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1章~人外圏で、精霊術を~
まず初めの驚愕
しおりを挟む「さて小娘」
「だから、小娘じゃないってっ!」
精霊族である彼女、ユイが俺の婚約者になったのは今しがた。
時間で言えば数分前の事だろうか。
未だにほかの精霊族はその場に留まり、俺に向けて様々な感情を遠慮なくぶつけてきている。
(はぁ・・・・・・・・・・・面倒だな)
そう思ったのだから、それを解決すれば良いのだろう。
黙らせるのは、生きている生物に対して感情を無くさせるのは無理だから却下だ。
ならば、その根本を取り除けば良いのだろうか?
(じゃあ、やってみるか・・・・)
思い立ったが吉日という言葉があるくらいなのだから、すぐに行動してみないと損だろう。
「ユイ、離れろ」
「うえぇっ!?」
突然俺から告げられた内容に動揺したのか、少女は驚愕に満ちた瞳で俺を見る。
そこへ、少しだけ威圧を込めて睨むと――
「っ!ご、ごめんなさい」
一歩、後ろに下がった。
さて、これで遠慮はなしに魔法を使える訳だ。
けれど、まあ・・・・・・・今から使う魔法は”詠唱”という行為を必要とする。
恐ろしく精密な魔力操作と、ありえないくらいの魔法への適正があれば、理論上は詠唱無しでもいけるが、俺はそこまで恵まれた存在ではない。
息を吸い、体内に眠る魔力へと語り掛ける。
言葉は強く、けれど願うように感情を込め、理想となりイメージを強く想像する。
「
【古の門番よ 地獄の死神よ 死を告げる死神よ
今 汝の手によって浄化されし魂を現世へと返還させてくれたまえ
謳え 謳え
我は汝らを拝む者
されど汝らの行いへと願い掛ける
今一度 我が同胞の望まれし未来を
願い掛ける彼の者を思う者の元へ
謳う 謳う
汝らこそが神聖なる存在と願うこそ
汝らへと願う
彼の者の魂を今 現世へと帰還させたまえ
――”蘇生”】
」
基本、詠唱を必要とする魔法はその行節によって難易度と効果を跳ね上がらせる。
人類圏に居る人々なら、3行節・・・・・【3階級魔法】が使えれば賢者と呼ばれるだろう。
人外圏ならば、10行節・・・・・・・【10階級魔法】を扱える生物は、生態系の頂点に立っている。
今行った魔法は、11行節・・・・・・・・【11階級魔法】だ。
その難易度と、消費する魔力の多さ、何よりも詠唱が語り継がれていることすら珍しい。
神々しい輝きを放ちながら、先程の男の死体が浮き上がった。
そして、輝きに照らされ首から先が再生されていき――
精霊族全ての者が、その瞬間を目に焼き付かんと凝視した。
精霊術も同じ工程に則っており、だからこそこの難易度が理解出来る。
今のこいつ等に使える精霊術は何階級だろうか。
けれど確かにいえることは、”8階級に届けていない”ということだけ。
その理由は分からないし詮索もしないが、かつての栄光はもう無いだろう。
輝きが最高潮に達した時、遂にその時がやってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・」
小さく、僅かに、けれど明らかに不自然に、男の体が揺れた。
『っ・・・・・・・・・・・』
息を飲む音が何処かから聞こえてきた。
まあ、俺ですら【10階級魔法】はほとんど見ないし、使える奴もほとんど知らない。
だからこそ、こいつ等にとっては一生に一度しか見れない光景だろう。
(こんなんで、怒りや憎しみは消えるのだろうか・・・・・・・・・・・)
哲学なんて分からないし、人の感情なんてもっと分からない。
けれど、かつて戦い、殺した者に同じことをして、俺を恨んでいった者達は赦してくれるだろうか。
(・・・・・・・・無理だな)
そうなる現実も見えない。
考えることもできない。
それを望む資格も無い。
ただ今は、なんだか邪魔な気がしたから、俺は男に集中する精霊族の奴等を背に森の中を歩いて行った。
(ふわぁ・・・・・・・・・・眠い)
<tips>
【階級魔法】
魔法における階級は、世界によって認識された行節によって威力が変わる。
それに比例して難易度も急上昇するため、階級が1つ違うだけで地位は大きく違う。
尚、世界によって認識されている最も長い行節は40であり、その魔法が行使されたことは過去一度しか無い。
【蘇生】
創造された魔法であり、およそ11行節によって唱えられる”奇跡”。
対象が死んでから1日以内であり、尚且つ体の半分以上が残っていることが条件となる。
また、対象の還りを望む者が居ることも必須らしいが、魔力を倍にすれば必要無い。
消費する魔力は、火を生み出す魔法が1に対して10万という莫大な量を要する。
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