不思議な家の摺木さん

黒巻雷鳴

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夢を叶える魔法少女

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「仲介者のわたしが言うのもなんですが、あそこの家はですね……なにやら不気味な力がはたらいていて……その……オバケとか奇妙な姿をしたおかしな輩が遊びに来るって、昔からの評判なんですよ。ご購入を検討されるなら、もっと別の良い物件をお勧めしますよ」

 そんな不動産屋の突拍子もない噂話にひるまなかったのは、千弥だけだった。
 築年数が自分の親よりも年上の、山奥にある平屋の木造建築一軒家。価格も土地代込みで百万円ほどと、蓄えが少なくまだ若い千弥にとって、その訳あり物件は十二分に魅力的だった。
 だが、限界集落にも指定されている場所を選んだ理由は、予算だけではない。
 千弥は都会での暮らしが嫌になっていた。
 激務を強いる会社での人間関係にも、結婚を真剣に考えていた恋人にも。
 親友と思っていた男に、恋人を寝取られた。信じていた彼女に裏切られのだ。

「あたしたち、終わりにしましょう」

 突然の別れ話に、納得がいかなかった。
 近頃は仕事が多忙で会えなかったし、SNSのやり取りも、回数が目に見えて減ってきていた。
 それでも彼女は、自分を理解してくれていると思っていた。
 それなのに──千弥は問い続ける。なにがダメだったのか、どうすればよいのかお互い話し合いをしよう、考え直してくれないか──と。
 気がつけば、自分ひとりだけが必死になって食い下がっていた。

「あたしね、赤ちゃんができたの。もちろん千弥の子じゃない。父親は誰かって? フフッ、あなたのよく知ってる人よ」

 どうして? なぜ? この世に存在する膨大な数量の疑問符が脳内を埋め尽くしていくような錯覚を感じる。
 そして、心を壊す大打撃。木っ端微塵となって飛び散るふたりの記憶と彼女への愛情。千弥はこのとき、はじめて絶望した。
 すべてから逃げようとしていたのかもしれない。
 それは決して、彼の〝弱さ〟とは言えないだろう。
 誰しも必ず訪れる、生き方の考えを改めたり見つめ直すための時間。人として成長する〝なにか〟を得るための大切な時間。それが千弥にとって、現在いまだった。

 気持ちの整理ができないまま、二週間前に引っ越しを終えた。衣類や家具、これまでの人生で手に入れたり残された思い出の品々は極力処分をして。荷物は少なく、最小限に。
 こうしてやって来た新天地ではあるが、癒しや安息を求めてなどいない。けれども、なにかしらの期待はあった。それが〝なにか〟を知ることも、彼にとって人生の課題となるだろう。
 移り住んだ新居は、以前暮らしていたマンションの間取りとは比べものにならないほど広く、空気も澄んでいて日当たり良好。真新しい畳の香りが心を落ち着かせてくれる。
 聞かされた噂話の影響か、毎日のように自分以外の気配を感じてはいたが、とくにトラブルもなく、それなりに快適なひとり暮らしを満喫していた。

 それがまさか、児童向けアニメさながらの魔法少女が真夜中に訪ねて来ようとは……思いもよらない展開ではあるものの、困惑する千弥は、子供の頃に忘れ去ってしまっていた冒険心が目覚めるのを感じてもいた。
 物語だけの登場人物が、こうして目の前にいる。そこはどんな世界で、なにが常で、なにが正義なのだろうか。
 無理矢理に心を落ち着かせてサンダルを履く。
 手櫛で寝癖を整えながら、千弥は表に踏み出した。

 
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