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車から降りるまで、ルードヴィッヒから一方的に与えられる快楽に、何とかして声を出さないように、ひたすらに口元を抑え続けていた。
車のドアを開けてもらう頃には、一人で歩くことも出来ずルードヴィッヒに横抱きで部屋まで連れて行かれる。
「凪ちゃんは甘えん坊だな。そこも可愛いんだけどね」
笑いながら歩く。何かを言う気力もなく、睨む事しか出来ない自分に、歯痒い気持ちだけが残る。
扉の前に侍女がいて、ルードヴィッヒを見つけて、一礼するとその扉を開く。ルードヴィッヒはそのまま部屋の中に入っていくと、深緑色の布張りのソファに夜神を座らせると、自分も一緒に座り込む。
するともう一人の侍女がワゴンにティーセットを乗せ押して部屋に入ると、目の前で紅茶を入れ始める。
紅茶の香りが鼻孔に広がる。
そして二人の侍女は一礼して部屋を出て行く。
「今日から凪ちゃんが使う部屋はここだよ。後でゆっくり見て回るといい。夕食の時間になったら迎えを寄越すからね。とりあえず今日は鍵をするけど、明日からは庭園とか見て回っていいからね」
拘束している両手の鎖に触れると、ボロボロと崩れて、跡形もなく消えていく光景に夜神は動くことが出来なかった。皇帝の力は未知数なのだ。
「そんなに私の力が気になるのかい?嬉しな、興味をもってくれて」
触れていた両手首を掴むと頭上に持ち上げて、ソファに押し倒す
「なっ!」
そして顔を覗き込むルードヴィッヒの顔は愛おしむような優しい笑顔だった。
「凪ちゃんはどうしてこの世界に来たか知ってるかい?」
「・・・・同胞を沢山殺したからでしょう。そして復讐をするためでしょう」
「違うよ。「スティグマ」があるからだよ」
「スティグマ?」
聞き慣れない単語に夜神は聞き返した。そんなもの宗教の類でしか聞いたことがないからだ。
「私が授けたんだよ。スティグマをもっているのは凪ちゃん一人しか居ない。そしてスティグマを持っている人間に、吸血行為や身体的に害する行為はこの世界では禁じられている。だから凪ちゃんを殺したいほど憎んでいても、スティグマがあるからなにも出来ない。今日の団長を見たら分かるだろう?部下を何人も失っているのに、手出しが出来なかったんだ、凪ちゃんは私の庇護のもと守られている。ねぇ、憎い吸血鬼に結果守られているのはどんな気分?」
愛おしむ顔は話しているうちに、どんどん狂喜的な顔になり、最期は唇を歪めていく。
殺したいほど憎い吸血鬼に、結果守られているのだ。こんな矛盾笑わないほうが可笑しい。ルードヴィッヒは楽しくて、楽しくてどうしょうもなかった。
「白目の魔女」と言われて、吸血鬼から憎しみの対象として見られているのに、まさかの皇帝に守られているのだ。その矛盾は笑う以外ない。
案の定、夜神は話を最後まで聞いているうちに、顔の表情が驚きから悔しそうに唇を噛んで何かに耐えている。その変化にルードヴィッヒは高揚を覚えた。
たが、これ以上は関わる予定はない。荒らすだけ荒らして、何もしないのがルードヴィッヒのやり方だからだ。
「私は公務が残っているから、これで失礼するね。夕食は一緒に食べようね。「約束」はちゃんと守ってね。必ず食べないと・・・・・分かっているよね」
押し倒していた夜神から体を起こして、ルードヴィッヒはそのまま振り返りもせず部屋を出て行く。
夜神は押し倒されたままの状態で動けなかった。最後の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
━━━━━━い吸血鬼に結果守られている━━━━━━
残酷の一言で片付けるのとも違う。
夜神は自由になった両手で何とかソファから倒れていた体を起こして、深く座る。
室内なのに寒く感じるのは気のせいだろうか。自分で肩を抱き寄せて寒さから逃げようとする。けれど、どんどん寒さがやってくる。
「もう、嫌だ。誰か助けて・・・・庵君・・・・」
泣きたくないのに、次々に涙が出てくる。悲しいのか、悔しいのか自分でも分からない。
何故か庵の顔が頭をよぎる。昔からいる第一室の人間でも、恩師の先生でもなく学生の庵の顔が次々に出てくる。
静かに泣いていたが、少し落ち着いてきたのか、体の震えも少しずつ治まってきた。
しばらく呆然として目の前の紅茶を見ていたが、無意識に手を伸ばしてカップを持っていた。
軽く一口飲んで毒の有無を調べる。ただの紅茶だと分かると、冷めてしまった紅茶を一気に飲む。
酷く喉が渇いていたことを思い出すとポットから注いで二杯、三杯と飲んでいく。
守られているなら、それを逆に利用すればいい。手出しが出来ないなら好都合だ。
この世界の情報はあまりにも少なすぎるのだ。期間を決めて留まるのだから、少しでも有益なものを手に入れなければ。
━━━━利用すればいい。夜神は己の置かれている状況を、逆に利用することにシフトチェンジする。嘆いていても変わらないのだ。ならば最大限活かせばいいだけだ。
