ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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庵のテストに向けて色々と対策していく中、心の中で引っ掛かりのある事を確かめる為、夜神は弓道場に向かっていた。

弓道場の近くからは「パ━━ン!」と紙を勢いよく射る軽い音が聞こえてくる。
中に入ると射場には、シャツにズボン姿の男性が弓を構えていた。

そして、弓懸ゆがけで弦を引っ張って、手を離すと矢は勢いよく放たれて的に当たる

「射!!」
弓を習った時に教えてもらった声掛けをする。
「夜神大佐か。どうしたんだい?」
「流石ですね。藤堂中佐。的の真ん中に全部命中してますよ」
「父親に比べたらまだまだだよ。折角だからどうだろう?」
第三室の藤堂中佐は、弓を夜神に見せて誘う。

藤堂元帥も中佐も「高位クラス武器」が弓だけあって、時間を見つけては稽古をしている。

「久しぶりだから覚えているかな?」
「更衣室に共有の弓懸があるからそれを使ってくれ。あと、上着とネクタイは外すように」
「分かった、準備してくる」
夜神は言われた通り更衣室に向かう。その間、藤堂は共有の所から弓や矢を準備しておく。

しばらくして、シャツに胸当てを付けた姿で射場やってくる。
「これを使用してくれ」
「ありがとう」
藤堂から弓矢を受け取ると、二人並んで射始める。
無言で一射、さらに一射と射っていく。その度に、互いの的を射る音が聞こえる。
最後の矢をつがえたときに藤堂は夜神に問いかける。

「父親の事を聞きに来たのか?」
「・・・・・そうです藤堂中佐。元帥はあれから特に変わった様子はないのですか?」
「一緒に住んでないから分からないが、自分が見ても普段と変わらない様子だよ。ただ、内面は穏やかではないだろうが」

夜神は元帥の事を心配していた。ベルナルディ中佐の発言を伝えてしまったばっかりに、元帥の進退問題が浮上してきたのだ。
今までも衝突はあったようだが、今回は自分が大きく関わっている事もあり、今の状態がどうなのか、気が気でなかった。
本人に直接聞く訳にもいかず悩んだ結果、息子の藤堂 義武中佐に尋ねたのだ。

「そうですか」
思いっきり弦を引いて手を離す。矢は的からわずかに離れて刺さる。
「心情が出ているぞ」
藤堂も手を離す。その矢は的の真ん中に刺さる
「でてますか?仕方ないですよ。私が発端になっているようにしか思えないのですから」
夜神は藤堂の背中を見ながら呟く。何にせよ切っ掛けを作ったのは間違いないのだから。

静かに両手を腰に当てて、足を閉じて弓倒しゆだおしをする藤堂は、動作と同じように静かな声で
「気に病む必要はない。元々、父親もおかしいと思っていたんだ。それは七海中将をはじめとする、心あるものは皆思っていた。そして、今回の件で直接勝負に出ただけだ。結果は惨敗だったけどな。けど、それで諦める父親でもないことは重々承知している。でなければ元帥なんて地位に居ないからな」

ゆっくりと振り向いて、夜神を見る瞳は元帥と同じような雰囲気をまとっている。昔から見ている、何故か安心出来る眼差しだ。

「だが、諦めたわけではない。折を見て父親達はなにかするさ。その時は虎次郎や私は、必ず力を惜しみなく提供する」
「・・・・私も力になるよ」
「あぁ、分かっているよ」

心のモヤモヤが少しは晴れたような気がした。元帥の悔しそうな顔がずっと頭から離れなかった。
一番は本人に確認するのが良いのだろうが、蒸し返さないようにと言われている。

「ありがとう。少しすっきりしたよ。ねぇ、もう一度弓をしてもいい?」
「構わないよ。好きなだけすればいいよ」
「ありがとう。じゃ、矢取りやとりいってきまーす!」

弓を藤堂に預けて、矢道を走り矢を回収して帰ってくる
「戻りました~それにしても霞的かすみまとでも、真ん中に射てればいい方なのに、八寸的はっすんまとの真ん中に射てれるのは練習量の違い?」

霞的より一回り小さい八寸的の真ん中に、藤堂は何本もの矢を命中させていたのだ。回収した時に、的の大きさを見比べて驚いたのだ。

「夜神大佐も稽古を欠かさないだろう?それと同じだよ。逆にあんな防具を身に着けて、視界も狭まっているのに、縦横無尽に移動するのは凄いと思うよ。私は未だに慣れないよ」
「フフフッ、互いに無い物ねだりだね」
「そうだね」

土で汚れたやじりを拭きながら、互いの得意な武道を褒め合う。
それが終わると自分の矢を持って、所定の位置に着くとまた射ちだす。

今度は迷いのない姿勢と軌道で、的の真ん中に近い所を命中していく。
それは今の心情を現しているようでもあった。
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