ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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あれからどのくらいの時間が過ぎたのだろう?
持ってきてくれた鮫太郎を抱きしめなが、泣き、悲しんでいた。
それから、自分を落ち着けさせるために心を無にしていた。

部屋を見回すとカーテンの隙間からはオレンジ色の光が漏れ出ている。
「夕方なんだ・・・・・今日は何にもしなかったんだ・・・駄目だよね。明日から頑張ろう」
今日だけ、今日だけ悲しんだら明日から気持を切り替えよう。
時間は短い。限られた時間と場所で、自分がどれ程の力を蓄えられるか分からない。
分からないけどやるしかない。
黙って、大人しくついていくなど考えられない。私は吸血鬼殲滅部隊の夜神大佐なんだから。
「今だけ、慰めてね鮫太郎」
ピンク色の鮫のぬいぐるみに顔を埋めた。


翌日からは訓練に明け暮れた。部屋に閉じこもっていても気がめいるだけでどうしょうもなかった。

有り難いことに「特別訓練室」と「人形」の使用許可が出ていた為、夜神は許可を頑張って出してくれた藤堂元帥に感謝しながら、蒼月達を振るう。
きっと上層部と揉めたのかもしれない。それでも許可を出した藤堂元帥には頭が下がる。本来なら顔を見てお礼をしないといけないのだろうが、それが叶わない。
心のなかで何度もお礼の言葉と、感謝の言葉を述べてこちらに向かってくる「人形」に蒼月を向ける。

「人形」の力の強さをMAXのTSトリプルエスに設定している。皇帝相手なら最も強い設定にしたいがこれが限界だから仕方がない。
その代わり三体同時にこちらに牙を向くようしている。
夜神は正眼の構えになると、こちらに向かってくる「人形」達に斬りかかる。

斬る、躱す、受け止めるそれらを繰り返す。三週間も上層部にいたせいか、体が鈍っている感覚がする。それらを払拭するためには基本に戻り何度も繰り返す。
この日はそんな、基本に戻る一日だった。

「特別訓練室」で「人形」を相手に訓練し、部屋に戻ると夕御飯を食べて、シャワーを浴びて、就寝する。
それを繰り返していた日の夜、シャワーを浴びてベッドで少しだけゆっくりしていると、扉をノックする音が聞こえ、部屋に入ってくる人物がいた。
相変わらず馬鹿にしたような顔で、部屋に入ってくるのは上層部の本條局長だった。
「ご機嫌いかがですか?」
「・・・・・何の用でしょうか?」
本来なら立ち上がり挨拶するが、夜神は立ち上がることもなく、座り込そして睨みながら本條局長に言葉を投げかける。
「おや?ご機嫌斜めですか?結構な御身分ですね?」
ツカツカと靴音をたてて夜神が座っているベッドまで来ると見下ろし、笑いながら話しかける。
「明日、大佐は帝國に行ってもらいますよ。皇帝のお迎え付きと豪華な待遇で。良かったですね。我々もやっと仕事が減って一安心です」
「明日・・・・・・」

とうとう来てしまった。考えたくなかった。考えようとしなかった。考えてしまったら心が折れてしまうのが分かっていたから。
寝間着代わりの浴衣の衿元を無意識に掴んでいた。その部分にはネックレスにした指輪が掛けられている。
何かに縋り付きたくての行動かもしれない。
それを見ていた本條局長は、心から楽しんでいるような愉悦の表情を浮かべる。
「明日は朝から身綺麗にして、皇帝の元に行って下さい。それに相応しい服を用意してますよ。まぁ、大佐は最後まで逆らってくると思いますが一応ね?けど、どんなに逆らっても結果は変わりません。明日が大佐の最後の日です」

その「最後の日」は人間の世界にいる日なのか、軍人としての日なのか、それとも両方なのか・・・・・分かってしまうだけに声が出なかった。
いつの間にか俯いていたから気が付かなかったが、髪で隠れた耳に髪の毛を掛けられてしまい、ビクッと体を震わせる。
だが、本條局長は気にせず体を屈めると、夜神の耳元で話していく。
・・・・・ピッタリですね?が本当に楽しみだ。本当に、ね?今日は眠って下さいね?」
何かを含んだ言い方を耳元ですると、すっ、と体を動かして扉まで移動する。

そう言って退室していく。

夜神は俯いたまま動かなかった。動けなかったのだ。
明日とうとう・・・・・
「っ・・・・・・・ゃだ。嫌だよ。嫌だ・・・・・」
皺になることなど気にする余裕などなく、ギュウギュウに衿元を握り込む。
嗚咽混じりでひたすら「嫌だ」を繰り返す。どんなに泣き叫ぼうと、否定しょうと結果は変わらない。
明日、私は・・・・・・

せめて最後、もう一度逢いたい。
逢うだけでいいから・・・・
我儘言わないから・・・・・
一目でいいから・・・・・・
「庵君に、海斗に逢いたい・・・・・」
小さな、誰にも聞こえない小さな声で呟いていた。

あれから、時間がどのくらい過ぎたのか部屋はすっかり真っ暗になっていた。
けど、眠ることなど出来なくて、部屋を明るくして過ごすことも出来ず、机にあるライトを付けて薄暗い中をベッドの上で膝を抱えて過ごしていた。
時計の秒針の音だけが響いている。動く度に時間が過ぎていくことに、少しずつ不安や恐怖を覚えていく。

すると、ガチャと扉を開く音が聞こえてくる。誰かが部屋に入ってくる気配がしたが、夜神はその人物を見る気力はなかった。
上層部の誰かだろう。まだ、私に言い足りない事があるの?
これ以上、私を追い詰めて何が楽しいの?
あなた達の方が暇人じゃないの?
「まだ、何かご用後がありましたか?これ以上、私に何を求めるのですか?」
膝を抱えたまま、その人物を向くことなく話す夜神に、その人物は声をかけた

「お久しぶりです。夜神大佐・・・・・・」
「?!」
聞き慣れた声が夜神の耳に入り脳に響く。
その声の持ち主に、どれ程逢いたかったか。
少しだけでもいいからと、何度心に思ったか。
一目でも、一瞬でもいいからと何度も、何度も思った。
その人物が今、この部屋にいる。

「いおりくん?」
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