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春の女神は舞う
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やっと、パーティーだよ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
揺れる馬車の中は凄く静かだった。
街の喧騒や馬の蹄の音、道を走る車輪の音は勿論する。
けど、人が二人もいるのに会話がない。
エスコートされ、ホテルから馬車に乗りこみ道を走る。
乗り込む時に言葉を交わしたぐらいで、それ以降は何もない。
気の利いた言葉の一つでも言えたらいいのだが、生憎、朔耶は口下手で言葉の一つも出てこない。
それもこれも、向かい合せで座る相手が相手だから。
これが、ただの男性で朔耶を忌み嫌う者ならば、無視するか、何か言われても反論する心積もりはある。
しかし、朔耶の前に座る人物はそのどれにも当てはまらない。
朔耶の事を嫌う素振りは一切見せず、それどころか好いているのかと疑いたくなる素振りを見せる。その、一挙手一投足に翻弄される自分がいる。
こちらの事情に寄り添い、分かったうえで手を差し伸べる。それも、そっと優しく。
その優しさに思わず手を取ってしまう。そして、その優しさがあまりにも心地よくて、自分から手を離したくなくなる。
色々な事があった。本来なら許しがたい行為なのだと分かっている。
物をぶつけて、罵っても罰は当たらない。泣き寝入りしても可笑しくない。
なのに、戸惑いは勿論あるが、心の片隅では「嬉しい」と自分でも疑問に思うことが少なからずある。
そんな、複雑な気持ちを抱かせる相手が、涼やかな顔をし、窓の外を見るのでもなく、私を見て微笑む。私は恥ずかしくなり俯いてしまう。
「そうそう、朔耶様。今回の夜会は仮面舞踊ですが、覚えてますか?」
「はい。覚えてますよ」
応接室で響士郎義兄様と夜会の事を話した事は覚えている。
「良かった・・・・・仮面の件も覚えてますよね?」
何故だろう?少々、意地の悪いお顔をされている気がするのは気のせいだろうか?けど、仮面と言えば私はその二つしか思い浮かばない。
「?仮面ですか?岡目と火男ですよね?それがどうされましたか?」
仮面と言えば岡目と火男でしょう?何を今更ながら聞いてくるの?
朔耶は征一郎の言葉に本当に疑問しかなく、あれ程恥ずかしく俯いていたのに、顔を上げ征一郎の顔をしっかりと見つめる。
純粋に、自分の発言に疑問も何もない。曇りなき眼とは、朔耶の今の眼差しだと言われたら納得してしまう程に。
「くっ・・・・失礼・・・・・朔耶様・・・・・・仮面舞踊ではこちらで目元を隠します。想像されていた仮面ではなく残念ではありますが・・・・・・」
込み上げる笑いを必死に制しながら、征一郎はニヤける口元を何とか押さえて、自分の隣に置いていた箱を取り出すと自分の膝に置き、箱を開ける。
中に入っていたのは、立体的な仮面の目元の部分だけだ。けど、その一つ一つが丁寧に装飾されている。
一つの仮面は金色が半分と、もう半分は夜のような藍色が占める。縁を同じく金色と藍色の絡まった紐が縁取り、金色の塗料で柄が描かれている。片方の端には青色の鳥の羽が一つある。
もう一つも同じように目元だけだが、こちらは白一色で縁取りも、描かれている柄も白や銀色を使用している。
そして、端に装飾されているのは羽根ではなく、真っ白な薔薇の花が一輪。
「これが、仮面ですか?とても綺麗ですね・・・・・」
初めて見る形状の仮面だ。けど、とても綺麗で素敵で目が離せない。
「両端の紐を結んで固定します。これで素顔を隠すので、仮面舞踊では相手の素性を探るのはご法度・・・・・・朔耶様も相手を気にすることなく動いて下さい。誰も貴女のことを深く探ろうとはしませんから」
少しだけ、表情が曇る火澄様。きっと私の社交界やその周りの噂に対しての表情なのかもしれない。
その優しさに少しだけ心が救われる。
夜会やそれ以外でも、人の集まる所に出れば、奇異の目で見られ、ひそひそと話し、時には噂の真相を確かめようと難癖付けてくる。
煩わしさの方が強く、構わないで無視して欲しいと何度思ったことか・・・・・・
けど、この仮面をつければ誰も私の事を気にすることもない。
「・・・・・・・ありがとうございます・・・・・少しは楽しめそうですね・・・・」
自分達の立場なら、楽しむことなんて出来ない。そんな余裕あるはずもない。もっと気の利いた言葉が言いたいのに、出てきた言葉は意味のない賛辞だ。
