12 / 12
最終話 いつのまにか大好きになってる
しおりを挟む
平日の深夜帯だというのに、空港のターミナルビルは利用者の雑踏や離発着便の時刻等を知らせる構内アナウンスでにぎわっていた。意外とこの時間に飛行機が来るんだなって、正直驚く。
そんな喧騒のなか、別れを惜しんだり到着を待ちわびる関係者・家族の姿は、なんだかドラマの一場面を見ているような気分になれて感傷的になれた。きっと、うちらふたりのことも、そう見えているんだろう。
世界大会の初優勝を機に、遊香はヨーロッパの強豪プロチームにスカウトされて加入した。
それから数々の好成績を残し、高校を卒業する頃には超有名プロゲーマーとして世界中の子供たちの憧れの存在にまでなった。
そして、わたしのお母さんと結婚した。挙式まではあげなかったけれど、入籍後に親しい身内と友だちだけの、ささやかなパーティーを。
さらに、遊香は海外遠征が多いから、おもいきって空港近くのタワーマンションをローン無しの一括購入して引っ越したんだ。しかも新築の、最上階にだよ? 賃貸のボロアパートから生活環境が飛躍し過ぎでしょーよ。
「あっ、お母さんが来た。おーい、こっちこっち!」
連絡バスに忘れてきた荷物を取りに戻っていたお母さんが、小走りで近づいてくる。
「はぁはぁはぁ……離陸時間、まだ大丈夫よね?」
大切そうに抱きかかえられているのは、手作りのお弁当が入った肉球柄の巾着袋。すぐに食べれるようにって、旅行鞄に入れていなかったから、遊香が置き忘れちゃったんだ。
「うん。ごめんね、ありがとう……チュッ♡」
「みゃん♡」
お弁当袋を受け取ってから、すかさず唇へキス。
新婚とはいえ、まわりに大勢人がいるのに。こっちが恥ずかしくなるわよ。
「あなた……チュッ、チュッ♡……ん♡♡」
今度はお母さんからの、小鳥の挨拶のようなフレンチキス……かーらーの、大人の本気なキス。まわりは赤の他人だらけでも、小さな子供の親子連れだって歩いているし、なによりもわたしの目の前だし!
「ねえ、ちょっと! ふたりともやめてよもう!」
「だって、またしばらく会えなくなるのよ? まだ新婚なのよ、お母さんとママ」
あー……説明すると、親を呼び捨てにするのはダメだろうってことになって、わたしが遊香をなんて呼ぶのか、ちょっとした家族会議になった結果、〝ママ〟に一応決まりはしたんだけど……遊香は遊香で、お父さんやパパでもかまわないとかぬかしやがるし。それにさ、実際にそう呼んだら、いろいろとややこしくなるだけじゃん。
で、結局のところママになったってわけ。もちろん呼ばないけど。
「そうよ。それとも、アイもママとキスしたかったのかしら?」
「したいわけないじゃん! バカかおまえ!?」
「アイちゃん! ママになんて口の利き方をするの!? めっ!」
「あーっ、もう!! マジで勘弁してよね!!」
「アイも……んー」
お母さんから離れたマ……遊香が、唇を尖らせた仏頂面で両手を広げながら、一歩一歩確実にこっちへ近づいてきやがる。
「えっ、ちょ、嘘でしょ?!」
「アイちゃん、いつまでも終わらないから、してあげなさい」
「んー」
「ええっ……せっ、せめて頬っぺたにお願いします……」
懇願虚しく、新しい家族と公衆の面前でガッツリと唇を重ねる。舌までねじ込んでこなかったのは、元心友の情けなのか、それとも、親子だからだろうか。
「……久しぶりにキスしたね」
「久しぶり?」
「(ちょっと、やめてよ! 母娘関係に波風たてないでよねっ!)」
「フフッ、あははは! ごめんねアイ」
工芸室でのキス話は、もちろんお墓まで持っていくつもりだった。しばらくふたりきりになるのに、出発前に暴露されては堪らない。ちょうど離陸時間も迫っていたから、それを口実に遊香とお母さんを促して保安検査場まで移動した。
*
タクシーで帰宅途中、車窓の外で流れる工場のまばゆい夜景を眺めながら、ふと想う。
結婚後、お母さんは仕事を辞められたし、わたしも進学や就職をしていないから、家族一緒で(或いはお母さんとふたりで)行動をするのがほとんどだ。
そう考えると、ママには感謝の気持ちでいっぱいなんだけど、素直に「ありがとう」って、いまのところ伝えられてはいないし、まだ当分のあいだ……遊香は遊香のままかな。
「ねえ、お母さん。いまってさ、人生のなかでどれくらい幸せ?」
わたしの隣でお母さんは、鼻歌交じりにスマホ画面をいじっていた。きっと、遊香にメッセージの送信をいっぱいしている最中なんだろう。
「んー? うーん……そうね……人生のなかでなら、二番目くらいかしらねー。そんなことをきいてくるなんて、いったいどうしたのよ?」
「うん……なんか気になっちゃって。えっ、じゃあさ、一番はなんなの?」
「ウフフ、それはねー」
「……それは?」
「アイちゃんがお母さんのところに産まれてきてくれたことよ♡♡♡」
「わっ?! ビックリしたー!」
「ビックリした? あら嫌だ、ごめんなさいね、驚かせ過ぎちゃった? ごめんね、泣かないでよぉー」
急に抱きついてくるんだもん、驚くって。
それにさ、そんな嬉しいことをいわれたらさ、誰だって泣けてきちゃうよ。
わたしにとって人生で一番幸せなのは、いまこの瞬間なのかもしれない。
ありがとう、お母さん。
ありがとう、遊香。
