316 / 325
292
しおりを挟む
藤堂元帥や七海中将を先頭に、後をついて行くように夜神が歩く。
気不味いとかの雰囲気はない。むしろ、「やっとか・・・」と、期待に溢れた雰囲気で居心地が良い。
けど、何を話せばいいのか分からなくて無言になってしまう。
三人の靴音だけが聞こえる廊下を歩く。この廊下を歩くのも久しぶりだ。
皇帝による侵略から上層部や、軍の施設にいたし、その後は帝國にいた。
再び、軍の廊下を歩けるとは思いもしなかった。けど、実際は歩いている。それも、着ることは叶わないと思っていた軍服を着てだ。
夢心地とか、曖昧でふわふわした表現が合いそうなほど、自分の心は浮足立っている。
見栄なのか、恥ずかしいのか、なるべく顔に出さず、長谷部室長もびっくりの無表情を装っているが、口の端が少し持ち上がるのは内緒だ。
夜神が顔の表情で一人、戦っている時、藤堂と七海もまた同じように顔の表情で戦っていた。
幼い頃から見てきた娘が立ち上がり、再び軍服を着て共に戦う。
全てを奪われて、心を打ち砕かれた。沢山、泣いただろう。何度、自分を追い詰めたのだろう。けど、自分の足で再び立ち上がり、歩みだした。
誇りに思うし、何より強いと思ってしまう。
養父だった友は既にこの世にはいない。きっと空から見守っていると思う。余りにも色々あって、心休まる暇なく、ハラハラしながら見守っていたと思うが、やっと落ち着いて見守れるかもしれない。
この世にはいないが、その分、我々が見守るから安心して欲しい。
そして、軍の復帰を心から祝おう。平常を装おって無表情でいると思うが、我々を甘く見ないで欲しいものだ。嬉しいのが分かるほど雰囲気が伝わる。顔が綻んでいるのが分かる。それは、我々も一緒か・・・・・・
互いに無表情で平常を装いながらも、心は浮足立っていて、今にも羽ばたきそうな程の気持ちを互いに隠しながら廊下を歩き目的の場所に着く。
「第一室」と書かれた扉の前で三人は立ち止まる。藤堂はノックすると、返事が聞こえる。
ゆっくりと扉を開き、藤堂、七海、夜神の順で入室する。
部屋の奥には大きな机があり、その場所を使用する人物が座っていた。
この「第一室」の室長であり、夜神の上司でもある長谷部 匡介中将だ。相変わらずの無表情で感情が分からない・・・・・のは、慣れてない人だけで、夜神達ぐら付き合いの長い人達ならすぐに分かる。
とても喜んでいる事を。目の表情、口の微妙な角度で分かる。夜神の復帰を歓迎しているのが。
その周りには第一室の隊長達である七海 虎次郎中佐、相澤 千明中佐、式部 京子大尉、そして、夜神の部隊で唯一の隊員である庵 海斗伍長が立っていた。
腕章には金や赤ラインがあり、全員「高位クラス武器」保持者を意味している。
そんな、優れた人物達の前に進み出る。あれ程、浮足立っていたのに、一歩、一歩進むごとに緊張してきてしまう。足が震えるまではいかないが、妙に重く感じるのはなぜだろう・・・・・
両端に避けた藤堂元帥と七海中将の間から、夜神は長谷部の座る席に近づく。すると、待ち受けていたように長谷部室長は立ち上がり夜神を見る。その行動を一通り見ると夜神は敬礼する。
「本日より復帰しました。至らない所等、御座いますでしょうがご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」
「夜神大佐の復帰を心より喜ぶ。以前のような活躍を期待する」
夜神の言葉に答えるように、長谷部室長は敬礼し活躍を期待する言葉を言う。
その言葉と共に周りにいた隊長達も同じく敬礼する。
その顔は皆、心から歓迎する顔だった。例え夜神が吸血鬼になろうと、自分達の敵である吸血鬼に変わっても、夜神は夜神だと。
幼い頃から知っている夜神は強くて、少し世間とズレていて、相手の恋慕を尽く打ち砕く事に事欠かない。
華麗で苛烈な剣士の夜神を知っているから、今、目の前にいる女性は姿形は吸血鬼でも、中身は自分達の知っている夜神だ。