火澄様を見ると、相変わらず表情は同じまま。それでも良かった。だから、私も少しだけ広角を上げて笑う。
「えぇ・・・・・・そうですね」
火澄様は私に白色の仮面を渡してくる。壊れないように両手で受け取り、自分の膝に乗せる。
「馬車を降りる前に付けて下さい。会場では素顔は一切禁止・・・・・・気を引き締めて行きましょうか」
「はい」
二人の最後の確認を互いにした。これから行われる自分達の仕事を無事に終わらせる為の確認を
大きな洋館の前に着いた馬車から、仮面を付けたり二人が降りてくる。
一人は金と藍色の仮面を付けた男性。体格が立派で軍人のような雰囲気を生み出す。
もう一人は白一色の仮面の女性。線の細い体は儚く折れそうで危うい雰囲気を生み出す。白色と桜色のドレスは愛らしく、あまり見ない髪型だが、ドレスの良さを最大限引き立てる。
そして、仮面をしていても分かるほど、目鼻立ちが整っている。
朔耶は会場を見て思った。
会場は一言で言えば別世界・・・・・・異世界に迷い込んだような気さえもする。
豪華なシャンデリア、テーブルを埋め尽くす料理、四隅も勿論だが壁や至る所に飾られた生け花・・・・・・そして、色とりどりドレスを身に着けた女性・・・・・・
普段の夜会と違うのは、みんなして目元を隠す仮面を身に着けていること。
自分達の仮面以外にも、色彩豊かな仮面が多く、装飾もそれぞれだ。中には鳥の嘴のように鼻から尖ったものが突き出ている人もいる。
「ひず・・・・・・圭吾様・・・・・・これが「仮面舞踊」なのですか?」
「そうですよ、薫子・・・・・まずは、会場全体を見るために、楽しむ雰囲気を出しながら動きますよ」
小声で確認し、征一郎のエスコートに身を任せる。
「まぁ、見て・・・・あんなに細い方、初めて見たわ・・・・・・何をしたらあんなに細いのかしら?」
「ドレスも珍しいものですわね・・・・・衿元が開いているものは。でも首の装飾が素敵だわ」
「男性も素敵な体格で・・・・・・軍人の方かしら?」
朔耶達が会場に足を踏み入れ、会場全体の様子をを確認する為、怪しまれないように移動していく。
二人の装いに感心の声が所々から聞こえてくる。
その言葉に朔耶は不思議な気持ちになった。
普段なら、冷ややかな視線を向けられるのに、今向けられている視線はどれも羨望の眼差しだ。
女性も男性も皆同じな視線に、朔耶は怖くなり征一郎の腕を強く握っていた。
エスコートの為、肘を曲げていた征一郎は、朔耶の握る力が強くなった事に何かを察する。
無理もないか・・・・・・普段なら冷ややかな視線を向けられ、意地の悪い顔をして近づき、嫌味や小言を話す。
なのに、今向けられているのは羨望や関心といった、羨ましい気持ちを向けられている。
居心地の悪さや、普段と違う恐怖に、知らず知らず力が入るのが。
征一郎は空いている手をそっと、腕を掴んでいる朔耶の手に重ねる。
「大丈夫です。今日は相手を気にせず楽しむ夜会です。薫子は自分を何も気にせずね?それに、我々の真の目的を忘れないで?」
・・・・・・・そうだ
夜会を楽しむことが目的ではない。夜会に隠された真の目的は他にある。
こんな所で怖気つくなんて・・・・・・
「はい。慣れないことに驚きましたが、もう、大丈夫です。ご心配おかけしました圭吾様」
顔を上げ、こちらを心配そうに見つめる征一郎に向かい、朔耶は微笑む。
微笑み、真正面に顔を向けると、背筋を伸ばし、胸を張り、堂々とした佇まいに変わる。
その姿は普段の夜会と変わらない姿だ。それは、どんな視線を向けられても、凛として佇まい、相手に怯むことなく堂々とする朔耶そのものだ。
一瞬で変貌した様子に、征一郎は口の端が持ち上がる。
私が好いた女性は儚く繊細なのに、芯は強い。見た目と違い凛として優雅で美しい。
そんな女性と、ひと時といえ夜会に参加出来るのだ。
・・・・・・さて、嬉しさ半分、真面目さ半分で私も私の目的を果たそうか。
「全体を見て回りましたが、特におかしい所はありませんでした。まだ、大塚卿相も登場してませんし・・・・・まずは大塚卿相が登場するまで待ちましょう。私の側を離れないように」
「はい」
呼ばれた人数に対してまだ、半分にも満たない。あと少し待てばきっと大塚卿相も現れるだろう。
征一郎は全体の人数と、頑張って手に入れた名簿の人数を照らし合わせて会場の人数を計算する。
半分以上になればきっと大塚卿相は現れる。さて、それまで何をして過ごすか・・・・・
壁の花になるには些か難しい。隣の女性があまりにも美しすぎて、一人にしたら不埒な輩に声をかけられる。それだけは阻止させてもらう。
後は・・・・・料理でも食べるか?
