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急の部
第34話 突如訪れたそれ
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朝、目が覚めると、なんだか身体が重かった。
「うーん……」
いつもならすっきり起きられるのに、今日はベッドから出るのが辛い。下腹部に鈍い痛みがあって、なんとなく気分もすぐれない。
「……風邪でもひいたかな」
でも熱を測ってみても平熱だ。咳も出ないし、鼻水も出ない。ただ、なんとなく調子が悪い。
着替えをしてリビングに向かうと、理子先輩が既に朝のコーヒーを嗜んでいた。
「おはよう、翼」
「おはようございます」
「……体調でも悪いのかしら? 顔色が良くないけど」
理子先輩が心配そうに僕を見つめた。
「なんとなく調子が悪くて……でも熱はないんです」
「そう……どんな風に?」
「下腹部が重くて、なんだかだるいんです」
理子先輩の表情が、少し変わったような気がした。そして丁寧に言葉を選ぶようにして、口を開く。
「……無理しないで。今日はゆっくり休んでいなさい」
そう言って、優しく僕の肩を叩いてくれた。
朝食も、いつもほど食べられなかった。食欲がないわけじゃないけど、なんとなく食べる気になれない。
「大丈夫?」
「はい……すみません、なんか変で」
「変じゃないわ。ゆっくりでいいのよ」
理子先輩が時々、僕の様子を見ている。まるで何か心当たりがあるような、そんな表情だった。
* * *
午前中は、ソファでぼんやり過ごしていた。本を読もうとしても集中できないし、テレビを見ても内容が頭に入ってこない。
下腹部の痛みは、だんだん強くなってきていた。座っていても立っていても、なんとなく重苦しい。腰も痛くなってきた。
「理子先輩……」
「どうしたの?」
実験の手を止めて、理子先輩が振り返った。
「……痛みが、強くなってきました」
「どの辺りが?」
「下腹部と腰が……」
理子先輩が僕の近くに来て、額に手を当ててくれた。
「熱はないわね。痛みはズキズキする感じ? それとも重い感じ?」
「重い感じです。なんだか、中から押されているような」
「そう……」
理子先輩の表情が、また意味深なものになった。
「もう少し様子を見ましょう。でも、何か変化があったらすぐに教えて」
「はい」
なんだろう、この痛み。こんな感覚、初めてだ。
トイレに行く回数も増えた。別に何かしたいわけじゃないけど、なんとなく落ち着かない。
理子先輩の近くにいると、少し安心する。いつもより甘えたい気分になってしまう。
「理子先輩、隣にいてもらってもいいですか?」
「もちろんよ」
理子先輩が僕の隣に座ってくれた。その温かさが、なんだかとても心地よかった。
* * *
昼近くになって、トイレに行った時だった。
下着を見て、僕は凍りついた。
「え……?」
血がついている。赤い血が、確実に下着についていた。
「なんで……? どこから……?」
手が震えた。怪我をした記憶はない。どこかぶつけたっけ? でも、そんな覚えはない。
血は、明らかに下着の、あの部分についていた。
「どうしよう、どうしよう……」
パニックになりかけた。これは何? 病気? 怪我?
「り、理子先輩……理子先輩!」
震え声で呼んだ。トイレの外から、理子先輩の足音が聞こえた。
「どうしたの?」
「あの……その……血が……」
「血?」
「下着に……血がついてるんです」
しばらく沈黙があった。それから、理子先輩のほっとしたような声が聞こえた。
「……そう、やっぱり……そうだったのね」
「やっぱりって……理子先輩、知ってたんですか?」
「ええ。だいたい予想はついてたわ。あまり当たってほしくはなかったのだけれど」
「予想って……これ、何なんですか?」
「翼、それは生理よ」
「せ、生理……?」
理子先輩の言葉が、最初は理解できなかった。
「女性の身体の自然な現象。月に一度起こるものよ」
「僕に……生理が……?」
「そうよ。これで……翼の身体は完全に女性になったということが、証明されたわけね」
頭が真っ白になった。生理。女性の生理が、僕に起こっている。
「でも、僕、男だったのに……」
「今は女性の身体でしょう? だから、生理も起こる。むしろ、女性化してから三ヶ月も起こらなかったことが不思議なのよ」
理子先輩の声は冷静だった。でも僕は、まだ現実を受け入れられずにいた。
「……ど、どうしたらいいんですか?」
「まず、生理用品を使いましょう。説明するから、落ち着いて」
理子先輩が洗面所から生理用ナプキンを持ってきてくれた。
「これを下着につけるの。こうやって……」
理子先輩が丁寧に使い方を教えてくれた。最初はぎこちなかったけど、なんとか装着できた。
「これで大丈夫?」
「はい……でも、なんだか変な感じです」
「最初はそうよ。でも慣れるから」