誰よりも吸血鬼を憎み、この手で殲滅する事を望んでいた。
なのに、その、吸血鬼になってしまい、心の葛藤は計り知れないのも分かっている。
なら、少しでも安心を安らぎを与えるにはどうしたらいいか・・・・・・悩んた末、今までと変わらない態度で接することがいいのでは?と、誰もが思った。
変に態度を改めても気まずいだけ。だからといって気を使いすぎるのもよくない事は分かる。
なら、今まで通りが一番いいだろう・・・・・が、皆の共通認識だった。
「おかえりなさい・・・・夜神大佐」
式部の落ち着いた、けど、何かを堪えているような詰まった声を夜神に向ける。
「・・・・・ただいま・・・・式部、みんな・・・・」
敬礼する為に上がっていた腕がゆっくりと下がっていく。
いつものように微笑んでいるのに上手く出来ない。
目頭が熱くなる。何で熱くなるのかも分かっている。必死に涙を堪らえようとしているからだ。
泣かないように頑張っているから、目頭が熱くなる。
「こみ上げてくる気持ちは分からんでもないが、少しだけ話をさせて欲しい・・・・・長谷部室長例のモノを・・・・・」
少しだけ気不味そうな藤堂元帥の声に、夜神と式部は少しだけ恥ずかしい気持ちで藤堂元帥を見る。
「例のモノ?」
気になる言葉に夜神は藤堂元帥をまじまじと見てしまう。
すると、長谷部室長は机の下から、トランクを取り出す。長くて黒いトランクは金属製で頑丈な作りだ。
カチャカチャと音をさせながらトランクを開き、夜神に開いた方を見せる為に方向転換する。
「?!!っ・・・・・」
トランクの中に入っていたのは見覚えのある「高位クラス武器」だ。
青い柄巻きの蒼月
赤い柄巻きの紅月
黒い柄巻きの黒揚羽
仕込み簪の月桜
どれも自分が使ってきた、命を預けて、力を信じて振るい続けた刀達だ・・・・・
「みんな・・・・・・」
無意識に手が伸びそうになるのを堪えた。まだ、許可は下りてない。それに、再び力を貸してくれるのかも分からない。
意思を持つ武器で、自分達の力を発揮してくれると信じた者にしか力を貸してくれない。
一度、手放した者に再び力を貸してくれるのかも正直分からない。何故なら、前例がないからだ。
手放す=「死」を意味するからだ。
武器を使用した者は、吸血鬼の戦闘で命を落としている。そして、武器を回収して次の使い手に行く。それを繰り返してきた。
また、生きてる間に譲渡し、新たな使い手が使い続ける事も稀にある。
そのどれにも、今回は当てはまらない。
「再び「高位クラス武器」が使い手として認めてくれるかは正直分からない。それでも武器に問うか?やめるか?」
藤堂元帥の固い声と表情で、真剣に質問する。
このまま引き返すのもありだし、どんな結果になろうと試練を乗り越える事も出来る。
なら、自分は・・・・・・
「武器に・・・・私はもう一度、使い手として認めてくれるのかを問わせてください」
覚悟を決めて藤堂を見る目は、真剣で迷いのない赤い瞳だった。
その覚悟を肌で感じた藤堂は軽く頷き、手を武器が置かれているトランクに差し伸べる。
一歩近づき武器を見つめる。緊張してしまい唾を飲み込んでしまう。武器を見つめるが、急に怖くなり顔を上げてしまう。
目が合ったのは式部だった。心配しながらも切れ長の目で真剣に見つめてくる。そして、軽く頷く。「心配ない」と言っているようにも見える。
隣りにいる虎次郎は、いつもの飄々とした態度で笑っていた。心配なんて全く感じない。むしろ「早くしろ~」と言っているようにも感じる。
相澤中佐は式部と同じような顔で、心配そうな顔だったが、でも何処かで信じているような雰囲気だった。
そして、隣にいる庵君は真剣な顔で見つめていた。心配も不安も微塵に感じない。ただ、武器と私の絆を信じているような顔で見つめていた。
みんなの顔から、不安は感じない。そのことだけで背中を押さえられた気持ちになる。
