【R18】陰に堕ちる 〜優しい彼女より、狂った彼女に溺れました〜

いろは杏

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第18話 背徳の代償

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 ――まだ、昂ぶりが鎮まらない。

 放課後の準備室。
 机の縁に腰を下ろした澪が、やや乱れた髪を指先で梳きながら、微笑んでいる。

「元気いっぱいですね、晶くん」
「それじゃあ、次は……どうしたいですか?」

 そう問いかけられた瞬間、晶の喉が、ごくりと鳴った。
 先ほどまで澪の喉奥に押し出していたはずの欲望は、なぜか消え去らず、むしろその火はさらに燃え広がっていた。

 頭がぼうっとする。
 けれど、それは熱ではない。渇きだった。
 澪の身体に、もっと深く、もっと強く、触れてみたい。――一つになりたい。

「……澪。俺……お前と……」

 言葉にするのが恥ずかしくて、苦しくて、それでも逃れられなくて。
 晶は、すがるように彼女の手を取った。

「……ひとつに、なりたい」

 澪は瞼を伏せ、ほんの一瞬、何かを思案するような沈黙を落とす。
 そして、ふと笑った。

「いいですよ。でも……ひとつだけ、条件があります」

 その声音には、またあの支配の響きがあった。

「……私がいいって言うまで、絶対に出さないでください」

 静かな言葉が、まるで契約書の一文のように晶の鼓膜に刻まれた。

「……わかった」

 迷いはなかった。
 澪に触れられるのなら、どんな条件でも――。

    * * *

 シャツのボタンが、ひとつ、またひとつと外されていく。

 澪の指先は、白磁の肌を露わにしながら、自らの身体を丁寧に脱がせていく。
 下着も、そのまま――何の恥じらいもなく。
 すべてをさらけ出す姿は、崇高で、淫靡だった。

 机の上で、彼女は静かに仰向けになる。
 黒い髪が広がり、白い太腿がわずかに開かれる。
 中心には、紅を差したように濡れた秘所が、わずかに脈を打っていた。

「……来てください、晶くん」
「ちゃんと、わたしの中に……入ってきて」

 その声だけで、腰が震える。

 晶はもはや自分を保てていなかった。
 ズボンを乱暴に引き下ろし、己のものを握りしめると、澪の脚の間に膝をつく。

 吐息が触れ合うほどの距離。
 視線を交わす。
 澪の瞳が、すべてを受け入れていた。

 そして――ゆっくりと、押し入る。

「っ……ぁ……あぁ……」

 澪の声が、鼻腔の奥を痺れさせる。
 内側から迎え入れる肉の熱。ぬめり。脈動。
 晶はそのすべてを、舌で味わうように意識した。

「……奥まで、ちゃんと……来てください」

 甘い命令に従って、晶は腰を進めていく。
 そのたび、澪の指が机を掴み、背筋がしなる。

 やがて、最奥に届いた瞬間――

「……よくできました、晶くん」

 その一言が、獣の本能を解き放った。

    * * *

 ――欲望は、もう止められなかった。

 最奥を突いたその瞬間、晶の中で何かが壊れた。

 腰が勝手に動く。
 澪の身体が揺れるたび、そこから溢れ出る水音が室内を濡らしていく。
 濡れた太腿が机に打ちつけられ、白い肌が紅潮していく。

「あっ……ふ、んっ……ぅん、奥……いい……っ!」

 喘ぎながらも、澪は晶の背を引き寄せてくる。
 それはまるで、互いの皮膚の境界さえ溶かしてしまいそうな抱擁だった。

 澪の中は、熱く、柔らかく、濡れていて、
 それでいて晶を締めつけ、搾り取ろうとする意志があった。

「もっと……動いてください……っ。わたしの奥、全部かき回すくらい、ぐちゃぐちゃにして……」

 命令とも懇願ともつかぬその言葉が、晶の耳に焼きついた。

 「いいと言うまで出すな」――
 その約束だけが、かろうじて理性を繋ぎ止める鎖だった。

 がくがくと震える脚。
 引き抜いて、突いて、また奥へ沈む。
 澪の奥に触れるたび、澪の爪が背中に食い込む。

(……これが、ひとつになるってことなのか)

 ただの快楽じゃない。
 ただの行為じゃない。

 澪の中で、自分が自分を失っていく。
 自分の熱が、彼女の熱に溶けていく。

 ――もう、他の誰もいらない。

 澪だけで、いい。
 澪の中で、生きて、果てるなら――

 その時。

 ――「ガチャン!」

 硬質な音が、背後から耳を撃った。
 重たい鉄扉が、無造作に開かれる音だった。

 晶の腰が止まる。
 澪の爪が、ふと晶の背中から離れる。

「……な、なにを、してるの……?」

 その声は――

 震えていた。
 怯えていた。
 理解が追いつかず、目の前の光景が現実だと受け入れられず、喉の奥で言葉を殺していた。

 振り返るまでもなく、晶は悟った。

 優里だった。
 教室で笑っていた。
 昼休みに弁当を差し出してくれた。
 恋人だった、優里――その彼女が、扉の前に立ち尽くしていた。

「……なんで……なんで、優里が……ここに……」

 晶の口から、虚ろな声が漏れた。
 脱力したように、腰が澪の中で止まっている。

 そして、澪が――
 あの、何もかもを知っていたような微笑みを浮かべた。

「ふふ。晶くんが、ちゃんと別れたのかどうか、試したかったんです」

 その笑顔には、悪意も憎しみもなかった。
 ただ静かに、透き通った声で――残酷な真実を突きつける。

「別れてなかったなら、彼女がここに来るように仕向けるだけ。……簡単でした」

「……っ、まさか……」

 晶の背中が冷たくなる。
 澪がすべてを計算していたことに、ようやく気づいた。

 優里の視線が澪と晶の結合部へと向いた瞬間、
 彼女の瞳から、大粒の涙が溢れた。

「……最低。裏切り者……っ」

 その言葉を残し、彼女は音もなく走り去った。

 足音が遠ざかっていく廊下で、静寂だけが残る。

【結】

 部屋には、まだふたり分の熱が渦巻いていた。
 潤んだ澪の膣が、晶を離さず締めつけている。

 けれど、晶の心は――ひび割れていた。

 口から洩れるのは、言葉ではなく、震え。
 罪悪感、恐怖、快楽の余韻、それらすべてがぐちゃぐちゃに混ざり合い、胸の奥で脈打っていた。

 その中で、澪が再び囁いた。

「ねえ、晶くん」

 甘い、囁き。
 蜜を垂らすような声音。

「……彼女さんを追いかけますか? それとも……このまま、わたしの中で続けますか?」

 選択を迫る声。
 それはどこまでも優しくて、どこまでも残酷だった。

 晶の心臓が、答えを出すのを恐れている――
 だが、身体はもう――澪を選んでいた。
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