青い少年は最初で最後の恋を知る

にわ冬莉

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今したいこと

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「なんなのよっ、なんなのよ、もうっ」

 私はイライラを抑えることが出来ず、ブツブツ呟きながら歩いていた。さっき知り合ったばかりの相手に、言っていい冗談と悪い冗談があるでしょうにっ。

 ブブブ、と携帯が揺れる。立ち止まって取り出すと、みずきからだった。さっきはごめん、とのこと。

「まったくもう」
 仕方ない、許してやるか。

 私は携帯をカバンに戻すと、再び歩き始めた。なんとなく小腹が減った気がする。怒りはカロリーを消費するのかも? などと馬鹿なことを考えながら、コンビニに入る。スナック菓子を買い、店を出ると早速開けた。

 塩気のある細い棒状のお菓子をもぐもぐと食べる。少しずつ口の中に吸い込まれていくこの感じがたまらなく好きなのだ。

「有野さん」

 お菓子に夢中になっていて全く気付かなかったが、いつの間にかすぐ近くにタケルが立っていた。

「わっ」

 驚く私を見て、笑う。
「すごい集中してお菓子食べてたね」
「あ、やだなぁ、変なとこ見られちゃった。ってか、どうしてここに?」

 ファミレスにいたんじゃなかったっけ?

「あー、うん、さっきまで劇メンで勉強会やってた。……有野さんも…だよね?」
「あー……うん」

 抜けてきちゃったけどね。

「川原さんが言ってたけど、さっきの、」
「さっきの?」
「学年五位以内?」
「ああ、斉藤君たちね。うん、そうみたい。ちょっと勉強教えてもらってた」
「そっか。……でも、」
 ちょっと俯き、声のトーンが下がる。
「勉強してた感じじゃなかった…、」
 呟くように、言う。
 私は焦って、お菓子を口に加えた。
「やまほふんも、たへふ?」
 お菓子の袋を差し出す。

 タケルは差し出されたお菓子を一瞥し、大きく頷くと、

「いただきます」

 って!!

 私が! 咥えているお菓子に! かじりつくのはなんで!?

 私は驚いてポキッとお菓子を噛み切った。
 タケルは私がそうしていたみたいに、少しずつ菓子を口の中に入れていく。

「ちょ、なんでよ! こっち食べてよっ」
 差し出した手の中でスナック菓子がガサガサ揺れた。
「こっちの方が美味しそうに見えたから」
 にっこり、笑う。

 ああああ、もうっ!

「ねぇ、有野さんさ」
「な、なにっ」
 まったく予期してないことをされたせいでまだ心臓がバクバクしている。
「隙が多いって、自覚ある?」
「え? は?」

 隙が多いって、なに?

「気付いてないでしょ。ほんと、困る」
 タケルの触角がふにゃっとうなだれる。
「あのさ、ほんと、心配なんだけど」
「心配って、私?」
「さっきの二人、完全に有野さんのことマークしちゃったよね?」
「へ? 斉藤君たち? さっき知り合ったばっかりだよ?」

 マークってなんだ、マークって。

「知り合ってどれだけ経ったかなんて問題じゃないでしょ」
 タケルが私に手を伸ばす。そのまま私の髪を摘み、クルクルと指に絡めて、解く。
「こういうことされても嫌がらないし」
「えっと、だって、別に知らない人じゃないし……、」
「相手が翔や信吾でも、ってこと?」

 一瞬想像してみる。
 相田君……、三上君……うん、
「別に平気じゃないかな?」
 正直に答える。

「そういうとこ!」
 ピッと人差し指を立て、少し怒ったような顔で、タケル。
「こういうこと他の人にさせないでよ」
「え?」
「逃げるか、断るかしてよ」
「なんで、」
「有野さん、鈍いにもほどがあるよね?」

 あ、なんか怒ってる……?

「俺は有野さんが好きなの。好きな女の子が他の男にちょっかい出されるの、気分いいわけないでしょう?」
「あ、はぁ……」

 ヤバい。
 私、鈍感が過ぎるのか……。

「さっきだって、男二人に囲まれてる有野さん見て、生きた心地がしなかった」
「そんな、大袈裟な」
 私は半笑いでそう言ったのだが、タケルは険しい顔のままだ。
「ほら、わかってない。俺が今どんな気持ちでいるか、何をしたいと思ってるか、」
「えっと、何したい…の?」
 思わず聞いてしまう。

 タケルは右手で頭を押さえ、「なんで煽ってくんだよ」と呟くと、私の手を掴みそのまま歩き出した。

「え? なに?」
 ぐいぐいと手を引かれ、コンビニの裏へ連れていかれる。駐車場には数台車が停まっているが、そこには『従業員用』と書かれた札が下がっていた。
 駐車場には人気もなく、通りからも外れているため誰の目にもつかない。暗がりに連れてこられ、さすがに少し怖くなる。

「こんな風に暗がりに連れてこられて、何されるかわかんなくて、なのに平気な顔して、どういうつもり?」
「だって、大和君悪い人じゃないし……、」
 そう。少なくとも悪い人ではないはず。あ、でも『悪い宇宙人』だったら困るな。
「どうしてそう言い切れるの? 無理やり何かしようとしたらどうするの?」
「しないと思ってる」
「もうっ、なんだよそれっ」

 タケルが、掴んだ私の手を壁に押し付ける。そしてお菓子の箱から一本を抜き取ると、私の口元に近付ける。

「あーんして」
「……え?」
「いいからっ、あーんして」
 言われるがまま、小さく口を開けると、私の口にお菓子をそっと入れる。入れられたお菓子を、私はとりあえず、食べた。

 ポリポリ、モグモグモグ、

「はい、あーん」

 パク。ポリポリポリ、モグモグ…、

「ヤバい……楽しい」
 タケルが満足そうに、そう言った。

 あんたのしたいことって、これかぁぁい!

 私は心の中でだけ盛大に突っ込んでおく。
「あ、最後になっちゃった」
 最後の一本を私の口に咥えさせる。そして何故か目隠しをされた。

 え? なんで目隠し?

 私は不思議に思いながらも無意識にお菓子をポリポリ食べていた。が、異変を感じ、タケルの手をどかす。目の前にタケルの青い顔があった。お菓子を向こう側から食べていた。
「うきゃぁっ」
 猿っぽい声が出てしまう。
「ちぇ、バレた」
 タケルはお菓子をモグモグしながら残念そうに言った。
「なっ、ななななんて卑怯なっ!」
 完全に油断していたではないか。
 我ながら本当に鈍くさいというか、なんというか……。

「有野さん、自覚、してよね」
 一言一句はっきりそう言うと、タケルはいつものタケルに戻って言った。
「さすがに喉乾いたね。なんか飲もう」

 さっと手を出してくる。これは……手を繋ぐときのあれですか?

 私はどうすべきかわからず、持っていたお菓子の空箱を渡してみた。これで有耶無耶に出来るだろうと思ったのだが、タケルは何の抵抗もなくさっと箱を受け取った。そしてもう片方の手で迷うことなく私の手を掴んだのだった。

「無駄な抵抗だよ、有野さん」
 フフン、と自信満々に微笑むと、そのままコンビニへと戻る。

 二人の手は、お菓子の塩気でちょっとベタベタしていたのである。
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