軽く深呼吸をし、手を蒼月に伸ばす。触れるギリギリまで手を伸ばし止まる。少し手が震える。このまま何もなかったら・・・・・・
一抹の不安が脳内を過る。けど、信じたい・・・・
躊躇いながらも黒い鞘に手を置く。一呼吸置いて鞘から温かさが伝わる。まるで生きているように「ドクン」と鼓動が伝わる。そして、ほのかに淡く青白い光彩を放つ。
「あ・・・・・・」
それは、初めて蒼月を手にした時と同じ光景だった。武器が使い手として認めてくれた証━━━
そのまま滑るように紅月にも手を伸ばす。
蒼月と同じ様に温かくなり、鼓動と共に赤い光彩を放つ。
黒揚羽に手を伸ばすと一羽の黒い蝶が生まれ、ヒラヒラと羽ばたき霧のように消えていった。
月桜は何も起こらない。寧ろそれが正しい。自分の家の家宝として代々受け継がれた。幼い頃からいてくれた存在。そして、いざという時の大事な懐刀。アベルがルルワに託した武器。万が一、カインがこの世界を手中に収めようとした時に戦う為の武器。
「・・・・・・ありがとうみんな・・・・・私を認めてくれて、再び力を貸してくれて・・・・貴方達にもう一度触れられて嬉しい・・・・・」
認めてくれる仲間がいてくれることは幸せなのかもしれない。
自分の居場所を、元々いた居場所を少しずつ取り戻せて幸運なのかもしれない。
「高位クラス武器」が夜神を使い手として認めた為、しばしの眠りから目覚める。そして、覚醒した為、隊長達の「高位クラス武器」が一斉に鳴きだす。
「どうやら、短い眠りから目覚めたようだ。夜神大佐を使い手として認めたのを確認した。もう一度、蒼月達を使い討伐任務を遂行してくれたまえ。己の力と存在をたっぷりと奴らに見せつけろ。そして、自分は奴らとは違う事を仲間に知らせろ。自分の居場所は己で掴み取りなさい・・・・・嵐山もだが、少なくとも私達も夜神大佐の味方である事を忘れないで欲しい」
元帥の立場なら言わない言葉を、夜神に向かって投げかける。
一人ではない。仲間はいる。少なくともこの部屋にいる人は夜神の事を邪険にはしない。
辛いこと、壁にぶつかり挫けそうになっても、手を差し伸べる人はいる事を知って欲しい・・・・・
色々な意味を込めて、藤堂は夜神に言葉を投げかけた。そして、夜神は藤堂の言葉を聞いて、周りにいる人達を一人、一人見ていく。
その誰もが、邪険や軽蔑、侮蔑などの眼差しは一切ない。あるのは、温かい優しい眼差しだけ。
日だまりのようは眼差しに、ずっと強張っていた表情が段々と溶かされていく。
そして、ずっとみんなに見せていた微笑みを、再びみんなに向かって微笑む。
「・・・・・ありがとうございます・・・・」
多くを語ることはなく、短いありふれた言葉だけで感謝を伝える。けど、その言葉だけ十二分だと周りの人達も思ってしまう程、夜神の感謝の言葉はそれだけの重みがあった。
夜神が軍に復帰したが、すぐに討伐任務をする事はなかった。
著しい体力の低下の為リハビリと、事務作業をする為に内勤を言い渡される。
また、活動範囲は軍の施設の中だけに留まり、施設外━━━━━外に出ることは許可されなかった。
それでも生かされる事、認めてもられる事が嬉しかった。
もし、存在を認めてもらえたならば、外に出ることを許可されたならば、真っ先に母親や先生のお墓に行きたいと心の中で願いながら、与えられた仕事を着実にこなし、時に仲間の剣術指導をする。
そんな、日々を過ごしなから数ヶ月が過ぎたある日、夜神は等々、外出の許可が出た。勿論、一人だけの外出は出来ない。それでも一歩前進だと思った。
それは、自分の存在が人類に仇なす者ではなく、手を差し伸べる者、人を救う者として認められた証しだと夜神は思った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
蒼月達も夜神の元に戻ってきました!
これで、完璧な「夜神大佐」の復活です!
