135 / 325
113
しおりを挟む
庵のテストに向けて色々と対策していく中、心の中で引っ掛かりのある事を確かめる為、夜神は弓道場に向かっていた。
弓道場の近くからは「パ━━ン!」と紙を勢いよく射る軽い音が聞こえてくる。
中に入ると射場には、シャツにズボン姿の男性が弓を構えていた。
そして、弓懸で弦を引っ張って、手を離すと矢は勢いよく放たれて的に当たる
「射!!」
弓を習った時に教えてもらった声掛けをする。
「夜神大佐か。どうしたんだい?」
「流石ですね。藤堂中佐。的の真ん中に全部命中してますよ」
「父親に比べたらまだまだだよ。折角だからどうだろう?」
第三室の藤堂中佐は、弓を夜神に見せて誘う。
藤堂元帥も中佐も「高位クラス武器」が弓だけあって、時間を見つけては稽古をしている。
「久しぶりだから覚えているかな?」
「更衣室に共有の弓懸があるからそれを使ってくれ。あと、上着とネクタイは外すように」
「分かった、準備してくる」
夜神は言われた通り更衣室に向かう。その間、藤堂は共有の所から弓や矢を準備しておく。
しばらくして、シャツに胸当てを付けた姿で射場やってくる。
「これを使用してくれ」
「ありがとう」
藤堂から弓矢を受け取ると、二人並んで射始める。
無言で一射、さらに一射と射っていく。その度に、互いの的を射る音が聞こえる。
最後の矢をつがえたときに藤堂は夜神に問いかける。
「父親の事を聞きに来たのか?」
「・・・・・そうです藤堂中佐。元帥はあれから特に変わった様子はないのですか?」
「一緒に住んでないから分からないが、自分が見ても普段と変わらない様子だよ。ただ、内面は穏やかではないだろうが」
夜神は元帥の事を心配していた。ベルナルディ中佐の発言を伝えてしまったばっかりに、元帥の進退問題が浮上してきたのだ。
今までも衝突はあったようだが、今回は自分が大きく関わっている事もあり、今の状態がどうなのか、気が気でなかった。
本人に直接聞く訳にもいかず悩んだ結果、息子の藤堂 義武中佐に尋ねたのだ。
「そうですか」
思いっきり弦を引いて手を離す。矢は的からわずかに離れて刺さる。
「心情が出ているぞ」
藤堂も手を離す。その矢は的の真ん中に刺さる
「でてますか?仕方ないですよ。私が発端になっているようにしか思えないのですから」
夜神は藤堂の背中を見ながら呟く。何にせよ切っ掛けを作ったのは間違いないのだから。
静かに両手を腰に当てて、足を閉じて弓倒しをする藤堂は、動作と同じように静かな声で
「気に病む必要はない。元々、父親もおかしいと思っていたんだ。それは七海中将をはじめとする、心あるものは皆思っていた。そして、今回の件で直接勝負に出ただけだ。結果は惨敗だったけどな。けど、それで諦める父親でもないことは重々承知している。でなければ元帥なんて地位に居ないからな」
ゆっくりと振り向いて、夜神を見る瞳は元帥と同じような雰囲気をまとっている。昔から見ている、何故か安心出来る眼差しだ。
「だが、諦めたわけではない。折を見て父親達はなにかするさ。その時は虎次郎や私は、必ず力を惜しみなく提供する」
「・・・・私も力になるよ」
「あぁ、分かっているよ」
心のモヤモヤが少しは晴れたような気がした。元帥の悔しそうな顔がずっと頭から離れなかった。
一番は本人に確認するのが良いのだろうが、蒸し返さないようにと言われている。
「ありがとう。少しすっきりしたよ。ねぇ、もう一度弓をしてもいい?」
「構わないよ。好きなだけすればいいよ」
「ありがとう。じゃ、矢取りいってきまーす!」
弓を藤堂に預けて、矢道を走り矢を回収して帰ってくる
「戻りました~それにしても霞的でも、真ん中に射てればいい方なのに、八寸的の真ん中に射てれるのは練習量の違い?」
霞的より一回り小さい八寸的の真ん中に、藤堂は何本もの矢を命中させていたのだ。回収した時に、的の大きさを見比べて驚いたのだ。
「夜神大佐も稽古を欠かさないだろう?それと同じだよ。逆にあんな防具を身に着けて、視界も狭まっているのに、縦横無尽に移動するのは凄いと思うよ。私は未だに慣れないよ」
「フフフッ、互いに無い物ねだりだね」
「そうだね」
土で汚れた鏃を拭きながら、互いの得意な武道を褒め合う。
それが終わると自分の矢を持って、所定の位置に着くとまた射ちだす。
今度は迷いのない姿勢と軌道で、的の真ん中に近い所を命中していく。
