうお菓子を袋から出し、口に入れた。棒状のそれをリスのようにモグモグと食べている。

 可愛すぎるっ。

 タケルは大きく息を吸い込み、声を掛けた。
「有野さん」
 お菓子に夢中になっていて全く気付かなかった志穂が、驚く。
「わっ」
「すごい集中してお菓子食べてたね」
「あ、やだなぁ、変なとこ見られちゃった。ってか、どうしてここに?」
「あー、うん、さっきまで劇メンで勉強会やってた。……有野さんも…だよね?」
 早速探りを入れる。
「あー……うん」
「川原さんが言ってたけど、さっきの、」
「さっきの?」
「学年五位以内?」
「ああ、斉藤君たちね。うん、そうみたい。ちょっと勉強教えてもらってた」
「そっか。……でも、勉強してた感じじゃなかった…、」
 呟くように、言う。
 少なくとも、あの二人は違う意味合いを含ませてあの場に座っていたはずだ。
「やまほふんも、たへふ?」
 お菓子の袋を差し出し、志穂。

 タケルは差し出されたお菓子を一瞥する。お菓子なんか食べてる場合じゃない。少なくとも、目の前のこの可愛い生き物はあまりにも無防備すぎる。無防備がどんなに危険か、わかってないんだ。

「いただきます」
 そう言って志穂が咥えているお菓子にかじりつく。
「ちょ、なんでよ! こっち食べてよっ」
 差し出した手の中でスナック菓子がガサガサ揺れた。
「こっちの方が美味しそうに見えたから」
 タケルがにっこり、笑う。
 はっきり言っておいた方がいいのかな。
 タケルは少し迷いながらも、言わずにはいられなかった。

「ねぇ、有野さんさ」
「な、なにっ」
「隙が多いって、自覚ある?」
「え? は?」

 駄目だ、全然わかってない……。

「気付いてないでしょ。ほんと、困る。ほんと、心配なんだけど」
 どうすればいいんだ。

「心配って、私?」
「さっきの二人、完全に有野さんのことマークしちゃったよね?」
「へ? 斉藤君たち? さっき知り合ったばっかりだよ?」
 知り合ったばかりで目を付けられるって、一体なにしたんだよっ。
「知り合ってどれだけ経ったかなんて問題じゃないでしょ」
 志穂に手を伸ばす。そのまま髪を摘み、クルクルと指に絡めて、解く。反応はない。
「こういうことされても嫌がらないし」
「えっと、だって、別に知らない人じゃないし……、」
「相手が翔や信吾でも、ってこと?」
 ムッとしたように、尋ねると、
「別に平気じゃないかな?」

 これだよ!

「そういうとこ! こういうこと他の人にさせないでよ」
 自分以外の誰かが志穂に触れることを想像するだけで怒りがこみあげてくる。
「俺は有野さんが好きなの。好きな女の子が他の男にちょっかい出されるの、気分いいわけないでしょう?」
「あ、はぁ…」

 伝わってるのか? これ。

「さっきだって、男二人に囲まれてる有野さん見て、生きた心地がしなかった」
「そんな、大袈裟な」

 やっぱりわかってない!

「ほら、わかってない。俺が今どんな気持ちでいるか、何をしたいと思ってるか、」
「えっと、何したい…の?」

 ……は?

「なんで煽ってくんだよ…、」

 何をしたいか? もう、滅茶苦茶にしたいよ! 抱きしめて、キスして、誰も入ってこられないようなところに押し込めて、独り占めしたいよ!

 志穂の手を取り、コンビニの裏へ連れていく。駐車場には人気もなく、通りからも外れているため誰の目にもつかない。
「こんな風に暗がりに連れてこられて、何されるかわかんなくて、なのに平気な顔して、どういうつもり?」
「だって、大和君悪い人じゃないし…、」

 ああ、なんだよそれ、ズルい。

「どうしてそう言い切れるの? 無理やり何かしようとしたらどうするの?」
 更に脅しをかけるも、
「しないと思ってる」
 即答されてしまった。
「もうっ、なんだよそれっ」

 そんな風に言われたら何も出来ないじゃないかっ。

 掴んだ志穂の手を壁に押し付ける。そしてお菓子の箱から一本を抜き取ると、志穂の口元に近付ける。

「あーんして」
「……え?」
「いいからっ、あーんして」
 言われるがままに、志穂が小さく口を開ける。そこにお菓子をそっと入れてみた。入れられたお菓子を、志穂が食べる。

 ポリポリ、モグモグモグ、

「はい、あーん」

 パク。ポリポリポリ、モグモグ…、

「ヤバい……楽しい」
 目の前で差し出したお菓子を食べる志穂が可愛い。
「あ、最後になっちゃった」
 最後の一本を志穂の口に咥えさせる。そしてそのまま目隠しをした。気付かれないように、お菓子の反対側を咥える。このまま、
「うきゃぁっ」
「ちぇ、バレた」
 タケルはお菓子をモグモグしながら残念そうに言った。もう少しだったのに。

「有野さん、自覚、してよね」
 もう一度、念を押しておく。
「さすがに喉乾いたね。なんか飲もう」

 さっと手を出す。
 しかし、志穂は差し出された手に応えてはくれず、ごみを渡される。
 そんな程度の抵抗、俺には効かない。
 タケルは何の抵抗もなくさっと箱を受け取ると、もう片方の手で迷うことなく志穂の手を掴んだ。

「無駄な抵抗だよ、有野さん」

 フフン、と自信満々に微笑む。
 少しずつ距離を縮めよう。
 誰も割って入れなくなるくらい。
 誰にも邪魔はさせない。
 絶対に、誰にも渡さない……。

 そう、心に誓ったタケルであった。
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