ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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189 流血表現あり

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「抜刀!!吼えよ蒼月そうげつっ!!」
駆け出した夜神は合図の言葉と共に、青い柄巻きの刀を抜刀して、ルードヴィッヒの喉元めがけて斬り込む。
名前を呼ばれた蒼月は、刀から青く光る虎を出して、その獰猛な爪が刀と同じ様にルードヴィッヒを狙う。

振り下ろした刀を簡単に躱すと、ルードヴィッヒの攻撃が始まる。
後ろ腰に構え、切っ先を夜神に向けていた剣を夜神に向かって伸ばし、横に凪ぐ。
その攻撃を難なく躱したがフェイントだったのか、さらにルードヴィッヒは上段の構えのように構えると、力を込めて振り下ろす。
夜神も蒼月でその一撃を受け止めるが、あまりの剣撃の重みに顔を歪ませる。

「くぅ・・・・・・」
重い・・・・
例えるなら、鉄の塊が落ちてきたみたいだ・・・・

「どうした!凪ちゃん!私に勝ちたいんではないのか?ならもっと、もっと貪欲に来ないと!!」
笑いながらも、攻撃の手は緩めない。
右、左、上、下・・・・・
変幻自在に動く剣を躱したり、薙いだりするだけが精一杯で、自分から攻撃を仕掛けることが出来ない。
けど、何度か刀を交えて少しだけ違和感を感じる。

必ず、基本を学んでも少なからず「癖」が出てしまう。
騎士団で交えたときと、今ではその「癖」が異なる。わずかな事だかこれは大きい。
けど、一年経っているうえ、二度目の剣の交わりでは深く追求することは出来ない。
違和感を覚えながらも、容赦なく襲い来る攻撃をしのいでいく。

けど、金属音を響かせながら、少しずつ後退する夜神に、ルードヴィッヒは笑って一歩下がり、まるで誘うように両手を軽く左右に開く。
「ほら・・・・・今がチャンスだよ?」

強者の余裕・・・・

その言葉が当てはまるほど夜神とルードヴィッヒの実力には差があった。
いくら「軍最強」と言われようと、単体で高位クラスを討伐していようと、大帝國の皇帝には到底及ばない。
「っ・・・・・」
初めから分かっていた事だか、あからさまな態度で対応されると、歯痒い気持ちになる。
けど・・・・・・・

「抜刀!紅月こうげつ!!喰らえっ!!」
脇差しの紅月を抜くと二刀流の構えで駆けていく。
ルードヴィッヒは笑ったまま、頭上に向かって剣を振り下ろす。それを蒼月で受け止める。
「ぐぅ・・・・・」
重い衝撃を片手で受けるのは無謀なのかもしれない。けど、しなくてはいけない。
蒼月でルードヴィッヒの一撃を受け止めると、すかさず紅月で喉元を狙い突いていくと同時に、赤く光る鳥がその鋭い嘴を突き立てようとする。
「おっと・・・・」
蒼月で一撃を阻まれていた剣をスライドさせて、紅月の攻撃を受け止めていく。

「くぅ・・・・・」
後方に退避する為、跳躍していく。その時に蒼月を一旦納刀すると、背中に装備していた銃を抜いて連続で発射する。
「子供騙しかい?」
銃弾が見えているのか?と、疑うほど全ての弾を剣で叩き落とすルードヴィッヒに冷や汗が背中を伝う。
「まさか?ただの気まぐれだ!」
夜神の強気の発言にルードヴィッヒは苦笑いをする。

相変わらず、私の小鳥は可愛い事をする。全て無駄と分かっているのに。
唇が歪み、夜神を見つめる。その金色の瞳は暗い闇が漂っているように、ドロリとした目をしていた。
けど、それは気づいていないし、見てもいない。それでいい。今は、それで・・・・・・

