ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「下ろして・・・・・」
部屋を出てから無言が続いていたが、夜神はやっと口を開く。出てくる言葉は単調で感情のこもらない言葉だった。
「足が震えているのに下ろすはずはないよ・・・・それに、私の言う事は聞いておいて損はないよ?・・・・私の力の効果範囲は既に承知しているはずだ?ここは有効範囲だからね?」
見上げている赤い瞳が見開き、段々と苦悩の色が濃くなるのが楽しくて、ルードヴィッヒの唇は自然と笑みを浮かべる。

皇帝の鎖の範囲は広範囲だ。数km離れた射撃部隊を攻撃していたりしたのだから。
このまま、皇帝が攻撃の意思を明確にして、遠く離れ、皇帝からは切り離されていると言え、力の込められた鎖が動いたら・・・・・・
確実に庵君の首は締まる。それどころが鎖が収縮して食い込み、首が千切れる・・・・・

簡単に想像出来るだけに、夜神は何も言えなくなった。先程から体を捩っていたが、それさえも出来なくなってしまった。

すっかり大人しくなった夜神の白練色の頭に、唇を落としたルードヴィッヒはそのまま廊下を歩き、城の外に出ると、夜神が可笑しくなっていた時にお気に入りの場所の一つだった温室に向かう。

外よりも温度の高い温室に一歩踏み入れると、甘い薔薇の香りが鼻腔を擽る。
競演するように己の色を、形を競う薔薇を見ながら奥に進む。
そこには肌触りの良さそうな、ゴブラン織りのソファが鎮座している。
夜神のよくいた場所だ。
そのソファに夜神を降ろすと、ルードヴィッヒもつかさず隣に座る。
「・・・・・・・」
ビクッと、体を震わせるがそれ以上は何も無い。拒否する事も、勿論受け入れる事も。

「私がこの温室を出たと同時に庵海斗の鎖は解除してあげよう。それは凪ちゃん次第だけどね?」
耳元で内緒話をするように、小さい声で囁く。
「っぅ・・・・・・・」
声を荒げることも出来ず、白いエンパイヤ・ドレスのスカートを皺が付くまで握るしか出来ない夜神の行動を愉悦した眼差しで見下ろす。

「凪ちゃん?あれだけの血を流していたんだ。いくら、私が与え続けたといえ、それ以外は一切血を飲んでいない・・・・・・飢えてきているんじゃないのかな?」
夜神の唇に指を這わしながら話す。夜神は気持ち悪い唇の感触に眉をしかめるが、言われた事は本当の事だけに何も言えない。

喉が渇いているのは本当だし、腹が空腹で何かしら満たしたいと思ってもいる。
けど、その、空腹を満たすには食事をしないといけない。
何を摂取しないといけないのかも・・・・・
「・・・・・・・・」

「・・・・・・・分かっているんじゃないのかな?食事をするにはどうしないといけないのか?にお願いすればいいのか?・・・・素直にならないとかが傷付くかもしれないよ?」
「ぁ・・・・・・・・」

に惨めにお願いすればいいのか、がそれで助かるのかすぐに分かる。
分かるだけに嫌になる・・・・・・

「く、ださい・・・・・喉が渇いて・・・・お腹が空いて・・・・・下さい・・・・・血を、飲ませて・・・・・」
声が震える。体が震える。顔を見たくもない相手に懇願を向ける。
金色の瞳は笑っている。心の底からこのやり取りを楽しんでいる。惨めで哀れな懇願を聞いて愉悦に歪んでいる。それは唇も同じ。

「いいよ。凪ちゃんが欲しいならあげるよ。ほら、私の襟の釦を外して?襟を寛げて?」
あくまで、夜神が欲しているから仕方なくあげるよ?の体で話を進める。
そこまで言われて素直に感謝など出来るはずはない。
けど、事を進めないと庵君の鎖は解除されないし、何より喉の渇きを意識しだしたら、渇きが本当に酷くなる一方で・・・・・・

