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僅かだが、遠くの方でヘリのプロペラの音がする。
武器の恩恵で視覚や聴覚が人よりも優れているのはありがたいが、この時ほど恨めしいと思ったことはない。
自分を落ち着かせる為に、衿元辺りのマントを握り込む。その場所には、庵が買った指輪がある。
後、少しで皇帝が来る・・・・
私がいられるのも後少し。けど、黙って従うほど従順ではない。
たとえ、力の差は歴然だと分かっているが、最後の最後まで抗う。
きっと、一番酷使してしまうと分かっている蒼月に触れる。先生から譲り受けた蒼月・紅月。そして、先生の奥様が使っていた黒揚羽。代々家に伝わる月桜。
きっと、これが最後の使用になる。別れは既に済んでいる。後は、この子達と最後まで力を合わせて立ち向かうまで・・・・
いつの間にかヘリの音は誰でも分かるぐらいの音になっていて、それを聞いた本條局長がテントの中に入って来た。
歪んだ、喜々とした顔をして。
まるで夜神が苦悩するのを心から楽しんでいる顔だった。
それを見た夜神は、既に何かを思う気持ちもなくなっていた。
きっとこの人もある意味吸血鬼の被害者だ。
先祖が、自分達が味わった苦労、苦痛、憤慨様々な負の感情をぶつけるのに適していたのが私だったんだ。
助けに来て欲しい。救って欲しい・・・・・
けど、誰も救ってくれない。救いに来ない。
なら、自分達でどうにかするしかない。
自分達が少しでも苦痛から逃げ出すための手段として、スパイのような事をして国の中枢に入り込み、奴らの為に情報を操る。
そしてその結果、皇帝が望んでいた事が今叶おうとしている。
そのために、色々としていたことが花開こうとしていて、顔に出たのだろう。
「お迎えが来たようですね。物凄いVIP待遇ですね。羨ましいですよ?」
「そうですか?なら、変わりましょうか。私はそのほうが良いのですが?」
「御冗談を・・・・・・・行きますよ!」
「・・・・・・・・・」
夜神の妙に落ち着いた態度と返答に、喜々とした顔が苛立った顔に変わった。
夜神は無言で立ちあがるとテントの外に出る。
青空が何処までも青くて、綺麗だった。いつもと同じ空なのに今日だけは違って見えているのは心が弱っている証拠なのかもしれない。
そんな綺麗な青空に黒い点が見える。それは段々と近づいてきて、やがて周りに風を叩きつけて砂埃を撒き散らし、重い機体のヘリを地面にゆっくりと降下してしていく。
マントの紐が緩かったのか解け、飛ばされていく。
白練色の髪が風になびく。それを見た夜神の本当の姿を知らない人間達からは驚きの声があがった。
そのうちの一人、ベルナルディ中佐は目を見張った。
吸血鬼の皇帝が「白い小鳥」と夜神大佐を揶揄した時「成程」と不謹慎だが思ってしまった。
あの不思議な白い目と、まるで降り積もった処女雪だけで作った雪像のように白い透き通る肌。
それだけでも十分に「白い小鳥」だが、髪までも白かったのには驚いた。
『奇麗だ・・・・・・』
ボソリと呟く。
陽の光に反射してキラキラ光を放つ白い髪は、穢してはならない神聖なものに見える。
そこに、不思議な白い目は燃えるような強い意思を感じる。
二本の刀を装着し、凛とした姿でヘリから降りてこようとする人物を逃げも隠れもせず、静かに見つめている。
その姿を見ていただけなのに、ベルナルディは知らず識らずのうちに、自分の武器の柄を握りしめていた。
危険、畏怖、恐ろしさ、絶対的な力・・・・
それらを全てを携えた人物が今、目の前に現れた。
肩まであるアイスシルバーの髪を緩く後ろで括り、金色の瞳は軽薄な笑みを浮かべている。右の目は縦に傷跡があり、高い鼻梁に薄い唇。
この人物が吸血鬼の帝國━━━エルヴァスデア大帝國のルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルだ。
ベルナルディを始めとした周りにいる軍人達に緊張が走る。まるで糸のような細い綱を渡っている気分にさせるほどの、張り詰めた空気、雰囲気。
そして、絶対的恐怖。圧倒的支配力。その場に立っているだけですくみ上がる。
「っ・・・・・・・」
こんな化け物を夜神大佐は相手するのか?もし、可能ならば逃げ出したいとさえ思ってしまう。
チラッと、隣にいる日本人の青年に視線を移す。
同じ様に思っていたのか、少しだけ震えている。
無理もないかもしれない。中佐と呼ばれ、幾度も吸血鬼討伐している自分さえ恐怖を覚えるだ。
最近まで学生だったこの青年にはキツイだろう。
けど例え、足がすくみあがっても、武器を持つ手が震えようと、この場から逃げ出さないことには称賛に値する。
流石、夜神大佐の心を射止めた青年だけである。
『庵伍長。私達は最後まで夜神大佐を助けますよ』
『はい!もちろんです』
例え体は震えようと、声色だけは意志のある、力強い返答を受け取ったベルナルディは軽く頷き、再び視線を夜神大佐と皇帝に戻した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皇帝おでましでしたが、一言もなく終わりました。
次からは皇帝のターンです。沢山喋って、夜神大佐と絡んで貰いたいと思います。
これから先、戦闘シーンが多いです。
武器の恩恵で視覚や聴覚が人よりも優れているのはありがたいが、この時ほど恨めしいと思ったことはない。
自分を落ち着かせる為に、衿元辺りのマントを握り込む。その場所には、庵が買った指輪がある。
後、少しで皇帝が来る・・・・
私がいられるのも後少し。けど、黙って従うほど従順ではない。
たとえ、力の差は歴然だと分かっているが、最後の最後まで抗う。
きっと、一番酷使してしまうと分かっている蒼月に触れる。先生から譲り受けた蒼月・紅月。そして、先生の奥様が使っていた黒揚羽。代々家に伝わる月桜。
きっと、これが最後の使用になる。別れは既に済んでいる。後は、この子達と最後まで力を合わせて立ち向かうまで・・・・
いつの間にかヘリの音は誰でも分かるぐらいの音になっていて、それを聞いた本條局長がテントの中に入って来た。
歪んだ、喜々とした顔をして。
まるで夜神が苦悩するのを心から楽しんでいる顔だった。
それを見た夜神は、既に何かを思う気持ちもなくなっていた。
きっとこの人もある意味吸血鬼の被害者だ。
先祖が、自分達が味わった苦労、苦痛、憤慨様々な負の感情をぶつけるのに適していたのが私だったんだ。
助けに来て欲しい。救って欲しい・・・・・
けど、誰も救ってくれない。救いに来ない。
なら、自分達でどうにかするしかない。
自分達が少しでも苦痛から逃げ出すための手段として、スパイのような事をして国の中枢に入り込み、奴らの為に情報を操る。
そしてその結果、皇帝が望んでいた事が今叶おうとしている。
そのために、色々としていたことが花開こうとしていて、顔に出たのだろう。
「お迎えが来たようですね。物凄いVIP待遇ですね。羨ましいですよ?」
「そうですか?なら、変わりましょうか。私はそのほうが良いのですが?」
「御冗談を・・・・・・・行きますよ!」
「・・・・・・・・・」
夜神の妙に落ち着いた態度と返答に、喜々とした顔が苛立った顔に変わった。
夜神は無言で立ちあがるとテントの外に出る。
青空が何処までも青くて、綺麗だった。いつもと同じ空なのに今日だけは違って見えているのは心が弱っている証拠なのかもしれない。
そんな綺麗な青空に黒い点が見える。それは段々と近づいてきて、やがて周りに風を叩きつけて砂埃を撒き散らし、重い機体のヘリを地面にゆっくりと降下してしていく。
マントの紐が緩かったのか解け、飛ばされていく。
白練色の髪が風になびく。それを見た夜神の本当の姿を知らない人間達からは驚きの声があがった。
そのうちの一人、ベルナルディ中佐は目を見張った。
吸血鬼の皇帝が「白い小鳥」と夜神大佐を揶揄した時「成程」と不謹慎だが思ってしまった。
あの不思議な白い目と、まるで降り積もった処女雪だけで作った雪像のように白い透き通る肌。
それだけでも十分に「白い小鳥」だが、髪までも白かったのには驚いた。
『奇麗だ・・・・・・』
ボソリと呟く。
陽の光に反射してキラキラ光を放つ白い髪は、穢してはならない神聖なものに見える。
そこに、不思議な白い目は燃えるような強い意思を感じる。
二本の刀を装着し、凛とした姿でヘリから降りてこようとする人物を逃げも隠れもせず、静かに見つめている。
その姿を見ていただけなのに、ベルナルディは知らず識らずのうちに、自分の武器の柄を握りしめていた。
危険、畏怖、恐ろしさ、絶対的な力・・・・
それらを全てを携えた人物が今、目の前に現れた。
肩まであるアイスシルバーの髪を緩く後ろで括り、金色の瞳は軽薄な笑みを浮かべている。右の目は縦に傷跡があり、高い鼻梁に薄い唇。
この人物が吸血鬼の帝國━━━エルヴァスデア大帝國のルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルだ。
ベルナルディを始めとした周りにいる軍人達に緊張が走る。まるで糸のような細い綱を渡っている気分にさせるほどの、張り詰めた空気、雰囲気。
そして、絶対的恐怖。圧倒的支配力。その場に立っているだけですくみ上がる。
「っ・・・・・・・」
こんな化け物を夜神大佐は相手するのか?もし、可能ならば逃げ出したいとさえ思ってしまう。
チラッと、隣にいる日本人の青年に視線を移す。
同じ様に思っていたのか、少しだけ震えている。
無理もないかもしれない。中佐と呼ばれ、幾度も吸血鬼討伐している自分さえ恐怖を覚えるだ。
最近まで学生だったこの青年にはキツイだろう。
けど例え、足がすくみあがっても、武器を持つ手が震えようと、この場から逃げ出さないことには称賛に値する。
流石、夜神大佐の心を射止めた青年だけである。
『庵伍長。私達は最後まで夜神大佐を助けますよ』
『はい!もちろんです』
例え体は震えようと、声色だけは意志のある、力強い返答を受け取ったベルナルディは軽く頷き、再び視線を夜神大佐と皇帝に戻した。
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皇帝おでましでしたが、一言もなく終わりました。
次からは皇帝のターンです。沢山喋って、夜神大佐と絡んで貰いたいと思います。
これから先、戦闘シーンが多いです。
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