ふたりとも世界で一番大好きだよ。
「うちの母と心友♀がいつのまにかデキてる」完
そんな喧騒のなか、別れを惜しんだり到着を待ちわびる関係者・家族の姿は、なんだかドラマの一場面を見ているような気分になれて感傷的になれた。きっと、うちらふたりのことも、そう見えているんだろう。
世界大会の初優勝を機に、遊香はヨーロッパの強豪プロチームにスカウトされて加入した。
それから数々の好成績を残し、高校を卒業する頃には超有名プロゲーマーとして世界中の子供たちの憧れの存在にまでなった。
そして、わたしのお母さんと結婚した。挙式まではあげなかったけれど、入籍後に親しい身内と友だちだけの、ささやかなパーティーを。
さらに、遊香は海外遠征が多いから、おもいきって空港近くのタワーマンションをローン無しの一括購入して引っ越したんだ。しかも新築の、最上階にだよ? 賃貸のボロアパートから生活環境が飛躍し過ぎでしょーよ。
「あっ、お母さんが来た。おーい、こっちこっち!」
連絡バスに忘れてきた荷物を取りに戻っていたお母さんが、小走りで近づいてくる。
「はぁはぁはぁ……離陸時間、まだ大丈夫よね?」
大切そうに抱きかかえられているのは、手作りのお弁当が入った肉球柄の巾着袋。すぐに食べれるようにって、旅行鞄に入れていなかったから、遊香が置き忘れちゃったんだ。
「うん。ごめんね、ありがとう……チュッ♡」
「みゃん♡」
お弁当袋を受け取ってから、すかさず唇へキス。
新婚とはいえ、まわりに大勢人がいるのに。こっちが恥ずかしくなるわよ。
「あなた……チュッ、チュッ♡……ん♡♡」
今度はお母さんからの、小鳥の挨拶のようなフレンチキス……かーらーの、大人の本気なキス。まわりは赤の他人だらけでも、小さな子供の親子連れだって歩いているし、なによりもわたしの目の前だし!
「ねえ、ちょっと! ふたりともやめてよもう!」
「だって、またしばらく会えなくなるのよ? まだ新婚なのよ、お母さんとママ」
あー……説明すると、親を呼び捨てにするのはダメだろうってことになって、わたしが遊香をなんて呼ぶのか、ちょっとした家族会議になった結果、〝ママ〟に一応決まりはしたんだけど……遊香は遊香で、お父さんやパパでもかまわないとかぬかしやがるし。それにさ、実際にそう呼んだら、いろいろとややこしくなるだけじゃん。
で、結局のところママになったってわけ。もちろん呼ばないけど。
「そうよ。それとも、アイもママとキスしたかったのかしら?」
「したいわけないじゃん! バカかおまえ!?」
「アイちゃん! ママになんて口の利き方をするの!? めっ!」
「あーっ、もう!! マジで勘弁してよね!!」
「アイも……んー」
お母さんから離れたマ……遊香が、唇を尖らせた仏頂面で両手を広げながら、一歩一歩確実にこっちへ近づいてきやがる。
「えっ、ちょ、嘘でしょ?!」
「アイちゃん、いつまでも終わらないから、してあげなさい」
「んー」
「ええっ……せっ、せめて頬っぺたにお願いします……」
懇願虚しく、新しい家族と公衆の面前でガッツリと唇を重ねる。舌までねじ込んでこなかったのは、元心友の情けなのか、それとも、親子だからだろうか。
「……久しぶりにキスしたね」
「久しぶり?」
「(ちょっと、やめてよ! 母娘関係に波風たてないでよねっ!)」
「フフッ、あははは! ごめんねアイ」
工芸室でのキス話は、もちろんお墓まで持っていくつもりだった。しばらくふたりきりになるのに、出発前に暴露されては堪らない。ちょうど離陸時間も迫っていたから、それを口実に遊香とお母さんを促して保安検査場まで移動した。
*
タクシーで帰宅途中、車窓の外で流れる工場のまばゆい夜景を眺めながら、ふと想う。
結婚後、お母さんは仕事を辞められたし、わたしも進学や就職をしていないから、家族一緒で(或いはお母さんとふたりで)行動をするのがほとんどだ。
そう考えると、ママには感謝の気持ちでいっぱいなんだけど、素直に「ありがとう」って、いまのところ伝えられてはいないし、まだ当分のあいだ……遊香は遊香のままかな。
「ねえ、お母さん。いまってさ、人生のなかでどれくらい幸せ?」
わたしの隣でお母さんは、鼻歌交じりにスマホ画面をいじっていた。きっと、遊香にメッセージの送信をいっぱいしている最中なんだろう。
「んー? うーん……そうね……人生のなかでなら、二番目くらいかしらねー。そんなことをきいてくるなんて、いったいどうしたのよ?」
「うん……なんか気になっちゃって。えっ、じゃあさ、一番はなんなの?」
「ウフフ、それはねー」
「……それは?」
「アイちゃんがお母さんのところに産まれてきてくれたことよ♡♡♡」
「わっ?! ビックリしたー!」
「ビックリした? あら嫌だ、ごめんなさいね、驚かせ過ぎちゃった? ごめんね、泣かないでよぉー」
急に抱きついてくるんだもん、驚くって。
それにさ、そんな嬉しいことをいわれたらさ、誰だって泣けてきちゃうよ。
わたしにとって人生で一番幸せなのは、いまこの瞬間なのかもしれない。
ありがとう、お母さん。
ありがとう、遊香。
ふたりとも世界で一番大好きだよ。
「うちの母と心友♀がいつのまにかデキてる」完
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる