ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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あれから晩御飯を食べ、シャワーを浴びて眠りについた。
上層部の時はコンビニのパンや弁当、カップ麺ばかりだったが、軍に移動してバランスの取れた食事は久しぶりだった。
大好きな食堂のご飯を食べられるだけで嬉しかったが、炊いた温かいご飯や、出汁を取った味噌汁がこんなにも有り難いとは思わなかった。

布団もフカフカで何もかも忘れたくなってしまった。そのせいかは分からないがぐっすりと眠れることが出来た。

朝、カーテンの隙間から見える光を布団の中から確認する。
陽の光を見れるだけで何故か安堵する。
「朝か・・・・起きないと。申請したら道場とか使えるのかな?」
上層部の時は短い時間でしか体を動かせなかった。
残りは、保護された部屋の中でひたすらストレッチや腕立てなどしか出来なかった。

残り少ない時間で、何処まで技を磨けるのかは分からないが、悔いだけは残したくない。
「来た人に聞かないと分からないよね・・・・誰が来るのか分からないけど。でも、上層部の人間だよね・・・・・」
もし、軍の人間なら御の字だが、上層部なら絶望的だ。
「祈るしか出来ないね。神様がいれば聞いて欲しいな・・・」
ため息をして、ベッドから降りると顔を洗って気持ちを切り替えようと思い洗面所に向った。


「大佐っ!!」
「えっ?鮫太郎?」
「鮫太郎って・・・・・・」
式部と共に現れたのは、部屋のベッドにいたピンク色の鮫のぬいぐるみに驚いて思わず愛称を呼んでしまう。
式部と野村の二人の後ろには、相変わらず小馬鹿にしたような顔をして立っている本條局長がいた。
「時間は十分です。それ以上は認めないので」
そう言って扉を閉める。すると二人は矢継ぎ早に手に持っている物を渡し、語りかける。

「はい!まずはこれね。「沖や」のどら焼きとか豆大福ね。チョコとかもあるからね。甘い物食べて元気出してね」
一つ目の紙袋を渡される。中を見ると「沖や」の紙袋や、チョコやクッキーの包装が見える。

「そして、これが軍服一式ね。所で机にある紙袋はなに?」
クリーニングした時のビニールに入った軍服が、綺麗に入っているのを見て安心する。
これで、背筋を伸ばして戦える
「あの紙袋は前に着てた軍服一式だよ。洗濯をお願いしたんだけど「もう、必要ない」の一点張りで洗うこともできなかったの。けど、これで安心した。ありがとう」
何度も願い出たが、「不必要」と言われてしまった。一体、上層部は私に何を着せて当日を迎えるつもりだったのだろう。

「そうなのね・・・・・後は、これよ。刀の手入れ道具。やっぱり使い慣れた物の方がいいでしょう?」
野村大尉が手渡す紙袋の中には見慣れた桐の箱が入っていた。
「あっ・・・・・ありがとう。これで蒼月達の手入れが出来る。あの子達の手入れが出来なくて、何度もお願いしたのに取り合ってくれなくて・・・・・良かった」
心から安堵の声を出す。大事な刀の手入れが出来なくて、申し訳なくて何度願い出ても「不必要」と軍服と同じように取り合ってくれなかった。

最後まで、きっと最後まで力を貸してくれる、大事な刀の手入れが出来る事に嬉しくなり袋ごと抱きしめた。
それを見ていた二人は悲痛な面持ちで見ていた。

軍服も道具も些細な願いだ。夜神一人で何億の人間が助かるのに何故、上層部はここまで辛く当たるのか・・・・

「あと、これよ!え~と「鮫太郎」?だっけ?」
野村大尉が気持ちを切り替えて鮫のぬいぐるみを渡す。
「相変わらずモチモチしている。ありがとう」
「なんで鮫太郎なの?」
式部の些細な質問に、ぬいぐるみに顔を埋めていた夜神はそのまま応えた
「虎次郎がくれたから」
「単純すぎない?」
その単純で分かりやすい名前に三人は笑った。そして、式部が自分の項に手を回すとネックレスを外す
「本当は巾着に入れて持ってきたほうがいいんだろうけど、確実に渡すために虎次郎と考えたの・・・・・・ごめんなさいね」
少し声のトーンが下がりながらも、そのネックレスを夜神の手のひらに乗せる。
そこにはゴールドの紐をグルグル巻いたような形の指輪が、同じくゴールドのチェーンに通されていた。

「ありがとう・・・・・気にしないで。気にしなくていいから・・・・・・・」
指輪を握りしめると自分の胸に引き寄せて丸くなる。
そして、少し震えてると跡切れながら言葉が出てきた
「・・・・・・・たぁくない!行きたくないよ!」
その言葉を聞いた式部と野村は、顔を歪めて夜神に抱きつく
「私達だって同じよ!!夜神大佐と離れたくないわ!」
「そうよ!みんなそうだよ!」
その言葉を聞いて、夜神の涙腺は決壊した。涙が一粒出てきたら次々に溢れ、こぼれだす。
「みんなといたい。みんなといたいよ!何で?どうして?私が何をしたの?ねぇ、私が何をしたの?」
自分でも何を言っているのか分からなくなるほど、グチャグチャの感情になっていた。

ずっと思っていた事だった
幼少期に皇帝に「スティグマ」を付けられて、そして、軍に入っても「スティグマ」を二度に渡り付けられた。
目の前で大切な人を殺された。母も集落の大人も先生も。
帝國に行ってからは執拗なまでに体を甚振られ、追い詰められた。
そして、今は人類を人質に交渉している。
私は、前世で何か罪なことしたのだろうか?

「いたいよぉ・・・・・・」
いつの間にか式部の胸に顔を埋めて泣いていた。
無言で頭を、背中を撫でる手のぬくもりが心地いい
けど、この感情は気持ちはおさまらない
「庵君に会いたい・・・・・・会いたいよ・・・・・・」
「会いたいよね。会いたいよ。庵伍長も同じ気持よ。夜神大佐の事を凄く心配してる」

会いたい
会いたい
会って、抱きしめられてたい。声を聞きたい。顔を見たい。
私の好きな人
私が守りたいと思った人
私が心から愛する人

「会いたい」
けど、会えない。同じ敷地にいるのに。近くにいるのに。
一目でも、一瞬でもいいから会いたい

また、涙が溢れる。式部の服を濡らしながら泣いていると、無常にも時間は過ぎていく。
部屋の扉が開き、一人の男性が靴音を鳴らして入ってくる
「時間ですよ」
その言葉に逆らうように腕に力が入り抱きしめる
「私達も暇ではないんです。そんな所にいないで仕事して下さい」
ため息をしながら話す本條局長は、一段と冷めた目付きで三人の様子を見て馬鹿にしたような声で話す。
「軍人なら、時間に忠実に行動して下さい」
「・・・・失礼しました。私達はそろそろ退室します」
野村が睨みながら本條局長に話す
「夜神大佐・・・・・負けないでね。私達は私達の出来ることをするから」
「大佐だけに負担はかけさせないから。絶対、絶対させないから!」
二人は立ち上がり、歩きながらも言葉を紡ぎ続ける
「負けないでよ」
「私達は、味方だからね!」
夜神はその言葉を聞きながら頷くしかなかった。それしか出来なかった。

そして、二人は部屋を出ていく。最後まで夜神を按じてあん
部屋には本條局長と夜神の二人だけになると、本條局長は夜神の涙で濡れた顔を一瞥いちべつして、クルリと背中を向ける。
「バカらしい・・・・・けど、打ち拉がれて、絶望して、嘆き苦しみながら過ごす大佐を見るのは実に愉快です。愉快すぎて笑えますよ。我々がいかに帝國で苦しんでいるのかを少しでも理解出来れば幸いですよ?ねぇ、大佐?そして、その悲しんだ状態で皇帝の腕に抱かれて嬲られて下さい。そうしたら皇帝は喜びますから」
高笑いしながら話し終わると本條局長も部屋を出て行く。

残された夜神は二人の大尉の言葉と、本條局長の最後の言葉が何度も繰り返される。
けど、どうすることも出来ない夜神は蹲り、指輪を持った手を胸に強く当てて、声を殺して泣くしかなかった。

せめて声だけは聞かれないように
自分が出来る精一杯の抵抗だった

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鮫のぬいぐるみは名前があったんです。簡単な名前ですけど(笑)

さて、この後大佐はどうなるんですかね?
救いがあればいいですけど
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