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内勤勤務から数日が過ぎた夕方、書類のサグラダ・ファミリア(何故か第一室全員が言い出した)が半分ほど解体され、やっと念願の自分の机で仕事をしている夜神は、イタリア軍と連絡をすることになった。

本来なら後期に行われる、共同演習の日本軍側の指揮をするはずだったのだが、帝國に拉致されてしまい、指揮をとることが難しくなったので、別の人間が代理することになった。

帰って来れたのだが、心身の衰弱を理由に、今回はそのまま代理の人間が指揮をすることになる。

話は進んでいるが、相手を考えると、詫びの一つでも伝えないと、色々とややこしい事になると代理人が言っていたので、時差を考慮して、この時間帯に連絡をする。
『お久しぶりです。ベルナルディ中佐。お元気でしたか?』

イタリア軍の合同演習責任者━━━カルロ・ベルナルディ中佐と連絡をする。

本当なら、当日まで顔も声も聞く予定はなかったのだが、代理人こと、七海虎次郎少佐が、無精ひげを撫でながら、本当にすまないと思っているのか、分からない顔で言ってくるのだ
「カルロの奴が、すっげー心配してよー。代理で俺が指揮するのはいいみたいなんだが、本来の責任者が、詫びの一つもないのはどーなんだ!ってなっちまってよー。すまんが、夜神頼むよー。元気な顔を見せりゃー納得するからさー!」

本当に向こうが怒って、謝罪を求めているのか、いまいち分からない説明だったが、虎次郎の言っていることも分かるので、顔を見せて謝罪する事になったのだ。

『お久しぶりです。夜神大佐。顔を見れて安心しました。色々と大変だったようで・・・・・体調は良くなりましたか?』
心配していたのは本当の事のようで、顔をひと目見ただけで、物凄い笑顔になっているのベルナルディ中佐に、若干引きつつ、謝罪をする。
『ご心配お掛けしました。この通り元気になりましたが、まだまだ本調子ではなく・・・・本来は私が指揮する筈だった合同演習を七海少佐が代理として指揮することになりました。ご連絡が遅くなってしまいすみません』
連絡が遅くなったことに関しては、迷惑をかけてしまったと反省している。

『大丈夫ですよ。いい加減に見える七海少佐ですが、仕事はちゃんとしているのは知ってますので安心してますよ。夜神大佐も補佐として七海少佐を手伝うとお聞きしましたよ?』
そうなのだ。虎次郎が指揮をするが、その補佐として夜神が付くことになったのだ。

『はい。補佐することになりました。ですが、七海少佐も何度か、演習の指揮をしてますのでご安心下さい。ベルナルディ中佐』
虎次郎も経験しているので、そこは安心してほしくて、演習指揮の経験者だとベルナルディ中佐に伝える。

『えぇ、知ってますよ。ですが、折角の大佐とのやり取りが、虎に変更とか・・・失礼』
今、何か聞こえたような?演習のやり取りが、別の目的に変わっているような気がするのは、聞き間違いだろうか?

『と、とにかく、不安は全くもってないです。それに夜神大佐の顔を見れて、ひとまず安心しましま。貴方は我々軍の中では、一目置かれる存在です。そんな存在が、帝國の情報を持って帰ってきたと衝撃があったんですよ?心身ボロボロになりながらも、軍に有益な情報を持ち帰った夜神大佐は、今や有名人ですよ。そんな大佐と話が出来て私は嬉しいですよ!』
おべっかを使っているようにも聞こえて、夜神は苦笑いをする。そろそろ時間の無駄だと思い話しをきりあげにかかる。

『そんな風に思って頂いてありがとうございます。貴重なお時間を頂いて、こちらの謝罪を受け入れてくださり、イタリア軍の寛容さに改めて感謝します。今後の話し合いは七海少佐が対応しますので、ベルナルディ中佐もあしからず』
そろそろ我慢の限界だった。何故、ベルナルディ中佐と話をすると、いつも我慢のメーターが振り切れてしまうのだろう?

