ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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朝から小舟に乗り、周りの風景を楽しむ。
首都から西に90㎞離れたラチャブリー県のダムナンサドゥアクの水上マーケットを、タイの女性軍人達と一緒に楽しむ夜神がいた。

サバイバルゲームが終わり、満身創痍のワサン中佐は夜神に七海中佐考案の案件を尋ねる。
あわよくばと、周りの男達は己の名前を叫び夜神と観光することを夢見て立候補する。
いつもの光景に日本軍は「毎度の事ながら凄いなぁ・・・」と感心する。
けど、その後の光景も知ってるだけに、笑うのを堪えているところがある。

夜神はワサン中佐から誰と行くかと聞かれた時、いつものように女性軍人の人達に声を掛けた。すると周りの男達は嘆き悲しむ声が聞こえてくる。
すすり泣く者、天を見上げる者と様々な仕草で悲しみを表現している。

「これ、これ!相変わらず笑いの提供が凄まじいぜ」
無精ひげを撫でながら、周りの光景を楽しむ七海に式部はため息をする。
「虎、そのうち大佐から仕返しあるかもしれないわよ?」
「その時はその時だよ。式部も楽しんでるだろう実は?」
「あら?バレてたの」
長い付き合いだからバレバレですよ式部さん・・・とは口には出さなかったが、きっと分かっているだろうとあえて何も言わず、二人で眺めていたのは夜神に内緒だ。

七海達が楽しんでいることなど知らずに夜神は、女性軍人達と話してある程度の行き先と、時間を決めてその場から離れる。これもいつもの事である意味、慣れた光景でもある。そうしてサバイバルゲームは日本軍の勝利で幕を閉じた。

そして、翌日は朝から水上マーケットで有名なダムナンサドゥアクに来ているのだ。
『朝が一番の見所だから早くてごめんなさい夜神大佐』
『とんでもないです。一度見てみたいと思っていたのでこれぐらい大丈夫ですよ』

タイの女性軍人達と一緒に夜神は二手に別れて船に乗り込んで楽しむ。
『お土産はかさばるから食べ物系がいいわよ。似たようなお土産はバンコクでも売ってるから』
『そうなんですね。でも、見てるだけでも楽しいですね』

活気に溢れている所を見ると嬉しくなる。吸血鬼に脅かされることなく生活している人々が居ることを肌で感じられるから。
色取り取りのフルーツや布や花を売る小舟。料理を作る小舟。籠などの生活用品を売る小舟など買い物をしなくても十分に楽しめる。
『はい、バナナよ。観光価格で値段は高いけど折角だから楽しみましょう!』
先程、船を止めて買っていたバナナを、全員に渡してくる女性軍人から受け取り一口食べる。
気分の問題か、熱帯の恵みか分からないが、濃厚で甘みがあり何本でも食べられそうだった。

マーケットを楽しんだあとはバンコクに戻り、金色の寝仏像で有名な「ワット・ポー寺院」にいく。
バンコクで最も歴史のある古い仏教寺院で1788年に建立され、本堂やヨガのポーズのユニークな石像群などある見所が多い。
そして、タイ式マッサージの総本山でもある。

そして、一番の見所は寝仏像だろう。
『これが、有名な寝仏像ですね』
『そうよ。びっくりでしょう?横たわっているのは悟りを開いたことを意味するのよ』
『へ~そういう意味なんですね』
『そして、扁平足は超人であることを表し、足の裏には仏教と深い関わりを持つバラモン教の宇宙観が108の絵で表してるの』
『宇宙かぁ~』
大きな黄金色に輝く寝仏像の大きさに感心しながら夜神達はグルリと一周する。
なんで横になってるのか不思議だったが、理由を聞いて納得する。それも実際に見ながら教えてもらえるのは有り難い。

『そろそろご飯食べに行きましょう!』
『楽しみです』
『私達の行きつけでいい?さすがに屋台は何かあったら困るから、お店になるけど味は本場だから安心して!』
『おまかせします。皆さんの行きつけなら間違いないですね』
『もちろんよ!それにしても男共の嘆き悲しみが笑えたわ~』
『本当よね~とくにアポヤポン少佐!!傑作だった』
女性軍人の話は、夜神が誰と観光に行くかの時の話で盛り上がる。

ワサン中佐と長谷部中佐の私闘は既に周知されており、そのボロボロの顔を見てみな、心のなかでは拍手を送っていた。
そして、次こそは白黒決めて貰いたいと思った。

サバイバルゲームの結果は夜神大佐が一位で予想通りで、イタリア軍の演習でベルナルディ中佐が一位になり、大佐と一緒に観光したのは全軍に衝撃を与えたと同時に、夜神崇拝者の男達には希望を与えた。
サバイバルゲームなら、一緒に観光出来ることを。

そして崇拝者の一人アポヤポン少佐は、ワサン中佐が観光案内に勧めてくれた時、心の中でガッツポーズをしていた。
もしかしたら!?と、思っていたが女性達に声をかけているところを見て、打ちひしがれた。天を仰いでため息していた。

それを見ていた女性達は話のタネとして今、花を咲かせながら話している。
夜神個人としては、男性と一緒に行くことは元々考えてなかったし、庵君と付き合うようになった今は極力避けたかった。
もし、あの場の誰かと行ったなら仄暗い狂気をはらんだ瞳で、ひたすらに攻められるのは間違いない。泣いても許しを請うても庵君の気が済むまで、私が気絶するまで何度もされる。

一瞬、背中がゾクリとなったのは気のせいだろうか?


お店でお馴染みのガパオライスが出てきたが、最初メニューを見た時に驚いた。
ガパオとはハーブのことらしい。そして、ガパオライスでは通じなかった。
「ガイ・パット・ガパオ・ラート・カオ」と注文しないと通じなかった。

『大佐、これも食べてみて!「ソム・タイ」って言って青パパイヤのサラダなの。タイではオーソドクスなサラダよ』
パパイヤの甘さ、塩のしょっぱさ、ライムの酸っぱさ、唐辛子の辛さのバランスが絶妙なサラダだった。

長谷部中佐の件は次に期待することとなったが、色々と学べて良かったと思っている。
願うなら、水上マーケットで見た笑顔を一日も絶やすことなく、人々を守りたい。
お礼も、感謝もない。誰も組織を知らない。
自分達が吸血鬼の驚異に晒されているとも知らない。
けど、それでいい。
知らないほうがいい。悲しい思いをする人を増やしたくない。

その為の私達なんだから・・・・・

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

タイ演習はこれで終了です。
さら~~と進みました。戦闘をあまり書かなかったのはちょっと寂しいような・・・

タイは行ったことないので全部、写真と映像と妄想で書いてます。違っていたらすみません。

この演習中に日本軍のある男達の話がこのあと出てきて、大佐が大変な事になります。たのしんで待っていてください
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