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汚泥に咲く蓮は凛と咲く。けど、脆く、儚い。
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文机の上には細長い紙が束であり、その一つ一つに丁寧に文字なのか記号なのか摩訶不思議なものを書いていく。
サラサラと紙を滑る音が静かな部屋に響く。
真っ白な着物に、同じく白い手袋で全身を真っ白な姿にし、背にした障子からは日差しが優しく照らす。
見る者が見たら、朔耶を神々しく見てしまうかもしれない。それ程、この部屋には美しい光景がある。
今朝は早くから煌が出かけていった。
月に一度、煌は稲荷神社に行き身を清める。九尾の狐の煌は気まぐれで私の式神をしてくれている。本来なら神社や浄められた場所にいるべき存在なのに、私の式神をしているせいで穢れが蓄積させる。私も出来る限り煌の穢れを取り払うが、どうしても祓いきれない部分もある。
そこで、月に一度、日にちと方角を占い、告げられた所にいき身を清める。
今日がその日だった。
「行ってくるわ~朔耶!いいな!戸締まりをしっかりとしとけよ!寝る前に便所行けよ!八重さんの言うことはしっかりと聞けよ!東雲は適当にあしらえ!」
まるで母親の様に細かく言う煌に、朔耶は苦笑いをするしかなかった。
心配してくれているのは重々承知しているが、毎回、毎回同じ事の繰り返しである。それは、東雲とのやり取りも同じ。
「五月蝿い、襟巻男!あんたなんかいなくても朔耶様は何ともないわ!早く行ってみんなのお稲荷さん買って来なさいよ!」
青筋立てた東雲に、ゲラゲラと笑いながら朔耶の頭をポンポンと叩き煌は、深緋色の着物を翻し、白い首巻きをひらひらとさせながら玄関を出ていく。手を朔耶達に振って煌は神社に向かっていった。
「全く・・・・・・誰に向かって言ってんだか・・・・・・朔耶様もそう、思いますでしょう?」
はぁ~と、深いため息をしながらぼやく東雲に苦笑いし、朔耶は自分の部屋に向かう。
「煌も色々と心配しているのだから、あまり邪険にしないであげて?煌が留守の間は、女ばかりの屋敷になるから心配なのよ」
代弁するつもりはないが、煌の不安も分かるし、東雲の言いたいことも分かる。
「全く、心配性なんだから・・・・」
普段は顔を合わせれば言い合いばかりの二人も、なんだかんだで互いを尊重しているようにも見えて、朔耶は苦笑いしつつも穏やかな気持ちになった。
「私も今日は霊符を書くのにいい日だから、部屋に籠りますね」
霊符を準備するには良い吉日と出ていたので、今日は集中して取り掛かろうと思う。
「心得ました。歌弥達にもそう、伝えておきます。何か入り用があれば何なりとお申し付け下さいませ」
朔耶と並んで歩いていたが、朔耶の部屋に着くと頭を下げて、東雲は朔耶を見送る。そのまま朔耶は襖を開き「分かった」と短い挨拶をして部屋に入っていく。
そこから着替え、準備し今に至る。
集中して書いているせいか時間の経過を忘れてしまう。今は何時ごろだろう?
ふっと、朔耶は時間を気にして一旦、集中するのをやめる。
壁に掛けられた時計を見て、昼も過ぎた頃だと数字を見ながら思った時、東雲や歌弥達の切羽詰まったような、悲鳴のような声が微かに聞こえる。
その後、複数の足音が聞こえる。相手は履き物を履いたままなのか、裸足の足音よりも大きくてすぐに分かる。
その足音達は朔耶の部屋で止まり、作法など関係なく、遠慮知らずの無作法で襖が開かれる。
バ━━ンッ!!と大きな音を立てる。
「!!・・・・・・・た、かこ様?」
書いていた霊符を握り、いつでも対応出来るようにしていたが、相手の姿を見た途端、霊符は朔耶の手からスルリと滑り落ちた。
開かれた襖の奥に立っていたのは、あばた顔に意地の悪い顔をし、睨むようにこちらを見る孝子が立っていた。
縮緬の赤地に、金銀や彩り豊かな刺繍糸で熨斗や光琳波が刺繍され、西陣織の絢爛豪華な帯と出で立ちは華やかなのに、表情だけが険しい。
いつものお付きの人に加え、男衆が二人ほどいる。全員、履き物を履いたまま屋敷に上がり、朔耶を見下ろしている。
「あらぁ~~朔耶様?今日は男漁りはしないのですかぁ~~?」
妙に甲高い声色は、人を馬鹿にするような声で話してくる。わざと強調された「朔耶様」は聞いていて鳥肌が立つ。
「ご機嫌よう孝子様・・・・・・・今日は霊符を書くのに吉日ですから、霊符を書くことにしてます」
一度もしたことのないのに、「今日は」と言ってくるあたりが腹立たしい。けど、ここで意見を言ったらいけないことも重々承知している。
だから、そこには触れず今、自分がしている事を説明する。
文机から離れ、仁王立ちする孝子の前まで来ると、きちんと正座し頭を畳に擦り付けるように頭を下げて話す。
目を見るのも、姿を見るのも見せるのもしてはいけない。そんな事をしてらすぐに平手が飛んでくる。
「えぇ~~!!そうなの?この前、何処かの殿方と楽しそうにお喋りしてたじゃないの!カフェーから出ていく所を見たのよ!相手は腰に手を回していたし、お前も満更でもない顔をしていたじゃない!あぁぁ~~イヤらしい!不潔だわ~~!こんなのが壬生雀院の当主だなんて・・・・・御兄様が可哀想だわ!」
火澄様とドレスを選び、カフェーに行った帰りを見られていたのかとすぐに分かる。
呉服屋を出て安堵したせいか、周りの注意を怠った自分を反省した。
壬生雀院の人間に関しては注意しないといけない。特に一番危惧するのが孝子様だ。
響士郎義兄様の妹で、時子様の娘。自分の姿を嫌い、異母兄弟達と何かと衝突する。特に私のことを嫌い、何かと難癖付けたり、時には・・・・・
「ねぇ、「清貧」って言葉知ってる?学のない朔耶様に教えてあげるわ~~」
ズカズカと泥のついた草履を遠慮なく畳を踏みつけ歩く。朔耶の近くまで来ると、手袋をしていた手をそのまま踏みつける。
「っぅ・・・・・・・・」
痛くて、声をだしたいのを必死に堪える。ここで「痛い」と言えば余計に酷い折檻が待っている。
「貧しいのは清くて素晴らしって意味よ~~ねぇ、当主様は「清くて素晴らし」のかしら?」
「ありがとうございます。「清貧」の意味を教えて頂き・・・・・」
グリグリと踏みつけられる手が痛い・・・・
白い手袋は泥のせいで黒く汚れていく。まるで私の心を表しているようだ。
「け~どぉ~「清貧」には程遠いわよね~・・・・・お前達!!朔耶様は清貧になってもらいましょう。貧しいは清いのよ!!贅沢な着物は要らないわ!!」「あぅ!!」
力一杯、手を踏まれたせいで痛みに耐える声が出でしまう。骨が軋むし、肉が潰されるようで感覚が麻痺してしまう。
