闇千夜の系譜・櫻花の理(ことわり)〜鬼は永久(とわ)に最愛の女を探し彷徨う〜

和刀 蓮葵

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食事

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木綿地の朽葉色に白いよろけ縞、亜麻色の帯と全体に地味な格好で朔耶は自室で新聞を読んでいた。
けど、文字の羅列を目で追っても、内容は一向に頭の中に入ってこない。通り過ぎていくだけだ。

響士郎義兄様と火澄様の仕事を了承し、ある意味、強引にドレスを誂えると約束させられた。
その日が今日なのだが、朔耶は前の晩から中々、落ち着けなくなり、夜もあまり眠れなかった。
そして、朝の日課を一通りこなし、朝餉を平らげ、時間になるまで心を落ち着かせる為に、新聞を読み始めたが、一向に内容が入ってこない。

諦めたのか、深いため息をして新聞を静かに閉じてしまう。
そして、次に目が追いかけたのが着物だ。歌弥や東雲のように、明るい色の着物の方が良かったのか悩んでしまう。
けど、持っている着物は地味な色合いの物しかない。絹の物なんて霊符を書く時の物しかないが、あれは白一色だ。
他の一張羅は式服だが、流石にでは目立ちすぎる。悩んで結局は持っている物でも特段、ましな色合いのものになった。

きっと、火澄様は呆れてしまうかもしれない・・・・・
・・・・・・私はどうして残念な気持ちになっているのかしら?可笑しい。可笑しすぎる。

朔耶は一人で押し問答をしていると、襖の奥から聞き慣れた声で名前を呼ばれる。
「朔耶様?火澄様がいらっしゃいましたよ。只今、お通し致します」
「・・・・・・・分かりました」
一瞬だけ軽く飛び上がってしまった。これではいけないと、軽く息を吸い、吐く。一拍置いてから普段と変わらない声を出していく。

出迎えは長老連中と同じ様に完璧な状態だ。玄関を掃き、葉っぱの朝露を拭き、花を生ける。
廊下は塵一つ落ちてなく、丹念に磨き上げ輝いている。それは部屋も同じだ。
何故だか分からないが、長老連中や響士郎義兄様をお迎えするよりも、心を砕いて出迎えの準備を丹念にしているような気もする。

━━━━━━どうしてなのだろう。あの方にお会いする時は、どうしょうもなく心が浮き立つような、こそばゆい気持ちにもなる。訳が分からない。こんな気持ち初めで自分で対処するのが難しい。

一人百面相をしていると「お連れしました」と、東雲の声が聞こえる。一気に緊張感が増し、なぜか背筋が伸びる。
「失礼致します・・・・・・朔耶様。準備は出来てますか?お着替え前ですか?」
「っ・・・・・・準備は出来てます・・・・・・」
やはり、こんな着物姿では駄目なのか・・・・・そうだよね。私なら並んで歩くのも、それどころか一緒に歩くのも嫌かもしれない。
朔耶の緊張した表情が一変して、物悲しい表情に変わる。けど、朔耶はそれらを悟らせないように慌てて、俯き征一郎に表情を見せないように努めた。

「・・・・・・すみません。気を悪くしないでくださいね。では、行きましょうか・・・・・まるで逢瀬みたいですね?」
「!!逢瀬!何を言っているんですかっっ!!火澄殿!!」
逢瀬など、そんな男女の仲ではけしてない。それを、そんな言葉を使うなんて!!
朔耶は顔を赤くして、征一郎を見あげてしまった。にこやかにしていた征一郎と目が合うと、悪戯が成功したと、意地の悪い顔をしてくる。その様子に益々、慌ててしまい、何故か立ち上がってしまう。