そして、やっ~~と外出許可が出ました。長かったねーです。
許可が出て、真っ先に向かうのは先生のお墓参りです。勿論、一人では外に出られないのでお供はいますよ?その、お供は誰でしょう~
気不味いとかの雰囲気はない。むしろ、「やっとか・・・」と、期待に溢れた雰囲気で居心地が良い。
けど、何を話せばいいのか分からなくて無言になってしまう。
三人の靴音だけが聞こえる廊下を歩く。この廊下を歩くのも久しぶりだ。
皇帝による侵略から上層部や、軍の施設にいたし、その後は帝國にいた。
再び、軍の廊下を歩けるとは思いもしなかった。けど、実際は歩いている。それも、着ることは叶わないと思っていた軍服を着てだ。
夢心地とか、曖昧でふわふわした表現が合いそうなほど、自分の心は浮足立っている。
見栄なのか、恥ずかしいのか、なるべく顔に出さず、長谷部室長もびっくりの無表情を装っているが、口の端が少し持ち上がるのは内緒だ。
夜神が顔の表情で一人、戦っている時、藤堂と七海もまた同じように顔の表情で戦っていた。
幼い頃から見てきた娘が立ち上がり、再び軍服を着て共に戦う。
全てを奪われて、心を打ち砕かれた。沢山、泣いただろう。何度、自分を追い詰めたのだろう。けど、自分の足で再び立ち上がり、歩みだした。
誇りに思うし、何より強いと思ってしまう。
養父だった友は既にこの世にはいない。きっと空から見守っていると思う。余りにも色々あって、心休まる暇なく、ハラハラしながら見守っていたと思うが、やっと落ち着いて見守れるかもしれない。
この世にはいないが、その分、我々が見守るから安心して欲しい。
そして、軍の復帰を心から祝おう。平常を装おって無表情でいると思うが、我々を甘く見ないで欲しいものだ。嬉しいのが分かるほど雰囲気が伝わる。顔が綻んでいるのが分かる。それは、我々も一緒か・・・・・・
互いに無表情で平常を装いながらも、心は浮足立っていて、今にも羽ばたきそうな程の気持ちを互いに隠しながら廊下を歩き目的の場所に着く。
「第一室」と書かれた扉の前で三人は立ち止まる。藤堂はノックすると、返事が聞こえる。
ゆっくりと扉を開き、藤堂、七海、夜神の順で入室する。
部屋の奥には大きな机があり、その場所を使用する人物が座っていた。
この「第一室」の室長であり、夜神の上司でもある長谷部 匡介中将だ。相変わらずの無表情で感情が分からない・・・・・のは、慣れてない人だけで、夜神達ぐら付き合いの長い人達ならすぐに分かる。
とても喜んでいる事を。目の表情、口の微妙な角度で分かる。夜神の復帰を歓迎しているのが。
その周りには第一室の隊長達である七海 虎次郎中佐、相澤 千明中佐、式部 京子大尉、そして、夜神の部隊で唯一の隊員である庵 海斗伍長が立っていた。
腕章には金や赤ラインがあり、全員「高位クラス武器」保持者を意味している。
そんな、優れた人物達の前に進み出る。あれ程、浮足立っていたのに、一歩、一歩進むごとに緊張してきてしまう。足が震えるまではいかないが、妙に重く感じるのはなぜだろう・・・・・
両端に避けた藤堂元帥と七海中将の間から、夜神は長谷部の座る席に近づく。すると、待ち受けていたように長谷部室長は立ち上がり夜神を見る。その行動を一通り見ると夜神は敬礼する。
「本日より復帰しました。至らない所等、御座いますでしょうがご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」
「夜神大佐の復帰を心より喜ぶ。以前のような活躍を期待する」
夜神の言葉に答えるように、長谷部室長は敬礼し活躍を期待する言葉を言う。
その言葉と共に周りにいた隊長達も同じく敬礼する。
その顔は皆、心から歓迎する顔だった。例え夜神が吸血鬼になろうと、自分達の敵である吸血鬼に変わっても、夜神は夜神だと。
幼い頃から知っている夜神は強くて、少し世間とズレていて、相手の恋慕を尽く打ち砕く事に事欠かない。
華麗で苛烈な剣士の夜神を知っているから、今、目の前にいる女性は姿形は吸血鬼でも、中身は自分達の知っている夜神だ。