朔耶が手の痛みで悲鳴をあげたと同時に、二人の男衆が朔耶の側に来て、頭や肩を押さえて逃げ出さないようにする。
その間に三人の付き人が朔耶の部屋に入り、押し入れを開けたり、文机の中や箪笥の中を次々に開けては、中身を取り出し辺りにぶちまける。
「孝子様!!どうかお許しください!!」
悲鳴に近い声を出し、東雲や歌弥は廊下から土下座して許しを請う。
「五月蝿い!!式神風情が私に指図するな!!お前達、朔耶様を外に出して差し上げて?こんな所にいたら息が詰まるでしょう?」
高笑いしながら男衆に指図する。すると男衆は突然朔耶の腕をそれぞれ掴み上げると、引きずるようにして廊下を出ていく。
「朔耶様!!」「東雲・・・・・大丈夫、だから・・・・・なにも、するな・・・・・」
東雲達は私を大切に思うから、私に危害が及ぶと我先にと私を助けようとする。
妖、相手なら何も言わない。けど、相手は人間。人間に危害を与えたとなれば、いかなる理由があろうと罰せられるのは東雲達だ。
私の目の前で東雲達が傷付くのは見たくない。
東雲達が消えていなくなるのは嫌だ。なら、私が我慢すればいいだけだ。
男とか女とか関係なしに、男衆は引きずっていく。腕は痛みで悲鳴をあげる。
やがて、外に出られる所までくると、私を突き飛ばして外に出す。
「う゛ぅぅ・・・・・・」
庭に倒れた私は土で汚れる。白い着物も手袋も土で汚れてしまう。
その間も東雲や歌弥の悲痛な声で「お許しください」や「おやめになってください」と声が聞こえる。けど、「五月蝿い」や、酷く楽しそうな笑い声が聞こえてくるばかりだ。
その間も私は二人の元に行かないように、男衆が肩を掴み、地面に倒れたままだった。
やがて「ありました!!」「それだけはお許しください!!」と叫び声が聞こえてくる。
ドカドカと足音が近づいてくる。
「離してあげて~」
孝子の馬鹿にしたような声が聞こえてくると、朔耶の動きを止めていた腕が離れていく。
「ねぇ!!」「あ゛・・・・・・」
突然、朔耶の頭上の髪の毛を引っ張り上げて、顔を無理矢理上げさせる。
「朔耶様?清貧に相応しくないものがあったわ!!アンタにはこんなもの分不相応よ!男に貢いでもらうなんて恥知らず!!こんな物オマエが着るなんて烏滸がましい!!」
痛みで顔が歪む。目を閉じてしまったが、何とか片目だけでも無理矢理開ける。微かにだが見えるのは若緑色の何かが見えた。
「そ、れは・・・・・・」
若緑色のものは大事に押し入れの奥にしまった物だ。
見つからないように、けど、嬉しくて時々、畳紙から出しては広げて眺めていた。
征一郎に与えられた着物で、朔耶が唯一持っている明るい着物だ。
「や、めて、下さい・・・・・」
朔耶が許しを請う。それだけは辞めてほしい。孝子様は私からまた奪うのですか?
朔耶の消えそうな声を聞いて、孝子は髪を引っ張る手を離す。
そのまま軽く後ろに下がると、男衆に目配せする。その合図で男衆は朔耶を座らし、動かないように再び肩を押さえつける。
孝子は朔耶の着物を掴み前に差し出す。そして手を離し、バサッと着物が地面に落ちていくった。
「あ・・・・・・・・」
絶望した声と眼差しが朔耶から生まれる。眉を寄せ、悲痛な顔で落ちていく着物を見つめる。
落ちた着物に、孝子は朔耶の手と同じ様に踏みつけグリグリと踏みにじる。
「孝子様ぁ~~もっと素敵にしましょう~」
若い付き人が、朔耶が霊符を書くのに使用していた、硯や筆を持ってくる。
すると、「あら、素敵な物があったのねぇ~」と笑い硯を受け取る。
そのまましゃがみ込み朔耶と目線を合わせる。
「た、かこ様・・・・・お願いです・・・・後生ですから・・・・・孝子様っ!!」
「はっ!!五月蝿い!!」
ニヤニヤと笑い、孝子は硯の中を着物の上にぶちまける。
若緑色の土で薄汚れた着物は更に、硯の中で真っ黒になった墨をまとい無残な姿になる。
「やめて・・・・・・」
朔耶の瞳から透明なものが次々に溢れては、土で汚れた頬を伝う。
「あ~らぁ~?泣いてるの~?いけないわ~」
孝子は墨で汚れた着物を掴み、朔耶の涙で濡れた頬を乱暴に拭いていく。墨で朔耶の顔はすぐに汚れていく。
「無様ぁ~アンタがいけないのよ!こんな物!こんな物!」
襟や袖を掴み引き裂いていく。ビリビリと絹を裂く音が外に響く。
「やめて!!やめてぇ!!」
「私に指図するな!!」
パーンッ!!と子気味のいい音する。それは孝子か朔耶の頬を叩いた音だった。更に、パーンッ!パーンッ!と数回、左右の頬を叩かれる。
朔耶の口の端から血が流れてくる。どうやら頬の内側を噛んでしまったらしい。
「五月蝿いっ!五月蝿いっ!五月蝿いっっ!!なんでアンタが当主なのよ!!目障り!死ね!消えろ!お前が死ねば、いなくなれば兄様が当主なのに!!お前がこんな物持つなんて百年早いのよ!アンタはボロがお似合いなのよ!!こんな物!こんな物!!」
激昂した孝子は、地面に落ちた見るも無残な着物を踏みつけていく。
「アンタなんかいなくなれば!!いなければいいのよ!!今すぐ消えろ!」
「お、ゆるし、下さい・・・・・お許しく、ださい・・・・・」
土下座し、額を土に擦り付ける。その姿が余計、気に入らないのか孝子は朔耶の背中を、着物と同じ様に踏みつける。
「五月蝿い!オマエは綺麗なものを身につけるなんて駄目なの!ボロを纏え!惨めな姿がお似合いなの!!まだ、分からないの?どんだけお前の母親の物をボロボロにされたら分かるの?あぁ、それともそこの式神達をボロボロに引き裂いて、消えさせたほうが分かるの?」
だん!だん!と背中を踏みつけられて痛いのに、それ以上に痛いのは心だ。散々、母親の形見だった着物や小物、装身具、三味線などを目の前で引き裂かれ、叩きつけられ、燃やされ。
火澄様から頂いた着物も、見るも無惨な姿に変えさせられ、それどころか私の大事な家族の、東雲達にも危害を加えようとする。
これ以上、私から物を人を家族を奪わないで欲しい・・・・・
けど、名ばかりの当主で権限も権力も何もない。こんな暴挙、許されることはないのに、けど、私は諌めることも、やめさせることも出来ない。
ただ、出来るのは、こうして自分の身を差し出して、相手の気が済むまで、叩かれ、踏みつけられるしかない。気が狂うまで、許しの言葉を言い続ける他ない。
「お許しください・・・・・お許しください。お許しください・・・・・・」
遠くで東雲や歌弥が、同じ様に許しを請うのが聞こえる。
そんな、私達の惨めな姿を嘲笑う孝子様や、お付きの女達、ニヤニヤと下卑た笑い声を出す男衆。
地獄は死んでから、自分の生前の行いで決まると聞くが、今がまさに地獄だ。なら、私は一体、何をして地獄にいるのだろう?生前どころ、私は生きている。なら、生まれ変わる前が鬼にも等しい悪行をしていたのだろうか?