最初はしまったと思った。着物は普段着のままで、これから準備するのかと思い、自然と口に出た。すると、俯き「準備は出来ている」と今にも消えそうな声で告げられて、傷付けたと思った。
朔耶は上等な物はあまり持ってない。持つことを禁止されている。
持つと嫌味を言われ、取り上げられ、目の前でズタズタに壊される。
そうして、母親の遺品は何度、朔耶の目の前で壊され、燃やされたことか・・・・・・
朔耶の事について調べ上げて分かった事は様々だが、この報告を聞いて心が暗くなったのは事実。

だから、朔耶の様子を見て「しまった」と思い、早く「何とかしないと」と、思った時に咄嗟に出た言葉は「逢瀬」の言葉だった。
すると、顔を真っ赤に染め上げた朔耶が、慌てた時に出てしまう「火澄殿」と言う口癖と共にこちらを見上げる。

良かったと、安堵し顔が綻びる。少しだけ潤んだ黒曜石の様な瞳が益々、愛おしくて笑ってしまう。すると、急に立ち上がってしまった為か、バランスを崩し倒れようとしてしまう。
「わっ!!」「っ・・・・・良かった」
素早く動き、倒れる事を未然に防ぐ。征一郎の胸板に倒れ込み事なきことを得た朔耶は益々、混乱してしまう。
事故とは言え殿方の、それもを経験した相手の胸に倒れ込んだのだ。
顔が赤くなり、心臓の動悸が五月蝿いぐらいに激しい。
「大丈夫ですか?怪我はないですか?」
心配してくれているのだろう。私を気遣う言葉を言ってくれる。それと同時に私を抱きしめてくれる。武の貴族として名が通る火澄様は、とても鍛えているのだろう。逞しい体が安心感を与えてくれる。けど、それと同時にあの夜の事を思い出す。
「だ、大丈夫、です・・・・・・離して、下さい・・・・・・・・」
違う!あれは介抱だ!手当てみたいなものだ!違う!断じて違う!・・・・・・・それに、こんな素敵な方が、私の事を気にかけることなどあり得ない。痩せ細って、女性としての魅力が一切ない私なんて・・・・・・・・・
なんで、私はこんな事を思うの?どうして残念がっているの?可笑しい!!

「火澄様?もう、大丈夫ですのでお離し下さい」
頭の中はグチャグチャだが、このままいても埒が明かない。今日は色々と忙しい一日だから。
五月蝿い鼓動を何とか宥めつつ、朔耶はおずおずと征一郎に語りかける。
征一郎も抱きしめていた手をそっと離し、その手を朔耶の手に置き、朔耶の顔が見える様に少しだけ体を離す。
優しい、けど、何かが見え隠れする黒い双眸に見つめられ朔耶は恥ずかしくなりすぐに目を逸らしてしまう。
「・・・・・・良かった。怪我はなさそうですね。急に立ち上がるのは危険ですよ?今後は気をつけてくださいね。では、外に車を待たしているので行きましょうか」

優しく話しているのに、朔耶を逃さないと言わんばかりに肩に置いた手を、そのままエスコートする為に移動する。
朔耶の腰と、白い手袋をした手を握り部屋を出ようと一歩を踏み出す。朔耶もつられて足を出すと二人はそのまま部屋を出ていく。
廊下で待機していた東雲と女性は二人の姿を見て其々、反応する。
東雲は驚き、女性は「良くやった」と誇らしげだ。二人の対極的な表情に朔耶は、なぜか、顔を合わせるのが恥ずかしくなりそっぽ向く。

「では、行ってきますね。東雲さん。大丈夫です。ちゃんと朔耶様に合うものを選んできますから」
上機嫌で心做しか声が楽しそうな征一郎に対し、朔耶はなぜか申し訳ない気持ちになってしまう。
必要なことと言え、私の着るものを一緒に選ぶのに、大事な時間を使わせてしまうこと対してだ。
「・・・・・・さっ、行きましょう」
本来なら屋敷の主である私が、案内する筈なのに、対応する間もなく、まるで屋敷の主は火澄様なのかと思う程、難なく、自然に歩いていく。
「・・・・・・はい」
従うしかない私は、歯痒い気持ちを押し殺し返事をすると一緒に歩いて玄関に向かった。