「薫子?あちらに珍しい料理があるようだよ?食べてみようか」
「え?あっ、はい。圭吾様」
しっかりしないと!と、腹を括ったばかりなのに、突然、声をかけられ朔耶は多少、遅れて返事する。
全く持って考えてもなかった料理の話題を向けられたのだから仕方ない。
朔耶の返事を聞いて征一郎は、料理が置かれている長テーブルに移動する。
テーブルには魚や肉の料理や温野菜、ケーキが並ぶ。
「こっちは蒸した魚にマイナイソースを掛けたものだね。肉料理は羊肉と豌前を添えたも・・・・・・色々な料理があるけど薫子は何が気になる?」
夜会の料理だけあって、見た目はどれも素敵に盛り付けられている。
名前も聞いたことのないもので、朔耶は混乱してしまうが、隣にいる火澄様は何も気にしてない。
西洋の料理に慣れているのか、夜会に慣れているのか分からないが、さも、当たり前といった雰囲気だ。
けど、私は一番目を引かれたのは料理ではない。
「・・・・・ショートケーキは駄目ですか?」
真四角の形をしたショートケーキは、一口で食べられる大きさ。
料理も素晴らしが、一番気になるもので、味も知っているショートケーキに真っ先に視線がいった。
「ふっ・・・・・・気に入ったのかな?取り分けてあげようね」
朔耶のあまりにも可愛すぎる回答に、自然と笑みが溢れてくる。征一郎は口元を歪めながら取り皿を取り、ショートケーキを一つ乗せる。
仮面越しでも分かるほど瞳がキラキラしている。征一郎は皿を朔耶に渡し、美味しそうに食べる朔耶を愛しく見つめる。
「美味しいですか?そうですか、良かった」
征一郎の言葉に朔耶は頷く。カフェーで食べた物より甘く、苺は酸味が強い。けど、不思議と調和が取れていてこれは、これで美味しい。
そんなやり取りをしていると、会場の一角が一際賑やかになる。
「・・・・・・大塚卿相のお出ましだ・・・・・薫子」
「はい」
目的の人物が現れたことで二人に緊張感が生まれる。ここからが本番。失敗は許されない。
「気を引き締めていこう」
征一郎の言葉に朔耶は頷く。先ずはどうやって接触するかだ。
人集りの場所を押しのけて行く訳にも行かず。だからといって来るまで待つ選択肢はない。そもそも来るかも分からない。さて、いかにして接触し、言葉を交わすか・・・・・・
朔耶が考えている間に目的の相手、大塚卿相は会場の真ん中まで来て、ぐるっとその場で回りながら会場の人々を見る。
「ようこそ、紳士淑女の皆々様方・・・・・本日は楽しい仮面舞踊。相手の身分を気にせず気楽に楽しみましょう」
会場の隅々まで行き渡るような大きな声で、夜会の始まりを宣言する。すると拍手が一斉に生まれる。朔耶達も怪しまれないように拍手をする。
大塚卿相は手を振りながら、その場から離れていく。
すると、静かな音楽から一変、ダンスを踊る時に流れる音楽が流れてくる。
「先ずは目立ちましょう。音楽に合わせて踊り、注目されます。そこから会話の糸口を見つけます。いいですね?」
「はい」
征一郎にエスコートされながらダンスホールまで行くと、互いに向かい、合い手を取り合う。そして、音楽に合わせて踊りだす。
朔耶の白と桜色のドレスが裾を翻す度に、周りから感嘆の声が生まれる。
朔耶は初めて踊る相手に内心驚いている。響士郎義兄様とは何回か踊っているが、火澄様は初めてだ。なのに、何度か踊っていたのかと思う程息が合い、苦にもならない。
自然と朔耶の口元は微笑む。けど、その瞬間、背中に突き刺さるほどの鋭い視線を向けられる。
あまりにも鋭すぎて、朔耶の目は一瞬曇る。
「?どうされました・・・・・薫子?」
「・・・・・・な、んでもありません・・・・・楽しすぎて一瞬、ステップを忘れそうになりました・・・・・・」
━━━━━━火澄様は分からないの?それとも私にだけ向けられている?
一体、何処から見られている?そもそも、この視線の意味は?
朔耶の頭には複数の謎が生まれる。自分のすべき事があるのに、この不可解な視線の謎が疑問に残る。
視線は未だに続いている。けど、これ以上、火澄様の足を引っ張る事はいけない。
朔耶は無理矢理だが、微笑み征一郎を見る。多少のぎこちなさは、踊ることの不安と捉えてくれたら有り難い・・・・・・
そう、思っていた時、火澄様は顔を近づけ私の耳元でそっと話す。
「薫子・・・・・大塚卿相がこちらに注目してます。このまま楽しそうに踊って?」
「・・・・・はい」
少しだけ硬い声色は、慎重に事を進めている証。このまま上手くいけば、自分達の目的に一歩近づく。
朔耶は軽く頷く。視線も気になるが、一番は大塚卿相の気を引くこと。
朔耶は微笑み、征一郎を見つめ踊る。征一郎も朔耶を見つめ踊る。
そして、音楽は終わりを迎える。二人は互いに礼をしてその場から離れていく。
背後にからは惜しみない拍手を貰う。そのままこちらを見る大塚卿相の所までにこやかにしながら歩いていく。
主催者だからかは知らないが、大塚卿相だけ仮面をせず、素顔をさらけ出す。
「素敵なダンスで惚れ惚れしますなぁ~~いやぁ~実に素晴らしい」
拍手をし朔耶達を迎え入れる。朔耶達も微笑みながら、その拍手を受け入れる。
「素敵な夜会に招待いただき恐悦至極です」
「はっはは・・・・・それにしても、まるで春の女神が舞っているのかと疑いたくなるほどだ・・・・・そちらのドレスはどちらで仕立てたのかな?」
「お褒めに授かり光栄で御座いますわ。こちらは贔屓にしてます「松總呉服」で仕立てましたの」
正確には火澄様に仕立ててもらっただが・・・・・嘘はついてない。ここは、少しでも相手の気を引く受け答えをしないと・・・・・
「おおぉ~帝都一の松總呉服ですか?ですがあそこはドレスも仕立ててましたかな?」
「最近、しているようですよ?是非にと誘われて、ね?中々、良い仕立てで妻も喜んでいますよ」
火澄様が私の腰に回した手に力を込めて、引き寄せる。恥ずかしがるのはいけないと思うのに、私は恥ずかしくなってしまう。
その態度がどうやら大塚卿相には、不思議に思ったのか、多少の疑問を持った目を向ける。
「おや?もしかして新婚なのかな?」
「えぇ、数ヶ月前に・・・・・」
「おお、それはそれはおめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
大臣に賛辞してもらったのだ、二人はそれぞれ礼をする。
「そう言えば、大臣は紅茶をよく嗜むとか?私も、最近、茶葉の輸入を考えてましてね?それに合う砂糖も一緒に輸入出来ればと考えているのですよ・・・・・・そう、砂糖に重きを置いての輸入を?」
「砂糖」と「輸入」の言葉に違和感を覚える。けど、何故、この二つの言葉を強調するのか?