誰よりも吸血鬼を憎み、この手で殲滅する事を望んでいた。
なのに、その、吸血鬼になってしまい、心の葛藤は計り知れないのも分かっている。
なら、少しでも安心を安らぎを与えるにはどうしたらいいか・・・・・・悩んた末、今までと変わらない態度で接することがいいのでは?と、誰もが思った。
変に態度を改めても気まずいだけ。だからといって気を使いすぎるのもよくない事は分かる。
なら、今まで通りが一番いいだろう・・・・・が、皆の共通認識だった。
「おかえりなさい・・・・夜神大佐」
式部の落ち着いた、けど、何かを堪えているような詰まった声を夜神に向ける。
「・・・・・ただいま・・・・式部、みんな・・・・」
敬礼する為に上がっていた腕がゆっくりと下がっていく。
いつものように微笑んでいるのに上手く出来ない。
目頭が熱くなる。何で熱くなるのかも分かっている。必死に涙を堪らえようとしているからだ。
泣かないように頑張っているから、目頭が熱くなる。
「こみ上げてくる気持ちは分からんでもないが、少しだけ話をさせて欲しい・・・・・長谷部室長例のモノを・・・・・」
少しだけ気不味そうな藤堂元帥の声に、夜神と式部は少しだけ恥ずかしい気持ちで藤堂元帥を見る。
「例のモノ?」
気になる言葉に夜神は藤堂元帥をまじまじと見てしまう。
すると、長谷部室長は机の下から、トランクを取り出す。長くて黒いトランクは金属製で頑丈な作りだ。
カチャカチャと音をさせながらトランクを開き、夜神に開いた方を見せる為に方向転換する。
「?!!っ・・・・・」
トランクの中に入っていたのは見覚えのある「高位クラス武器」だ。
青い柄巻きの蒼月
赤い柄巻きの紅月
黒い柄巻きの黒揚羽
仕込み簪の月桜
どれも自分が使ってきた、命を預けて、力を信じて振るい続けた刀達だ・・・・・
「みんな・・・・・・」
無意識に手が伸びそうになるのを堪えた。まだ、許可は下りてない。それに、再び力を貸してくれるのかも分からない。
意思を持つ武器で、自分達の力を発揮してくれると信じた者にしか力を貸してくれない。
一度、手放した者に再び力を貸してくれるのかも正直分からない。何故なら、前例がないからだ。
手放す=「死」を意味するからだ。
武器を使用した者は、吸血鬼の戦闘で命を落としている。そして、武器を回収して次の使い手に行く。それを繰り返してきた。
また、生きてる間に譲渡し、新たな使い手が使い続ける事も稀にある。
そのどれにも、今回は当てはまらない。
「再び「高位クラス武器」が使い手として認めてくれるかは正直分からない。それでも武器に問うか?やめるか?」
藤堂元帥の固い声と表情で、真剣に質問する。
このまま引き返すのもありだし、どんな結果になろうと試練を乗り越える事も出来る。
なら、自分は・・・・・・
「武器に・・・・私はもう一度、使い手として認めてくれるのかを問わせてください」
覚悟を決めて藤堂を見る目は、真剣で迷いのない赤い瞳だった。
その覚悟を肌で感じた藤堂は軽く頷き、手を武器が置かれているトランクに差し伸べる。
一歩近づき武器を見つめる。緊張してしまい唾を飲み込んでしまう。武器を見つめるが、急に怖くなり顔を上げてしまう。
目が合ったのは式部だった。心配しながらも切れ長の目で真剣に見つめてくる。そして、軽く頷く。「心配ない」と言っているようにも見える。
隣りにいる虎次郎は、いつもの飄々とした態度で笑っていた。心配なんて全く感じない。むしろ「早くしろ~」と言っているようにも感じる。
相澤中佐は式部と同じような顔で、心配そうな顔だったが、でも何処かで信じているような雰囲気だった。
そして、隣にいる庵君は真剣な顔で見つめていた。心配も不安も微塵に感じない。ただ、武器と私の絆を信じているような顔で見つめていた。
みんなの顔から、不安は感じない。そのことだけで背中を押さえられた気持ちになる。
軽く深呼吸をし、手を蒼月に伸ばす。触れるギリギリまで手を伸ばし止まる。少し手が震える。このまま何もなかったら・・・・・・
一抹の不安が脳内を過る。けど、信じたい・・・・