「車・・・・・・・・」
人力車とも馬車とも違う。人や馬の力を使うことなく、機械が動かす乗り物としか認識してない。
馬車の様な、箱型に四つの車輪は馬車と同じなのに、その前にいるはずの馬がいない。
見たことは勿論ある。響士郎義兄様や時子様が利用しているのを何度か見かけたことはある。壬生雀院家も一台所有はしている。
私は乗ったことはないけど・・・・・・
「途中まではこれで移動して、あとは買い物を楽しみながら、食事でもしましょうか」

運転席には既に男性が乗り込んでいて私達を待っている。
火澄様は後ろの扉を開き、私に手を差し伸べている。乗り込むのは分かるが、この手は何のための手なのだろう?
「・・・・・・本当に私が乗ってもいいのでしょうか?」
今更ながらの質問に火澄様は笑って答えてくれた。
「勿論ですよ。乗り込む時は私の手を掴んで乗ってください。慣れないでしょうから」
━━━━━どうしよう、緊張するな・・・・・・・車を汚してはいけないよね。

朔耶は差し伸べられた征一郎の手の上に自分の手袋に包まれた手のひらを重ねる。そして、草履を脱いで車に乗り込んでいく。
「朔耶様・・・・・・・草履は履いたままでいいんですよ」
「!!いいのですか!汚してしまったら申し訳なくて・・・・・・・」
指摘されてしまったことに恥ずかしくなり、顔が赤くなる。
革張りの座面に座り、俯いて顔が赤いことを隠す朔耶を見て、征一郎は少しだけ笑いながら、朔耶が脱いだ草履を拾い上げ朔耶の足元に置くと、乗り込み扉を閉める。
「出してくれ」
短く告げると、運転手は手袋をした手でハンドルを握りると車は動き出す。

人でも動物でもないモノが動かす車に、僅かばかりに驚き、なぜか不安になって隣にいる征一郎の袖を掴んでしまう。
「大丈夫ですよ」「すみません!」
恥ずかしい・・・・・けど、余りにも理解が追いつかず不安にもなる。
「最初は驚きますよね。私も初めで乗った時は緊張して、固まってましたよ。私の袖でよければいくらでも握りしめてください」
優しい笑顔を向けて、自分の事を話す征一郎に朔耶は驚いた。
「火澄様でも驚いてしまったんですか?」
「はい。私でも驚きますよ・・・・・だから、朔耶様が驚くのは無理もないです。大丈夫、運転手が安全に送り届けますから。安心して下さい」
笑顔を崩さず、声も幾分か優しく語りかける。本当に朔耶を落ち着かせようとしているのが凄く分かる様子に、朔耶は少しずつ肩の力を抜いていく。
「はい。火澄様の運転手ですからきっと安心でしょうね」
いまだに征一郎の袖を掴む手は離れないが、少しだけ表情も柔らかくなりつつある朔耶を見て、征一郎は安堵する。


車は屋敷を離れていき、路地を何度か曲がり、街に続く大通りに向かう。
大通りでは老若男女様々な人が、人力車や馬車が行き交う。数は少ないが車も走る。
そんな、賑やかな通りを通り、途中で車は停車する。

「ここからは歩いて行きます」
止まった事を確認し、征一郎は先に降りて乗る時と同じ様に手を差し伸べる。
朔耶は足元に置かれた草履を履いて、おずおずと手を差し伸べて征一郎の手のひらに乗せる。
ステップに足を置き、慣れない移動で緊張した足を動かす。
征一郎の介助がこんなに助かるとは思わなかった朔耶は、内心、安堵のため息をしていた。
正直、何かに掴まらないと満足に足も動かせない。どれだけ緊張していたのかと呆れてしまう。