ナプキンの存在は圧倒的な異物感を孕んでいた。でも、これが女性の日常なのか。
「理子先輩……僕、どうなっちゃうんですか?」
「大丈夫よ。これは病気じゃない。女性なら誰でも経験することよ」
でも僕は、まだ混乱していた。
* * *
リビングに戻って、ソファに座った。理子先輩が僕の向かいに座る。
「生理っていうのは、女性の身体が妊娠に備えて準備する現象なの」
「妊娠……」
「子宮の内側の膜が厚くなって、妊娠しなかった場合に剥がれ落ちる。それが血として出てくるのよ」
理子先輩の説明は分かりやすかったけど、現実感がなかった。
「……ど、どのくらい続くんですか?」
「個人差があるけど、だいたい三日から七日くらい。翼の場合は初めてだから、様子を見ましょう」
「毎月起こるんですか?」
「そうよ。28日周期が一般的ね」
毎月。この痛みと出血が、毎月起こる。
「痛いのも普通なんですか?」
「ええ。生理痛といって、多くの女性が経験するものよ」
僕は頭を抱えた。
「こんなことになるなんて……」
「翼」
理子先輩が優しく僕の名前を呼んだ。
「大丈夫。一人じゃないから」
「理子先輩……」
「何でも相談して。分からないことがあったら、すぐに聞いて」
「ありがとうございます」
でも正直、まだ現実を受け入れられずにいた。男だった僕に生理が起こるなんて。これが女性として生きるということなのか。
「今日はゆっくり休んで。無理しちゃダメよ」
「はい……」
下腹部の痛みは続いていた。ナプキンの感覚も気になる。
これから毎月、こんなことが起こるのか。
僕は本当に、女性になってしまったんだ。
理子先輩がいてくれて良かった。一人だったら、どうなっていたか分からない。
「理子先輩、本当にありがとうございます」
「当然よ。翼のことは、私が守るから」
理子先輩の言葉に、少しだけ安心できた。
でも、これからどうなるんだろう。女性として生きるって、こんなにも大変なことなのか。
午後の陽射しが部屋に差し込む中、僕は新しい現実と向き合い始めていた。
「うーん……」
いつもならすっきり起きられるのに、今日はベッドから出るのが辛い。下腹部に鈍い痛みがあって、なんとなく気分もすぐれない。
「……風邪でもひいたかな」
でも熱を測ってみても平熱だ。咳も出ないし、鼻水も出ない。ただ、なんとなく調子が悪い。
着替えをしてリビングに向かうと、理子先輩が既に朝のコーヒーを嗜んでいた。
「おはよう、翼」
「おはようございます」
「……体調でも悪いのかしら? 顔色が良くないけど」
理子先輩が心配そうに僕を見つめた。
「なんとなく調子が悪くて……でも熱はないんです」
「そう……どんな風に?」
「下腹部が重くて、なんだかだるいんです」
理子先輩の表情が、少し変わったような気がした。そして丁寧に言葉を選ぶようにして、口を開く。
「……無理しないで。今日はゆっくり休んでいなさい」
そう言って、優しく僕の肩を叩いてくれた。
朝食も、いつもほど食べられなかった。食欲がないわけじゃないけど、なんとなく食べる気になれない。
「大丈夫?」
「はい……すみません、なんか変で」
「変じゃないわ。ゆっくりでいいのよ」
理子先輩が時々、僕の様子を見ている。まるで何か心当たりがあるような、そんな表情だった。
* * *
午前中は、ソファでぼんやり過ごしていた。本を読もうとしても集中できないし、テレビを見ても内容が頭に入ってこない。
下腹部の痛みは、だんだん強くなってきていた。座っていても立っていても、なんとなく重苦しい。腰も痛くなってきた。
「理子先輩……」
「どうしたの?」
実験の手を止めて、理子先輩が振り返った。
「……痛みが、強くなってきました」
「どの辺りが?」
「下腹部と腰が……」
理子先輩が僕の近くに来て、額に手を当ててくれた。
「熱はないわね。痛みはズキズキする感じ? それとも重い感じ?」
「重い感じです。なんだか、中から押されているような」
「そう……」
理子先輩の表情が、また意味深なものになった。
「もう少し様子を見ましょう。でも、何か変化があったらすぐに教えて」
「はい」
なんだろう、この痛み。こんな感覚、初めてだ。
トイレに行く回数も増えた。別に何かしたいわけじゃないけど、なんとなく落ち着かない。
理子先輩の近くにいると、少し安心する。いつもより甘えたい気分になってしまう。
「理子先輩、隣にいてもらってもいいですか?」
「もちろんよ」
理子先輩が僕の隣に座ってくれた。その温かさが、なんだかとても心地よかった。
* * *
昼近くになって、トイレに行った時だった。
下着を見て、僕は凍りついた。
「え……?」
血がついている。赤い血が、確実に下着についていた。
「なんで……? どこから……?」
手が震えた。怪我をした記憶はない。どこかぶつけたっけ? でも、そんな覚えはない。
血は、明らかに下着の、あの部分についていた。
「どうしよう、どうしよう……」
パニックになりかけた。これは何? 病気? 怪我?
