放課後、女の子になった僕は、恋とカラダに戸惑っている

いろは杏⛄️

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急の部

第35話 二日目の辛さ

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 朝、目が覚めた瞬間、昨日とは比べ物にならない痛みが下腹部を襲った。

「ううっ……!」

 思わず声が出てしまう。昨日も痛かったけど、今日はその何倍も辛い。まるで内側から締め付けられているような、鋭い痛みが波のように押し寄せてくる。

 起き上がろうとしたけど、痛みで身体が動かない。腰も重くて、まるで鉛でも入っているみたいだ。

「り、理子先輩……」

 か細い声で呼んでみる。すぐに理子先輩の足音が聞こえた。

「翼? どうしたの?」

 ドアを開けて入ってきた理子先輩の顔を見た瞬間、涙がにじんできた。

「痛い……昨日より、すごく痛いです」

「そうね。二日目は一番辛いのよ」

 理子先輩が僕の額に手を当ててくれた。その手の温かさが、唯一の慰めだった。

「起き上がれるかしら?」

「ちょっと……無理かもしれません」

 本当に起きられない。こんな痛み、生まれて初めてだ。

「わかったわ。今日は無理しちゃダメよ」

 理子先輩が優しく僕の髪を撫でてくれた。

「でも、ナプキンを替えないと……」

「手伝うから、大丈夫」

 理子先輩に支えられて、なんとかトイレに向かった。ナプキンを見ると、昨日より明らかに出血量が多い。これほどの血を直視した経験がなかったため、思わず意識が遠のきそうになる。

「――っ! こんなに……」

「二日目は量も多いの。でも心配いらないわ」

 新しいナプキンをつけて、またベッドに戻った。でも横になっても痛みは治まらない。


     * * *


「朝食、少しでも食べられる?」

 理子先輩が心配そうに聞いてくれたけど、食欲なんて全くない。胃もムカムカして、何か食べたら吐いてしまいそうだ。

「ごめんなさい……食べられません」

「無理しなくていいのよ。でも水分は取らなきゃダメよ」

 理子先輩が温かいお茶を持ってきてくれた。

「うぅぅ……」

 また痛みの波が来た。思わず身体を丸めて、ベッドにうずくまる。

「痛い、痛い……」

「大丈夫、大丈夫よ」

 理子先輩が僕の背中をさすってくれる。でも痛みは容赦なく続く。

「こんなに痛いの、普通なんですか?」

「個人差があるけど、翼の場合は少し重いかもしれないわね」

「重い……?」

「生理痛の程度は人それぞれなの。軽い人もいれば、翼みたいに辛い人もいる」

 そんな……僕は重い方なのか。毎月こんな思いをしなければならないなんて。そんなことを考えると、痛みが増してきたような気がする。

「女性はみんな、こんな思いをしてるんですか?」

「そうよ。程度の差はあるけど、多くの女性が経験してることよ」

 理子先輩の言葉に、改めて驚いた。女性って、こんなに大変なことを隠して生活してるんだ。

「痛み止め、飲んでみる?」

「お願いします」

 理子先輩が薬を持ってきてくれた。でも、薬を飲んでもすぐには効かない。

「お腹を温めると少し楽になるわ」

 理子先輩が湯たんぽを持ってきて、僕の下腹部に当ててくれた。確かに、少しだけ痛みが和らいだ気がする。

「ありがとうございます……」

「どういたしまして」

 でも、痛みは相変わらず続いている。生理という言葉は知っていたけれど、こんなに辛いなんて、知らなかった。


     * * *


 昼過ぎになっても、痛みは一向に治まらなかった。むしろ、もっと激しくなってきている。

「うぅっ……来る……」

 また大きな痛みの波が来るのが分かった。

「理子先輩……」

 僕は理子先輩の手を握った。

「大丈夫、私がいるから」

 理子先輩が僕の手を握り返してくれる。その手の温かさだけが、この辛さの中での救いだった。

「あぁぁ……」

 痛みで思わず声が出てしまう。

「翼、深呼吸して。痛みと一緒に息を吸って、ゆっくり吐いて」

 理子先輩の声に従って、深呼吸してみる。でも痛みで思うようにいかない。

「一人だったら……どうなってたか……」

「でも一人じゃないでしょ? 私がいるから」

 理子先輩が僕の髪を撫でてくれる。

「理子先輩……ありがとうございます」

「当然よ。翼のためなら何でもするわ」

 理子先輩の優しさが身に染みる。こんなに献身的にしてもらって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「腰もマッサージしてあげる」

 理子先輩が僕の腰を優しくマッサージしてくれた。

「気持ちいい……」

「少しは楽になった?」

「はい……でも、まだ痛いです」

「そうね。でも薬が効いてくれば、もう少し楽になるはずよ」

 理子先輩の言葉を信じて、痛みに耐えるしかない。

「理子先輩、そばにいてもらえませんか?」

「もちろん」

 理子先輩が僕の手を握ったまま、ベッドサイドの椅子に座ってくれた。

「甘えてばかりで、すみません」

「甘えてなんかいないわ。辛い時は甘えて当然よ」

 理子先輩がいてくれるだけで、少し安心できる。痛みはまだ、続いているけれど……。
 

     * * *


 夕方になって、ようやく痛みが少し和らいできた。

「少し楽になりました」

「良かった。でも無理しちゃダメよ」

「はい……」

 ソファに移動して理子先輩と向かい合って座った。身体はまだ重いけど、午前中に比べれば大分マシになった。

「今日は本当に辛そうだったわね」

「……こんなに痛いなんて、思いませんでした。女性って大変なんですね……」

「そうよ。でも、みんなそれぞれ工夫して乗り越えてるの」

 理子先輩の言葉に、改めて女性の強さを感じた。

「でも……」

「でも?」

「正直に言うと、まだ自分のこととは思えないんです」

 僕は正直な気持ちを打ち明けた。

「今まで、女性になることの楽しい部分ばかり見てきました。メイクとか、おしゃれとか、浴衣とか」

「ええ」

「でも今日みたいな辛いことがあると……なんで自分がこんな目に遭わなきゃいけないのかって」

 理子先輩が静かに僕の話を聞いてくれている。

「逃げ出したくなるんです。男に戻れるなら、戻りたいって」

「そう思うのは自然なことよ」

「本当ですか?」

「ええ。だってこれは、本来翼が経験するはずのなかったことなんだから。嫌なことがあれば、そう思うのも無理はないわ」

 理子先輩の理解ある言葉に、少し救われた気がする。

「元に戻るための研究も進めているわ。もう少し……もう少しだけ待っていて。必ず、元に戻れるようにするから」

「理子先輩……」

「何でも私に相談して。私も、研究に進展があったらすぐに伝えるわ」

「ありがとうございます。でも、毎月こんなことが起こるなんて……」

「慣れてくるわ。それに、対処法もあるの」

「夏祭りの時は大丈夫でしょうか?」

「時期を計算して、準備しておけば大丈夫よ」

 理子先輩の言葉に、少し安心した。でも、まだ心の整理がつかない。

「学校が始まったらどうしよう……」

「その時はその時で考えましょう。今は無理しないで」

「はい……」

 今日一日で、女性として生きることの大変さを痛感した。でも、理子先輩がいてくれる。一人じゃない。

「今日は本当にありがとうございました」

「当然よ。翼のことは私が守るから」

 理子先輩の優しい言葉に、涙がにじんできた。

 女性として生きるって、こんなにも大変なことなんだ。でも、理子先輩がいてくれるから、きっと何とかなる。

 そう信じて、今日という一日を終えることにした。
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