征一郎の介助で車を降りた朔耶は辺りをゆっくりと見回す。
街に来ることは基本、殆どない。あまり、来ることもないし、用事もない。街に関する仕事は義姉妹達がこぞって取り合い、こちらに来ることはない。
私が割り当てられるのは難しいか、汚れるか、殺されかけるかの仕事しか来ない。
だから、賑やかな街を見て、自分の姿が惨めに思えて仕方がない。
華やかな場所に合う着物はなく、下働きのような地味な着物しかない。

あぁ、でも、このまま離れて歩いていたら男主人に従う、付き人で見られて、火澄様にはご迷惑をお掛けしないかもしれない。
そうしたらいい・・・・・そうしなければいけないわ・・・・・・・

征一郎が歩き始めると、僅かにずらして朔耶も歩き始める。少しずつ距離を広げ、完全に付き人の距離を確保し、歩いていこうとしたら、征一郎が突然、振り返り朔耶の手を引っ張ってしまう。
倒れる一歩手前で征一郎が腰に手を回し事なきを得た。
「なぜ、離れて歩くのですか?今日は逢引ですよね?なら、こうして、隣同士で歩きましょう?」
「ひ、火澄、殿!!離して下さい。一緒に歩くと貴方まで変な目を向けられる。私はそんな事望んでません」
逢引の言葉に驚き、行動に驚き、心臓がいくつあっても足りない。こんな事はいけない事だ。火澄様に迷惑を掛けてしまう。
「おかしな人だ・・・・・他人の目なんて気にしなければいい。言いたい奴は言わせればいい。何一つ恥ずる事はない。あぁ、そうだ朔耶様お腹空きませんか?」

話題を変えたいのか、突然腹の具合を聞かれて朔耶は話に付いていくことに一杯一杯だった。
「え?お腹?空いてるの?」
「なんで、疑問けいなんですか?それなら、美味くてオススメの所があるので案内します。それから呉服屋に行きましょう!」
「火澄様・・・・・手を離して下さい・・・・・」
朔耶の言葉も、周りの目も気にすることなく征一郎は歩いていく。エスコートされている朔耶は征一郎につられて歩くしかなく、ついていかざるおえない。
賑やかな大通りを歩き、一歩細い路地に入る。すると、蔦に覆われた店が現れる。
木の重そうな扉を征一郎が開き、朔耶を中に入るよう促す。少し、躊躇ったが一歩足を踏み入れる。
落ち着いた店内、一人掛けの椅子に大きなテーブルには綺麗なテーブルクロスが敷かれ、生けられた小さな花がテーブルに一つずつ置いてある。
給仕人が挨拶をして、窓際のテーブルに案内してくれる。
椅子の側まで来ると、征一郎がすっと、椅子の後ろに周り椅子を引く。
「?どうされたのですか?」
「女性が椅子に座る時は、椅子を引いて座りやすくするんですよ。どうぞ、そのままお掛けください」
西洋のマナーはまだまだ疎い朔耶は、征一郎に言われて「そうなのか」と納得してしまう。
言われるがまま引かれた椅子とテーブルの間に入り込むが、動けなくなってしまった。
「朔耶様・・・・・大丈夫ですからそのまま座って?」
「・・・・・はい・・・・・」
言われた通りそのまま座る。すると、タイミングよく椅子をお尻の下に入れられて座る事に事なきを得た。

西洋では、女性はお姫様のような待遇をされてるのかなぁ?・・・・・・

車での介助やエスコート、椅子でのやり取りと、朔耶にとっては初めて体験する事ばかりで、驚きの連発だ。
「どうぞ。メニュー表です。でもここでのオススメはシチュウシチューライスオムレツオムライスがオススメです」
聞き慣れない言葉に戸惑う。シチュウ?ライスオムレツ?食べ物の想像出来ない言葉に躊躇い、朔耶は助けを求めるように征一郎を見てしまった。