「り、理子先輩……理子先輩!」
震え声で呼んだ。トイレの外から、理子先輩の足音が聞こえた。
「どうしたの?」
「あの……その……血が……」
「血?」
「下着に……血がついてるんです」
しばらく沈黙があった。それから、理子先輩のほっとしたような声が聞こえた。
「……そう、やっぱり……そうだったのね」
「やっぱりって……理子先輩、知ってたんですか?」
「ええ。だいたい予想はついてたわ。あまり当たってほしくはなかったのだけれど」
「予想って……これ、何なんですか?」
「翼、それは生理よ」
「せ、生理……?」
理子先輩の言葉が、最初は理解できなかった。
「女性の身体の自然な現象。月に一度起こるものよ」
「僕に……生理が……?」
「そうよ。これで……翼の身体は完全に女性になったということが、証明されたわけね」
頭が真っ白になった。生理。女性の生理が、僕に起こっている。
「でも、僕、男だったのに……」
「今は女性の身体でしょう? だから、生理も起こる。むしろ、女性化してから三ヶ月も起こらなかったことが不思議なのよ」
理子先輩の声は冷静だった。でも僕は、まだ現実を受け入れられずにいた。
「……ど、どうしたらいいんですか?」
「まず、生理用品を使いましょう。説明するから、落ち着いて」
理子先輩が洗面所から生理用ナプキンを持ってきてくれた。
「これを下着につけるの。こうやって……」
理子先輩が丁寧に使い方を教えてくれた。最初はぎこちなかったけど、なんとか装着できた。
「これで大丈夫?」
「はい……でも、なんだか変な感じです」
「最初はそうよ。でも慣れるから」
ナプキンの存在は圧倒的な異物感を孕んでいた。でも、これが女性の日常なのか。
「理子先輩……僕、どうなっちゃうんですか?」
「大丈夫よ。これは病気じゃない。女性なら誰でも経験することよ」
でも僕は、まだ混乱していた。
* * *
リビングに戻って、ソファに座った。理子先輩が僕の向かいに座る。
「生理っていうのは、女性の身体が妊娠に備えて準備する現象なの」
「妊娠……」
「子宮の内側の膜が厚くなって、妊娠しなかった場合に剥がれ落ちる。それが血として出てくるのよ」
理子先輩の説明は分かりやすかったけど、現実感がなかった。
「……ど、どのくらい続くんですか?」
「個人差があるけど、だいたい三日から七日くらい。翼の場合は初めてだから、様子を見ましょう」
「毎月起こるんですか?」
「そうよ。28日周期が一般的ね」
毎月。この痛みと出血が、毎月起こる。
「痛いのも普通なんですか?」
「ええ。生理痛といって、多くの女性が経験するものよ」
僕は頭を抱えた。
「こんなことになるなんて……」
「翼」
理子先輩が優しく僕の名前を呼んだ。
「大丈夫。一人じゃないから」
「理子先輩……」
「何でも相談して。分からないことがあったら、すぐに聞いて」
「ありがとうございます」
でも正直、まだ現実を受け入れられずにいた。男だった僕に生理が起こるなんて。これが女性として生きるということなのか。
「今日はゆっくり休んで。無理しちゃダメよ」
「はい……」
下腹部の痛みは続いていた。ナプキンの感覚も気になる。
これから毎月、こんなことが起こるのか。
僕は本当に、女性になってしまったんだ。
理子先輩がいてくれて良かった。一人だったら、どうなっていたか分からない。
「理子先輩、本当にありがとうございます」
「当然よ。翼のことは、私が守るから」
理子先輩の言葉に、少しだけ安心できた。
でも、これからどうなるんだろう。女性として生きるって、こんなにも大変なことなのか。
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