すると、大塚卿相の雰囲気が一瞬で変わる。
「ほう?砂糖の輸入ですか?」
「えぇ・・・・・あぁ、そうだ・・・・・ダンスをして喉が渇いただろう?あそこで喉を潤すといい」
火澄様はテーブルを指さす。そこには酒やお茶が乗せられている。
・・・・・・これ以上の話は男同士、女の同席は許されず、か・・・・・・・
「えぇ、喉が渇いたので私はこれで失礼致します」
ニッコリ微笑んで、スカートを摘みカーテシーしてその場を離れる挨拶をする。
「春の女神様、また会いましょう」
和やかに挨拶しているが、きっと腹の中は真っ黒な感情が渦巻いているに違いない。
朔耶はその場を離れ、念の為、征一郎が指差した場所に行きお茶を貰い喉を潤す。
離れた所から二人のやり取りを眺める。
火澄様の仕事の内容は何一つ聞かされてない。けど、砂糖の輸入が重要な事になるのは間違いない。外務大臣の大塚卿相と関係あるのかもそれなが、今の段階では、何一つ分からない。
穏やかに話しているが、目は笑ってない。それは大塚卿相も同じ。むしろ、卿相の方が酷い。
そして、何故か二人して会場を出ていく。
追いかけた方がいいのか迷った。邪魔をするのは悪いと思いながらも、自然と足が動き出す。
朔耶は周りの視線を気にしながらも会場を出ていく。
賑やかな音楽や談笑が、扉一枚で遮断される。微かに漏れ出る音を背に薄暗い廊下を歩く。
すると、僅かに開いた扉が現れる。何故か少し気になり中をそっと覗こうと体を近づける。
「・・・・・・・」
「気になるの?」
「!!」
しまった・・・・・完全に周りを気にしてなかった。
「厠に行こうと思っていたのですが、少し気になってしまって・・・・・ごめんなさい」
自然に誤魔化そうと、咄嗟に出た言葉は「厠」だった。
慌て振り向くと、車椅子に座った女性と、それを動かす若い女性がいた。
桜色の振り袖姿に白い布を被った女性は、声からして若い。
不審に思うこともなく、純粋に聞いている。
「あら、そうなの?色々と嗅ぎ回ろうとする間者の人かと思ったけど・・・・・・違ったかしら?」
「間者?違います。私は招待客の一人です。旦那様と参りました」
不味い・・・・・・疑われている。どうにかして切り抜けないと・・・・・
「まぁ、どちらでも構わないわ。貴女、ホールで踊っていた人でしょう?羨ましいわ・・・・踊れて。ほら、私、こんなんでしょう?」
軽く、両手を広げる。私の体は不自由なの。貴女は動けていいわね?そう、訴えられているようにも感じる。
「・・・・・・・・」
何も言えない。ここで何かを言ったら増々、疑われると悟ったからだ。
「ここはね、地下室に繋がっているの。貴女なら中に入ってもいいわ」
「何を言っているのですか?意味がよく分からないのですが・・・・・・・」
朔耶は混乱する頭で、この人物の言葉の意味を考えようとする。
なのに、相手は朔耶を押し込めようとしたいのか段々と近づいてくる。
「さあ、入っていって?」
「ですから、何の冗談を・・・・・・」
逃げようとすれば逃げられるのに出来ない。
逃げられる道は一つ、地下に繋がる階段に足を踏み入れるのみ。
「さぁ・・・・・・・」
「っぅ・・・・・・・」
朔耶は仕方なく足を踏み入れた。けど、相手は更に近づく。中に完全に入り、地下に行くまで居続けるつもりかもしれない。
朔耶はドレスの裾を踏まないように軽く持ち上げ、振り返らず階段をゆっくりと降りていく。
「ばいばい」
軽やかな、楽しそうな声が背後から聞こえてきた。けど、振り返ったら何か、恐ろしい事がありそうな気がして振り返れなかった。
やがて、パタンと扉の閉まる音が聞こえる。
完全に閉じ込められたのが分かる。このまま上まで登り、扉を叩いて気付いてもらうことも出来るのかもしれない。
けど、地下に行かないといけないような気もしてくる。
意味が分からないが、そうしなければいけないのだと、自分の頭が訴えている。
緊張からか両腕がピクピクと痙攣に似た、震えを生み出す。
「・・・・・行かなくては・・・・・・」
朔耶の声からは緊張した声が辛うじて紡がれる。
仮面で視界が悪い中、薄暗い階段をゆっくりと転ばぬ様に降りていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大塚卿相と何の話をしにいったのか?
視線は何の視線か?
朔耶を地下に押し込めた人物は何者か?
そして、地下には何がある?
やっと、話が色々と動き出したような気が・・・・
そして、ヒーロー枠の征一郎はピンチの朔耶を救えるのか?