躊躇いながらも黒い鞘に手を置く。一呼吸置いて鞘から温かさが伝わる。まるで生きているように「ドクン」と鼓動が伝わる。そして、ほのかに淡く青白い光彩を放つ。
「あ・・・・・・」
それは、初めて蒼月を手にした時と同じ光景だった。武器が使い手として認めてくれた証━━━
そのまま滑るように紅月にも手を伸ばす。
蒼月と同じ様に温かくなり、鼓動と共に赤い光彩を放つ。
黒揚羽に手を伸ばすと一羽の黒い蝶が生まれ、ヒラヒラと羽ばたき霧のように消えていった。
月桜は何も起こらない。寧ろそれが正しい。自分の家の家宝として代々受け継がれた。幼い頃からいてくれた存在。そして、いざという時の大事な懐刀。アベルがルルワに託した武器。万が一、カインがこの世界を手中に収めようとした時に戦う為の武器。
「・・・・・・ありがとうみんな・・・・・私を認めてくれて、再び力を貸してくれて・・・・貴方達にもう一度触れられて嬉しい・・・・・」
認めてくれる仲間がいてくれることは幸せなのかもしれない。
自分の居場所を、元々いた居場所を少しずつ取り戻せて幸運なのかもしれない。
「高位クラス武器」が夜神を使い手として認めた為、しばしの眠りから目覚める。そして、覚醒した為、隊長達の「高位クラス武器」が一斉に鳴きだす。
「どうやら、短い眠りから目覚めたようだ。夜神大佐を使い手として認めたのを確認した。もう一度、蒼月達を使い討伐任務を遂行してくれたまえ。己の力と存在をたっぷりと奴らに見せつけろ。そして、自分は奴らとは違う事を仲間に知らせろ。自分の居場所は己で掴み取りなさい・・・・・嵐山もだが、少なくとも私達も夜神大佐の味方である事を忘れないで欲しい」
元帥の立場なら言わない言葉を、夜神に向かって投げかける。
一人ではない。仲間はいる。少なくともこの部屋にいる人は夜神の事を邪険にはしない。
辛いこと、壁にぶつかり挫けそうになっても、手を差し伸べる人はいる事を知って欲しい・・・・・
色々な意味を込めて、藤堂は夜神に言葉を投げかけた。そして、夜神は藤堂の言葉を聞いて、周りにいる人達を一人、一人見ていく。
その誰もが、邪険や軽蔑、侮蔑などの眼差しは一切ない。あるのは、温かい優しい眼差しだけ。
日だまりのようは眼差しに、ずっと強張っていた表情が段々と溶かされていく。
そして、ずっとみんなに見せていた微笑みを、再びみんなに向かって微笑む。
「・・・・・ありがとうございます・・・・」
多くを語ることはなく、短いありふれた言葉だけで感謝を伝える。けど、その言葉だけ十二分だと周りの人達も思ってしまう程、夜神の感謝の言葉はそれだけの重みがあった。
夜神が軍に復帰したが、すぐに討伐任務をする事はなかった。
著しい体力の低下の為リハビリと、事務作業をする為に内勤を言い渡される。
また、活動範囲は軍の施設の中だけに留まり、施設外━━━━━外に出ることは許可されなかった。
それでも生かされる事、認めてもられる事が嬉しかった。
もし、存在を認めてもらえたならば、外に出ることを許可されたならば、真っ先に母親や先生のお墓に行きたいと心の中で願いながら、与えられた仕事を着実にこなし、時に仲間の剣術指導をする。
そんな、日々を過ごしなから数ヶ月が過ぎたある日、夜神は等々、外出の許可が出た。勿論、一人だけの外出は出来ない。それでも一歩前進だと思った。
それは、自分の存在が人類に仇なす者ではなく、手を差し伸べる者、人を救う者として認められた証しだと夜神は思った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
蒼月達も夜神の元に戻ってきました!
これで、完璧な「夜神大佐」の復活です!
そして、やっ~~と外出許可が出ました。長かったねーです。
許可が出て、真っ先に向かうのは先生のお墓参りです。勿論、一人では外に出られないのでお供はいますよ?その、お供は誰でしょう~
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる