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夢を叶える魔法少女
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心臓が早鐘を打ち、肌も汗ばむ。軽い運動をしたあとの爽快感にも似た心地よさが、火照る全身を駆け抜けた。
恍惚を感じながら瞼を開くと、魔法少女が光の結晶をピンク色の筒状のケースにしまうところだった。その様子は、なにも知らなければ捕まえた蛍を虫籠に放している姿にしか見えない。
「これがピュア・エナジーよ。綺麗でしょう?」
はじめて見せる、少女らしい頬笑み。
「きみは……何者なんだ……?」
気分が落ち着いてきた千弥は、ようやく問いかける。
「うーん……まあ、あなたになら特別に教えてあげてもいいかしら」
少女が言うには、彼女は魔法の国のお姫さまで、ダーク・ファントムに狙われている地球を救うために遥々やって来たそうだ。地球以外にも、あらゆる世界のトラブルを解決し、望みを叶えるために魔法の力を行使するという。
饒舌になった少女は、そのまま数々の物語を紡いでゆく。それらの経験談は千弥に青春時代の甘酸っぱさから大人社会の泥臭さまでを想起させるものばかりで、年下のはずである少女の当時の立ちまわりに深く感心させられた。
しかし、この子は本当に魔法少女なのだろうか?
そんな疑いを千弥は、瞬時に消し去る。
不思議な力なら──それこそ魔法を、身をもって自分は体験したのだから。
「ところで、あなたこそ誰? このお家って誰も住んでいないはずよ? だからダーク・ファントムの反応があったとき、ビックリしちゃった」
いまさらそれを訊くのか。千弥は面食らいながらも、簡単な自己紹介と最近引っ越してきた旨を答えた。
「ふーん……こんな山奥に、都会育ちの独身男がねえ。ま、いいけど」
クスクスと笑いだしたかと思えば、急に艶めいた唇が今度は意味深に孤を描く。
「ねえ千弥。これ、なにに使うかわかる?」
いたずらを思いついた──そんな顔で魔法少女は、ピンク色のケースを軽く持ち上げて静かに揺らした。
「そんなの、わかるわけないだろ」
「うふふ、そうだよね。これはね、夢を叶える力になるの。どんな願い事だって、これさえあれば文字通り叶えられるわ。どう? 欲しい?」
ケースのなかに納められた金色のやさしい光は、少女のなめらかな肌をほのかに、時に鮮やかに照らしている。
いまにも消えてしまいそうなこの淡い輝きが、願い事を意のままに叶える魔法の力になるなんて……千弥には信じ難い内容だった。
「そうだな、お試しで少しだけなら使いたいかも」
「えっ? お試しで? だめだめ、試せないわよ。言ったでしょ、どんな願い事も叶えられるんだから」
実現する願い事。
人生において、よろこばしいはずのそれは、もしも叶うなら──その先には一体なにが、どんな景色が見えるのだろうか。
そう考えたとき、千弥はなぜか、なんとも言えない不安と恐怖を感じてしまった。
「あれれ? もしかして怖い? ねえ、千弥……あなた、ひょっとして夢がないんでしょ? そうならそうと、はじめから言いなさいよね」
さすがは魔法少女、そのとおりだった。
「んー、わたし個人の意見を言わせてもらえば、ピュア・エナジーは使わないほうがいいと思う。人はそれぞれ、いろんな夢を持ってはいるけれど、魔法で叶う夢はまるでおとぎ話。滑稽だわ。自分の努力で実現させるからこそ、夢は価値があるのよ。本当はみんな、それをわかっているはずなのにね」
大げさに両腕を広げ、がっかりしたという気持ちを肩をすくめて表現する少女。星の形をした髪留めが、わずかな光を受けてひっそりときらめいた。
「でも、もし必要なときがきたら……わたしに言ってね。ちゃんと叶えてあげるわ」
魔法少女はマジカル・ステッキを天高く掲げると、そのまま斜めに切るようにして振りかざす。
ふわり。
綿毛のように簡単に、その身が宙へと浮かび上がる。
人間界での彼女は、記憶を改ざんした偽りの家族の元で暮らし、次々と迷い人たちの依頼を自発的にこなす。
夢や恋の成就というワガママを叶えるために魔法を使って、これから約一年間、学校生活をおくりながらどこかの街で活躍するそうだ。
「きょうは本当にありがとう。時間ができたら、また遊びに来るわ。千弥、また会いましょうね」
華奢な身体は風に乗り、徐々に高度を上げて小さくなる。やがて、青白い光の粒子が魔法少女をすっぽりと包み込み、風景に溶け、すべては幻のように消えてしまった。
地上に残された千弥は、天を仰ぎながらひとり想う。あの淡い空のどこかに、こことは違う別の世界への扉があるのだろうか──と。
いつもと変わらない、穏やかな夜明け。
静寂を取り戻した朝空には、明星が宝石のようにきらめいて頬笑んでいた。
恍惚を感じながら瞼を開くと、魔法少女が光の結晶をピンク色の筒状のケースにしまうところだった。その様子は、なにも知らなければ捕まえた蛍を虫籠に放している姿にしか見えない。
「これがピュア・エナジーよ。綺麗でしょう?」
はじめて見せる、少女らしい頬笑み。
「きみは……何者なんだ……?」
気分が落ち着いてきた千弥は、ようやく問いかける。
「うーん……まあ、あなたになら特別に教えてあげてもいいかしら」
少女が言うには、彼女は魔法の国のお姫さまで、ダーク・ファントムに狙われている地球を救うために遥々やって来たそうだ。地球以外にも、あらゆる世界のトラブルを解決し、望みを叶えるために魔法の力を行使するという。
饒舌になった少女は、そのまま数々の物語を紡いでゆく。それらの経験談は千弥に青春時代の甘酸っぱさから大人社会の泥臭さまでを想起させるものばかりで、年下のはずである少女の当時の立ちまわりに深く感心させられた。
しかし、この子は本当に魔法少女なのだろうか?