ここまで読んで下さってありがとうございます
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応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます
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揺れる馬車の中は凄く静かだった。
街の喧騒や馬の蹄の音、道を走る車輪の音は勿論する。
けど、人が二人もいるのに会話がない。
エスコートされ、ホテルから馬車に乗りこみ道を走る。
乗り込む時に言葉を交わしたぐらいで、それ以降は何もない。
気の利いた言葉の一つでも言えたらいいのだが、生憎、朔耶は口下手で言葉の一つも出てこない。
それもこれも、向かい合せで座る相手が相手だから。
これが、ただの男性で朔耶を忌み嫌う者ならば、無視するか、何か言われても反論する心積もりはある。
しかし、朔耶の前に座る人物はそのどれにも当てはまらない。
朔耶の事を嫌う素振りは一切見せず、それどころか好いているのかと疑いたくなる素振りを見せる。その、一挙手一投足に翻弄される自分がいる。
こちらの事情に寄り添い、分かったうえで手を差し伸べる。それも、そっと優しく。
その優しさに思わず手を取ってしまう。そして、その優しさがあまりにも心地よくて、自分から手を離したくなくなる。
色々な事があった。本来なら許しがたい行為なのだと分かっている。
物をぶつけて、罵っても罰は当たらない。泣き寝入りしても可笑しくない。
なのに、戸惑いは勿論あるが、心の片隅では「嬉しい」と自分でも疑問に思うことが少なからずある。
そんな、複雑な気持ちを抱かせる相手が、涼やかな顔をし、窓の外を見るのでもなく、私を見て微笑む。私は恥ずかしくなり俯いてしまう。
「そうそう、朔耶様。今回の夜会は仮面舞踊ですが、覚えてますか?」
「はい。覚えてますよ」
応接室で響士郎義兄様と夜会の事を話した事は覚えている。
「良かった・・・・・仮面の件も覚えてますよね?」
何故だろう?少々、意地の悪いお顔をされている気がするのは気のせいだろうか?けど、仮面と言えば私はその二つしか思い浮かばない。
「?仮面ですか?岡目と火男ですよね?それがどうされましたか?」
仮面と言えば岡目と火男でしょう?何を今更ながら聞いてくるの?
朔耶は征一郎の言葉に本当に疑問しかなく、あれ程恥ずかしく俯いていたのに、顔を上げ征一郎の顔をしっかりと見つめる。
純粋に、自分の発言に疑問も何もない。曇りなき眼とは、朔耶の今の眼差しだと言われたら納得してしまう程に。
「くっ・・・・失礼・・・・・朔耶様・・・・・・仮面舞踊ではこちらで目元を隠します。想像されていた仮面ではなく残念ではありますが・・・・・・」
込み上げる笑いを必死に制しながら、征一郎はニヤける口元を何とか押さえて、自分の隣に置いていた箱を取り出すと自分の膝に置き、箱を開ける。
中に入っていたのは、立体的な仮面の目元の部分だけだ。けど、その一つ一つが丁寧に装飾されている。
一つの仮面は金色が半分と、もう半分は夜のような藍色が占める。縁を同じく金色と藍色の絡まった紐が縁取り、金色の塗料で柄が描かれている。片方の端には青色の鳥の羽が一つある。
もう一つも同じように目元だけだが、こちらは白一色で縁取りも、描かれている柄も白や銀色を使用している。
そして、端に装飾されているのは羽根ではなく、真っ白な薔薇の花が一輪。
「これが、仮面ですか?とても綺麗ですね・・・・・」
初めて見る形状の仮面だ。けど、とても綺麗で素敵で目が離せない。
「両端の紐を結んで固定します。これで素顔を隠すので、仮面舞踊では相手の素性を探るのはご法度・・・・・・朔耶様も相手を気にすることなく動いて下さい。誰も貴女のことを深く探ろうとはしませんから」
少しだけ、表情が曇る火澄様。きっと私の社交界やその周りの噂に対しての表情なのかもしれない。
その優しさに少しだけ心が救われる。
夜会やそれ以外でも、人の集まる所に出れば、奇異の目で見られ、ひそひそと話し、時には噂の真相を確かめようと難癖付けてくる。
煩わしさの方が強く、構わないで無視して欲しいと何度思ったことか・・・・・・
けど、この仮面をつければ誰も私の事を気にすることもない。
「・・・・・・・ありがとうございます・・・・・少しは楽しめそうですね・・・・」
自分達の立場なら、楽しむことなんて出来ない。そんな余裕あるはずもない。もっと気の利いた言葉が言いたいのに、出てきた言葉は意味のない賛辞だ。