それは今の心情を現しているようでもあった。
弓道場の近くからは「パ━━ン!」と紙を勢いよく射る軽い音が聞こえてくる。
中に入ると射場には、シャツにズボン姿の男性が弓を構えていた。
そして、弓懸で弦を引っ張って、手を離すと矢は勢いよく放たれて的に当たる
「射!!」
弓を習った時に教えてもらった声掛けをする。
「夜神大佐か。どうしたんだい?」
「流石ですね。藤堂中佐。的の真ん中に全部命中してますよ」
「父親に比べたらまだまだだよ。折角だからどうだろう?」
第三室の藤堂中佐は、弓を夜神に見せて誘う。
藤堂元帥も中佐も「高位クラス武器」が弓だけあって、時間を見つけては稽古をしている。
「久しぶりだから覚えているかな?」
「更衣室に共有の弓懸があるからそれを使ってくれ。あと、上着とネクタイは外すように」
「分かった、準備してくる」
夜神は言われた通り更衣室に向かう。その間、藤堂は共有の所から弓や矢を準備しておく。
しばらくして、シャツに胸当てを付けた姿で射場やってくる。
「これを使用してくれ」
「ありがとう」
藤堂から弓矢を受け取ると、二人並んで射始める。
無言で一射、さらに一射と射っていく。その度に、互いの的を射る音が聞こえる。
最後の矢をつがえたときに藤堂は夜神に問いかける。
「父親の事を聞きに来たのか?」
「・・・・・そうです藤堂中佐。元帥はあれから特に変わった様子はないのですか?」
「一緒に住んでないから分からないが、自分が見ても普段と変わらない様子だよ。ただ、内面は穏やかではないだろうが」
夜神は元帥の事を心配していた。ベルナルディ中佐の発言を伝えてしまったばっかりに、元帥の進退問題が浮上してきたのだ。
今までも衝突はあったようだが、今回は自分が大きく関わっている事もあり、今の状態がどうなのか、気が気でなかった。
本人に直接聞く訳にもいかず悩んだ結果、息子の藤堂 義武中佐に尋ねたのだ。
「そうですか」
思いっきり弦を引いて手を離す。矢は的からわずかに離れて刺さる。
「心情が出ているぞ」
藤堂も手を離す。その矢は的の真ん中に刺さる
「でてますか?仕方ないですよ。私が発端になっているようにしか思えないのですから」
夜神は藤堂の背中を見ながら呟く。何にせよ切っ掛けを作ったのは間違いないのだから。
静かに両手を腰に当てて、足を閉じて弓倒しをする藤堂は、動作と同じように静かな声で
「気に病む必要はない。元々、父親もおかしいと思っていたんだ。それは七海中将をはじめとする、心あるものは皆思っていた。そして、今回の件で直接勝負に出ただけだ。結果は惨敗だったけどな。けど、それで諦める父親でもないことは重々承知している。でなければ元帥なんて地位に居ないからな」
ゆっくりと振り向いて、夜神を見る瞳は元帥と同じような雰囲気をまとっている。昔から見ている、何故か安心出来る眼差しだ。
「だが、諦めたわけではない。折を見て父親達はなにかするさ。その時は虎次郎や私は、必ず力を惜しみなく提供する」
「・・・・私も力になるよ」
「あぁ、分かっているよ」
心のモヤモヤが少しは晴れたような気がした。元帥の悔しそうな顔がずっと頭から離れなかった。
一番は本人に確認するのが良いのだろうが、蒸し返さないようにと言われている。
「ありがとう。少しすっきりしたよ。ねぇ、もう一度弓をしてもいい?」
「構わないよ。好きなだけすればいいよ」
「ありがとう。じゃ、矢取りいってきまーす!」
弓を藤堂に預けて、矢道を走り矢を回収して帰ってくる
「戻りました~それにしても霞的でも、真ん中に射てればいい方なのに、八寸的の真ん中に射てれるのは練習量の違い?」
霞的より一回り小さい八寸的の真ん中に、藤堂は何本もの矢を命中させていたのだ。回収した時に、的の大きさを見比べて驚いたのだ。
「夜神大佐も稽古を欠かさないだろう?それと同じだよ。逆にあんな防具を身に着けて、視界も狭まっているのに、縦横無尽に移動するのは凄いと思うよ。私は未だに慣れないよ」
「フフフッ、互いに無い物ねだりだね」
「そうだね」
土で汚れた鏃を拭きながら、互いの得意な武道を褒め合う。
それが終わると自分の矢を持って、所定の位置に着くとまた射ちだす。
今度は迷いのない姿勢と軌道で、的の真ん中に近い所を命中していく。
それは今の心情を現しているようでもあった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる