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夢を叶える魔法少女
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玄関の先は鬱蒼とした庭で、伸び放題の雑草に青々と茂る木々が、童話のなかの不気味な森を連想させる。
遠いはずなのにとても近い夜空を見上げれば、やがて来る太陽の気配がわずかなグラデーションとなり、新しい朝を予感させた。
ふと、視線を感じ、暗闇の奥地に目を向ける。
穏やかな歩調で近づいてくる小さな人影。
いつの間に移動していたのか、魔法少女は千弥を見つめながらお互いの距離を詰めると、静かに用件を話しはじめた。
「夜、カップ麺とおにぎりを食べてすぐに寝たでしょ? そのとき、あなたの肉体にダーク・ファントムが入り込んだの」
「ダーク・ファントム?」
言われて少し記憶をたどる。
たしかに、遅い夕飯としてカップ麺を食べた。有名ラーメン店とのコラボ商品で、豚骨醤油味の生麺タイプ。お湯をそそいでから五分間も待つヤツを。
おにぎりはツナマヨネーズの、ごくありふれた定番おにぎりだ。あれだけ炭水化物を摂取してすぐに眠れば、将来的には健康診断に引っ掛かってもおかしくはない。けれども、ダーク・ファントムに心当たりなどなかった。
「その……なんだろ、いまいち話の内容が頭に入ってこないってゆーか、もうちょっと詳しく説明を──」
「わたしがダーク・ファントムをやっつけて、あなたの身体からピュア・エナジーを抽出する。単純な話だと思うけどね」
さも当然のように言い放つ魔法少女。その表情は変わらずにずっと真剣で、大人顔負けの自信に満ちあふれた強い意思が感じられた。
「抽出って……コーヒーじゃあるまいし、いったいどうやるつもりだ?」
「どうやるのかって? 簡単なことよ。このマジカル・ステッキを使って、あなたの魂と分離させるの。そうすればドリーム・バロメーターが満タンに近づいて、やがてこの地球はハピネス・ラブパワーに包まれる。全生命体に笑顔が取り戻されるのよ」
魔法少女は、なにかをつぶやきながら両手で握るマジカル・ステッキを胸元に抱き寄せ、片手に持ち替えてから大きな円を描くようにして振り回す。最後に前へ力強く突き出すと、全身からまばゆい光を放射してこう叫んだ。
「マジカル☆シュゥゥゥゥゥト!!」
その瞬間、杖の上部にあるハート型の宝石から放射された青白い稲妻に撃ち抜かれ、千弥の全身に電撃が走る。
「うぎゃあああああああ?!」
たまらずに絶叫した千弥は、そのまま地面へと倒れた。
「ごめんなさい。でも、急いでいるの。すぐに取り出すわよ」
小さな手に握られたマジカル・ステッキが、横たわる千弥の腹部の上を何度も往復する。祈祷師の儀式にも似た神秘的な動作。そして徐々に、みぞおちのあたりがじわっと温かくなってきた。
これがピュア・エナジーなのだろうか──今度は沸点に達したみたいな熱い血潮が、足や指の先まで駆け巡る。おぼえているはずのない、胎児の頃の記憶を思い出すような錯覚に精神が酔いしれる。
やがて熱気は胸元に集中し、肉体を、衣服を突き抜けて、その輝きを増してゆく。
ポォォォォォォ……ブゥゥゥン!
こうして三十七兆個の細胞から導かれた光の結晶は、魔法少女の不思議な力をかりて地上に生まれた。
遠いはずなのにとても近い夜空を見上げれば、やがて来る太陽の気配がわずかなグラデーションとなり、新しい朝を予感させた。
ふと、視線を感じ、暗闇の奥地に目を向ける。
穏やかな歩調で近づいてくる小さな人影。
いつの間に移動していたのか、魔法少女は千弥を見つめながらお互いの距離を詰めると、静かに用件を話しはじめた。
「夜、カップ麺とおにぎりを食べてすぐに寝たでしょ? そのとき、あなたの肉体にダーク・ファントムが入り込んだの」
「ダーク・ファントム?」
言われて少し記憶をたどる。
たしかに、遅い夕飯としてカップ麺を食べた。有名ラーメン店とのコラボ商品で、豚骨醤油味の生麺タイプ。お湯をそそいでから五分間も待つヤツを。
おにぎりはツナマヨネーズの、ごくありふれた定番おにぎりだ。あれだけ炭水化物を摂取してすぐに眠れば、将来的には健康診断に引っ掛かってもおかしくはない。けれども、ダーク・ファントムに心当たりなどなかった。
「その……なんだろ、いまいち話の内容が頭に入ってこないってゆーか、もうちょっと詳しく説明を──」
「わたしがダーク・ファントムをやっつけて、あなたの身体からピュア・エナジーを抽出する。単純な話だと思うけどね」
さも当然のように言い放つ魔法少女。その表情は変わらずにずっと真剣で、大人顔負けの自信に満ちあふれた強い意思が感じられた。
「抽出って……コーヒーじゃあるまいし、いったいどうやるつもりだ?」
「どうやるのかって? 簡単なことよ。このマジカル・ステッキを使って、あなたの魂と分離させるの。そうすればドリーム・バロメーターが満タンに近づいて、やがてこの地球はハピネス・ラブパワーに包まれる。全生命体に笑顔が取り戻されるのよ」
魔法少女は、なにかをつぶやきながら両手で握るマジカル・ステッキを胸元に抱き寄せ、片手に持ち替えてから大きな円を描くようにして振り回す。最後に前へ力強く突き出すと、全身からまばゆい光を放射してこう叫んだ。
「マジカル☆シュゥゥゥゥゥト!!」
その瞬間、杖の上部にあるハート型の宝石から放射された青白い稲妻に撃ち抜かれ、千弥の全身に電撃が走る。
「うぎゃあああああああ?!」
たまらずに絶叫した千弥は、そのまま地面へと倒れた。
「ごめんなさい。でも、急いでいるの。すぐに取り出すわよ」
小さな手に握られたマジカル・ステッキが、横たわる千弥の腹部の上を何度も往復する。祈祷師の儀式にも似た神秘的な動作。そして徐々に、みぞおちのあたりがじわっと温かくなってきた。
これがピュア・エナジーなのだろうか──今度は沸点に達したみたいな熱い血潮が、足や指の先まで駆け巡る。おぼえているはずのない、胎児の頃の記憶を思い出すような錯覚に精神が酔いしれる。
やがて熱気は胸元に集中し、肉体を、衣服を突き抜けて、その輝きを増してゆく。
ポォォォォォォ……ブゥゥゥン!
こうして三十七兆個の細胞から導かれた光の結晶は、魔法少女の不思議な力をかりて地上に生まれた。
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