火澄様を見ると、相変わらず表情は同じまま。それでも良かった。だから、私も少しだけ広角を上げて笑う。
「えぇ・・・・・・そうですね」
火澄様は私に白色の仮面を渡してくる。壊れないように両手で受け取り、自分の膝に乗せる。
「馬車を降りる前に付けて下さい。会場では素顔は一切禁止・・・・・・気を引き締めて行きましょうか」
「はい」
二人の最後の確認を互いにした。これから行われる自分達の仕事を無事に終わらせる為の確認を
大きな洋館の前に着いた馬車から、仮面を付けたり二人が降りてくる。
一人は金と藍色の仮面を付けた男性。体格が立派で軍人のような雰囲気を生み出す。
もう一人は白一色の仮面の女性。線の細い体は儚く折れそうで危うい雰囲気を生み出す。白色と桜色のドレスは愛らしく、あまり見ない髪型だが、ドレスの良さを最大限引き立てる。
そして、仮面をしていても分かるほど、目鼻立ちが整っている。
朔耶は会場を見て思った。
会場は一言で言えば別世界・・・・・・異世界に迷い込んだような気さえもする。
豪華なシャンデリア、テーブルを埋め尽くす料理、四隅も勿論だが壁や至る所に飾られた生け花・・・・・・そして、色とりどりドレスを身に着けた女性・・・・・・
普段の夜会と違うのは、みんなして目元を隠す仮面を身に着けていること。
自分達の仮面以外にも、色彩豊かな仮面が多く、装飾もそれぞれだ。中には鳥の嘴のように鼻から尖ったものが突き出ている人もいる。
「ひず・・・・・・圭吾様・・・・・・これが「仮面舞踊」なのですか?」
「そうですよ、薫子・・・・・まずは、会場全体を見るために、楽しむ雰囲気を出しながら動きますよ」
小声で確認し、征一郎のエスコートに身を任せる。
「まぁ、見て・・・・あんなに細い方、初めて見たわ・・・・・・何をしたらあんなに細いのかしら?」
「ドレスも珍しいものですわね・・・・・衿元が開いているものは。でも首の装飾が素敵だわ」
「男性も素敵な体格で・・・・・・軍人の方かしら?」
朔耶達が会場に足を踏み入れ、会場全体の様子をを確認する為、怪しまれないように移動していく。
二人の装いに感心の声が所々から聞こえてくる。
その言葉に朔耶は不思議な気持ちになった。
普段なら、冷ややかな視線を向けられるのに、今向けられている視線はどれも羨望の眼差しだ。
女性も男性も皆同じな視線に、朔耶は怖くなり征一郎の腕を強く握っていた。
エスコートの為、肘を曲げていた征一郎は、朔耶の握る力が強くなった事に何かを察する。
無理もないか・・・・・・普段なら冷ややかな視線を向けられ、意地の悪い顔をして近づき、嫌味や小言を話す。
なのに、今向けられているのは羨望や関心といった、羨ましい気持ちを向けられている。
居心地の悪さや、普段と違う恐怖に、知らず知らず力が入るのが。
征一郎は空いている手をそっと、腕を掴んでいる朔耶の手に重ねる。
「大丈夫です。今日は相手を気にせず楽しむ夜会です。薫子は自分を何も気にせずね?それに、我々の真の目的を忘れないで?」
・・・・・・・そうだ
夜会を楽しむことが目的ではない。夜会に隠された真の目的は他にある。
こんな所で怖気つくなんて・・・・・・
「はい。慣れないことに驚きましたが、もう、大丈夫です。ご心配おかけしました圭吾様」
顔を上げ、こちらを心配そうに見つめる征一郎に向かい、朔耶は微笑む。
微笑み、真正面に顔を向けると、背筋を伸ばし、胸を張り、堂々とした佇まいに変わる。
その姿は普段の夜会と変わらない姿だ。それは、どんな視線を向けられても、凛として佇まい、相手に怯むことなく堂々とする朔耶そのものだ。
一瞬で変貌した様子に、征一郎は口の端が持ち上がる。
私が好いた女性は儚く繊細なのに、芯は強い。見た目と違い凛として優雅で美しい。
そんな女性と、ひと時といえ夜会に参加出来るのだ。
・・・・・・さて、嬉しさ半分、真面目さ半分で私も私の目的を果たそうか。
「全体を見て回りましたが、特におかしい所はありませんでした。まだ、大塚卿相も登場してませんし・・・・・まずは大塚卿相が登場するまで待ちましょう。私の側を離れないように」
「はい」
呼ばれた人数に対してまだ、半分にも満たない。あと少し待てばきっと大塚卿相も現れるだろう。
征一郎は全体の人数と、頑張って手に入れた名簿の人数を照らし合わせて会場の人数を計算する。
半分以上になればきっと大塚卿相は現れる。さて、それまで何をして過ごすか・・・・・
壁の花になるには些か難しい。隣の女性があまりにも美しすぎて、一人にしたら不埒な輩に声をかけられる。それだけは阻止させてもらう。
後は・・・・・料理でも食べるか?
「薫子?あちらに珍しい料理があるようだよ?食べてみようか」
「え?あっ、はい。圭吾様」
しっかりしないと!と、腹を括ったばかりなのに、突然、声をかけられ朔耶は多少、遅れて返事する。
全く持って考えてもなかった料理の話題を向けられたのだから仕方ない。
朔耶の返事を聞いて征一郎は、料理が置かれている長テーブルに移動する。
テーブルには魚や肉の料理や温野菜、ケーキが並ぶ。
「こっちは蒸した魚にマイナイソースを掛けたものだね。肉料理は羊肉と豌前を添えたも・・・・・・色々な料理があるけど薫子は何が気になる?」
夜会の料理だけあって、見た目はどれも素敵に盛り付けられている。
名前も聞いたことのないもので、朔耶は混乱してしまうが、隣にいる火澄様は何も気にしてない。
西洋の料理に慣れているのか、夜会に慣れているのか分からないが、さも、当たり前といった雰囲気だ。
けど、私は一番目を引かれたのは料理ではない。
「・・・・・ショートケーキは駄目ですか?」
真四角の形をしたショートケーキは、一口で食べられる大きさ。
料理も素晴らしが、一番気になるもので、味も知っているショートケーキに真っ先に視線がいった。
「ふっ・・・・・・気に入ったのかな?取り分けてあげようね」
朔耶のあまりにも可愛すぎる回答に、自然と笑みが溢れてくる。征一郎は口元を歪めながら取り皿を取り、ショートケーキを一つ乗せる。
仮面越しでも分かるほど瞳がキラキラしている。征一郎は皿を朔耶に渡し、美味しそうに食べる朔耶を愛しく見つめる。
「美味しいですか?そうですか、良かった」
征一郎の言葉に朔耶は頷く。カフェーで食べた物より甘く、苺は酸味が強い。けど、不思議と調和が取れていてこれは、これで美味しい。
そんなやり取りをしていると、会場の一角が一際賑やかになる。
「・・・・・・大塚卿相のお出ましだ・・・・・薫子」
「はい」
目的の人物が現れたことで二人に緊張感が生まれる。ここからが本番。失敗は許されない。
「気を引き締めていこう」
征一郎の言葉に朔耶は頷く。先ずはどうやって接触するかだ。
人集りの場所を押しのけて行く訳にも行かず。だからといって来るまで待つ選択肢はない。そもそも来るかも分からない。さて、いかにして接触し、言葉を交わすか・・・・・・
朔耶が考えている間に目的の相手、大塚卿相は会場の真ん中まで来て、ぐるっとその場で回りながら会場の人々を見る。
「ようこそ、紳士淑女の皆々様方・・・・・本日は楽しい仮面舞踊。相手の身分を気にせず気楽に楽しみましょう」
会場の隅々まで行き渡るような大きな声で、夜会の始まりを宣言する。すると拍手が一斉に生まれる。朔耶達も怪しまれないように拍手をする。
大塚卿相は手を振りながら、その場から離れていく。
すると、静かな音楽から一変、ダンスを踊る時に流れる音楽が流れてくる。
「先ずは目立ちましょう。音楽に合わせて踊り、注目されます。そこから会話の糸口を見つけます。いいですね?」
「はい」
征一郎にエスコートされながらダンスホールまで行くと、互いに向かい、合い手を取り合う。そして、音楽に合わせて踊りだす。
朔耶の白と桜色のドレスが裾を翻す度に、周りから感嘆の声が生まれる。
朔耶は初めて踊る相手に内心驚いている。響士郎義兄様とは何回か踊っているが、火澄様は初めてだ。なのに、何度か踊っていたのかと思う程息が合い、苦にもならない。
自然と朔耶の口元は微笑む。けど、その瞬間、背中に突き刺さるほどの鋭い視線を向けられる。
あまりにも鋭すぎて、朔耶の目は一瞬曇る。
「?どうされました・・・・・薫子?」
「・・・・・・な、んでもありません・・・・・楽しすぎて一瞬、ステップを忘れそうになりました・・・・・・」
━━━━━━火澄様は分からないの?それとも私にだけ向けられている?
一体、何処から見られている?そもそも、この視線の意味は?
朔耶の頭には複数の謎が生まれる。自分のすべき事があるのに、この不可解な視線の謎が疑問に残る。
視線は未だに続いている。けど、これ以上、火澄様の足を引っ張る事はいけない。
朔耶は無理矢理だが、微笑み征一郎を見る。多少のぎこちなさは、踊ることの不安と捉えてくれたら有り難い・・・・・・
そう、思っていた時、火澄様は顔を近づけ私の耳元でそっと話す。
「薫子・・・・・大塚卿相がこちらに注目してます。このまま楽しそうに踊って?」
「・・・・・はい」
少しだけ硬い声色は、慎重に事を進めている証。このまま上手くいけば、自分達の目的に一歩近づく。
朔耶は軽く頷く。視線も気になるが、一番は大塚卿相の気を引くこと。
朔耶は微笑み、征一郎を見つめ踊る。征一郎も朔耶を見つめ踊る。
そして、音楽は終わりを迎える。二人は互いに礼をしてその場から離れていく。
背後にからは惜しみない拍手を貰う。そのままこちらを見る大塚卿相の所までにこやかにしながら歩いていく。
主催者だからかは知らないが、大塚卿相だけ仮面をせず、素顔をさらけ出す。
「素敵なダンスで惚れ惚れしますなぁ~~いやぁ~実に素晴らしい」
拍手をし朔耶達を迎え入れる。朔耶達も微笑みながら、その拍手を受け入れる。
「素敵な夜会に招待いただき恐悦至極です」
「はっはは・・・・・それにしても、まるで春の女神が舞っているのかと疑いたくなるほどだ・・・・・そちらのドレスはどちらで仕立てたのかな?」
「お褒めに授かり光栄で御座いますわ。こちらは贔屓にしてます「松總呉服」で仕立てましたの」
正確には火澄様に仕立ててもらっただが・・・・・嘘はついてない。ここは、少しでも相手の気を引く受け答えをしないと・・・・・
「おおぉ~帝都一の松總呉服ですか?ですがあそこはドレスも仕立ててましたかな?」
「最近、しているようですよ?是非にと誘われて、ね?中々、良い仕立てで妻も喜んでいますよ」
火澄様が私の腰に回した手に力を込めて、引き寄せる。恥ずかしがるのはいけないと思うのに、私は恥ずかしくなってしまう。
その態度がどうやら大塚卿相には、不思議に思ったのか、多少の疑問を持った目を向ける。
「おや?もしかして新婚なのかな?」
「えぇ、数ヶ月前に・・・・・」
「おお、それはそれはおめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
大臣に賛辞してもらったのだ、二人はそれぞれ礼をする。
「そう言えば、大臣は紅茶をよく嗜むとか?私も、最近、茶葉の輸入を考えてましてね?それに合う砂糖も一緒に輸入出来ればと考えているのですよ・・・・・・そう、砂糖に重きを置いての輸入を?」
「砂糖」と「輸入」の言葉に違和感を覚える。けど、何故、この二つの言葉を強調するのか?