「朔耶様は沢山食べたいですか?」
「・・・・・ごめんなさい!私、あまり沢山は食べられないのです・・・・・」
「女性だからそうですよね・・・・・ならシチュウにしましょうか。具沢山の汁物だと思って下さい。ライスオムレツは、卵にご飯とひき肉を混ぜて焼いたものと思って下さればいいのかな?」
一つ一つを分かりやすく教えてもらい、朔耶は納得した。
「えぇ、シチュウでお願いします」
「残してもいいですからね・・・・・・私の体を見てください。大きいでしょう?沢山、食べるんですよ。二人前ぐらい余裕なんですよ」
めくわせウインクをして、悪戯っ子のような少年のような顔に朔耶は笑いそうになった。
「沢山召し上がるから、体も大きくなるのですね」

沢山、食べられることは羨ましい。私も人並み程度に量を食べられたらいいけど・・・・・
食事をする事が怖くてあまり好きではない。食べる行為は人として、本能的な行為で、極当たり前なのに、私はそれが上手く出来ない。

朔耶の羨ましそうな顔に征一郎は少しだけ、ほんの少しだけ眉をしかめる。
朔耶のこれまでの食事事情を知っているから、朔耶が一般人より量を多く食べられないことも知っている。
「朔耶様も沢山食べて体を大きくしましょう」
どの言葉が正解か分からないが、努めて明るく振る舞い、場の雰囲気を壊さない事をする。

征一郎の言葉を聞いて「えぇ・・・・・」と、気の利いた言葉など一つも言えない自分が恥ずかしい。他の人なら頭をフル回転して、言葉を言うのに、火澄様の前だと全てが上手く機能しない。
恥ずかしいや、知られたくないと言った気持ちが生まれ、考える力を阻害される。
火澄様には知られたくない。私の後ろ暗い過去を何一つ知られたくない。時すでに遅しかもしれないが、それでも、知られなくない。
この不思議な気持ちが分からなくて戸惑う。

朔耶が何かに考え込む隙に、征一郎は給仕人を呼び、シチュウとライスオムレツを頼む。
暫く沈黙が続いたが、征一郎がこの前見たというサーカスの事を話すと、朔耶は物珍しそうに話を聞き入る。
食事が提供される時間は、長く感じることは一つもなかった。それも全て征一郎のおかげかもしれない。巧みな話術は響士郎と同等、いや、それ以上かもそれない。少なくとも朔耶はそう感じた。


やがて、目の前に温かそうな湯気といい匂いのする食事が其々に提供される。
「こちらがシチュウですか?お肉が入ってるのですね・・・・・・色も味噌汁より濃いわ・・・・・・」
鳶色なのか煉瓦色なのか、不思議な色に大きく切られた人参やじゃが芋、ゴロッとしたお肉が入った汁物は見ているだけで食欲をそそる。それに嗅いだことのない不思議な匂いだけど、胃を刺激してくる。

匂いを嗅いで感想を述べる朔耶に、笑いながら征一郎は、自分の目の前のライスオムレツを指さす。
「朔耶様?こちらのライスオムレツも少しだけ召し上がりますか?」
征一郎の最初の説明通り、卵の中にご飯やひき肉、野菜が入った卵色の半月形の食べ物が皿に置かれている。
「初めて見ました・・・・・・いいのですか?一口だけでも食べてみたいです」
「どうぞ・・・・そちらのスプーンですくって食べてみてください」
取りやすいように皿を朔耶に近づけて、征一郎は笑う。朔耶も初めて見るものに少し興奮してしまい、子供のように目を輝かせてしまう。
スプーンを手に取り、ライスオムレツを一口すくい口に運ぶ。

卵の甘みやひき肉の味、塩胡椒の塩味やピリリとした辛味が混ざり合い、東雲達の作る食事とはまた違った味わいに不思議な気持ちになる。
「美味しいです・・・・・・今までで食べたことのない味・・・・・・」
「良かった・・・・・そちらのシチュウも食べてみてください」
朔耶が興味もあるが、少しだけ戸惑いながらもスプーンにすくい、ゆっくりと口の中に入れ、咀嚼し、嚥下する。
喉が動く様子を少しだけ緊張しながら見ていたが、朔耶の美味しそうに報告する姿を見て、征一郎は内心ほっとしていた。

食に関する事に対して、朔耶には慎重にならなければならない。過去の出来事を考えれば尚更だ。
そんな朔耶がはにかみながらも「美味しい」と言った。胸を撫で下ろすとはまさにこの事だと、征一郎は思った。
征一郎の言葉に朔耶は、そのまま目の前のシチュウをスプーンですくう。
蔦色の汁だけをすくい、恐る恐る口の中に入れる。
先程よりも深く複雑な味に、頭の中は混乱した。けど、これも「美味しい」と思える程素晴らしく、なぜか飲み込むのが勿体ないと思う程だ。
「!!・・・・・・・凄く美味しいです・・・・・東雲達にも食べさせてあげたい程です」
「良かった・・・・・・さぁ、冷めないうちに食べましょう」
征一郎の笑みにつられて笑ってしまう。これ程楽しい食事は何年ぶりだろう?安心して、楽しくて・・・・・とても懐かしい光景だ。

朔耶は久し振りの楽しい食事を楽しんだが、すぐに腹が膨れてしまい、半分以上を残し限界を迎える。申し訳なさそうに征一郎に腹が膨れた事を伝えると、征一郎は笑いながら「まだまだ、食べ足りなかった」と言い、自分の分と朔耶の食べかけのものを平らげた。
少しずつ皿の中のものが、征一郎の胃に消えていく様子を見て、本当に足りなかったのか?と、最初は疑問に思っていたが、全く苦しむ様子のない様子を見て「本当だった」と思えてくる。

申し訳ない気持ちはすぐになくなった。そんな征一郎の態度に、朔耶は居心地の良さを、少しずつだが感じ始めていた。
最初の出会いとその後は、とても人には言えないが、そこさえなければ、そこさえ考えなければ、確実に少しずつ惹かれつつある。
ぬるま湯に浸かるように、征一郎の優しさが、朔耶の外と内を満たしていく。
いつしか、それが、居心地がいいと思ってしまう。

自分の考えに躊躇いや戸惑いを感じつつも、そこに対して言い訳を考えてしまう。その言い訳も相手を非難する言い訳でなく、惹かれることに対してあまりにも弱い言い訳を考えてしまう。
そんな、自分に更に戸惑ってしまう。不思議な気持ちになる。

自分の気持ちが分からず、だからといって誰かに聞くことを考えつかない朔耶は、自分の不思議な気持ちを、悟られないようにしっかりと蓋をして、征一郎との短く楽しい時間を過ごしていった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

人の三代欲求の食欲・睡眠欲・性欲のうち食欲と睡眠欲が可笑しくなっているのが朔耶様です。
性欲は征一郎が確実に育てていくので安心?です(笑)
車で草履を脱ぐシーンは、蒸気機関車に初めて乗った人たちの様子をそのまんま書いてます。
室内は履き物を脱ぐ日本人が、乗り物に乗るのですから、脱いで乗って、着いたら履き物がない・・・・・
蒸気機関車での忘れ物で多かったのが履き物だったらしいです。
あと、ライスオムレツのシーンですが、今のオムライスの最初の原型です。東京で生まれ、そこから数年後に大阪で今のようにケチャップライスを薄焼き卵で包む形になったそうです。
調べると色々と楽しい歴史です。「へ~そうなんだぁ~」と調べながらまた一つ、変な知識が増えていく私です(笑)

さて、腹ごなしが終わったのでデートの(笑)最大の目的、ドレス調達に向かいます。
一体、どんなドレスを選ぶのか楽しみです。
そして、どんだけ征一郎が暴走するのか(え?するの?)

ここまで読んで下さってありがとうございます
登録等して頂ければ幸いです。
評価がモチベーションアップです。宜しければ応援お願いします。応援で狂喜乱舞しております。
応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます
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