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猫の名探偵 ~消えた鰹節~
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昨夜から夜明け前のちょっとまえまで、車の外では春の嵐が凄かった。
おれが寝床にしているこの車は廃車とはいえ、大雨や雹が降っても雨漏りひとつしない、文句なしの頑丈なつくりをしている。
それでも、今回の春の嵐はヤバかった。
強風で飛ばされてきた〝なにか〟がリアドアの窓ガラスにぶち当たり、おれの専用出入口がよりいっそう大きくひび割れた。これで腹回りを心配することなく、今後は気楽に飛び出せるだろう。
その確認よりも先に、殴りつけるような雨が後部座席を覆う濃青色のスウェット生地シートをより深く濃いものに変えた。
春の嵐が去ったいま、おそるおそる肉球に体重をかけてシートを押すと、コーヒーに浸した食パンみたく雨水がじわっとにじむ。最悪の気分だ。
おれがそうやって何発目かのパンチをシートに浴びせかけたとき、アメリカンショートヘアのサイモンが銀灰色のつややかな毛を朝日にきらめかせ、専用出入口から颯爽と飛び込んでやって来た。
だが、後部座席に着地したのと同時に雨水の歓迎を受けてしまい、前後の足はもちろん、腹の毛までずぶ濡れになってしまった。
「うひゃあああああっ!? 冷めてぇぇぇぇっ!」
おれは思わず、旧友の失態に髭袋を上げた。やれやれ、いつもにぎやかな野郎だ。
「おいサイモン、なかへ入るときはノックくらいしろっていつも言ってるだろ? これがその理由のひとつさ」
そう言い残して、おれは助手席のシートのてっぺんに飛び乗る。雨粒で飾られた外の景色は、きのうよりも澄みわたってとても綺麗に見えた。
「ノックしたって、キミはいつも寝てて起きないじゃないか。それよりも肉三郎、一大事なんだよ! 親友のぼくを助けてくれ!」
サイモンは濡れた前足を舐めつつ、いまにも泣き出しそうな顔でおれを見上げる。
「なんだよ、一大事って。とうとう去勢でもされるのか?」
「そいつも確かに一大事だけど……違う、違うんだ! 助けてくれよ、肉三郎!」
「だから、なにを助けて欲しいんだ?」
慌てるサイモンは、前足を取り憑かれたかのように舐めまくるばかりで、まるで話にならなかった。
仕方がないので、おれは冷静にさせようと、助手席のてっぺんから後部座席のサイモンめがけて飛び上がる。と、奴の頬を強く張るのと同時に、着地したおれの足や腹の毛は、スウェット生地のシートに染み込んだ雨水の歓迎を受けた。
おれが寝床にしているこの車は廃車とはいえ、大雨や雹が降っても雨漏りひとつしない、文句なしの頑丈なつくりをしている。
それでも、今回の春の嵐はヤバかった。
強風で飛ばされてきた〝なにか〟がリアドアの窓ガラスにぶち当たり、おれの専用出入口がよりいっそう大きくひび割れた。これで腹回りを心配することなく、今後は気楽に飛び出せるだろう。
その確認よりも先に、殴りつけるような雨が後部座席を覆う濃青色のスウェット生地シートをより深く濃いものに変えた。
春の嵐が去ったいま、おそるおそる肉球に体重をかけてシートを押すと、コーヒーに浸した食パンみたく雨水がじわっとにじむ。最悪の気分だ。
おれがそうやって何発目かのパンチをシートに浴びせかけたとき、アメリカンショートヘアのサイモンが銀灰色のつややかな毛を朝日にきらめかせ、専用出入口から颯爽と飛び込んでやって来た。
だが、後部座席に着地したのと同時に雨水の歓迎を受けてしまい、前後の足はもちろん、腹の毛までずぶ濡れになってしまった。
「うひゃあああああっ!? 冷めてぇぇぇぇっ!」
おれは思わず、旧友の失態に髭袋を上げた。やれやれ、いつもにぎやかな野郎だ。
「おいサイモン、なかへ入るときはノックくらいしろっていつも言ってるだろ? これがその理由のひとつさ」
そう言い残して、おれは助手席のシートのてっぺんに飛び乗る。雨粒で飾られた外の景色は、きのうよりも澄みわたってとても綺麗に見えた。
「ノックしたって、キミはいつも寝てて起きないじゃないか。それよりも肉三郎、一大事なんだよ! 親友のぼくを助けてくれ!」
サイモンは濡れた前足を舐めつつ、いまにも泣き出しそうな顔でおれを見上げる。
「なんだよ、一大事って。とうとう去勢でもされるのか?」
「そいつも確かに一大事だけど……違う、違うんだ! 助けてくれよ、肉三郎!」
「だから、なにを助けて欲しいんだ?」
慌てるサイモンは、前足を取り憑かれたかのように舐めまくるばかりで、まるで話にならなかった。
仕方がないので、おれは冷静にさせようと、助手席のてっぺんから後部座席のサイモンめがけて飛び上がる。と、奴の頬を強く張るのと同時に、着地したおれの足や腹の毛は、スウェット生地のシートに染み込んだ雨水の歓迎を受けた。
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