銃でかなうならここまでは苦労はしない。これはただの時間稼ぎしかならない。
夜神は打ち尽くした銃を投げ捨てると、脇差しの紅月も納刀し、代わりにベルトに刺している懐剣に手をかける。
黒い柄巻きの懐剣を逆手で持ちながら、ルードヴィッヒの距離を詰めて行く。
「抜刀!黒揚羽くろあげは!!」
ルードヴィッヒの懐近くまで来ると、ベルトで抜けないように固定されている鞘ごと刃を自分に向けて、逆手のまま抜いていく。
切っ先を自分に向けながら抜いて、下を向いている手の甲をクルリと反転させて、上を向かせ、高い身長のルードヴィッヒの喉元目掛けて斬りつける。

反対の手は懐に潜り込ませて簪を取り出す。
月と桜をモチーフにした銀色の仕込み簪だ。
懐剣の短さを利用して、ルードヴィッヒの懐に潜り込み、懐剣に全てを集中させている間に、本当の目的である仕込簪の「月桜つきざくら」をルードヴィッヒの心臓に突き立てる。

・・・・・ほんの少し、わずかで構わない。集中がそれた時が好機だ━━━━ 

捨て身で挑んだこの勝負、負けると分かっていても一矢報いたかった。
だから、全力でこの瞬間に全てを賭ける!!

ルードヴィッヒの剣が懐剣に向かう。それに合わせて視線も動く。

もっと近づかないと!
たとえ、腕の一つ失くなろうと構わない。

ルードヴィッヒの剣がはたき落とすように、夜神の懐剣に剣を叩き込む。
「っぅ・・・・・・あああぁぁぁぁぁ━━━━━っっ!!!」
刀を叩かれる反動を利用して、叫びとともに簪に仕込まれていた刃を、ルードヴィッヒの心臓に思いっきり突き刺す。
「ぐぅぅ・・・・・がっ!」
肉を貫く感触が、簪の短い距離ではすぐに伝わる。そして、皮膚を貫いた簪からは、赤い血が伝い夜神の手を赤く染めていく。

夜神のすぐ横を、皇帝だった人が倒れていく。
鉄さびのような匂いと、ベルガモットとスパイスを混ぜた爽やかな匂いが混ざり合った匂いが鼻をかすめる。

違う・・・・
あなたは誰?

皇帝はこんな匂いではなかった。
記憶にあるのは何度も抱かれ、その度に鼻をかすめる香り。
その匂いに、無意識に自らの体を擦り寄せてしまった事もある。

そんな忌まわしい記憶にある香りと、先程の香りは異なっていた。
何か恐ろしい者を見る目で、倒れ血の池を作っている人物に向ける。顔は反対の方を見ていて、自分が見れるのはアイスシルバーの髪だけ。


「勝った・・・・・夜神大佐が勝った!!!」
一人の叫びが、勝利の叫びが次々に伝染していく。
「皇帝に勝った!!」
「流石、夜神大佐」
「「軍最強」は伊達じゃない!!」

違う!違う!違う!
この違和感、匂いが警告を鳴らす。私の感が正しければ・・・・・
だって倒れているのは・・・・・
「皇帝じゃない・・・・・・」
みんなの勝利を祝う言葉にかき消された。
けど、関係なく夜神は叫ぶ
「こいつは、皇っ・・・・・・」
皇帝ではない!・・・・・と、最後まで言えなかった。
言いたかったのに、それは、地面を突き破るような勢いのによって阻止された。
ドゴッ!!ドゴッ!!
ジャラ、ジャラ・・・・・

「?!」
地面から生えてきた鎖は、夜神に目掛けて一斉に巻き付こうとする

まるで、スローモーションを見ているような動きに感じてしまった。
ゆっくりと鎖達が腕に、足に、体に、喉に巻き付いていく。
「うぅ・・・・・・」
喉意外は、千切れてしまうのでは?と思うぐらいきつく巻き付く。
喉も巻き付いているが、こちらは徐々に圧迫されて、苦しくなっていく。

「流石だね、凪ちゃん。私が違うといつ気がついたのかな?」
ローレンツの隣りにいた、黒いマントをすっぽり被った人物から、先程と同じ様にバリトンの声が辺に響いた。
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