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1章~人外圏で、精霊術を~
精霊術の必要な世界
しおりを挟むそれは、突然の事だった。
いや、この『人外圏』に居る時点で常識も安全も無く、通常が異常な場所だろう。
襲って来たのは、半透明な緑の集合体である『霊種・暴食邪種』だった。
KYAAAAAAA!!
甲高い悲鳴を発しながら空中を飛来し、気紛れに突進してくる。
「【防壁】【崩壊と破壊の狂騒】」
薄い光の膜が突進を止め、暴食邪種の体内にある魔力を暴走させ内部崩壊を導く。
それで、終わり。
――に、なるはずだった。
KYAAAAAAA?
心底馬鹿にしたように、その暴食邪種は鳴いた。
本当に、馬鹿にしたように、変わらないはずの声音が何処となく変化して。
小馬鹿にしてきた。
(こいつ!!)
「【自動単体追尾・氷山から成る鋭利な一撃】!」
突如、霊の足元から鋭い氷槍が強襲した。
その穂先は確かに霊を貫き―――いや。
(肉体が、無い・・・・・・・?)
氷に貫かれた箇所は、貫かれたのではなく回避するように穴が空いており、槍が消えると同時に塞がった。
KYAAAAAAAA♪
さらに調子に乗るように、霊は小躍りしながら俺の回りを浮遊する。
こいつ、本当は俺と遊びたいんじゃないか?
なんて思うと直後、霊は俺目掛けて強襲してくるのだ。
KYAAAAAAAAA!
ほら来た。
けれどこれは、危なげなく回避。
返しに、音速の手刀を振り下ろす――が、空しい金きり音が鳴っただけだった。
ヒュンッ!
残念。これで死んでくれれば俺も真剣にお前を殺すことを考えずに済んだのに。
(ならば――)
と、今度は魔力に干渉してみることにした。
「【魔衝波】」
指を下から上にクイッ、と動かす。
その途端、不可視の波が霊へと襲い掛かった。
しかし、ダメージは何一つ与えていなかった。
(嘘だろう?)
ここ数百年はこの場所に来ていなかったが、まさかー―
「『精霊術』しか効かないのか?」
有り得ない、とは思わない。
何たってこの場所は『人外圏』。
常識では測れず、常に異常こそが通常な矛盾を撒き散らす世界。
はっきり言って、異世界だ。
それが、数百年の時の中で進化しない訳が無い。
その証拠が、この霊だというのだろうか?
KYAAAAAAAAA!
楽しそうに、しかし明らかに狂った目で俺を突き抜かんと突撃してくる。
(チッ!)
それを、舌打ち1つで回避して考える。
――無理だな。
「お前は、絶対に殺すぞ」
下手な悪役の三下台詞を投げ捨て、俺は魔力を展開した。
「【契約・転移】」
視界が、一瞬で変わった。
木々が鬱蒼と並び、その木に僅かな扉を付けて家になっている。
窓も小さなものが刳り貫かれ、陽光が木の床に差し込む。
目前には、裸のユイがいた。
その瞳は驚愕で見開かれ、自身の痴態にすら気付いていない。
(目の保養ではあるが、なんとなく居た堪れないな)
今回は、俺が悪かった。そう内心で付け足して、俺は告げる。
「【錬金・高貴なる貴方へ贈るドレス】」
パアァっと少女の体を光が包み込み、やがてそれが収まった。
そこには、白とピンクのリボンが綺麗に飾られた、お嬢様のドレスを着た少女が佇んでいた。
やっとの思いで、意識が戻って来たのか、少女は先程までの姿を思い出し――
「・・・・・・・・・・(ぼふん)」
沸騰するかのように顔を朱に染めて手で覆った。
恥らう少女の姿は確かに可愛らしく、愛らしい気もするが、やはり客観的。
(感情は、やはり分からないな)
自分でも、よくわからない。
だから、とりあえず1つ。
「大丈夫だろう、小娘。お前は俺が貰ったのだからな」
<tips>
『霊体・暴食邪種』
半透明な人型が多く、”精霊力”によって体を形成している。
”魔力”も実体も存在しないため、物理と魔理での攻撃は一切通用しない。
しかし、【防壁】などの自身を対象としない魔法への実体はある。
唯一の対抗手段は、『精霊術』である。
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