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chapter.01
秋空と死んだ心
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同棲をはじめたその日から、航は自分を捨てた。
心も肉体も無になっていた。
そう、人形のように。
「ねえ航、夕飯はなにが食べたい?」
すっかりと彼女面した茉莉花が、食器を洗いながら訊いてくる。
航は上の空で聞いていたが、「パスタが食べたいかな」と穏やかな口調で答えた。
「かしこまりー」
そんな明るい声が、台所から聞こえたような気がした。
このままずっと、茉莉花と一緒にいるつもりはない。
頃合いをみて、この女と別れなければ──だが、新しい職は見つからなかった。
住み込みにこだわってはいないが、職種にはこだわりがある。新聞配達や倉庫内作業はしたくなかった。それらは底辺の人間が働く場所だと、独自の考えを持っていたからだ。
「あっ、そうだ。あとで買い物に付き合ってよ。パスタを作る食材と、郵便局にも寄りたいの」
それぐらいはひとりでやれと思ったが、自分の立場を考え、笑顔で「いいよ」と返事をした。
*
風が冷たくて心地よい。
秋空に浮かぶ千切れた雲を眺めながら、季節の移ろいを肌で感じる。
「お待たせ! ねえ、何味のパスタが食べたい?」
馴れ馴れしく腕を絡め、上目遣いで訊ねる茉莉花に、航は視線をすぐに逸らして「ボンゴレ」と一言だけ答える。
「んー……頑張ってみるね」
はにかむ表情を向けるも、航は前だけを見ていた。
買い物を終えて部屋へと帰る。
茉莉花はすぐ、鼻歌交りに夕飯の支度をはじめた。
テレビのニュース番組では、アメリカで起きた銃の乱射事件を報道している。
この国は平和だが、アメリカと同じように自由に銃が持てれば、世界でも屈指の最悪な治安になるであろう。
次のニュースは、少女が実の父親から虐待を受けて死んだという内容だった。
「熱っ!」
にんにくと赤唐辛子の香ばしいにおいに運ばれて、茉莉花の声が聞こえた。
「大丈夫?」
彼女の背後に立ち、そっと抱きしめる。
最低限のケアを忘れない。自分は、あくまでも居候なのだから。
「へへへ、火傷しちゃったかも」
笑いながら、右手の甲を見せつける茉莉花。たしかに、赤く色づいていた。
「ごめんね、俺がパスタ食べたいって言ったばかりに」
「えっ、なんで謝るの? 私がドジっただけの話だし、航はなにも悪くないよ?」
「うん、ありがと」
笑いかけてから、航は額にキスをする。
茉莉花も笑顔を見せて、唇にキスをした。
心も肉体も無になっていた。
そう、人形のように。
「ねえ航、夕飯はなにが食べたい?」
すっかりと彼女面した茉莉花が、食器を洗いながら訊いてくる。
航は上の空で聞いていたが、「パスタが食べたいかな」と穏やかな口調で答えた。
「かしこまりー」
そんな明るい声が、台所から聞こえたような気がした。
このままずっと、茉莉花と一緒にいるつもりはない。
頃合いをみて、この女と別れなければ──だが、新しい職は見つからなかった。
住み込みにこだわってはいないが、職種にはこだわりがある。新聞配達や倉庫内作業はしたくなかった。それらは底辺の人間が働く場所だと、独自の考えを持っていたからだ。
「あっ、そうだ。あとで買い物に付き合ってよ。パスタを作る食材と、郵便局にも寄りたいの」
それぐらいはひとりでやれと思ったが、自分の立場を考え、笑顔で「いいよ」と返事をした。
*
風が冷たくて心地よい。
秋空に浮かぶ千切れた雲を眺めながら、季節の移ろいを肌で感じる。
「お待たせ! ねえ、何味のパスタが食べたい?」
馴れ馴れしく腕を絡め、上目遣いで訊ねる茉莉花に、航は視線をすぐに逸らして「ボンゴレ」と一言だけ答える。
「んー……頑張ってみるね」
はにかむ表情を向けるも、航は前だけを見ていた。
買い物を終えて部屋へと帰る。
茉莉花はすぐ、鼻歌交りに夕飯の支度をはじめた。
テレビのニュース番組では、アメリカで起きた銃の乱射事件を報道している。
この国は平和だが、アメリカと同じように自由に銃が持てれば、世界でも屈指の最悪な治安になるであろう。
次のニュースは、少女が実の父親から虐待を受けて死んだという内容だった。
「熱っ!」
にんにくと赤唐辛子の香ばしいにおいに運ばれて、茉莉花の声が聞こえた。
「大丈夫?」
彼女の背後に立ち、そっと抱きしめる。
最低限のケアを忘れない。自分は、あくまでも居候なのだから。
「へへへ、火傷しちゃったかも」
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「ごめんね、俺がパスタ食べたいって言ったばかりに」
「えっ、なんで謝るの? 私がドジっただけの話だし、航はなにも悪くないよ?」
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