『その様な顔をしないで下さい。益々、魅力的に見えますよ。画面越しでなく、早く日本行って夜神大佐と直接お会いしたいですね!なんと言うか・・・・・婉然で妖美な表情をするようになったのは・・・』
『ベルナルディ中佐!!そろそろ私も次の仕事がありますので、よろしいですか?』
婉然?妖美?どんな表情してるの!?ベルナルディ中佐の発言で、我慢の限界を迎えた夜神はとうとう話を切り上げた。

『・・・・相変わらずお忙しいようでなによりです。私もそろそろ仕事をしないといけないようだ。夜神大佐からの謝罪は受け取りました。今後は虎と色々と話を詰めていきますよ。大佐に会えることを楽しみにしてます。そして今度の演習で勝つのは我々です!その時はを実行させて頂きますよ!!覚悟していて下さい!では、さようなら!!』

そうして画面は切れてしまった。最後の最後に問題発言をしていくベルナルディ中佐に、軽く殺意を抱いてしまった夜神は、深い深いため息をする。
「あぁ~~も~~ベルナルディ中佐が意味分からない。もう、演習に来ないで欲しい!!もう、嫌!!」
この謝罪も本当に必要だったのか、疑問が生まれる。全てベルナルディ中佐と虎次郎の悪巧みではないのかと、疑ってしまう。それぐらい色々と軽く感じたのだ。

「一度軽くシメてみるか?」
本気で考える夜神だった。

(マジでこぇ━━━━━━よっ!!般若?鬼?イタリア語だったから、話の内容はわからないが、どんどん顔が険しくなって、見えない角が生えてきて、背中に般若降臨しているし、生きた心地がしない。なんでこんな時にかぎってみんな、部屋にいないのかよっ!)

庵はソファの上で涙目になりながら、夜神とベルナルディ中佐のやり取りを見ていた。
イタリア語で話しているので内容はほぼ分からなかったが、どんどん顔が不機嫌になっていくのが分った。
それと同じぐらい背中には、般若か鬼が少しずつ現れてくるのが見えてきたのだ。
なぜ、ベルナルディ中佐と話す時は、背中にそんな恐ろしいものが降臨するのか教えて欲しい・・・・・
自分の運のなさを嘆いてしまう庵だった。

渡された過去問の中で解からないものがあったので、教えてもらっていたが、イタリア軍の演習指揮者に、色々と話さないといけない事があるようで、少し待っていて欲しいと言われて、同じ部屋にあるソファで待機していたが、その事を後悔してしまった。
自分の机に戻れば良かったと後から嘆いてしまったのだ。

いくら、自分の気持ちを理解しても、般若を降臨させてしまう夜神は怖いのだ。控えめに言っても恐ろしすぎる。

庵が涙目になりながら、事の顛末を見ていたことなど気にすることもなく、夜神は式部からの差し入れの缶コーヒーを飲んで、一旦この荒ぶった気持ちを静める。

そうして、何口か飲んで落ち着いたあと、ソファに座っている庵に、いつもの微笑んだ顔を向けて話す。
その声のトーンは先程の荒くなったものとは違い、普段と何も変わらないものだった。

「ごめんね。話が長くなって。分からない問題の解き方だったよね?どこが分からないの?」
「・・・・・もう、いいんですか?」
「話は終わったからね。本当にベルナルディ中佐は何を考えているのか分からないよ」
「そ、そうなんですね。中佐ぐらいの立場になると、周りに色々とさとられないようにしているのですかね?」

・・・・・いや、違う。ただ単に夜神大佐がわかってないだけだ。あんなに分かりやすいのになぜだ?
庵は思ったが、その言葉は出さずに胸にしまい込む。

「さとられないようにかぁ・・・・なる程理解したよ。ありがとうね庵君。教えてくれて」
斜めな方向に理解して、納得した夜神を見て、庵は苦笑いをしていたことを、夜神は知らないだろう。
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