一体、この地獄はいつまで続くのだろうか?もう、疲れた・・・・・・
痛みで途切れ、途切れになりながらも許しを請う言葉を言い続ける朔耶や東雲達。その姿を嘲笑う孝子達。屋敷の庭はそんな惨憺たる状況を作り出す。
朔耶を踏みつける孝子は、今にも昇天しそうなほどの恍惚とした顔をしていた。
その顔をしたまま、気の済むまで朔耶を踏みつけ、罵詈雑言を言い続けた。
そして、やっと気が済んだのか、孝子達は東雲や朔耶達を笑いながら解放したのは、孝子達が来てから二刻ほど過ぎた頃だった。
「若ぁ~予定よりかなり過ぎてますよ~」
「仕方ねぇ~よ千歳。久し振りに朔耶様に会えるんだから、そりゃ~、めかしこんで格好良い姿を見せたいもんなぁ~」
大きな化粧箱を抱えた万次郎は、ニヤニヤしながら前を歩く征一郎を見る。
「黙れ」
ぶっきらぼうに言う征一郎の顔が、微かに緩んでいることを二人は知っている。
車では朔耶の屋敷の近くには行けないので、途中で車を降りて、入り組んだ細い道を歩きながら、三人は目的の朔耶の屋敷を目指す。
すると、向こうから歩いてくる数人の人物を見て、先頭を歩いていた千歳は突然歩みを止める。
「?どうしたら、千歳?」
「しっ!!若、その小道に隠れて!!悟られないように自然に!!」
ただならぬ雰囲気に一気に緊張が走る。千歳に言われた通り千歳に続き、征一郎は自然な流れで小道に曲がる。その後を万次郎が続く。
すると、三人は姿を隠すように物陰に隠れる。
目の前を歩いていた三人を気にすることもなく、男女達は嘲笑しながら歩いていく。
「あ~~面白かった!「お許しください!お許しください」だって~~本当、惨めぇ~~」
「本当で御座いますよ、孝子様。いい気味ですよ。あの女もこれに懲りて当主を明け渡せばいいのに」
「本当よ!!御兄様が可哀想だわ!」
「孝子様は響士郎様思いですね~幸せ者ですよ!」
「ほっほほほ・・・・・そうよ、私は、御兄様思いなのよ・・・・・・」
相手を持ち上げる者と、それに気付かない者の構造は滑稽だ。だが、征一郎達は違うことに気を取られる。会話の内容はどれも聞いた事のある者の名前が羅列する。
三人は目を合わせ頷く。男女達が通り過ぎ、十分な距離を確保すると、三人は走り出す。
「優先は朔耶様だ。先に見つけるように」
「「御意!!」」
征一郎の指示に二人は頷く。普段は征一郎に対して意地の悪い事を言ったりするが、危機的状況になると征一郎を頂点とする、指示形態のしっかりと取れた集団に変わる。
走り出だし、大きな門が見えてくる。開きっぱなしの門は、見るものが見ればだらしなく見えるが、先程の男女の会話を聞いていた征一郎達は焦りを覚える。
大門を抜け、そのまま屋敷の玄関まで突き進む。そこも開きっぱなしになっており、増々、不安になる。
「御免っ!!」
本来なら靴を脱ぐが、非常事態で許して欲しくて詫びの言葉を自然と言っていた。
そのまま三人は履物をはいたまま玄関から部屋に向かう。
廊下は足跡が複数あり、履物を履いたまま部屋に入っていったのがすぐに分かる。
遠くからは女の泣き声が聞こえてくる。征一郎は焦る気持ちを押し殺し、周りをよく見る。
そのまま走り、やがて襖が開けられた部屋にたどり着く。
「朔耶様っっ!!」「だれ!!」
部屋は泥棒が来たのかと思う程、荒れ果てていた。
箪笥や文机の全ての引き出しは開かれ、中身は出されたのか畳の上に散らばっていた。
押し入れの中に仕舞っていた布団も出され、グチャグチャなっている。
何かの模様か文字が書かれた札が散らばり、部屋は物と足跡で散らかり、無惨な様子だった。
そんな部屋でへたり込み泣いていたのは歌弥一人だった。
「・・・・・・ひ、ずみ様・・・・・さ、くやさまは、朔耶様は悪くないんです!!朔耶様を叱らないで!!」
「一体、何が・・・・・・叱らないで?朔耶様は何処に・・・・・・」
聞きたいことは多岐にわたりあるが、そんなことより今は、朔耶の無事をこの目で確かめたい。
征一郎の鬼気迫る様子に歌弥は泣きながら、廊下の向こう側を指さす。
「万次郎、ここは任せた!」
征一郎の指示に万次郎は頷く。そのまま千歳と二人で更に廊下を走る。
外庭に出られる所が開かれており、二人は急いで外を見る。
鴇色の着物を着た女性が、着物が汚れるのも構わず庭に座り、誰かを抱き締めていた。
その周りには、見覚えのある色の布が散らばっていた。土で汚れ、何かの形をしていた物は、ただの布切れにかわり果てていた。
その、薄汚れた若緑色の物を抱き締めている人物は薄汚れている。
元は、白い着物だっただろうが土で汚れている。
「っ・・・・・・朔耶っ!!」
いつもなら「朔耶様」と敬称を付けるのに、この時ばかりはそれさえも抜け落ちていた。
いかなる時でも、彼女は汚泥に咲く蓮の花のように、凛と佇まい、見るものを虜にする。
けど、そんな彼女は今はどこにもいない。
薄汚れ、顔は泥と墨と涙で汚れ、口の端からは血が滲む。
生気の抜けた瞳は濁り、生きているのか不安になる程、気力が全く感じられない。
感情の一切が抜け落ちた瞳からは、溢れるように涙が溢れる。
そんな、朔耶を抱き締めて、東雲も同じ様に涙を流していた。
けど、征一郎の「朔耶」に気付き、屋敷の方を見る。
「火澄様・・・・・朔耶様は悪くないのです!!朔耶様は何もしておりません!!朔耶様は、朔耶様は・・・・・・・」
朔耶を庇うように背中に隠し、征一郎を真正面から見る東雲は、焦りと不安で顔が強張っていた。
「・・・・・・分かっています。朔耶様・・・・・大丈夫ですか?」
外庭に出て、征一郎はゆっくりと二人の元に歩き出す。
東雲の後ろに隠された朔耶が、ゆっくりと東雲越しに征一郎を見つめる。
すると、感情の一切が抜け落ちた瞳が感情を取り戻す。悔恨の情、自責の念、悔悟の情、罪悪感・・・・・・自分の非や悪事、罪を後悔し責めているような瞳だ。何一つ悪い事などしてないのに・・・・・・
自分の表情が今、どんな表情なのか分からない。朔耶には一体、どんな表情で見られていると思うのか・・・・・不安を与えてないか?怖がってないか?
あぁ、今ここに鏡が欲しいと思うのは何故だろう。
征一郎こそ感情の一切をなくした顔で朔耶達にゆっくり近づく。征一郎のただならぬ様子に、朔耶を隠すようにしていた東雲は広げた手をゆっくりと下ろし、朔耶から少しだけ離れていく。征一郎が少しでも朔耶と触れ合えるように。
「・・・・・・・・」
朔耶達の側に来ると、仕立ての良い背広が土に汚れる事さえ厭わない様子で、膝をつき、土や炭で汚れた朔耶を優しく抱きしめた。
誰かの温もりが包み込んでくれたおかげで、自分の感情が戻ってくる感覚を覚えた。
孝子様が来てから目の前で着物を裂かれ、平手、足蹴、罵詈雑言・・・・・
痛い、辛い、聞きたくもない・・・・・・けど、全てを受け入れるしかない、受け入れないと終わらない・・・・・・
早く、過ぎ去ってほしくて感情の一切を押し殺す。今まで受けてきた虐待の中で生まれた、自己防衛の一種だと分かってもいる。
悲しかった・・・・・・袖を通したときはドキドキが止まらなかった。汚したらどうしたらどうしょう?私に似合うの?こんな素敵な物、本当に私が着てもいいの?なのに、火澄様は笑って「似合う」とおっしゃって下さった。凄く嬉しくて、子供の頃に戻った感覚だった。
子供の時も色鮮やかな着物を着て、母親の三味線の音色にあわせて、下手くそな舞をしていた。
だけど、たしなめることもなく、それを受け入れて「上手だね」と褒めて、優しく見守ってくれた。二人の優しい眼差しが懐かしい。
けど、その優しい眼差しはいつの頃か、徐々になくなっていった。一人、また、一人なくなり、その代わり、刺さるような鋭い眼差しが一人、また一人と増えてくる。
気付けば周りには私を優しく見守る瞳は、誰一人となく、邪険にするものばかり。
その中で、再び私を優しく見守る瞳に出会えた。なのに、その眼差しは感情の一切がない。
私は、また、なくした。やはり、私は生きてるだけで誰かを不幸にするのだろ。誰に許しを請えばいいのだろうか?
「朔耶様?もう、大丈夫ですよ?」
優しいその人は、私を優しく抱き締めて、優しい言葉で私を包み込む。
その時、私の目の端にある色が映った。薄汚れた若緑色のモノ。その色は目にも鮮やかで、私の心を華やかに彩ってくれた色。
そして、その色の着物を贈って下さった方は今、私を抱き締めてくれている方・・・・・・
あぁ、許しを請わなくてはいけない。折角、贈ってくれたのに、私は大事にする事が出来なかった。
「・・・・・・・あ、あぁ・・・・・お、許し、下さい、お許しください・・・・・ごめん、なさい、ごめんなさい・・・・・・」
許しの言葉は沢山あるのに、脳裏に浮かんだ言葉は少ない。その少ない言葉を言い続ける事で相手に分かってもらうしかない。
征一郎が抱き締めていた朔耶は、突然、体を震わせ、息の仕方が可笑しくなっていく。狂ったように「お許しください」、「ごめんなさい」を繰り返す。歯の根が合わずガタガタと震わせ、痙攣にも等しい状態だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・お着物、お着物を駄目にしてしまいました・・・・・ごめんなさい、私のせいなんです。ごめんなさい・・・・・・・」
袖の部分を強く抱き締めていた朔耶は、更に袖を抱き締めて丸くなる。
「違う!朔耶のせいではない。断じて違う。朔耶が責任を負うことはない。責めるのは、それを贈った私だ。貴女は何一つ責任を感じることはない!」
「ごめんなさい、私のせいなんです。私が着なければよかったの・・・・・・私がいなければよかったの、私のせいなの、ごめんなさい・・・・・・」
自分を否定していく朔耶に、征一郎は埒が明かないと感じた。ここまで自分に対して罪悪感を持つなど、幼い頃から今日まで、言われ続けなければこんなにもならないだろう。
その理由も経緯も調べたから分かる。
胸糞悪くて、反吐が出る。出来ることなら朔耶をここまで追い詰めた奴らを一人、一人血祭りにしてやりたいと思う程だ。
けど、それは、今ではない。今、優先すべき事は朔耶を落ち着かせる事。もし、怪我をしているなら手当てする事。
だが、この状況では何一つ出来ないだろう。強硬手段だが仕方ない。緊急事態で人命救助だ。
征一郎は優しく朔耶の頭から項にかけて優しく撫でていく。傍目から見ると、あやしているようにも見える。数回、繰り返すと朔耶の弱々しく繰り返す言葉が、段々とゆっくりと小さくなり、そしてなくなる。
変に力のこもった体は弛緩し、征一郎の胸に体の全てを預けた。
涙が溢れる、罪悪感で染まった瞳は段々と瞼を下ろし完全になくなる。
征一郎は撫でながら、意識を失うようにさせた。無理矢理ではあるが、今はこうするしかない。
弱々しい寝息をさせて朔耶は眠りについた。今、この時だけでも、煩わしい全ての事から遠ざけたかった。出来るのなら煩わしい全てのことが、夢の中だけはないように。寝ているこの時だけは穏やかでいて欲しい・・・・・・
眠る朔耶の顔を見て征一郎は眉を顰める。
汚れていても、傷ついていても、その顔は美しい。けど、誰がこんな風にした?
分かっている。誰がしたのかも。己がした行いは必ず己に返ってくる事を知らしめてやろう。
呪術的に言うには呪詛返しと言ったかな?違ったか?
たしか、倍に返って来るとか?なら、倍に返してやるよ・・・・・・・
墨で汚れた頬をそっと手を沿わせ、征一郎は眠った朔耶を見つめた。
その瞳には暗い、今にも誰かを呪いそうな程、憤りが渦巻いて。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お天道様は見てますよ~~
悪い事をすると、自分に返っきますよ~
なので、皆さん!清く、正しく、美しくです!!
孝子様はやっぱり悪役令嬢です。それも愚か者の悪役令嬢。救いようのない方の。
そして、その取り巻き達も同じく救いようのない。
朔耶様は大人しく受け入れて、反抗しないようにする事で、早く終わることを知ってます。そして、大事な東雲達が傷付かないようにする為には、手出し無用と厳命してます。
この地獄、いつか終わりはあるのでしょうかね?
そして、ヤバみーーな征一郎。マジで血祭りしそうな勢いです。
さて、この状況をどうしていくのか?そして、ドレスは無事に渡せるのか?謎です。私も謎です(笑)
ここまで読んで下さってありがとうございます
評価・ブックマーク登録等して頂ければ幸いです。
評価がモチベーションアップです。宜しければ応援お願いします。応援で狂喜乱舞しております。
応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます
サラサラと紙を滑る音が静かな部屋に響く。
真っ白な着物に、同じく白い手袋で全身を真っ白な姿にし、背にした障子からは日差しが優しく照らす。
見る者が見たら、朔耶を神々しく見てしまうかもしれない。それ程、この部屋には美しい光景がある。
今朝は早くから煌が出かけていった。
月に一度、煌は稲荷神社に行き身を清める。九尾の狐の煌は気まぐれで私の式神をしてくれている。本来なら神社や浄められた場所にいるべき存在なのに、私の式神をしているせいで穢れが蓄積させる。私も出来る限り煌の穢れを取り払うが、どうしても祓いきれない部分もある。
そこで、月に一度、日にちと方角を占い、告げられた所にいき身を清める。
今日がその日だった。
「行ってくるわ~朔耶!いいな!戸締まりをしっかりとしとけよ!寝る前に便所行けよ!八重さんの言うことはしっかりと聞けよ!東雲は適当にあしらえ!」
まるで母親の様に細かく言う煌に、朔耶は苦笑いをするしかなかった。
心配してくれているのは重々承知しているが、毎回、毎回同じ事の繰り返しである。それは、東雲とのやり取りも同じ。
「五月蝿い、襟巻男!あんたなんかいなくても朔耶様は何ともないわ!早く行ってみんなのお稲荷さん買って来なさいよ!」
青筋立てた東雲に、ゲラゲラと笑いながら朔耶の頭をポンポンと叩き煌は、深緋色の着物を翻し、白い首巻きをひらひらとさせながら玄関を出ていく。手を朔耶達に振って煌は神社に向かっていった。
「全く・・・・・・誰に向かって言ってんだか・・・・・・朔耶様もそう、思いますでしょう?」
はぁ~と、深いため息をしながらぼやく東雲に苦笑いし、朔耶は自分の部屋に向かう。
「煌も色々と心配しているのだから、あまり邪険にしないであげて?煌が留守の間は、女ばかりの屋敷になるから心配なのよ」
代弁するつもりはないが、煌の不安も分かるし、東雲の言いたいことも分かる。
「全く、心配性なんだから・・・・」
普段は顔を合わせれば言い合いばかりの二人も、なんだかんだで互いを尊重しているようにも見えて、朔耶は苦笑いしつつも穏やかな気持ちになった。
「私も今日は霊符を書くのにいい日だから、部屋に籠りますね」
霊符を準備するには良い吉日と出ていたので、今日は集中して取り掛かろうと思う。
「心得ました。歌弥達にもそう、伝えておきます。何か入り用があれば何なりとお申し付け下さいませ」
朔耶と並んで歩いていたが、朔耶の部屋に着くと頭を下げて、東雲は朔耶を見送る。そのまま朔耶は襖を開き「分かった」と短い挨拶をして部屋に入っていく。
そこから着替え、準備し今に至る。
集中して書いているせいか時間の経過を忘れてしまう。今は何時ごろだろう?
ふっと、朔耶は時間を気にして一旦、集中するのをやめる。
壁に掛けられた時計を見て、昼も過ぎた頃だと数字を見ながら思った時、東雲や歌弥達の切羽詰まったような、悲鳴のような声が微かに聞こえる。
その後、複数の足音が聞こえる。相手は履き物を履いたままなのか、裸足の足音よりも大きくてすぐに分かる。
その足音達は朔耶の部屋で止まり、作法など関係なく、遠慮知らずの無作法で襖が開かれる。
バ━━ンッ!!と大きな音を立てる。
「!!・・・・・・・た、かこ様?」
書いていた霊符を握り、いつでも対応出来るようにしていたが、相手の姿を見た途端、霊符は朔耶の手からスルリと滑り落ちた。
開かれた襖の奥に立っていたのは、あばた顔に意地の悪い顔をし、睨むようにこちらを見る孝子が立っていた。
縮緬の赤地に、金銀や彩り豊かな刺繍糸で熨斗や光琳波が刺繍され、西陣織の絢爛豪華な帯と出で立ちは華やかなのに、表情だけが険しい。
いつものお付きの人に加え、男衆が二人ほどいる。全員、履き物を履いたまま屋敷に上がり、朔耶を見下ろしている。
「あらぁ~~朔耶様?今日は男漁りはしないのですかぁ~~?」
妙に甲高い声色は、人を馬鹿にするような声で話してくる。わざと強調された「朔耶様」は聞いていて鳥肌が立つ。
「ご機嫌よう孝子様・・・・・・・今日は霊符を書くのに吉日ですから、霊符を書くことにしてます」
一度もしたことのないのに、「今日は」と言ってくるあたりが腹立たしい。けど、ここで意見を言ったらいけないことも重々承知している。
だから、そこには触れず今、自分がしている事を説明する。
文机から離れ、仁王立ちする孝子の前まで来ると、きちんと正座し頭を畳に擦り付けるように頭を下げて話す。
目を見るのも、姿を見るのも見せるのもしてはいけない。そんな事をしてらすぐに平手が飛んでくる。
「えぇ~~!!そうなの?この前、何処かの殿方と楽しそうにお喋りしてたじゃないの!カフェーから出ていく所を見たのよ!相手は腰に手を回していたし、お前も満更でもない顔をしていたじゃない!あぁぁ~~イヤらしい!不潔だわ~~!こんなのが壬生雀院の当主だなんて・・・・・御兄様が可哀想だわ!」
火澄様とドレスを選び、カフェーに行った帰りを見られていたのかとすぐに分かる。
呉服屋を出て安堵したせいか、周りの注意を怠った自分を反省した。
壬生雀院の人間に関しては注意しないといけない。特に一番危惧するのが孝子様だ。
響士郎義兄様の妹で、時子様の娘。自分の姿を嫌い、異母兄弟達と何かと衝突する。特に私のことを嫌い、何かと難癖付けたり、時には・・・・・
「ねぇ、「清貧」って言葉知ってる?学のない朔耶様に教えてあげるわ~~」
ズカズカと泥のついた草履を遠慮なく畳を踏みつけ歩く。朔耶の近くまで来ると、手袋をしていた手をそのまま踏みつける。
「っぅ・・・・・・・・」
痛くて、声をだしたいのを必死に堪える。ここで「痛い」と言えば余計に酷い折檻が待っている。
「貧しいのは清くて素晴らしって意味よ~~ねぇ、当主様は「清くて素晴らし」のかしら?」
「ありがとうございます。「清貧」の意味を教えて頂き・・・・・」
グリグリと踏みつけられる手が痛い・・・・
白い手袋は泥のせいで黒く汚れていく。まるで私の心を表しているようだ。
「け~どぉ~「清貧」には程遠いわよね~・・・・・お前達!!朔耶様は清貧になってもらいましょう。貧しいは清いのよ!!贅沢な着物は要らないわ!!」「あぅ!!」
力一杯、手を踏まれたせいで痛みに耐える声が出でしまう。骨が軋むし、肉が潰されるようで感覚が麻痺してしまう。
朔耶が手の痛みで悲鳴をあげたと同時に、二人の男衆が朔耶の側に来て、頭や肩を押さえて逃げ出さないようにする。
その間に三人の付き人が朔耶の部屋に入り、押し入れを開けたり、文机の中や箪笥の中を次々に開けては、中身を取り出し辺りにぶちまける。
「孝子様!!どうかお許しください!!」
悲鳴に近い声を出し、東雲や歌弥は廊下から土下座して許しを請う。
「五月蝿い!!式神風情が私に指図するな!!お前達、朔耶様を外に出して差し上げて?こんな所にいたら息が詰まるでしょう?」
高笑いしながら男衆に指図する。すると男衆は突然朔耶の腕をそれぞれ掴み上げると、引きずるようにして廊下を出ていく。
「朔耶様!!」「東雲・・・・・大丈夫、だから・・・・・なにも、するな・・・・・」
東雲達は私を大切に思うから、私に危害が及ぶと我先にと私を助けようとする。
妖、相手なら何も言わない。けど、相手は人間。人間に危害を与えたとなれば、いかなる理由があろうと罰せられるのは東雲達だ。
私の目の前で東雲達が傷付くのは見たくない。
東雲達が消えていなくなるのは嫌だ。なら、私が我慢すればいいだけだ。
男とか女とか関係なしに、男衆は引きずっていく。腕は痛みで悲鳴をあげる。
やがて、外に出られる所までくると、私を突き飛ばして外に出す。
「う゛ぅぅ・・・・・・」
庭に倒れた私は土で汚れる。白い着物も手袋も土で汚れてしまう。
その間も東雲や歌弥の悲痛な声で「お許しください」や「おやめになってください」と声が聞こえる。けど、「五月蝿い」や、酷く楽しそうな笑い声が聞こえてくるばかりだ。
その間も私は二人の元に行かないように、男衆が肩を掴み、地面に倒れたままだった。
やがて「ありました!!」「それだけはお許しください!!」と叫び声が聞こえてくる。
ドカドカと足音が近づいてくる。
「離してあげて~」
孝子の馬鹿にしたような声が聞こえてくると、朔耶の動きを止めていた腕が離れていく。
「ねぇ!!」「あ゛・・・・・・」
突然、朔耶の頭上の髪の毛を引っ張り上げて、顔を無理矢理上げさせる。
「朔耶様?清貧に相応しくないものがあったわ!!アンタにはこんなもの分不相応よ!男に貢いでもらうなんて恥知らず!!こんな物オマエが着るなんて烏滸がましい!!」
痛みで顔が歪む。目を閉じてしまったが、何とか片目だけでも無理矢理開ける。微かにだが見えるのは若緑色の何かが見えた。
「そ、れは・・・・・・」
若緑色のものは大事に押し入れの奥にしまった物だ。
見つからないように、けど、嬉しくて時々、畳紙から出しては広げて眺めていた。
征一郎に与えられた着物で、朔耶が唯一持っている明るい着物だ。
「や、めて、下さい・・・・・」
朔耶が許しを請う。それだけは辞めてほしい。孝子様は私からまた奪うのですか?
朔耶の消えそうな声を聞いて、孝子は髪を引っ張る手を離す。
そのまま軽く後ろに下がると、男衆に目配せする。その合図で男衆は朔耶を座らし、動かないように再び肩を押さえつける。
孝子は朔耶の着物を掴み前に差し出す。そして手を離し、バサッと着物が地面に落ちていくった。
「あ・・・・・・・・」
絶望した声と眼差しが朔耶から生まれる。眉を寄せ、悲痛な顔で落ちていく着物を見つめる。
落ちた着物に、孝子は朔耶の手と同じ様に踏みつけグリグリと踏みにじる。
「孝子様ぁ~~もっと素敵にしましょう~」
若い付き人が、朔耶が霊符を書くのに使用していた、硯や筆を持ってくる。
すると、「あら、素敵な物があったのねぇ~」と笑い硯を受け取る。
そのまましゃがみ込み朔耶と目線を合わせる。
「た、かこ様・・・・・お願いです・・・・後生ですから・・・・・孝子様っ!!」
「はっ!!五月蝿い!!」
ニヤニヤと笑い、孝子は硯の中を着物の上にぶちまける。
若緑色の土で薄汚れた着物は更に、硯の中で真っ黒になった墨をまとい無残な姿になる。
「やめて・・・・・・」
朔耶の瞳から透明なものが次々に溢れては、土で汚れた頬を伝う。
「あ~らぁ~?泣いてるの~?いけないわ~」
孝子は墨で汚れた着物を掴み、朔耶の涙で濡れた頬を乱暴に拭いていく。墨で朔耶の顔はすぐに汚れていく。
「無様ぁ~アンタがいけないのよ!こんな物!こんな物!」
襟や袖を掴み引き裂いていく。ビリビリと絹を裂く音が外に響く。
「やめて!!やめてぇ!!」
「私に指図するな!!」
パーンッ!!と子気味のいい音する。それは孝子か朔耶の頬を叩いた音だった。更に、パーンッ!パーンッ!と数回、左右の頬を叩かれる。
朔耶の口の端から血が流れてくる。どうやら頬の内側を噛んでしまったらしい。
「五月蝿いっ!五月蝿いっ!五月蝿いっっ!!なんでアンタが当主なのよ!!目障り!死ね!消えろ!お前が死ねば、いなくなれば兄様が当主なのに!!お前がこんな物持つなんて百年早いのよ!アンタはボロがお似合いなのよ!!こんな物!こんな物!!」
激昂した孝子は、地面に落ちた見るも無残な着物を踏みつけていく。
「アンタなんかいなくなれば!!いなければいいのよ!!今すぐ消えろ!」
「お、ゆるし、下さい・・・・・お許しく、ださい・・・・・」
土下座し、額を土に擦り付ける。その姿が余計、気に入らないのか孝子は朔耶の背中を、着物と同じ様に踏みつける。
「五月蝿い!オマエは綺麗なものを身につけるなんて駄目なの!ボロを纏え!惨めな姿がお似合いなの!!まだ、分からないの?どんだけお前の母親の物をボロボロにされたら分かるの?あぁ、それともそこの式神達をボロボロに引き裂いて、消えさせたほうが分かるの?」
だん!だん!と背中を踏みつけられて痛いのに、それ以上に痛いのは心だ。散々、母親の形見だった着物や小物、装身具、三味線などを目の前で引き裂かれ、叩きつけられ、燃やされ。
火澄様から頂いた着物も、見るも無惨な姿に変えさせられ、それどころか私の大事な家族の、東雲達にも危害を加えようとする。
これ以上、私から物を人を家族を奪わないで欲しい・・・・・
けど、名ばかりの当主で権限も権力も何もない。こんな暴挙、許されることはないのに、けど、私は諌めることも、やめさせることも出来ない。
ただ、出来るのは、こうして自分の身を差し出して、相手の気が済むまで、叩かれ、踏みつけられるしかない。気が狂うまで、許しの言葉を言い続ける他ない。
「お許しください・・・・・お許しください。お許しください・・・・・・」
遠くで東雲や歌弥が、同じ様に許しを請うのが聞こえる。
そんな、私達の惨めな姿を嘲笑う孝子様や、お付きの女達、ニヤニヤと下卑た笑い声を出す男衆。
地獄は死んでから、自分の生前の行いで決まると聞くが、今がまさに地獄だ。なら、私は一体、何をして地獄にいるのだろう?生前どころ、私は生きている。なら、生まれ変わる前が鬼にも等しい悪行をしていたのだろうか?
一体、この地獄はいつまで続くのだろうか?もう、疲れた・・・・・・
痛みで途切れ、途切れになりながらも許しを請う言葉を言い続ける朔耶や東雲達。その姿を嘲笑う孝子達。屋敷の庭はそんな惨憺たる状況を作り出す。
朔耶を踏みつける孝子は、今にも昇天しそうなほどの恍惚とした顔をしていた。
その顔をしたまま、気の済むまで朔耶を踏みつけ、罵詈雑言を言い続けた。
そして、やっと気が済んだのか、孝子達は東雲や朔耶達を笑いながら解放したのは、孝子達が来てから二刻ほど過ぎた頃だった。
「若ぁ~予定よりかなり過ぎてますよ~」
「仕方ねぇ~よ千歳。久し振りに朔耶様に会えるんだから、そりゃ~、めかしこんで格好良い姿を見せたいもんなぁ~」
大きな化粧箱を抱えた万次郎は、ニヤニヤしながら前を歩く征一郎を見る。
「黙れ」
ぶっきらぼうに言う征一郎の顔が、微かに緩んでいることを二人は知っている。
車では朔耶の屋敷の近くには行けないので、途中で車を降りて、入り組んだ細い道を歩きながら、三人は目的の朔耶の屋敷を目指す。
すると、向こうから歩いてくる数人の人物を見て、先頭を歩いていた千歳は突然歩みを止める。
「?どうしたら、千歳?」
「しっ!!若、その小道に隠れて!!悟られないように自然に!!」
ただならぬ雰囲気に一気に緊張が走る。千歳に言われた通り千歳に続き、征一郎は自然な流れで小道に曲がる。その後を万次郎が続く。
すると、三人は姿を隠すように物陰に隠れる。
目の前を歩いていた三人を気にすることもなく、男女達は嘲笑しながら歩いていく。
「あ~~面白かった!「お許しください!お許しください」だって~~本当、惨めぇ~~」
「本当で御座いますよ、孝子様。いい気味ですよ。あの女もこれに懲りて当主を明け渡せばいいのに」
「本当よ!!御兄様が可哀想だわ!」
「孝子様は響士郎様思いですね~幸せ者ですよ!」
「ほっほほほ・・・・・そうよ、私は、御兄様思いなのよ・・・・・・」
相手を持ち上げる者と、それに気付かない者の構造は滑稽だ。だが、征一郎達は違うことに気を取られる。会話の内容はどれも聞いた事のある者の名前が羅列する。
三人は目を合わせ頷く。男女達が通り過ぎ、十分な距離を確保すると、三人は走り出す。
「優先は朔耶様だ。先に見つけるように」
「「御意!!」」
征一郎の指示に二人は頷く。普段は征一郎に対して意地の悪い事を言ったりするが、危機的状況になると征一郎を頂点とする、指示形態のしっかりと取れた集団に変わる。
走り出だし、大きな門が見えてくる。開きっぱなしの門は、見るものが見ればだらしなく見えるが、先程の男女の会話を聞いていた征一郎達は焦りを覚える。
大門を抜け、そのまま屋敷の玄関まで突き進む。そこも開きっぱなしになっており、増々、不安になる。
「御免っ!!」
本来なら靴を脱ぐが、非常事態で許して欲しくて詫びの言葉を自然と言っていた。
そのまま三人は履物をはいたまま玄関から部屋に向かう。
廊下は足跡が複数あり、履物を履いたまま部屋に入っていったのがすぐに分かる。
遠くからは女の泣き声が聞こえてくる。征一郎は焦る気持ちを押し殺し、周りをよく見る。
そのまま走り、やがて襖が開けられた部屋にたどり着く。
「朔耶様っっ!!」「だれ!!」
部屋は泥棒が来たのかと思う程、荒れ果てていた。
箪笥や文机の全ての引き出しは開かれ、中身は出されたのか畳の上に散らばっていた。
押し入れの中に仕舞っていた布団も出され、グチャグチャなっている。
何かの模様か文字が書かれた札が散らばり、部屋は物と足跡で散らかり、無惨な様子だった。
そんな部屋でへたり込み泣いていたのは歌弥一人だった。
「・・・・・・ひ、ずみ様・・・・・さ、くやさまは、朔耶様は悪くないんです!!朔耶様を叱らないで!!」
「一体、何が・・・・・・叱らないで?朔耶様は何処に・・・・・・」
聞きたいことは多岐にわたりあるが、そんなことより今は、朔耶の無事をこの目で確かめたい。
征一郎の鬼気迫る様子に歌弥は泣きながら、廊下の向こう側を指さす。
「万次郎、ここは任せた!」
征一郎の指示に万次郎は頷く。そのまま千歳と二人で更に廊下を走る。
外庭に出られる所が開かれており、二人は急いで外を見る。
鴇色の着物を着た女性が、着物が汚れるのも構わず庭に座り、誰かを抱き締めていた。
その周りには、見覚えのある色の布が散らばっていた。土で汚れ、何かの形をしていた物は、ただの布切れにかわり果てていた。
その、薄汚れた若緑色の物を抱き締めている人物は薄汚れている。
元は、白い着物だっただろうが土で汚れている。
「っ・・・・・・朔耶っ!!」
いつもなら「朔耶様」と敬称を付けるのに、この時ばかりはそれさえも抜け落ちていた。
いかなる時でも、彼女は汚泥に咲く蓮の花のように、凛と佇まい、見るものを虜にする。
けど、そんな彼女は今はどこにもいない。
薄汚れ、顔は泥と墨と涙で汚れ、口の端からは血が滲む。
生気の抜けた瞳は濁り、生きているのか不安になる程、気力が全く感じられない。
感情の一切が抜け落ちた瞳からは、溢れるように涙が溢れる。
そんな、朔耶を抱き締めて、東雲も同じ様に涙を流していた。
けど、征一郎の「朔耶」に気付き、屋敷の方を見る。
「火澄様・・・・・朔耶様は悪くないのです!!朔耶様は何もしておりません!!朔耶様は、朔耶様は・・・・・・・」
朔耶を庇うように背中に隠し、征一郎を真正面から見る東雲は、焦りと不安で顔が強張っていた。
「・・・・・・分かっています。朔耶様・・・・・大丈夫ですか?」
外庭に出て、征一郎はゆっくりと二人の元に歩き出す。
東雲の後ろに隠された朔耶が、ゆっくりと東雲越しに征一郎を見つめる。
すると、感情の一切が抜け落ちた瞳が感情を取り戻す。悔恨の情、自責の念、悔悟の情、罪悪感・・・・・・自分の非や悪事、罪を後悔し責めているような瞳だ。何一つ悪い事などしてないのに・・・・・・
自分の表情が今、どんな表情なのか分からない。朔耶には一体、どんな表情で見られていると思うのか・・・・・不安を与えてないか?怖がってないか?
