【R18】陰に堕ちる 〜優しい彼女より、狂った彼女に溺れました〜

いろは杏⛄️

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第19話 最後の選択

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 優里の姿が、重たい鉄扉の向こうへ消えてから、どれほどの時間が経ったのか。
 準備室に満ちていた熱気は徐々に冷めていき、代わりに、張り詰めたような沈黙が広がっていく。
 だが、晶はまだ――澪の中にいた。

 動けなかった。
 体を離すことも、言葉を発することも、目を逸らすことすらできなかった。
 震えていたのは指先か、それとも心臓だったのか。

「……行かなくて、いいんですか?」

 澪が、囁く。
 その声は穏やかだった。何かを責めるでもなく、問いただすでもない。
 ただ、そこに浮かんだ笑みだけが、どこか無垢で――酷く、残酷だった。

 晶は、ぎゅっと目を閉じた。
 胸の奥に、優里の顔が浮かぶ。泣いていた。震えていた。
 それでも、その像は――どこか遠い。霞がかった夢のように、輪郭がぼやけていた。

 代わりに鮮やかに浮かび上がってくるのは、澪の舌、唇、吐息。
 あの濡れた喉の奥に受け止められた快感。
 嗅覚の奥にこびりついたシャンプーの香り。
 皮膚の裏に焼き付いた、快楽の余韻。

 ――比べてしまう。
 優しさも、ぬくもりも、安らぎもあったはずなのに。
 それらは、澪の甘美な毒には敵わなかった。

「……俺は、澪を選ぶ」

 小さな声だった。
 けれど、決して取り消せない言葉だった。
 自ら地獄に足を踏み入れる音が、耳の奥に響いた。

    * * *

「本当に?」

 澪の顔が、静かに傾ぐ。
 問いの形をとりながら、それはすでに答えを知っている者の口ぶりだった。

 晶は、かすかに唇を引き結び、そして頷いた。
 罪悪感はあった。後悔もあった。
 けれど、それ以上に――渇望があった。

 澪が、そっと微笑んだ。
 それは、どこまでも甘やかで、どこまでも底が見えなかった。

「じゃあ……私を選んでくれたお礼、しなきゃですね」

 そう言って、澪はその首を伸ばす。
 そのまま、熱を帯びた唇が晶の口元に重なる。

 柔らかさと熱が、脳を焼いた。
 唇を啄ばまれるたびに、膝が砕けそうになる。
 舌が触れ合い、唾液が混じる音が、耳の奥をくすぐる。

 キスは深く、長く、執拗だった。
 まるで、確かに選ばれたことを証明するかのように。

 口づけの最中、晶の中に残っていた優しさやためらいの欠片が、ゆっくりと蕩けていった。

    * * *
 
 唇が離れたのは、どれほどの熱が身体を巡った後だっただろう。
 繋がっていた時間が長すぎて、唇が離れても、なお澪の味が晶の口の中に残っていた。

 再び視線が絡む。
 その瞬間――不意に、晶の下腹部が痙攣した。
 昂ぶりが、完全に戻っていた。
 いや、さっきよりもさらに強く、激しく、燃え上がっていた。

 澪の指が、そっと晶の頬に添えられる。

「……ねえ、今、出しそうになりましたよね?」

 囁くように問われて、晶はびくりと肩を揺らした。

 澪の目が、細められる。
 甘く、妖しく、そして――支配者のそれだった。

「出したいですか?」

 晶は、声にならないほどの息を漏らしながら、激しく頷いた。

「……仕方ないですね。いいですよ、出しても」

 その一言は、解放の呪文だった。

 身体の奥に抑え込んでいた全てが、暴発するように噴き出しかけた。
 熱が、理性を焼き尽くす。
 欲望だけが、身体の中を支配していく。

 澪の脚が、そっと開かれる。
 まだ繋がっていたままのそこから、甘い蜜がとろりと滴っていた。
 指先がそこを軽く撫でるだけで、晶の腰が自ずと前にせり出す。

「……動いていいですよ」

 そう囁かれた瞬間、晶の全身が跳ねた。

 理性も、倫理も、もう何もなかった。
 ただ、そこに澪がいて。
 そこに熱があり、肉があり、快感がある。

 再び身体を押し進める。
 澪の中が、先ほどよりも滑らかに、深く、そして甘く晶を迎え入れていく。

「んっ……ふ、ぁ……」

 澪の声が漏れた。
 媚びるような甘い声ではなかった。
 獲物を取り込む肉が、喜びに鳴く音だった。

 晶は、もう止められなかった。
 快感が、感情よりも先に走る。
 腰が勝手に動き、澪の中を求めて、衝動のままに打ち付ける。

「気持ちいいですか? 晶くん……」

 澪が、上目遣いで囁く。
 その顔は愛らしいのに、どこか嘲るようでもあり、
 けれど、その視線に――晶は完全に堕ちていた。

 そして――

「……ひとつだけ、伝えておきますね」

 途切れ途切れの喘ぎの合間に、澪が不意に言った。

「わたし……今日、危険日なんです」

 その一言が、雷のように晶の脳を撃ち抜いた。

 理解した瞬間、意識の奥に赤い警告が灯る。
 けれど、すでに晶の身体は後戻りできなかった。

「う……澪っ、俺……!」

「いいですよ。……いっぱい、ください」

 その言葉と同時だった。
 晶の身体が痙攣し、喉の奥から野生のような声が漏れた。

 奥深く、澪の中に、すべてを吐き出す。
 限界を超えた熱が、一気に澪へ注がれていく。
 震えるほどの快感の中、意識が白く霞む。

 数秒、いや、数十秒が永遠のように流れて――ようやく、晶の身体が静かになった。

    * * *

 ゆっくりと離れる。
 その瞬間、澪の中から晶の証が――どろりと流れ出した。

 澪はそれを、指先ですくい上げる。

「あらあら……こんなにたくさん。やっぱり、たまりに溜まってたんですね」

 くすくすと笑う。

 その笑みは、慈しみに満ちていて、けれど、どこまでも狂っていた。

「……もしそうなったら、責任とってくれますよね?」

 澪は、指に絡んだ白濁を舐めながら、静かに微笑んでいた。
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