立ち上がって、部屋の中を見回す。まずは己の居るところからの状況整理と安全かどうかの確認にとりかかることにした。
車のドアを開けてもらう頃には、一人で歩くことも出来ずルードヴィッヒに横抱きで部屋まで連れて行かれる。
「凪ちゃんは甘えん坊だな。そこも可愛いんだけどね」
笑いながら歩く。何かを言う気力もなく、睨む事しか出来ない自分に、歯痒い気持ちだけが残る。
扉の前に侍女がいて、ルードヴィッヒを見つけて、一礼するとその扉を開く。ルードヴィッヒはそのまま部屋の中に入っていくと、深緑色の布張りのソファに夜神を座らせると、自分も一緒に座り込む。
するともう一人の侍女がワゴンにティーセットを乗せ押して部屋に入ると、目の前で紅茶を入れ始める。
紅茶の香りが鼻孔に広がる。
そして二人の侍女は一礼して部屋を出て行く。
「今日から凪ちゃんが使う部屋はここだよ。後でゆっくり見て回るといい。夕食の時間になったら迎えを寄越すからね。とりあえず今日は鍵をするけど、明日からは庭園とか見て回っていいからね」
拘束している両手の鎖に触れると、ボロボロと崩れて、跡形もなく消えていく光景に夜神は動くことが出来なかった。皇帝の力は未知数なのだ。
「そんなに私の力が気になるのかい?嬉しな、興味をもってくれて」
触れていた両手首を掴むと頭上に持ち上げて、ソファに押し倒す
「なっ!」
そして顔を覗き込むルードヴィッヒの顔は愛おしむような優しい笑顔だった。
「凪ちゃんはどうしてこの世界に来たか知ってるかい?」
「・・・・同胞を沢山殺したからでしょう。そして復讐をするためでしょう」
「違うよ。「スティグマ」があるからだよ」
「スティグマ?」
聞き慣れない単語に夜神は聞き返した。そんなもの宗教の類でしか聞いたことがないからだ。
「私が授けたんだよ。スティグマをもっているのは凪ちゃん一人しか居ない。そしてスティグマを持っている人間に、吸血行為や身体的に害する行為はこの世界では禁じられている。だから凪ちゃんを殺したいほど憎んでいても、スティグマがあるからなにも出来ない。今日の団長を見たら分かるだろう?部下を何人も失っているのに、手出しが出来なかったんだ、凪ちゃんは私の庇護のもと守られている。ねぇ、憎い吸血鬼に結果守られているのはどんな気分?」
愛おしむ顔は話しているうちに、どんどん狂喜的な顔になり、最期は唇を歪めていく。
殺したいほど憎い吸血鬼に、結果守られているのだ。こんな矛盾笑わないほうが可笑しい。ルードヴィッヒは楽しくて、楽しくてどうしょうもなかった。
「白目の魔女」と言われて、吸血鬼から憎しみの対象として見られているのに、まさかの皇帝に守られているのだ。その矛盾は笑う以外ない。
案の定、夜神は話を最後まで聞いているうちに、顔の表情が驚きから悔しそうに唇を噛んで何かに耐えている。その変化にルードヴィッヒは高揚を覚えた。
たが、これ以上は関わる予定はない。荒らすだけ荒らして、何もしないのがルードヴィッヒのやり方だからだ。
「私は公務が残っているから、これで失礼するね。夕食は一緒に食べようね。「約束」はちゃんと守ってね。必ず食べないと・・・・・分かっているよね」
押し倒していた夜神から体を起こして、ルードヴィッヒはそのまま振り返りもせず部屋を出て行く。
夜神は押し倒されたままの状態で動けなかった。最後の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
━━━━━━い吸血鬼に結果守られている━━━━━━
残酷の一言で片付けるのとも違う。
夜神は自由になった両手で何とかソファから倒れていた体を起こして、深く座る。
室内なのに寒く感じるのは気のせいだろうか。自分で肩を抱き寄せて寒さから逃げようとする。けれど、どんどん寒さがやってくる。
「もう、嫌だ。誰か助けて・・・・庵君・・・・」
泣きたくないのに、次々に涙が出てくる。悲しいのか、悔しいのか自分でも分からない。
何故か庵の顔が頭をよぎる。昔からいる第一室の人間でも、恩師の先生でもなく学生の庵の顔が次々に出てくる。
静かに泣いていたが、少し落ち着いてきたのか、体の震えも少しずつ治まってきた。
しばらく呆然として目の前の紅茶を見ていたが、無意識に手を伸ばしてカップを持っていた。
軽く一口飲んで毒の有無を調べる。ただの紅茶だと分かると、冷めてしまった紅茶を一気に飲む。
酷く喉が渇いていたことを思い出すとポットから注いで二杯、三杯と飲んでいく。
守られているなら、それを逆に利用すればいい。手出しが出来ないなら好都合だ。
この世界の情報はあまりにも少なすぎるのだ。期間を決めて留まるのだから、少しでも有益なものを手に入れなければ。
━━━━利用すればいい。夜神は己の置かれている状況を、逆に利用することにシフトチェンジする。嘆いていても変わらないのだ。ならば最大限活かせばいいだけだ。
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