ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

文字の大きさ
212 / 325

188

しおりを挟む
ヘリから降りて目的の人に会うために向かう。
その人物は怯むことなく、両足をしっかり地面に付けていた。
そして、白い髪をなびかせている。私の願い通りに髪を元の白い色に戻しているのは大変嬉しい。
服装もドレスを願っていたが、本人が拒否したのか軍服を着て二本の剣を腰に下げている。
そこは変わらない所に笑みが溢れる。広角が上がっているかもしれない。けど、それを見せないようにしなくては。

あぁ、早くその体を抱きしめたい。首筋に顔を埋めて、牙が白い肌を突き破り、花のような蜜の血を啜り、甘い疼きを体に巡らせて、よがらせ喘がせ、うち震える体に手を這わせたい。
きっと、白い小鳥は可愛い声を出し、愛らしく鳴くだろう。
早く、その声を聞きたい。

ルードヴィッヒは焦燥感でいっぱいだった感情が、一人の人物を見ることで、満たさせていくことを感じた。
ずっと探し求めていたものが、やっと手に入る。
早く手中に収めたいと、はやる気持ちを落ち着かせるために、軽く目を瞑り心を落ち着かせた。

夜神はヘリから降りてくる人物達を、その白い目でじっと見つめた。
一人は黒いマントを頭からすっぽり被り、どんな人物かは分からない。分かるのは男性だと分かるぐらいだ。
そして、もう一人は知っている。帝國の宰相で「ローレンツ」と呼ばれていたのを覚えている。
その二人の先頭に立って、真っ直ぐ歩いてくる人物が帝國の皇帝、ルードヴィッヒだ。

アイスシルバーの髪に、金色の瞳。詰め襟の軍服の裾をなびかせている。
軽薄な笑みを浮かべている顔には、一筋の傷が右目に縦に走っている。けど、その傷さえもその美貌に華を添えているように見える。
だが、その姿を見ているだけで吐き気が出てくる。
自然と震えはなくなっていった。それまでは説明の出来ない感情に支配され震えていた。
人間、覚悟を決めると逞しくなるものだな・・・・・
夜神は軽く笑ってしまった。それを、隣で見ていた本條局長は訝しんだ顔で見ていたが気にしなかった。

「一年ぶりかな?私の「白い小鳥」は元気にしていたかい?」
よく通るバリトンの声が、皮肉を込めて夜神に投げかけられる。
ヘリのプロペラはいつの間にか停止していて、風は止んでいた。
「私は夜神 凪やがみ なぎだ。その不快な呼び方をするな!」

気持ち悪い。何が小鳥だ。
けど、ルードヴィッヒは愉悦に満ちた顔を変えることなく言葉を紡ぐ。
「小鳥は小鳥だよ?小さく、愛らしく鳴き、楽しませてくれる。それにしても凪ちゃん・・・・・私は服装にドレスを所望していたのだが・・・・」
はぁーと、ため息をしながら話していく。まるで聞き分けのない子供に諭すように話す。
「私は軍人だ。軍人が軍服を着ないで何を着る。貴様の戯言に付き合う気は毛頭ない」
「凪ちゃん。淑女は「貴様」なんて言葉は使わないよ?駄目じゃないか。これはちゃんと淑女教育をしないとね?」
くっくく、と笑いながら自分の顎に手をかける。
「一年前は二週間しかなかったからね。教育なんて出来なかったけど、今度はたっぷりと時間があるから、一から教育してあげないとね?私に相応しい淑女になってもらわないとね」

微笑んで夜神達を見る。その微笑みは、夜神が帝國に行きルードヴィッヒの元にいるのが当たり前の前提で話しているのに、夜神は気持ち悪くなった。
吐き気がする。皇帝に相応しい人間になどこちらから願い下げだ。
「ふざけるなっ!誰が貴様のために勉強などするものか。それこそこちらから願い下げだっ!!」
「あ~ぁ、また言った・・・・・これはお仕置きが必要だね?いいよ。それがご所望なら沢山しなくちゃね?」
微笑みが歪んだ笑みに変わる。心の底から楽しんでいる様子に吐き気がする。もう、話すのも限界に近いかもしれない。
「・・・・・本條局長離れて下さい」
「夜神大佐。いい加減にして下さい!・・・・・吸血鬼の皇帝。貴方のご所望通り夜神大佐は帝國に行きます。なのでどうか、これ以上の進軍はやめて頂きたい」

本條局長の演技が始まる。大事な軍人を手放すのは心苦しい。けど、これで全てが治まるなら心を鬼にして私は捧げます・・・・・
そんな演技をしているのだろう。夜神はその安い芝居に反吐が出そうになったが、グッと堪えた。
「そうだね・・・・・・進軍を止めてほしいのなら、少しは凪ちゃんを従順になるように躾けとかないと?今のままなら逆らってついてこなさそうだけど?」
「そんな事はありません!!夜神大佐は皇帝の元に必ず行きます!そうですよね夜神大佐?」
冷めた目で睨む本條局長に逆らいたかった。私は最後まで「行きます」とは一言も言っていない。そっちが勝手に話を勧めているのだろうっ!!
叫びたかった。そう、叫んでいたらどれ程のいいか。
けど、それはしない。出来ない。

大切な人を失う気持ちをこれ以上味わいたくない。そして、守るべき人たちがこれ以上悲しまないように。
私や庵君のように大切な人を失って、軍に入ることがなくなるように。
これ以上、吸血鬼の牙が襲わないように。

けど、黙って行きたくない

本條局長の話を無視して歩き出す。ツカツカと、軍靴を鳴らして一定の距離まで皇帝の元に来る。
皇帝は最初驚いたが、何かの意図を汲み取ったのか、貼り付けたような笑みをしたまま様子を見ている。
本條局長は「ふざけるな」とお怒りだったが、もう、関係ない。初めから夜神達を欺いていたのだ。今も演技をして騙しているが、その本心は既に理解している。

一定の距離に近づくと夜神は、恐ろしいスピードで青い柄巻きの蒼月を抜刀する。
「なっ・・・大佐っ!!」
「白目の魔女!!」
本條局長とローレンツの声が重なる。けど、刀を突きつけられたルードヴィッヒだけは、相変わらず貼り付けた笑みを崩さない。
初めから全てを理解したうえで、夜神の行動を高みの見物をしているのかもしれない。それならそれで構わない。

「皇帝・・・・・・あの時の勝負をもう一度しましょう?」
「あの時の勝負?どの勝負かな?・・・・・・あぁ、騎士団での事かな?」
「えぇ、その騎士団での勝負です。あの時の私は服装も装備も万全ではなかった。けど、今はその全てが整ってます。なので再戦を望みます」
夜神の願いを聞いて、牙を見せながら高笑いをし始めた。
「ふはっ!はっははは!!凪ちゃん・・・・・それは子供の駄々だよ・・・・・可愛いなぁ。本当に私の白い小鳥は可愛い・・・・・・いいよ。その願いを叶えてあげよう」
「陛下っ!!」
ローレンツの声を片手を上げて遮る。これ以上の追求をさせないために。

「元々、凪ちゃんは黙って大人しく来てくれるとは信じてなかったからね。だから安心してね?ちゃんと私も愛剣を持ってきてるからね・・・・・」
腰に下げている剣の柄を軽く撫で、そして、獲物を前にして舌舐めずりをする狩人の様に、ペロリと唇を軽く舐める。
「勝負をしょうじゃないか。そして絶望の闇に叩きつけてあげよう。打ちひしがれ、私に泣いて詫びればいい。慟哭の叫びを聞いてあげるよ?」
それは圧倒的強者の声だった。夜神の願いなど些細な出来事にすぎない取るに足らないものだと。

だが、負けると分かっていても、万が一に賭けたかった。
あの時は敵だらけだった。けど今は違う。私の周りには味方しかいない。そして、守りたい。

夜神は軽く後方に飛んで後退り、一度、刀を納刀すると抜刀の構えをする。
真剣な、些細なことも見逃さない目は赤くなっていた。
「いいだろう・・・・・」
ルードヴィッヒも剣を抜いて構える。後ろ腰の左側に剣を構え、切先を相手の顔に向ける。

その様子をみて、近くにいた人間は邪魔にならない範囲まで移動する。
近くにいた本條局長とローレンツ達も、邪魔にならない所まで後退する。
全ての移動を見届けた夜神達の間に、緊張が走る。

ヒュッと、風が吹いて夜神のポニーテールの白い髪がなびく。それが合図だったのか二人は一斉に動いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

【ヤンデレ八尺様に心底惚れ込まれた貴方は、どうやら逃げ道がないようです】

一ノ瀬 瞬
恋愛
それは夜遅く…あたりの街灯がパチパチと 不気味な音を立て恐怖を煽る時間 貴方は恐怖心を抑え帰路につこうとするが…?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...