そんな疑いを千弥は、瞬時に消し去る。
不思議な力なら──それこそ魔法を、身をもって自分は体験したのだから。
「ところで、あなたこそ誰? このお家って誰も住んでいないはずよ? だからダーク・ファントムの反応があったとき、ビックリしちゃった」
いまさらそれを訊くのか。千弥は面食らいながらも、簡単な自己紹介と最近引っ越してきた旨を答えた。
「ふーん……こんな山奥に、都会育ちの独身男がねえ。ま、いいけど」
クスクスと笑いだしたかと思えば、急に艶めいた唇が今度は意味深に孤を描く。
「ねえ千弥。これ、なにに使うかわかる?」
いたずらを思いついた──そんな顔で魔法少女は、ピンク色のケースを軽く持ち上げて静かに揺らした。
「そんなの、わかるわけないだろ」
「うふふ、そうだよね。これはね、夢を叶える力になるの。どんな願い事だって、これさえあれば文字通り叶えられるわ。どう? 欲しい?」
ケースのなかに納められた金色のやさしい光は、少女のなめらかな肌をほのかに、時に鮮やかに照らしている。
いまにも消えてしまいそうなこの淡い輝きが、願い事を意のままに叶える魔法の力になるなんて……千弥には信じ難い内容だった。
「そうだな、お試しで少しだけなら使いたいかも」
「えっ? お試しで? だめだめ、試せないわよ。言ったでしょ、どんな願い事も叶えられるんだから」
実現する願い事。
人生において、よろこばしいはずのそれは、もしも叶うなら──その先には一体なにが、どんな景色が見えるのだろうか。
そう考えたとき、千弥はなぜか、なんとも言えない不安と恐怖を感じてしまった。
「あれれ? もしかして怖い? ねえ、千弥……あなた、ひょっとして夢がないんでしょ? そうならそうと、はじめから言いなさいよね」
さすがは魔法少女、そのとおりだった。
「んー、わたし個人の意見を言わせてもらえば、ピュア・エナジーは使わないほうがいいと思う。人はそれぞれ、いろんな夢を持ってはいるけれど、魔法で叶う夢はまるでおとぎ話。滑稽だわ。自分の努力で実現させるからこそ、夢は価値があるのよ。本当はみんな、それをわかっているはずなのにね」
大げさに両腕を広げ、がっかりしたという気持ちを肩をすくめて表現する少女。星の形をした髪留めが、わずかな光を受けてひっそりときらめいた。
「でも、もし必要なときがきたら……わたしに言ってね。ちゃんと叶えてあげるわ」
魔法少女はマジカル・ステッキを天高く掲げると、そのまま斜めに切るようにして振りかざす。
ふわり。
綿毛のように簡単に、その身が宙へと浮かび上がる。
人間界での彼女は、記憶を改ざんした偽りの家族の元で暮らし、次々と迷い人たちの依頼を自発的にこなす。
夢や恋の成就というワガママを叶えるために魔法を使って、これから約一年間、学校生活をおくりながらどこかの街で活躍するそうだ。
「きょうは本当にありがとう。時間ができたら、また遊びに来るわ。千弥、また会いましょうね」
華奢な身体は風に乗り、徐々に高度を上げて小さくなる。やがて、青白い光の粒子が魔法少女をすっぽりと包み込み、風景に溶け、すべては幻のように消えてしまった。
地上に残された千弥は、天を仰ぎながらひとり想う。あの淡い空のどこかに、こことは違う別の世界への扉があるのだろうか──と。
いつもと変わらない、穏やかな夜明け。
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