すると、大塚卿相の雰囲気が一瞬で変わる。
「ほう?砂糖の輸入ですか?」
「えぇ・・・・・あぁ、そうだ・・・・・ダンスをして喉が渇いただろう?あそこで喉を潤すといい」
火澄様はテーブルを指さす。そこには酒やお茶が乗せられている。
・・・・・・これ以上の話は男同士、女の同席は許されず、か・・・・・・・
「えぇ、喉が渇いたので私はこれで失礼致します」
ニッコリ微笑んで、スカートを摘みカーテシーしてその場を離れる挨拶をする。
「春の女神様、また会いましょう」
和やかに挨拶しているが、きっと腹の中は真っ黒な感情が渦巻いているに違いない。
朔耶はその場を離れ、念の為、征一郎が指差した場所に行きお茶を貰い喉を潤す。
離れた所から二人のやり取りを眺める。
火澄様の仕事の内容は何一つ聞かされてない。けど、砂糖の輸入が重要な事になるのは間違いない。外務大臣の大塚卿相と関係あるのかもそれなが、今の段階では、何一つ分からない。
穏やかに話しているが、目は笑ってない。それは大塚卿相も同じ。むしろ、卿相の方が酷い。
そして、何故か二人して会場を出ていく。
追いかけた方がいいのか迷った。邪魔をするのは悪いと思いながらも、自然と足が動き出す。
朔耶は周りの視線を気にしながらも会場を出ていく。
賑やかな音楽や談笑が、扉一枚で遮断される。微かに漏れ出る音を背に薄暗い廊下を歩く。
すると、僅かに開いた扉が現れる。何故か少し気になり中をそっと覗こうと体を近づける。
「・・・・・・・」
「気になるの?」
「!!」
しまった・・・・・完全に周りを気にしてなかった。
「厠に行こうと思っていたのですが、少し気になってしまって・・・・・ごめんなさい」
自然に誤魔化そうと、咄嗟に出た言葉は「厠」だった。
慌て振り向くと、車椅子に座った女性と、それを動かす若い女性がいた。
桜色の振り袖姿に白い布を被った女性は、声からして若い。
不審に思うこともなく、純粋に聞いている。
「あら、そうなの?色々と嗅ぎ回ろうとする間者の人かと思ったけど・・・・・・違ったかしら?」
「間者?違います。私は招待客の一人です。旦那様と参りました」
不味い・・・・・・疑われている。どうにかして切り抜けないと・・・・・
「まぁ、どちらでも構わないわ。貴女、ホールで踊っていた人でしょう?羨ましいわ・・・・踊れて。ほら、私、こんなんでしょう?」
軽く、両手を広げる。私の体は不自由なの。貴女は動けていいわね?そう、訴えられているようにも感じる。
「・・・・・・・・」
何も言えない。ここで何かを言ったら増々、疑われると悟ったからだ。
「ここはね、地下室に繋がっているの。貴女なら中に入ってもいいわ」
「何を言っているのですか?意味がよく分からないのですが・・・・・・・」
朔耶は混乱する頭で、この人物の言葉の意味を考えようとする。
なのに、相手は朔耶を押し込めようとしたいのか段々と近づいてくる。
「さあ、入っていって?」
「ですから、何の冗談を・・・・・・」
逃げようとすれば逃げられるのに出来ない。
逃げられる道は一つ、地下に繋がる階段に足を踏み入れるのみ。
「さぁ・・・・・・・」
「っぅ・・・・・・・」
朔耶は仕方なく足を踏み入れた。けど、相手は更に近づく。中に完全に入り、地下に行くまで居続けるつもりかもしれない。
朔耶はドレスの裾を踏まないように軽く持ち上げ、振り返らず階段をゆっくりと降りていく。
「ばいばい」
軽やかな、楽しそうな声が背後から聞こえてきた。けど、振り返ったら何か、恐ろしい事がありそうな気がして振り返れなかった。
やがて、パタンと扉の閉まる音が聞こえる。
完全に閉じ込められたのが分かる。このまま上まで登り、扉を叩いて気付いてもらうことも出来るのかもしれない。
けど、地下に行かないといけないような気もしてくる。
意味が分からないが、そうしなければいけないのだと、自分の頭が訴えている。
緊張からか両腕がピクピクと痙攣に似た、震えを生み出す。
「・・・・・行かなくては・・・・・・」
朔耶の声からは緊張した声が辛うじて紡がれる。
仮面で視界が悪い中、薄暗い階段をゆっくりと転ばぬ様に降りていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大塚卿相と何の話をしにいったのか?
視線は何の視線か?
朔耶を地下に押し込めた人物は何者か?
そして、地下には何がある?
やっと、話が色々と動き出したような気が・・・・
そして、ヒーロー枠の征一郎はピンチの朔耶を救えるのか?
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