ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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夜神と別れた二人は急いで第一室に駆け込んでいく。
扉をノックして、勢いよく入室すると、目の前に飛び込んでくるのは、大きな執務机に座る長谷部室長と、周りを囲む七海や相澤中佐、庵伍長と第四室長の有栖川室長だ。

「只今戻りました」
二人は敬礼して二人の室長に挨拶する。
「ご苦労だった。様子はどうだった」
無表情だがよく見ると、眉が少し寄っている。
「痩せていました。本人は元気そうに振る舞ってましたが・・・・・」
「軍服を一式持ってきて欲しいと願いがありました。きっと上層部にいた時は、殆どの願いは却下されていたのでしょう。あまりにも酷いです」
二人の女性大尉からの報告で、二人の室長はため息をする
「藤堂元帥が心配していたがやはりな・・・・・」
「精神的にボロボロにして、帝國に渡すとか上層部は鬼畜の集団かなにかなのかしら?」
部屋が沈黙で包まれる。すると、それを散らしたのが七海中佐の声だった。

「他に何か持ってきて欲しい物はあったか?食い物とかさ?」
「「・・・・・・・・」」
二人の大尉は顔を見合わせる。それを見て七海が口を開こうとすると、式部が静かに話す
「あのね、「指輪」を持ってきて欲しいんだって。大事な人に貰った物だから最後まで身につけたいんだって」
に貰ったとは言わなかったが、式部は庵の顔を見て話した。
その様子を見て七海は理解したようで
「そうか・・・・なら、ちゃんと渡さないとな」
庵の頭を軽く叩きながら七海は力強く話す。
頭の重みに庵は奥歯をギリギリと噛み締めて、握り拳を作り、震わした。

あれ程守りたいと心願ったのに、結局何も出来ない自分が悔しい・・・・・

「式部大尉、野村大尉お願いします」
今の庵に出来るのは二人の大尉に託して、確実に夜神の手に渡して欲しいとお願いするしかなかった。
「もちろんよ・・・・だから虎、力を貸してほしいの。上層部だもの。なんにもなかったとしても、対策はしていたほうがいいでしょう?」
「了解!任せろ・・・・・他に欲しい物はなかったのか?」
「うんん。その二つだけだったの」

それを聞いて、七海は「う~ん」と言いながら無精ひげを撫でていく。
その様子を部屋にいた全員で見守る。すると考えがまとまった七海が少しだけ小声で話していく。
「夜神は剣士だ。刀の手入れ道具は必要だろう?庵青年!道具の場所は知ってるか?」
「もちろん知ってます!」
「よし!後は適当に食い物を・・・・お菓子系でいいだろう。これらは俺たちからとか言っとけ。そして目くらましにインパクトのあるなにかだな・・・・・」
そこで、考え込む七海に野村大尉が「あっ!」と声を出す。
「あれよ!あれ!鮫のぬいぐるみ!大きいし、抱き枕として大佐使っていたし、問題なくない?」
名案だ!と、顔に書いている野村大尉に、二人の室長は「え?」と驚いた顔になる。
普段の夜神からは考えられない持ち物に対してだろう。すると、七海は「おぉ!」と顔が喜んでいる。
「ナイスアイディア!それだよ!それ!俺って天才!夜神にプレゼントしたのが役に立つとは!」

それを頑張って持って行ったのは俺です!と、は言わなかったが、まさかこんな風に役に立つとは思ってもなかったので驚いた。あと、今だに持っていることにも、重ねて驚いた。

「そして、指輪だ。指にはめて持っていってもいいが、それは夜神が嫌がるだろう。なぁ、庵青年」
庵を見て話す七海に「そうだと思います」と返事する。
「だから、ネックレスにして二人のどちらかが、身につけて運べばいい。それぐらいなら夜神も許してくれるだろう。それに夜神は剣士だ。刀を握るときに指輪は邪魔だからな。ネックレスならいいだろう」
「分かった」
式部と野村が頷くと、七海は庵の頭をグチャグチャに掻き回す
「何するんですかっ!!」
何とかして七海の魔の手から逃げ出した庵が、頭を整えながら叫ぶ
「ん~?大丈夫だよ、青年。絶対渡してやるからなぁーの表現?」
無精ひげを撫でながら微笑んでいる七海に庵は、グッと何かを堪えてしまった。そして小声で「ありがとうございます」と言って軽く礼をする。

「よし!手分けして準備しょう。青年は手入れ道具だ。式部達は軍服とぬいぐるみと。俺たちは菓子の用意だ。室長達もこれでいいですか?」
二人の室長に確認する七海に、二人の室長は頷く
「あぁ、構わない」
「えぇ、お願いね」
その言葉に少しくだけた敬礼をして七海は返事する。
「明日の式部達が行くまでに、用意でよろしく!」
その言葉に各々が頷いた。


式部達が出ていった部屋の中でベッドに座り、カーテンの隙間から漏れ出る光を見ながら、何度目かわからないため息をする。
会えたことも、みんなの近況を知ることも出来て嬉しい。けど、それはすぐに終わってしまった。
ずっと続くと思っていた。みんなで馬鹿な話しして、虎次郎に昼食を奢らして、総長からの宿題を必死にこなして、時々差し入れされる『沖や』のお菓子食べて・・・・・・

ずっと続くと思っていたのに・・・・
全部終わってしまう
あと何日したら私は
私は
・・・・・・・・
・・・・・・

「考えたくないよ・・・・・」
背中に悪寒が走り、少しでも温めようと自分を抱きしめる。
想像すればするほどの事を思い出す。

帝國に拉致されてから、軍の病院で目を覚ますまでの間に起こった出来事
自分の純潔を奪われて、人質をとられ、逆らうことも出来ず、決められた期間を過ごしていた。
あの時は二週間と決まっていたが、今回のは違う
一生、死ぬまでいないといけないのかもしれない
きっとまた、人質をとられるかもしれない
自死することも許されず、繰り返される悍ましい行為を、受け入れなければいけないのかもしれない
だって、私には
私には・・・・・・・

『スティグマ』があるから

無意識に首に手を当てて、まるで隠すように覆う。
皇帝の物だと知らしめる「スティグマ」これがある限り、自分の生が尽き果てるまで皇帝の物なのだ

涙が一粒頬を伝う。すると次々に垂れてくる。やがて、声を押し殺して静かに泣き始めた。

行きたくない
行きたくない
なんで!どうして!私が何をしたの?
みんな、みーんな奪われた!
家族も!友達も!住むところも!恩師も!純潔も!自尊心も!誇りも!
これ以上私から奪わないで!
「奪わないでよぉ・・・・」
引くつく声で絞り出された声は力なく、誰かに懇願するような声だった。
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