眉をしかめ、赤い瞳は悔しそうに歪み。唇をギュッと噛み締めている姿は哀れなほど愛らしい。
全ていおいて優位に立つルードヴィッヒは、夜神の行動を観察していた。

悔しそうにした顔のまま震える腕を上げ、指先が襟の釦に触れて、外していく。
軍服の釦の次に、シャツの釦を外し、最後は襟を広げて男らしい喉仏を晒す。
赤い唇を僅かに開くと、尖った白い牙を見せながら、柔らかい手がルードヴィッヒの項を掴み固定すると、顔を首筋に近づけていく。少し荒い吐息がルードヴィッヒの肌を掠める度に擽ったいのか顔が歪んでいく。

「っぅ・・・・・・・」
息を呑んでしまう。否定など出来ない。けど、躊躇いはあるのだ。あるけど、もう、後戻り出来ない・・・・・・
「はぁ・・・・・あ、ん゛━━━━━━」
鼻をくすぐる匂いが強くなる。ウッディとオリエンタル調の混ざった深みのある香りで鼻腔が満たされる。
そのまま首筋を噛みつくと、尖った牙を肌に突き立てるように埋め込む。
ブチッと、何かが突き破る音が僅かに聞こえる。それと同時に、口いっぱいに甘い味が広がる。

あぁぁ・・・・凄く甘い・・・・・
本来なら鉄錆の匂い、味で美味しいなんて思わないのに・・・・・
麻薬のような、甘露な蜜のような味がする。背徳的な味だ・・・・・・・

気がつけばコキュ、コキュと嚥下していた。無我夢中で啜り、飲み込む。周りのことも、噛みつき血を啜る相手が誰かなんて今はどうでもいい。

「ん、ん゛ん゛、ん~~~」
夢中になって血を啜る夜神の白練色の頭を、何度も優しく撫でていく。愛しそうに何度も。
一度味を知ってしまったからか、口に入れた途端タガが外れて啜る。愛らしい声を出し、離したくないのか項に置いた手は段々と力がこもる。
それが更に愛おしさを倍増させてる。だからルードヴィッヒは夜神の好きなようにさせていた。

満足したのか、我に返ったのか突然、胸に手を置いて突き返してくる。
「あ・・・・あぁ・・・・・」
絶望の声が赤い唇から漏れ出でくる。
「満足したのかな、凪ちゃん?美味しそうに飲んでいたね。満足してくれたのなら良かったよ。けど、私も痛い思いをしているんだ。ちゃんとお礼の言葉は言わないと失礼だよ?「ごちそうさま」は?」
声が愉悦を含んでいるのが分かるほど弾んでいる。

「・・・・・・ごち、そうさま・・・でした・・・・・」
小さな声で、言われた事を繰り返す。ルードヴィッヒは俯き、震える夜神を軽く抱き締めると笑う。
「よく出来ました。約束通り私は出て行くよ。それと同時に鎖を解除してあげる。凪ちゃんはゆっくりと薔薇でも見ておいで。頃合いを見て誰かを寄越すからね」
ルードヴィッヒは夜神の頭に唇を一つ落とすと立ち上がり、振り返ることなく夜神の目の前から消えていく。

「・・・・・・・庵君は無事だよね?」
鎖はなくなっていると信じたい。確認したいがきっとそれは叶わない。皇帝の言葉を信じる以外は何もない。
俯いたまま夜神は自分の手を見ていた。スカートを掴む手は震えている。
この震えは一体何に対しての震えか・・・・・

「このままではいけない」
そう、このままでは駄目だ。何としてでも庵君をこの世界から救わないといけない。
庵君の世界はここではない。みんながいる世界に返さないと。
私は、私の出来ることで庵君を救わないといけない

「・・・・・ルルワは、ルルワはどんな気持ちだったの?自分が犠牲になろうと大切な人を守りたかった?記憶も命も犠牲にして守りたかった?」
ルルワが思った気持ちは、ルルワにしか分からない。けど、少なくとも今なら分かるような気がする。

「・・・・・ルルワは・・・・・」
ルルワは一体何を思った?何を考えた?そして、導き出した答えは?
ルルワの行動に、全てが隠されているような気がした夜神は、静かに目を閉じてソファの背もたれに背中を預けた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

一体何を思ったのでしょうね、大佐は?
ある意味、覚悟を決めたような?

そして、青年の鎖は解除されたんですかね?ルードヴィッヒは意地悪の塊なので・・・・
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