あぁ、今ここに鏡が欲しいと思うのは何故だろう。
征一郎こそ感情の一切をなくした顔で朔耶達にゆっくり近づく。征一郎のただならぬ様子に、朔耶を隠すようにしていた東雲は広げた手をゆっくりと下ろし、朔耶から少しだけ離れていく。征一郎が少しでも朔耶と触れ合えるように。
「・・・・・・・・」
朔耶達の側に来ると、仕立ての良い背広が土に汚れる事さえ厭わない様子で、膝をつき、土や炭で汚れた朔耶を優しく抱きしめた。
誰かの温もりが包み込んでくれたおかげで、自分の感情が戻ってくる感覚を覚えた。
孝子様が来てから目の前で着物を裂かれ、平手、足蹴、罵詈雑言・・・・・
痛い、辛い、聞きたくもない・・・・・・けど、全てを受け入れるしかない、受け入れないと終わらない・・・・・・
早く、過ぎ去ってほしくて感情の一切を押し殺す。今まで受けてきた虐待の中で生まれた、自己防衛の一種だと分かってもいる。
悲しかった・・・・・・袖を通したときはドキドキが止まらなかった。汚したらどうしたらどうしょう?私に似合うの?こんな素敵な物、本当に私が着てもいいの?なのに、火澄様は笑って「似合う」とおっしゃって下さった。凄く嬉しくて、子供の頃に戻った感覚だった。
子供の時も色鮮やかな着物を着て、母親の三味線の音色にあわせて、下手くそな舞をしていた。
だけど、たしなめることもなく、それを受け入れて「上手だね」と褒めて、優しく見守ってくれた。二人の優しい眼差しが懐かしい。
けど、その優しい眼差しはいつの頃か、徐々になくなっていった。一人、また、一人なくなり、その代わり、刺さるような鋭い眼差しが一人、また一人と増えてくる。
気付けば周りには私を優しく見守る瞳は、誰一人となく、邪険にするものばかり。
その中で、再び私を優しく見守る瞳に出会えた。なのに、その眼差しは感情の一切がない。
私は、また、なくした。やはり、私は生きてるだけで誰かを不幸にするのだろ。誰に許しを請えばいいのだろうか?
「朔耶様?もう、大丈夫ですよ?」
優しいその人は、私を優しく抱き締めて、優しい言葉で私を包み込む。
その時、私の目の端にある色が映った。薄汚れた若緑色のモノ。その色は目にも鮮やかで、私の心を華やかに彩ってくれた色。
そして、その色の着物を贈って下さった方は今、私を抱き締めてくれている方・・・・・・
あぁ、許しを請わなくてはいけない。折角、贈ってくれたのに、私は大事にする事が出来なかった。
「・・・・・・・あ、あぁ・・・・・お、許し、下さい、お許しください・・・・・ごめん、なさい、ごめんなさい・・・・・・」
許しの言葉は沢山あるのに、脳裏に浮かんだ言葉は少ない。その少ない言葉を言い続ける事で相手に分かってもらうしかない。
征一郎が抱き締めていた朔耶は、突然、体を震わせ、息の仕方が可笑しくなっていく。狂ったように「お許しください」、「ごめんなさい」を繰り返す。歯の根が合わずガタガタと震わせ、痙攣にも等しい状態だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・お着物、お着物を駄目にしてしまいました・・・・・ごめんなさい、私のせいなんです。ごめんなさい・・・・・・・」
袖の部分を強く抱き締めていた朔耶は、更に袖を抱き締めて丸くなる。
「違う!朔耶のせいではない。断じて違う。朔耶が責任を負うことはない。責めるのは、それを贈った私だ。貴女は何一つ責任を感じることはない!」
「ごめんなさい、私のせいなんです。私が着なければよかったの・・・・・・私がいなければよかったの、私のせいなの、ごめんなさい・・・・・・」
自分を否定していく朔耶に、征一郎は埒が明かないと感じた。ここまで自分に対して罪悪感を持つなど、幼い頃から今日まで、言われ続けなければこんなにもならないだろう。
その理由も経緯も調べたから分かる。
胸糞悪くて、反吐が出る。出来ることなら朔耶をここまで追い詰めた奴らを一人、一人血祭りにしてやりたいと思う程だ。
けど、それは、今ではない。今、優先すべき事は朔耶を落ち着かせる事。もし、怪我をしているなら手当てする事。
だが、この状況では何一つ出来ないだろう。強硬手段だが仕方ない。緊急事態で人命救助だ。
征一郎は優しく朔耶の頭から項にかけて優しく撫でていく。傍目から見ると、あやしているようにも見える。数回、繰り返すと朔耶の弱々しく繰り返す言葉が、段々とゆっくりと小さくなり、そしてなくなる。
変に力のこもった体は弛緩し、征一郎の胸に体の全てを預けた。
涙が溢れる、罪悪感で染まった瞳は段々と瞼を下ろし完全になくなる。
征一郎は撫でながら、意識を失うようにさせた。無理矢理ではあるが、今はこうするしかない。
弱々しい寝息をさせて朔耶は眠りについた。今、この時だけでも、煩わしい全ての事から遠ざけたかった。出来るのなら煩わしい全てのことが、夢の中だけはないように。寝ているこの時だけは穏やかでいて欲しい・・・・・・
眠る朔耶の顔を見て征一郎は眉を顰める。
汚れていても、傷ついていても、その顔は美しい。けど、誰がこんな風にした?
分かっている。誰がしたのかも。己がした行いは必ず己に返ってくる事を知らしめてやろう。
呪術的に言うには呪詛返しと言ったかな?違ったか?
たしか、倍に返って来るとか?なら、倍に返してやるよ・・・・・・・
墨で汚れた頬をそっと手を沿わせ、征一郎は眠った朔耶を見つめた。
その瞳には暗い、今にも誰かを呪いそうな程、憤りが渦巻いて。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お天道様は見てますよ~~
悪い事をすると、自分に返っきますよ~
なので、皆さん!清く、正しく、美しくです!!
孝子様はやっぱり悪役令嬢です。それも愚か者の悪役令嬢。救いようのない方の。
そして、その取り巻き達も同じく救いようのない。
朔耶様は大人しく受け入れて、反抗しないようにする事で、早く終わることを知ってます。そして、大事な東雲達が傷付かないようにする為には、手出し無用と厳命してます。
この地獄、いつか終わりはあるのでしょうかね?
そして、ヤバみーーな征一郎。マジで血祭りしそうな勢いです。
さて、この状況をどうしていくのか?そして、ドレスは無事に渡せるのか?謎です。私も謎です(笑)
ここまで読んで下さってありがとうございます
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